異世界転生×俺×TUEEE=?

輪島ライ

文字の大きさ
1 / 5

第1話 異世界転生×戦神×聖鳥

しおりを挟む
 ほとんどネームバリューだけで選んだ大学の文系学部に入学してから4年間、出席やレポートは申し訳程度にこなして残りの時間は毎日バイト。稼いだ金は電気街のオタクショップで散財する日々を送っていた俺は売り手市場の就活でお祈りされるだけの結果になった。

 仕方がないので卒業を1年遅らせてみたが友達連中が働いている中で自分だけ学生をやっているのは気分がいいものではなく、2周目の就活もはかどってはいなかった。

 空き時間はバイトをしてストレス発散にオタクショップ巡りをするだけの生活に戻りかけた俺は、あと数年ぐらいはモラトリアムを満喫してもいいかなと思い始めていた。

 というのは、俺の人生がもうすぐ終わるなどとは予想できなかったからだ。


 ある日の夕方、電気街の書店でラノベや漫画の新刊を仕入れた俺は最寄り駅まで戻ろうとしていた。

 書店の入り口を出てからのことは覚えていないが、全身に強い衝撃が走った後は痛みに苦しむ間もなく意識が消え去ったような気がする。




 意識を取り戻した俺は見渡す限り真っ白な建物の床に倒れていた。

 起き上がって状況を確認すると着ている服は意識を失った時のままだが所々が破損していて、べったりと血が付着している部分もあった。

「ここは……?」

 薄暗い視野には何本もの太く長い柱に支えられた天井が映り神々しいオブジェが所々に備え付けられた広大な建物は、いかにも西洋の神殿のようだった。

「気付きましたか、若人よ」

 低い声が届くと同時に鳥が羽ばたくような音が上空から聞こえてきた。

 呼びかけに反応して振り向くと、近くにある台座の上に黒い鳥が留まっていた。

「衣服が汚れたままですね。これはあまり見栄えがいいものではない」
「鳥が喋った!?」

 黒い鳥が当たり前のように人の言葉を話し始めたので俺は仰天した。

「鳥とは失敬な。私はフギンといって戦神オーディンに仕える聖鳥ですよ」

 結局トリじゃないかと内心で突っ込んでいると室内は急に明るくなり、蛍光灯に近い色調の光で満たされた建物の中を大柄な壮年の男が歩いてきた。


「遅れてすまない。我が使い魔には驚いたことだろう」
「あなたは?」
「我は戦神オーディン。冥府を司る神の一柱で、平生は戦いの中で倒れた人間の面倒を見ている」

 灰色の長髪にマントをなびかせ、オーディンは威厳を持った口調で名乗った。

「俺は死んだんですか?」
「その通りです。あなたは地上界の時間で言えばたった30分前に暴走した車に激突され、そのまま絶命したのです」

 フギンと名乗った聖鳥が告げたことには違和感がなく、血に塗れた衣服の状態から考えてもやはり俺は交通事故で死亡したのだと理解した。

「天寿を全うして死亡した人間はここ冥府において最後の審判に臨むことになる。だが事故や犯罪、あるいは戦争によって不慮の死を遂げた人間には特殊な形での審判が必要になる」

 オーディンの説明によれば俺もこれから特殊な形で最後の審判を受けることになるらしい。

「ですが俺が死んだのは事故に巻き込まれたからであって、あなたの担当は戦死者では?」
「その通りだが実は事故死した人間を担当する神が三柱とも席を外していてな。我が臨時で対応しているという訳だ」

 日本だけでも交通事故で毎年3000人以上の死者が出ているのに担当する神は3人しかいないらしい。冥府の労働環境は割とブラックなのかも知れない。


「そろそろ本題に入りましょう。あなたの名前は名浪なろうけい。日本国在住で、絶命した時点で23歳ですね?」

 フギンの情報確認に対し、俺は頷いて肯定した。

「あなたは毎日を自堕落に生きて両親に心配をかけたまま交通事故で絶命しました。せっかく大学に行かせたのに勉強にも課外活動にも真面目に取り組まず、遊ぶ金を稼ぐためにアルバイトばかりをしていたと報告されています」

 ひどい言われようだが事実その通りなので俺は反論できなかった。

「だが少なくとも他人に迷惑をかけていた訳ではないし、就職しようと努力もしていた。恩返しをしないまま死亡して両親を悲しませた罪は大きいが、汝は最後に大きな善行を成し遂げている」
「善行って、身に覚えがないような……」

 オーディンの話がよく分からず戸惑っているとフギンが説明を加えた。

「あなたを轢き殺したのは数分前に貴金属店を襲撃した強盗犯の車でした。警察の追跡から逃れるため暴走していたその車はあなたに衝突したことで制御を失い、そのまま電柱に激突しました。冥府による運命観測によれば暴走車はそのまま走り続けていれば人混みに突っ込み、十数人が死亡する大事故になっていたのです」
「なるほど……」

 意図してやったことではないとはいえ、俺は自らの命をもって多くの人命を救ったことになっているらしい。

「現世において天寿を全うしなかった人間は最後の審判を経て天国に行くことも地獄に落ちることもできない。その代わりにある者は褒美として、ある者は罰として新たな世界へと生まれ変わるのだ」
「それって、いわゆる異世界転生ってやつですか?」
「概ねあなたが思っている通りでしょうね」

 オーディンとフギンの言うことは俺が好んで読んでいたウェブ小説の世界観をそのまま持ってきたような内容だった。

「先ほど伝えた通り汝は前世において善行を積んだ扱いになっているから、我は汝に対して転生の際に一つだけ望むものを与えることができる。ただ、どのような世界に転生するかはあらかじめ教えられないからどのような世界でも役に立つものにしておくことを勧める」
「どのような世界でも、役に立つ望み……」

 まだ状況が掴めていないが今は悩んでも仕方がない。

 異世界転生で役に立つものとして、俺はウェブ小説でよく目にしていた設定を思い浮かべた。


「分かりました。では……」

 頷いたオーディンに、俺は転生の際に望むことを伝えた。

「異世界に転生するのであれば、俺を『俺TUEEE』という状態にしてください!」
「俺ツエー、だと?」
「どんな世界でもその条件さえあれば苦労しないと思うんです。無理ですか?」

 オーディンはしばらく不思議そうな顔をしていたが、何かに納得したような表情で口を開いた。

「そうか……よし分かった、そのような条件なら造作もないことだが珍しい望みだから驚いてしまった。我は汝を侮っていたようだ」

 オーディンは腰元から剣を引き抜くと上空へ向けて掲げた。

 俺の足元に突如として緑色に輝く魔法陣が現れる。


「もう始まるんですか?」
「本職の代理とはいえオーディン様もお忙しいのです。申し訳ございません」

 身体が魔法陣に吸い込まれ始める少し前にオーディンは俺に最後の言葉を投げかけた。

「新たな世界に生まれ変わった時点で前世および冥府の記憶は一旦失われる。次に我と会うのは最後の審判の時になるだろうが、天国に行けるよう転生後は正しく天寿を全うして欲しい」
「はい、頑張ります!」

 中途半端なままで終わってしまった前世への後悔と俺TUEEEという状態が実現された来世への希望とを胸に秘め、俺は魔法陣へと吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...