遺された日記【完】

静月 

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64〜66ページ目

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64ページ目∶
 魔法使いはこの日記を書いた後、すぐに光に触れて倒れ込んだ
 やっとこの体を自由に動かすことが出来る
 ボクがこの日記にインクを付けるのはこれで二度目かな?
 本当ならすぐにでもこの体がほしいんだけど、意外に魔法使いさんの心が固くてね
 こうやってペンを動かしたり細かい動きするのは魔法使いさんが気を失っている時じゃないとまだ無理なんだよね
 あれだけ杜撰ずさんに見える心も、無意識の領域では生き残って狩人くんに繋ぎたいって思ってるんだよ
 全くおもしろいよね。人間の『考える』は本当に無意味なんだから
 前のページで自分は生きたいとも死にたいとも思えない言ってるくせに
 ボクが人格を殺して体を乗っ取ってあげようとすると、表情からは想定できない程の力で跳ね除けられちゃう
 でも、あくまで無意識の領域だからね、芯はまだ強く張れていても、それを守るものがボロボロじゃね
 これは時間の問題かな?
 どんどん過去を見て、心を蝕まれればいいんだよ、魔法使いさん
 あっそういえば、まだ自己紹介をしてなかったね
 僕は本だよ。そう、この日記の本体
 何言ってるかわからないだろうけど、ボク自身も最近まで眠っていて何がなんだか(笑)
 だけど、この魔法使いさん、リナーシタと腐れ縁があるみたいなんだよね
 過去のこともあるし
 リナーシタの主でもあるボクに、夢で自分がしていることと同じことされてるなんて
 あの夢から覚めた魔法使いさんは、これを読んでどう思うかな?
 少しは勘付き始めては居たみたいだけど、まだ自分がもう少しでボクに体を乗っ取られて、そのまま生贄になるなんて思ってもみていないようだからね
 でも、これに関しては魔法使いさんも同じだから、人のことは言えないよね
 というより、『言わせない』かな
 まぁ、何がとは 言わないけど

◇◇ ◇◇

65ページ目∶
 私が目を覚ますと、知らない天井が見えた
 多分…廃病院のどこかでしょうね
 未来の私と話していたら、急に意識が飛んで、その先が何も思い出せない
 あの部屋は何だったんだろう
 精神世界…みたいに見えたけど、どうして未来の私がいたのか全く覚えがない
 私の知らない世界から干渉されてる…とか
 いやいや、厨二病じゃないんだから、流石に考えすぎかな
 いや、でも実際精神世界とか、未来の私とか、十分厨ニくさいかも
 でも、どうなんだろう

「ンあっ!魔法使いっ!」

 明かりの暗い天井をずっと見つめていると、隣から見知った声が聞こえた

「…友人?おはよう、友人がここまで運んできてくれたの?」

「そ、それは幼馴染みだけど……それ、痛く…ないの?」

 どうして友人はこんなに怯えてるんだろう
 魔法使いは不思議に思って友人の目線を追ってみると
 自分の足、のあるはずだった場所に行き着いた
 私の下半身に付いているはずの足の片方が無く、変わりに白い柱が足に刺さっていた

「な……に゙こ…れ いや… いや゛イや!!いヤ゙!アアア゛アア゛ァ゙ア」

「チョッ、ちょっと落ち着いて!大丈夫だから!」

 友人が片足がないのに平然としていた魔法使いを不気味に思って指摘してみると、それに気づいた瞬間魔法使いが急に発狂しだした
 自分の足がなくなっていることを自覚していなかったみたい、というより記憶を失わせていたのかも
 友人は焦って落ち着かせようと大声を出してなだめようとしたけど
 その大声が逆効果だったようで、魔法使いの正気は余計に揺さぶられ狂乱が強まってしまった

「ナニ゙コレ、ナニごレナ゙ニごレ、私の足…!私の足が!どうして!ただ気を失っただけなのに!なのに!これ!なに、ウゴっ゙ケボ ハァゥ゙匕ィ゙、アァ゙アァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」

 なんで、足がないの!?
 気を失ってる間に一体!
 何が起きたの、なんで、何が!!
 イタイ痛い イタイ痛い

〝痛くない 落ち着いて〟

 こんなときにまでなによ!
 私が気を失ってる間にあなたがしたんじゃないでしょうね!

〝…〟

 まさか…!なんでこんなこと…!!

「起きたのか!魔法使い!そんなに叫んでどうしたんだよ!!」

 魔法使い発狂を聞いて、部屋の外を見回りしていた幼馴染みが急いで部屋に入ってくる

「あぁァ゙ァ゙!足!アヂ、フゥハァ゙いヤ゙ぁ!ごホッ力ㇹッ゙」

「落ち着けって、死にはしねぇから!また瓦礫に埋もれたら今度はもう助からないかもしれないんだぞ!!」

 幼馴染みが来てもおさまらない魔法使いの絶叫に、できるだけ大きい声を出さないように声をかけ続ける
 すると、魔法使いは自分のいる状況を少し考えられたのか少し落ち着いてきた
 しかし、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、表情も歪んでしまっている

〝こんなはずじゃ、なかったのに〟

 3人とも黙って静寂が部屋を包んだ時、魔法使いの頭の中で後悔の念が響いた

◇◇ ◇◇

66ページ目∶
「ごめん、少し1人にさせて…」

 ふと魔法使いが口を開く
 特別声を張ってるわけでも、圧をかけてるわけでもない
 ただ、寂しそうに
 霧のかかった樹海に迷い込んだような、呻き声にも聞こえるような声が、友人たち2人の頭に響く

「…分かったわ、幼馴染み他の部屋に何があるか探索にいきましょう、坊もまだ見つかってないんだし」

「おう…そうだな、魔法使い、絶対に居なくなるなよ」

「分かった…」

 2人は魔法使いに同情していた
 魔法使いがここに寝かされた経緯は、魔法使いの叫び声を聞いて駆けつけて魔法つかいを発見したから
 柱を足に刺したときの叫び声に気がついた2人は、血溜まりに浸かりながら倒れ込んでいた魔法使いを見つけたのだ
 それから、急いで寝かせてあげられる場所を探して、ここ―診察室を見つけたといったところだ
 2人は間取り図の周辺が崩れた時、とっさの判断で来た方へダッシュして助かったが、坊は逆方向へ、魔法つかいは反応する素振りを見せないまま瓦礫の下敷きになってしまっていた
 坊はまだ探せることはあっても魔法つかいは絶対に見つけ出すことはできない
 2人は勿論無傷、それに対して魔法使いがこうなっていれば、同情するなという方が無理がある
 それと同時に無理矢理でも引っ張って逃げさせておけばよかったと後悔も持っていた
 2人も魔法使いに漏れず心を蝕まれているのだ

〝っ!!…過去の私…。自分からここに来られるようになったのね〟

『えぇ、あなたのことを強く考えたら簡単に来れたわ、』

〝そう…〟

『…』〝…〟

 束の間の静寂が2人を包み込む
 顔を見て話したことで、どちらも心が苛まれていることに気がついて何も言えなくなってしまったのだ

『私の足がないのだけれど…なにか知ってるかしら』

〝…瓦礫に、挟まっていたから〟

 重い空気の中、過去の魔法使いが静かな声でうつむきながら声を投げかけ尋問を始めた

『抜け出そうとして足が千切れてしまった…?』

〝私が、やったの…〟

『…次の質問、どうして足に柱が刺さっていたの?』

〝歩けなかったから。私の仲間が、前にしていたのを…思い出して〟

『ッ…!?』

 予想外の返答に過去の魔法使いは戸惑ってしまう
 実は、意識を失う直前に『ガラガラ』という音自体は聞こえていたから、自分の周りが崩れたというのは薄々予測できていた
 それで、抜け出せていたから何らかの方法で助けてくれたのも分かっていた
 しかし、その結果に足を犠牲にされたのが許せなかったのだ
 他に方法はなかったのか、人なら誰しもそう思ってしまうもの
 しかし、未来の魔法使いの顔と苦しそうな言葉を聞いた瞬間に、過去の魔法使いは何も言えなくなってしまった

〝足をなくしてしまい、ごめんなさい〟

 またの静寂に今度は未来の魔法使いが耐えきれなくなって口を開く

『もう…大丈夫、私は…大丈夫』

 この言葉には、未来の魔法使いへを安心させる意味があったのか、自分は正気だという自己暗示なのか
 ようやくお互いを見つめ合ってはすぐに目をそらしてしまった

〝そう…坊を探してあげて、〟

『えぇ…もちろん、、』

〝私も、手伝う〟

『…よろしく、またね』

 ここで過去の魔法使いは、精神世界をあとにした
 あとに取り残された未来の魔法使いはどこにも抜け出せず、その場に丸まって倒れ込み、そして目を閉じた
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