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一話──死の腐海にある異変
バーサーカーは苛立ちが隠せない
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「お兄ちゃん危ない!」
声に反応して死角からの攻撃が来たことを悟る。見てから動くのはもう遅い。勘で右へと転がった。鋭い爪は頬を掠めたらしく、鉄臭いそれが頬を伝った。べろりと舐めとって身構えると小さな子供たちが怯えているのが視界の端に映った。ちらちらと視界に入る彼らがいることで酷く動きづらいのだ。舌打ちを一つ口内にぎりぎりで収めて怒号を投げる。
「早くいけっていってんだろ!」
「でも、」
涙を堪えて必死になにかを伝えようとする。あぁ、これだから子供は嫌いなのだ。自分の意思で何かを伝えることが出来ない。意思が弱い。じとり、と怒気を含んだ目線を投げればついには黙った。
コングウルフは俺を取り囲み喰ってやろうと唸る。俺の職業はバーサーカー。前線へと切り込んでいく完璧なアタッカーなのだ。いつもはギルドの中衛のやつらが後衛の奴等や人を護ってくれるため気にしないのだが、奇しくも今はギルドへ向かっている最中だった。つまり1人。突如現れたコングウルフは道の真ん中で吠えた。途端に上がる悲鳴に急いでこの魔物と対峙したのだ。
町の人々はほとんど逃げてセンターのシェルターへと向かったが、一部の人は逃げ出せなかった。それを護り逃がすことをしながら闘うのは性分に合わない。イライラは募るが子供の前で爆発させては後がモンスターペアレントとかギルドとかで色々面倒なことになる。最小限の斧の振り回しで何とかコングウルフの攻撃を往なしている状態だ。
一匹のコングウルフが先程吠えたのは仲間を呼んでいたらしい。何匹もやってくるコングウルフにいつの間にか取り囲まれた。
しかし、なんでコングウルフがこんなとこに。
子供に視線がいかないように闘いながら思う。飛び込んでくる一体のコングウルフをギリギリで避け、肩甲骨の間に肘鉄を落とす。足元に飛びかかるコングウルフはジャンプで避けて背後から斧で切りつけその間に飛び込んできた背後からの攻撃には蹴りで往なす。
多数対一は人だと闘いやすいが元々群れる魔物は協調性も高いために隙を上手く突いてくる。開いた胸元に鋭い牙が飛び込んだ。子供の悲鳴が耳をつんざく。
「…っ!」
がぶり、と嫌な音が体内に響く。しまったと体制を立て直そうとしたが続けざまに足首に噛みつかれ、対にはバランスを崩した。転けた俺からまだ離れないコングウルフは2体。それをよくやったと初めに対峙していたコングウルフは笑っているようにみえた。じりじりとにじり寄ってくるコングウルフたちはヨダレを流している。
喰われる。病院送りでは済まないなこれ。冷静な頭で思う。バーサーカーは頭がよく、冷静な男だ。だがすぐに諦める。今までだってそうやって生きてきた。諦めて、そして逃げて。ゆっくりと目を瞑る。どうか美味しく骨まで食べてくれ。
暗くなった視界。そして、鈍い衝撃音。
「バーサーカー!」
噛まれていた足と胸元に続く痛みが少し和らいだ。
職の名前を呼ぶのはギルドのメンバーだけだ。ぱち、と呆けたような顔で目を開けると、目前には明るい茶の髪を短く切り揃えた背の小さい少年がいた。何故かひょっとこの面を頭に着けている。しかも祭りの法被までオプションだ。こんな阿呆な格好をするのはレンジャーしかいない。なぜ助けに来たのかとか、なんで場所がわかったとか分からないがとりあえずキレた。安心したとかそういうわけではない。断じて。
「…おっせぇよ!チビが!」
「チビっていうなや!!
お前ら全員吊し上げるぞ?!」
怒号に怒号で返してくるのは86に入ってから普通だ。今までは怯えたり、無視したりが常で言葉につまる。その様子をレンジャーは横目で見て、そして徐に俺の前に立った。
「バーサク、俺の後ろで護られてな」
後ろ姿からでもにたりと笑っていることが分かった。いつも前線にいないこいつに護られる、って。考えて、ぞわりと肌が粟立つ。
「自分より小さいやつに護られてたまるか
まだやれる」
横に立つとレンジャーは肩をすくめて素直じゃないなと困ったように眉を下げた。お前が焚き付けたのになんだその顔と睨むと慌ててチビは目線を逸らした。
「チビ、」
「なにさ」
「あのガキ逃がせ
俺がコイツら全員倒す」
はあ?と不審げに目線を向けた彼に自分も目線を返す。数秒。レンジャーは諦めたように分かったよと投げ遣りに答えた。
「あんま無茶しないようにね」
レンジャーは顔を歪めて赤黒く変色した生々しい傷を指差した。心配しているらしい。
「余計なお世話だよ」
レンジャーはコングウルフの正面へと飛び込んだ。一瞬怯んだコングウルフは固まった瞬間に跳び箱のように飛び越えた。着地する前に尻を蹴りあげることも忘れない。
「攻撃してんじゃねえよ!」
コングウルフの視線がレンジャーへと移り変わる隙を逃さず懐まで飛び込んで首元に斧を降り下ろした。ぶつ、と肉が切れる嫌な感覚が手元に伝わるが気にせず首を落とそうと力を込めたが、骨に至ったところで力を止めた。
「かって、」
骨が異様なほどに硬いのだ。コングウルフは元々あまり森の奥から出てこない魔物。それ故にあまり生態は知られていない。これはノーベル賞ものだと悪態吐いた。
骨を折るなんて相当難儀なものに思える。ということは骨で守られた心臓を潰すのも難しいだろう。傷も未だにじくじくと痛み、あまり長いこと戦えないことを悟る。地面に多く血を落としているため影のような水溜まりができているのだ。
仕方ない。不本意だがアレを使うか。
本当はビショップが居ればもっと強化できたり、制御できるのだがこの際早く倒すことが先決だ。すぅ、と息を吸い込みそっと斧の刃に触れる。
「闇蛇よ──我に力を
コングウルフを喰え」
自分の影が揺れどんどん延びてついには影は自分の元から離れた。紐のような蛇は枝分かれし、お互いが引っ張り合うように蠢く。やっと千切れると枷が外されたと言わんばかりにものすごい速度でコングウルフの影へと飛び込んだ。
後は時間との勝負だ。
コングウルフたちは唸りをあげて飛び込んできた。それを刃で身体の側面を切りつけ投げ飛ばす。また数匹でやって来たコングウルフを、おのをトルネードのように円状に振り回した。投げ飛ばしたコングウルフは先程子供のいたところにぶつかった。レンジャーはしっかりと仕事をしているらしい。
やっと自分のフィールドになったことに気分がよくなる。そう、元から他に主導権を握られるのは大嫌いなんだ。にた、と口角が上がる。
底冷えするような冷笑にコングウルフは危険を察知した。先程までと雰囲気が違う。野生は弱肉強食故に勝機のない戦いはしないのだ。飛びかかることが出来ないのかジリジリと互いに距離を取ったまま時間が過ぎる。
突如、その雰囲気を破ったのはコングウルフだった。なんの音もなしにばた、と倒れる。その一匹をはじめとして、次々に倒れていった。そのお腹は膨れておらずぺしゃんこだ。骨だけは綺麗に残っているため、肋骨のない下腹部だけが異様にぺしゃんこになっている。それを確認して、バーサーカーは声を掛けた。
「出ておいで」
死んだ魔物たちの影からにょろにょろと蠢き出てきた蛇たちは集まってバーサーカーの影へと戻っていった。
「よくやった」
影に労いの言葉を投げると影のなかに住む蛇は嬉しそうに身体をくねらせた。
声に反応して死角からの攻撃が来たことを悟る。見てから動くのはもう遅い。勘で右へと転がった。鋭い爪は頬を掠めたらしく、鉄臭いそれが頬を伝った。べろりと舐めとって身構えると小さな子供たちが怯えているのが視界の端に映った。ちらちらと視界に入る彼らがいることで酷く動きづらいのだ。舌打ちを一つ口内にぎりぎりで収めて怒号を投げる。
「早くいけっていってんだろ!」
「でも、」
涙を堪えて必死になにかを伝えようとする。あぁ、これだから子供は嫌いなのだ。自分の意思で何かを伝えることが出来ない。意思が弱い。じとり、と怒気を含んだ目線を投げればついには黙った。
コングウルフは俺を取り囲み喰ってやろうと唸る。俺の職業はバーサーカー。前線へと切り込んでいく完璧なアタッカーなのだ。いつもはギルドの中衛のやつらが後衛の奴等や人を護ってくれるため気にしないのだが、奇しくも今はギルドへ向かっている最中だった。つまり1人。突如現れたコングウルフは道の真ん中で吠えた。途端に上がる悲鳴に急いでこの魔物と対峙したのだ。
町の人々はほとんど逃げてセンターのシェルターへと向かったが、一部の人は逃げ出せなかった。それを護り逃がすことをしながら闘うのは性分に合わない。イライラは募るが子供の前で爆発させては後がモンスターペアレントとかギルドとかで色々面倒なことになる。最小限の斧の振り回しで何とかコングウルフの攻撃を往なしている状態だ。
一匹のコングウルフが先程吠えたのは仲間を呼んでいたらしい。何匹もやってくるコングウルフにいつの間にか取り囲まれた。
しかし、なんでコングウルフがこんなとこに。
子供に視線がいかないように闘いながら思う。飛び込んでくる一体のコングウルフをギリギリで避け、肩甲骨の間に肘鉄を落とす。足元に飛びかかるコングウルフはジャンプで避けて背後から斧で切りつけその間に飛び込んできた背後からの攻撃には蹴りで往なす。
多数対一は人だと闘いやすいが元々群れる魔物は協調性も高いために隙を上手く突いてくる。開いた胸元に鋭い牙が飛び込んだ。子供の悲鳴が耳をつんざく。
「…っ!」
がぶり、と嫌な音が体内に響く。しまったと体制を立て直そうとしたが続けざまに足首に噛みつかれ、対にはバランスを崩した。転けた俺からまだ離れないコングウルフは2体。それをよくやったと初めに対峙していたコングウルフは笑っているようにみえた。じりじりとにじり寄ってくるコングウルフたちはヨダレを流している。
喰われる。病院送りでは済まないなこれ。冷静な頭で思う。バーサーカーは頭がよく、冷静な男だ。だがすぐに諦める。今までだってそうやって生きてきた。諦めて、そして逃げて。ゆっくりと目を瞑る。どうか美味しく骨まで食べてくれ。
暗くなった視界。そして、鈍い衝撃音。
「バーサーカー!」
噛まれていた足と胸元に続く痛みが少し和らいだ。
職の名前を呼ぶのはギルドのメンバーだけだ。ぱち、と呆けたような顔で目を開けると、目前には明るい茶の髪を短く切り揃えた背の小さい少年がいた。何故かひょっとこの面を頭に着けている。しかも祭りの法被までオプションだ。こんな阿呆な格好をするのはレンジャーしかいない。なぜ助けに来たのかとか、なんで場所がわかったとか分からないがとりあえずキレた。安心したとかそういうわけではない。断じて。
「…おっせぇよ!チビが!」
「チビっていうなや!!
お前ら全員吊し上げるぞ?!」
怒号に怒号で返してくるのは86に入ってから普通だ。今までは怯えたり、無視したりが常で言葉につまる。その様子をレンジャーは横目で見て、そして徐に俺の前に立った。
「バーサク、俺の後ろで護られてな」
後ろ姿からでもにたりと笑っていることが分かった。いつも前線にいないこいつに護られる、って。考えて、ぞわりと肌が粟立つ。
「自分より小さいやつに護られてたまるか
まだやれる」
横に立つとレンジャーは肩をすくめて素直じゃないなと困ったように眉を下げた。お前が焚き付けたのになんだその顔と睨むと慌ててチビは目線を逸らした。
「チビ、」
「なにさ」
「あのガキ逃がせ
俺がコイツら全員倒す」
はあ?と不審げに目線を向けた彼に自分も目線を返す。数秒。レンジャーは諦めたように分かったよと投げ遣りに答えた。
「あんま無茶しないようにね」
レンジャーは顔を歪めて赤黒く変色した生々しい傷を指差した。心配しているらしい。
「余計なお世話だよ」
レンジャーはコングウルフの正面へと飛び込んだ。一瞬怯んだコングウルフは固まった瞬間に跳び箱のように飛び越えた。着地する前に尻を蹴りあげることも忘れない。
「攻撃してんじゃねえよ!」
コングウルフの視線がレンジャーへと移り変わる隙を逃さず懐まで飛び込んで首元に斧を降り下ろした。ぶつ、と肉が切れる嫌な感覚が手元に伝わるが気にせず首を落とそうと力を込めたが、骨に至ったところで力を止めた。
「かって、」
骨が異様なほどに硬いのだ。コングウルフは元々あまり森の奥から出てこない魔物。それ故にあまり生態は知られていない。これはノーベル賞ものだと悪態吐いた。
骨を折るなんて相当難儀なものに思える。ということは骨で守られた心臓を潰すのも難しいだろう。傷も未だにじくじくと痛み、あまり長いこと戦えないことを悟る。地面に多く血を落としているため影のような水溜まりができているのだ。
仕方ない。不本意だがアレを使うか。
本当はビショップが居ればもっと強化できたり、制御できるのだがこの際早く倒すことが先決だ。すぅ、と息を吸い込みそっと斧の刃に触れる。
「闇蛇よ──我に力を
コングウルフを喰え」
自分の影が揺れどんどん延びてついには影は自分の元から離れた。紐のような蛇は枝分かれし、お互いが引っ張り合うように蠢く。やっと千切れると枷が外されたと言わんばかりにものすごい速度でコングウルフの影へと飛び込んだ。
後は時間との勝負だ。
コングウルフたちは唸りをあげて飛び込んできた。それを刃で身体の側面を切りつけ投げ飛ばす。また数匹でやって来たコングウルフを、おのをトルネードのように円状に振り回した。投げ飛ばしたコングウルフは先程子供のいたところにぶつかった。レンジャーはしっかりと仕事をしているらしい。
やっと自分のフィールドになったことに気分がよくなる。そう、元から他に主導権を握られるのは大嫌いなんだ。にた、と口角が上がる。
底冷えするような冷笑にコングウルフは危険を察知した。先程までと雰囲気が違う。野生は弱肉強食故に勝機のない戦いはしないのだ。飛びかかることが出来ないのかジリジリと互いに距離を取ったまま時間が過ぎる。
突如、その雰囲気を破ったのはコングウルフだった。なんの音もなしにばた、と倒れる。その一匹をはじめとして、次々に倒れていった。そのお腹は膨れておらずぺしゃんこだ。骨だけは綺麗に残っているため、肋骨のない下腹部だけが異様にぺしゃんこになっている。それを確認して、バーサーカーは声を掛けた。
「出ておいで」
死んだ魔物たちの影からにょろにょろと蠢き出てきた蛇たちは集まってバーサーカーの影へと戻っていった。
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