月が僕らに送ったものは

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プロローグ

クラウス

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ふ、と気付くと山の頂上に立っていた。背は高い方だが、やはりいつも見ている夜空よりもずっと近い。星が手に取れそうなくらいだ。手を伸ばすと月に手がかかった気がした。
「あは、」
妙に楽しくなり声をあげる。年相応ではないその幼げな笑い声はだれもいない夜中の山にこだまする。それが余計に楽しくさせて、ふと思い立ちくるくると回ってみた。どうせだれも見ていないのだ。つまらない"威厳"だとか"立場"だとかそんなものは捨て置こう。クラウスは楽しげに笑った。
一人舞台みたいだ。つまらない何でもかんでもはすべて消えて存在してるのは自分一人。星明かりが証明で、この少しゴツゴツとした地面が自分だけが立つことができるステージ。誰に対してか、優越感を感じた。
息を吸うとだれも存在しないからか、空気は澄んで気持ちが良い。目を瞑り、思い出したくもないあれこれをすべて霧散させた。その時、石が転がる音がしてゆったりとそちらに目線を向けると、岩影から現れたのは子犬だった。
「お前もここに遊びに来たの?」
しゃがんでにこりと笑うとその子犬は弾むように胸に飛び込んできた。
「ここは夜空が綺麗だね
俺の住んでる場所とは似ても似つかない程、」
子犬が一声鳴いた。ぐい、と袖を引っ張られ少し体制を崩す。どうしたの、と声をかけようとすると背後に影が揺らめいた。振り返ると足元に何かが落ちていた。落ちていた、というより落ちてきたという表現が良いかもしれない。
「石…?光ってる」
上を見上げると流れ星のように煌めいたそれが降り注いでいる。拳大くらいだろうか。
これは、やばい。
危機管理能力が落ちていたのか、慌ててその子犬に着いていこうと立ち上がりかけたその時、頭に強い衝撃をくらった。
くらり、と揺れる頭でクラウスは思う。ステージに照明が落ちてきたとか笑えない事件じゃないか、なんて。危ないところに居るはずで、今危機に立っているというのにどこか他人事で冷静な自分が笑った。
青く、暗い世界に赤色を散らしたその一人の男はゆっくりと目を閉じた。子犬は夜空を反射した青い目でこちらを見ている。
1つ鳴いて、そして暗転。

生暖かい感触に身を捩り、起きると子犬がいた。いや、子犬ではなく成犬であった。おかしいな、ともう一度目を瞑るとその犬は髪をぐい、と引っ張った。
「いっだ…!!!」
蜂蜜のような色の髪はブチブチと音を立てて切れた。犬は相も変わらずクルリとしたあどけない瞳でみつめる。
「俺、死んだんじゃなかったっけ」
蜂蜜色の髪を撫でてふと辺りを見渡すと石が沢山落ちていた。それもキラキラと光る石だ。自然界ではあり得ない現象に困惑する。
(何だこれ、誰の仕業だよ)
そこまで仲の良い友人もいないが、ドッキリなのかもしれない。眉を潜めると自分の影がモコモコ大きくなった。黒い影が5歳程度の子供のような、スライムのような形になったところでモゴモゴと蠢く。
"主、こいつころす?"
犬を指差すような仕草をしたその影に、犬は怯えたように1つ鳴いて、岩影に走り込む。それを追いかけようと蠢く影をクラウスは引き留めた。
「大丈夫、戻りな」
不満そうな動きを見せてから静かに戻っていく影をみて拗ねたな、と思いながら、犬を呼んだ。
「お前が助けてくれたんだろう?
もしかして妖精かな?」
ゆっくりとやってくるその犬を捕まえて笑う。
「契約したいんでしょう?
名前を決めないとね」
少し悩んでから笑いかける。
「そうだ、東にある国にいる犬によく似てるからシバなんてどう?」
シバは喜んだ様子で鳴いた。下顎を撫でて、しかしここはどこだろうか。と今更ながらに思う。自分が本当に適当な人間だと苦笑しながら手持ち無沙汰な手で黄に光る石を手に取った。人為的なものに見えるが、これは一体なんなんだろうか。月に透かしてみるとチカ、と一際輝いてからその石は自分の手の中に溶けた。
「え…?」
慌てて手のひらを見るが何もない、驚いたままグラリと倒れた。力が入らない。シバは心配するように頬にすり寄る。体が動かない。暗くなる視界に今度こそクラウスはもうダメだと悟った。

目が覚めると広い寝室にいた。クラウスの自室だ。手のひらを見る。
(何もない、夢…か?)
シバが手と顔の間から飛び出してきた。夢じゃないのかと目を見開く。心音が酷くうるさい。慌てて立ち上がる。まずは新聞を見なくては。
逸る気持ちに押されるようにベッドから飛び出した。
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