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第2話 異世界転生×杖×魔法戦士
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ここは幻想と魔法が支配する世界、ケリュケイオン。
幻想獣を操り人間族の生存圏への侵略を続ける魔王アムーズに対し、人々は高い魔力と戦闘能力を併せ持った「勇者」と呼ばれる存在を育成して前線へと送り込んでいた。
人間族、亜人族、精霊族、そしてモンスターといった多種多様な生命体が存在するケリュケイオンで俺は杖だった。
意思を持つ武器というのはケリュケイオンの伝説にも多く登場しており、いずれも強い魔力を秘めていた。今は名もない杖である俺もそれは同様だったが普通の人間族では俺の魔力をほとんど引き出すことができず、優れた勇者であっても大した違いはなかった。
伝説では意思を持つ武器は使い手と話すこともできたというが、俺の魔力を十分引き出せない人間は当然俺に意思があることにも気づけない。
ガラクタ同然に捨てられた俺を拾った勇者はある程度高い魔力を秘めた武器としてしばらくは俺を主力の武器として使うが、経験を積んで使いやすい魔法剣などを手に入れればその時点で俺は用済みになってしまう。勇者にしか使えない武器はその辺の店では買い取ってくれないので、結局は道端に捨てられるのだ。
季節が2回変わる前、旅の商人に拾われた俺は今日も青空市場の隅で売られていた。
田舎の工房で安く大量に仕入れられた青銅の剣が次々に売れていく中で二束三文の古びた杖には誰も目を向けず、俺は今日も売れ残っていた。
昼過ぎになり、商人は次の仕入れ先に向かうため売れ残りを風呂敷に片付けた。
物置と休憩場所を兼ねた天幕に戻り人力車の荷台に風呂敷包みを置こうとした所で、誰かが天幕に駆け込んできた。
「あのっ、武器ってまだ残ってますか!?」
息を切らしてそう尋ねたのは黒いマントに身を包んだ小柄な少女で一見すると魔導士に見えるが、マントの下は動きやすい服装をしていることからいわゆる魔法戦士らしい。
「何だい、もう青空市場は終わってるよ」
「ずっと楽しみにしてたんですけど、来る途中で倒れたおばあちゃんを助けてて……」
健気な少女が涙目でそう訴えたので中年男性の商人は渋々ながら風呂敷包みを開き、荷台の上に売れ残りの武器を並べた。
「これぐらいしかないけど、欲しいのがあれば売るよ」
「ありがとうございます!」
しばらく商品を眺めた後、年代物の銅の剣や持ち手が一部破損した槍の横に置かれた俺を見て少女は目の色を変えた。
恐る恐るといった様子で少女は俺を手に取った。
その瞬間に手を介して高い魔力が俺に流れ込み、俺は真の使い手が現れたと直感した。
少女は俺を荷台に戻すと、
「この杖を売ってください!」
と商人に頼んだ。
「そうだねえ……」
少女が急に必死な様子になったからか商人は足元を見たらしい。
「それは一見すると古びた杖だが、実は高名な魔法鍛冶が作り上げた高級品なんだ。年代は古いが欲しがる人は多くてね。それでも値段が高くて誰も買ってくれないという訳だ」
嘘をつけ。俺はお前に道端で拾われただけだしここの所ろくに手入れもされていないぞ。さっきまで二束三文の値札を貼っていただろう。
「お金は多めに準備してきました。これを全部でも駄目ですか!?」
少女が差し出した袋には若い冒険者が持っているにしては多額の通貨が入っていた。高級な武器を手に入れるため努力して貯金してきたのかも知れない。
「まあ、これだけあれば……」
商人は少し考え込むと嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「そうだ、じゃあこれに加えて君の衣服をくれるなら売ってあげよう」
「えっ?」
「何、全部とは言わないさ。マントも上の服もいいからその短いスカートを脱いでくれればいい」
何を言い出すんだこいつは。
「そ、それはちょっと……」
「何だ、じゃあ仕方ないな。お金は返すからこの杖は売らないでおくよ」
「いえ、売ってください!」
商人が不機嫌な表情で袋を突き返そうとしたので少女は慌てて言った。
「分かりました。脱ぎます、脱ぎます……から」
「初めからそう言ってくれればいいんだ。あ、脱ぐのは僕の見てる前でぐふっ」
怒りに耐えかねた俺は魔力を消費して飛び上がると杖の先端が商人の腹部を突くように飛び込んだ。
突然杖が動き出したのを見て、少女は気絶して倒れ込んだ商人の前でうろたえている。
『行くぞ!』
「誰の声!?」
やはりと言うべきか、この少女には俺の言葉が分かるらしい。
『俺だ、この名もない杖が君に話しかけているんだ!』
「あなた、私と話せるの?」
『その通りだ。こんなふざけた商人の言うことなんて聞いてやる必要はない。俺はこいつに二束三文で売られてたんだから銀貨数枚を置いておけば十分だ。さっさと逃げるぞ!』
「は、はい!」
少女は地面に落ちた袋を拾い、銀貨4枚を取り出して荷台に置くと俺を手に取って天幕から走り出ていった。
商人が追い付けないぐらい離れた森林までたどり着き、少女はようやく落ち着いて歩いていた。
周囲に誰もいないこともあり少女は右手で携えた杖に話しかける。
「助けてくれてありがとう。私はロドリィ。あなたは?」
『俺に名前はない。俺の言葉が分かる君は真の使い手だろうから、何でも好きに名付けてくれればいいさ』
「分かったわ。あなたは今からケイよ。私と一緒に魔王を倒しましょう!」
ロドリィが付けた名前に、俺はなぜか懐かしさを感じた。
幻想獣を操り人間族の生存圏への侵略を続ける魔王アムーズに対し、人々は高い魔力と戦闘能力を併せ持った「勇者」と呼ばれる存在を育成して前線へと送り込んでいた。
人間族、亜人族、精霊族、そしてモンスターといった多種多様な生命体が存在するケリュケイオンで俺は杖だった。
意思を持つ武器というのはケリュケイオンの伝説にも多く登場しており、いずれも強い魔力を秘めていた。今は名もない杖である俺もそれは同様だったが普通の人間族では俺の魔力をほとんど引き出すことができず、優れた勇者であっても大した違いはなかった。
伝説では意思を持つ武器は使い手と話すこともできたというが、俺の魔力を十分引き出せない人間は当然俺に意思があることにも気づけない。
ガラクタ同然に捨てられた俺を拾った勇者はある程度高い魔力を秘めた武器としてしばらくは俺を主力の武器として使うが、経験を積んで使いやすい魔法剣などを手に入れればその時点で俺は用済みになってしまう。勇者にしか使えない武器はその辺の店では買い取ってくれないので、結局は道端に捨てられるのだ。
季節が2回変わる前、旅の商人に拾われた俺は今日も青空市場の隅で売られていた。
田舎の工房で安く大量に仕入れられた青銅の剣が次々に売れていく中で二束三文の古びた杖には誰も目を向けず、俺は今日も売れ残っていた。
昼過ぎになり、商人は次の仕入れ先に向かうため売れ残りを風呂敷に片付けた。
物置と休憩場所を兼ねた天幕に戻り人力車の荷台に風呂敷包みを置こうとした所で、誰かが天幕に駆け込んできた。
「あのっ、武器ってまだ残ってますか!?」
息を切らしてそう尋ねたのは黒いマントに身を包んだ小柄な少女で一見すると魔導士に見えるが、マントの下は動きやすい服装をしていることからいわゆる魔法戦士らしい。
「何だい、もう青空市場は終わってるよ」
「ずっと楽しみにしてたんですけど、来る途中で倒れたおばあちゃんを助けてて……」
健気な少女が涙目でそう訴えたので中年男性の商人は渋々ながら風呂敷包みを開き、荷台の上に売れ残りの武器を並べた。
「これぐらいしかないけど、欲しいのがあれば売るよ」
「ありがとうございます!」
しばらく商品を眺めた後、年代物の銅の剣や持ち手が一部破損した槍の横に置かれた俺を見て少女は目の色を変えた。
恐る恐るといった様子で少女は俺を手に取った。
その瞬間に手を介して高い魔力が俺に流れ込み、俺は真の使い手が現れたと直感した。
少女は俺を荷台に戻すと、
「この杖を売ってください!」
と商人に頼んだ。
「そうだねえ……」
少女が急に必死な様子になったからか商人は足元を見たらしい。
「それは一見すると古びた杖だが、実は高名な魔法鍛冶が作り上げた高級品なんだ。年代は古いが欲しがる人は多くてね。それでも値段が高くて誰も買ってくれないという訳だ」
嘘をつけ。俺はお前に道端で拾われただけだしここの所ろくに手入れもされていないぞ。さっきまで二束三文の値札を貼っていただろう。
「お金は多めに準備してきました。これを全部でも駄目ですか!?」
少女が差し出した袋には若い冒険者が持っているにしては多額の通貨が入っていた。高級な武器を手に入れるため努力して貯金してきたのかも知れない。
「まあ、これだけあれば……」
商人は少し考え込むと嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「そうだ、じゃあこれに加えて君の衣服をくれるなら売ってあげよう」
「えっ?」
「何、全部とは言わないさ。マントも上の服もいいからその短いスカートを脱いでくれればいい」
何を言い出すんだこいつは。
「そ、それはちょっと……」
「何だ、じゃあ仕方ないな。お金は返すからこの杖は売らないでおくよ」
「いえ、売ってください!」
商人が不機嫌な表情で袋を突き返そうとしたので少女は慌てて言った。
「分かりました。脱ぎます、脱ぎます……から」
「初めからそう言ってくれればいいんだ。あ、脱ぐのは僕の見てる前でぐふっ」
怒りに耐えかねた俺は魔力を消費して飛び上がると杖の先端が商人の腹部を突くように飛び込んだ。
突然杖が動き出したのを見て、少女は気絶して倒れ込んだ商人の前でうろたえている。
『行くぞ!』
「誰の声!?」
やはりと言うべきか、この少女には俺の言葉が分かるらしい。
『俺だ、この名もない杖が君に話しかけているんだ!』
「あなた、私と話せるの?」
『その通りだ。こんなふざけた商人の言うことなんて聞いてやる必要はない。俺はこいつに二束三文で売られてたんだから銀貨数枚を置いておけば十分だ。さっさと逃げるぞ!』
「は、はい!」
少女は地面に落ちた袋を拾い、銀貨4枚を取り出して荷台に置くと俺を手に取って天幕から走り出ていった。
商人が追い付けないぐらい離れた森林までたどり着き、少女はようやく落ち着いて歩いていた。
周囲に誰もいないこともあり少女は右手で携えた杖に話しかける。
「助けてくれてありがとう。私はロドリィ。あなたは?」
『俺に名前はない。俺の言葉が分かる君は真の使い手だろうから、何でも好きに名付けてくれればいいさ』
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