たぶんコレが一番強いと思います!

しのだ

文字の大きさ
41 / 221

お手本のようなお誘い①

しおりを挟む
 カジノを出たケーナを待つのは、”おめでとう”のお祝いの言葉でもなく、”いいなぁ”などという羨望の言葉でもなく。

「嬢ちゃん、命が惜しくば有り金全部置いてきな」

 と言う、いかにも悪そうな奴が悪そうなことを言う決め台詞だった。
 ケーナを監視していたうちの1人だろうか。しかしそんなことはどうでもよく。

(ああ、これだよこれ! カジノの出入口じゃなくて山の中だったら完璧だった)

 待っていたかのような出来事。非日常がもたらす緊張感。
 そんな複雑な気持ちがケーナの心を揺さぶっていた。
 すると、後ろからもう一人の声がする

「おい、怖くて声も出ねーのか? まぁいい、そのままだまってそこの路地裏まで歩きな。逃げようとしても無駄だぞ」

 スキルが通常通り発動している今、周囲を囲っている7人と、前で行手を阻む者、後で短剣をこちらに向けている者、合計9人にこれからおきるであろうことまで分かっていた。

 いい雰囲気の場所に来るなり

「嬢ちゃんよく見りゃ可愛いじゃねぇか。無一文になっても今夜は可愛がってやるから安心しな」

 腰をふりアピールをしてくる木偶の坊のロリコン発言に

 ぐへへ、ぐへへ

 と笑い声が取り囲む。
 他の人に迷惑がかかるといけないと思って黙っていたケーナだがここでようやく口を開いた。

「囲い込みも、誘導の手際も強盗を生業としているだけあって完璧です。唯一のミスは私をターゲットにしたことかな」

「何言ってんだおめぇ。立場わかってんのか?」

「誰を相手にしているのか全然分かっていないね。人目につかないところまで来てあげたのは私のためなの」

「狂ってんなおめぇ。いいから金出せよ。持ってんのは知ってんだよ。それとも死にてぇのか?」

 恐怖の雰囲気も味わえたし、ゼンちゃんは頭の上で器用に寝てるし、お腹も減ってきたので茶番に付き合うのはここまでにすることにした。

 強盗にも希に懸賞金が賭けられていることがある。証拠の提出に一番効果的なのは首を持っていくことだ。

「まずは1匹目」

 とりあえず目の前にいた害虫を駆除。
 首から上を収納する、とてもシンプルで確実な方法。

 残った胴体が倒れながら赤い血飛沫で辺りを染める。
 固まっていた周りの奴らが呼吸を取り戻し騒ぎ出した。

「てめぇ何しやがった」

「うぁあああああああああ」

「兄貴がやられた」

「ば、ば、化物だあああ」

 後ろで短剣を向けていた奴はとびかかろうとしたが、一歩目が出る前に首を収納。
 そのあとは視界に入る者から収納をしていった。

(あと2匹)

 1匹は失禁して失神している。
 もう1匹は多少は危険を感じるのが速かったのか、少し離れた場所にまで逃げていた。

「弱い者の首はいらないかな……」

 お漏らしはそのままにして、逃げた方を追うことにした。

 逃げた奴は意外に足が速く急いで追わなきゃと思った矢先、探索スキルから反応が消えてしまったのだ。そして近くには別の人の反応がある。

 消えた可能性としてはレジストされたか、範囲外にまで一気に逃げたか、あとは死んだかだ。

 何が起きたのか気になったのでそこまで行ってみると、白髪の紳士が逃げた害虫を踏みつぶしていた。

「おっとこれはこれは、お嬢様に御見苦しい物もを見せてしまったようですな。咄嗟の事でしたので加減できずにこのようなことに。足元のこれは気にしないでください」

 大きなトマトでも潰したかのような参事になっている。気にしないでといわれても、無理な話だ。

「申し遅れました。某は王族たるルクセンブルク家にお仕えしています、セバステと申します。お嬢様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 何事もなかったかのように近づき自己紹介をしてくる。

 王族の使用人、高い戦闘技術を持つのが身のこなしだけで伝わってくる。盗賊程度じゃ相手にもならないだろう。
人を殺めたすぐ後に普通に挨拶してくるあたりただの使用人ではないのが分かる。

「私はケーナ。カジノ帰りでドレスを着ているけど冒険者よ」

「!……冒険者。さようでございますか。お美しい身なりから名家のご令嬢かと」

「そんな、おだてても」

「早速ですがケーナ様に、お願いがございます」

「何でしょうか?」

「主のハイド様が、ケーナ様を大変気に入りまして一度お会いしたいと」

「え、私?」

「突然の申し出で恐縮ではございますが、是非とも」

「ちょっと待って、私冒険者よ。貴族令嬢と間違えたのでしょう?」

「確かに某は貴族令嬢と思い込んでおりました。しかしハイド坊ちゃ…… ハイド様はそれですらお喜ばれになるかと存じます」

 ちょっと嬉しそうな紳士。なぜ声をかけてきたのかが分からない。
 貴族令嬢だから声をかけたわけではなさそう。お金のことを知っているのか。王族がかつあげするわけないしと考えてみても分からなかった。
 ただ王族のお誘いを簡単に断ることなど身分の低い私にはできない。
 何か裏があるのは分かっているがお話ぐらいは聞かねばならない。

「会うにしてもこれからすぐにですか?」

「ケーナ様がよろしければこちらは準備できております」

「でも、ほら足元のとか色々ありますし」

「あ、これらはご心配なく。フィーア、ノイン、フュンフ」

 「「「こちらに」」」

 セバステの後ろからスススッと現れた3人のメイド。
 探索にも感知にも掛からずに出てきたのには驚いた。

「後処理はよろしくお願いしますね」

「あ、あの実はここだけじゃなくて……」

「ご安心ください。首の無い死体や失神している者について報告を受けております。そちらの処理にも既に向かわせておりますのでご安心ください」

(慣れていらっしゃる)

 メイドの作業の速さだけじゃない。後片付けのスピードは厄介ごとを招かない重要な要素だということを熟知したうえでの対応だ。

 暗殺を生業としていると言ってもいいぐらいだ。

「それでケーナ様、お時間の方はいかがでしょうか?」

「それではこれから向かいましょうか……」

「ありがとうございます。ご案内いたします」

 盗賊の滅殺から王族への挨拶まで濃密な1日になりそうだと思いながらセバステの後を付いていった。

 移動中暇だったのでセバステのステータスを覗いてみたら。

(こいつ勇者より強いんじゃね?)

 と思ったのは秘密。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

イジメられっ子世に憚る。

satomi
ファンタジー
主人公須藤正巳はぼんやりと教室で授業を受けていた。その時、突然教室中に物凄い量の光が…。 正巳が属する2-C全員が異世界転移することとなってしまった。 その世界では今まで正巳が陰キャとして読み漁ったラノベともゲームとも異なり、レベルがカウントダウン制。つまりレベル999よりレベル1の方が強い。という世界だった。 そんな中、クラスのリーダー的陽キャである神谷により全員で教室の外に出ることに。 いきなりドラゴンに出会い、クラスの全員がとった行動が『正巳を囮にして逃げること』だった。 なんとか生き延びた正巳は、まず逃げた連中へ復讐を誓う。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

処理中です...