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芽生え

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約束の土曜日、駅前の喫茶店に私はひと足先に
着いてしまった。普段なら窓側のテーブル席で待っているのだが、なんとなく今日はカウンター席に座った。マスターに了承を得て奏の席を確保した上で持ってきた本を読みながら過ごすことにした。

お昼のピーク時を過ぎた時間で店内には落ちつた音楽とマスターの入れる珈琲のいい香りで落ち着いた気持ちで過ごしていると勢いよくそれこそ、ばぁーん!とドアが開いた。

「お待たせぇぇー!!
遅れてごめん!もう、何か注文してた!?
せめてものお詫びとしてはなんだけど…奢るので!なんなら、セットで頼んで爆食する??」

読んでいた本を閉じて一言。

「うるさっ。」

「あっ、マスターお久しぶりです!
勢いよくごめんなさい…。
慈雨もごめんよぉー。怒んないでぇー。」

はぁ。と短いため息を吐きつつ待っていた奏が来たことに少し安堵した自分が居た。
ドタキャンこそないがあまりにも遅くなると
何か。があったのではないかと流石に心配にもなる。

「事前に連絡もらっていたから遅れたことについては大丈夫だよ。
まだ、頼んでないから…奏と一緒に食べようと思っていたから、これから一緒に決めよ。」

私の言葉に奏は笑顔で頷き、隣に座った。
マスターに改めてお礼を2人で言い、セットメニューを頼んでこれからの予定を決めつつお昼を食べていた時に店内ではなく外から呼び鈴が鳴った。

「ごめんね。少し席を外すね。」とマスターが
声をかけてから一旦退席することになった。

「マスター、どうしたんだろうね?
珍しいね。」

「業者さんかな?たまにあるよね。
もし、お客さんが他に来たら私たちで
少し対応しようか。」

そう、実は奏と私は短期で以前ここでバイトをさせてもらっていたことがあるのだ。
その際にマスターに良くしていただいたのと2人して胃袋を掴まれたこともあり今では愛用の喫茶店となっているのだ。

……

「じゃあ、マスターが戻ってきたらプラネタリウム観に行こう!」と話し合いの末、行き先が決まった。それにしても中々戻ってこないね。と奏が再度口を開いたところでタイミングよく
マスターが戻ってきた。

「おかえりなさい、マスター」

「ただいま。不在の間にお客様はいらっしゃらなかったかな?」

「来なかったですよー。
マスター戻ってきたのでお暇します!
ご馳走様でした!また、来るねー。」

「ご馳走様でした。
長々とありがとうございました」

「うん、ある意味お留守番ありがとう。
お出かけ楽しんできてね。」

マスターは微笑み私たちを送り出してくれた。
外に出ると少し冷たい風が吹き抜けた際に私は
見つけてしまった。1人の人物を…。

「あっ、立花さんだ…」

言うつもりは一切なかったが口から溢れた言葉

「ん?慈雨の知り合い??」

「なんでもないよ。
プラネタリウム観に行こ」

なんとなく、なんとなく奏に言いたくなかった自分自身にモヤっとしたものを持ちつつ、
この時の私は、まだ気づいていなかった。
自身のココロも奏の気持ちにも。

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