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5話 川沿いの村
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川の横に作られた小さくのどかなその村は、水と近い生活を送っているようで中心には噴水が堂々と佇んでいる。
磨かれた凹凸のある岩を粘土で固めたそれは、誇らしげに浅く広い受け皿に止むことなく水を注いでいて、たまに飛んでくる水しぶきはひんやりとしていて気持ちが良い。
外に出ている村人たちは皆幸せに溢れた笑顔をしていて、どれだけ村が平和なのか教えてくれる。
なにか無いかと村を散策している途中、たまに看板の出ている建物から魚やお肉の美味しそうな匂いが踊りながらに近づいてくる。
また後でルクスと一緒に食べに行こうかしら。
今のうちに他のところに隠れた名店がないか探しておくことにする。
それから少し進んで、舗装がしきれていない草道を進んでいくとあるポーションの絵の書かれた寂れた建物を見つけた。
看板を読むと雑貨屋と走り書きに見える文字で書いてある。
「雑貨屋、いろいろな客が来たりするから情報収集には良さそうね」
「見ねえ顔だな、何のようだ」
私がドアを開けると付いていたベルが鳴り店主と思われる男性がこちらを向く。
「私は旅人よ。旅の途中に丁度見かけたからこの辺りについて少し尋ねようかと」
「そうか。丁度暇してんだ、何でも聞いてくれ」
顔の印象は年老いて貫禄を持った気難しい学者だ。
モノクルから覗く目は少し尖っていて、僅かな剃り残しが少し目立っている。
鋭く細いをさらに細めてこちらを睨んでくるので、私の視線は無意識にカウンターの方へ向いてしまった。
カウンターにはその厳格な風貌にはとても合わないような、子供が喜びそうな可愛い置物がいくつか置かれていて、彼の根は優しいことを理解できる。
見た目で判断は良くないと、私が一番、誰よりも解っているはずだったのに。
「助かるわ。早速質問なんだけど ― 」
店主に村の話を聞くと、やっぱり平和な村だったらしく、でてくる話は「美味しい魚」や「流行っているファッション」のようなものばかりだった。
この辺りの生態系に魔物関係は殆ど存在していないらしく、動物も基本温厚な種類が多く瘴気も溜まりにくいため、魔物が近くに現れることすらここ数ヶ月はなかったと言っていた。
因みに、この近くの山を挟んだ反対側の村ではつい最近に魔物の襲撃があり、丁度居合わせた勇者が村を救ったという話があるらしい。
私がいなくなっても旅は順調に進んでいるようで安心した。
「ありがとう、おかげで今後の行き先も見つけたわ」
「お前さん。まさかあっちの村まで行くつもりか?まだ残党が彷徨ってるかもしれんぞ。」
「心配ありがとう。だけど、こう見えて一応腕は立つのよ。それに、もしかしたら勇者に会えるかもしれないじゃない?」
「勇者か、どいつもこいつも。…下らんな、行くなら勝手に行け。俺は知らん」
過去に勇者を名乗る誰かとなにかあったのか、店主はそれだけ言うと私から視線を外して不満げに目を閉じる。
急な豹変に驚いて少しの間視界を変えられずにいると、ふと店主の耳に焦点が合う。
普通の人と比べて明らかに横に長く、ピアスをしている耳たぶと一番先の部分が少し尖っている。
エルフだっけ、滅多に人と関わらない種族と聞いていたけど、村に住んでいることもあるんだ。
「…うちは情報屋じゃないんだ。品ぐらい見ていけ」
その場を動かず顔を見続ける私に気付いた店主がほんの少しだけ目を開いて再度私を睨む。
もう話をする気はないらしい。
ルクスには子どもの相手を頼んでしまったから、なにか喜びそうなものでも買っておこうかしら。
「まいど。お釣りだ」
「ありがとう。あっ」
店主が私の手に銅貨を乗っけようとしてカウンターの置物の1つを落とす。
「…悪い、拾ってくれるか?」
焦り気味に下を向いた私と違い、店主は表情1つ変えずに無愛想にそう頼む。
「どうぞ」
拾い上げて少し回りを確認すると、傷はついていないようで安心した。
買い物もしたし、店主から聞けることはもう無さそうだから他の場所にも行ってみることにしよう。
「なぁ、最後に1つ良いか?」
「何かしら?」
私が部屋を出ようとドアを開けると初めて店主から口を開いた。
「お前さんは、【勇者】に憧れるか?」
店主から出てきた言葉はそれだけ。
普通に考えたら「勇者が好きか?」って捉えられるけど、多分店主が言いたいことは多分違う。
何故か分からないけど、こちらを向く目は少し悲しそうで。私を見ているはずなのに、瞳に映っている景色はここではないみたい。
「私はそれほどね。1度きりの人生を懸けてまで見ず知らずの人を救うだなんて、聞こえは良いけど私はごめんだわ」
私は微笑みを崩さないように言ってみせた。
それに対して店主は静かに「そうか」とだけ零し、あとは私が店を出るまで口を開くことはなかった。
たしかに私は魔王を討伐しようとしてる。
だけど、私は天命に縛られているわけでも誰かの願いを背負っているわけでもない。
パラに聞かれると、少し心が苛まれるかもしれない。
だけど、今の私はあくまでも自分のため、嘘は言ってない。
雑貨屋を出てまた別の道を歩いてみると、そこまで幅の広くない小川とその上に架かる橋を見つけた。
来たときに渡った川から枝分かれして出来たのだろう。
川の向こう側には少し大きめの倉庫と柵に囲まれた動物たちが見える。昨日の魔物化した家畜はここから逃げたのだろう。
「あれ、お客さん?いらっしゃい!」
遠目に牧場に見えるそれを見ていると、作の中で羊を撫でていた少女から声がかかる。
ショートボブの髪型に夜空の星のような黄色い瞳、腰に小さなフリルの着いたエプロンを着た可愛らしい女の子。その下には白色のワンピースが顔をのぞかせていて、まさに元気ハツラツのような印象だ。
「あなた、もしかして昨日の?」
「あっもしかして昨日のお兄ちゃんのお仲間さんなんですか?…あのときはごめんなさい」
やっぱり昨日の子供で合っているみたい。
「あっそーだ。お礼したいから家来て!」
女の子はそう言って、私に走り寄ってくる。
それにつられて私も少し近づくと、軽々しく柵を飛び越えた女の子に手を捕まれ奥へと引っ張られた。
家は牧場の隣のようで風車小屋のような見た目をしていた。
女の子が「ただいま!」ドアを開けると、内装はお店のようになっていていくつかの棚が均等に置かれていた。
「あら、おかえりメラ。もう仕事は終わったの?って、あらお客さん?」
私が少し店の中を見回しているとカウンター奥のドアから一人の女性が入ってくる。
メラと呼ばれた女の子は更に強く私の手を引っ張ってカウンターまで連れて行く
「うん!お母さん見て。昨日私たちを助けてくれた人のお仲間さんが近くまで来てくれたから」
「あっ本当ですか?昨日は本当に2人がどうもお世話になりました。すぐにお茶を用意するので上がってください」
「あ、ありがとう」
メラちゃんのお母さんは突然の訪問に少し焦りながらも家に上げてくれた。
見た目はメラちゃんに似ていて結構美人な部類だった。
「本当に、昨日は娘を助けてくださって本当にありがとうございました。良ければ他の皆さんにもお礼がしたいのですが、ここにはいらっしゃらないので?」
「いつもは一緒なのだけど。今日はは子供たちの相手をしていてね」
「そういうことでしたか。なら今度にでも一緒に来てくださればおもてなしします」
「ではお言葉に甘えてまた村を出るときにでも」
それからは私は雑貨屋でしたのと同じ質問をしてみた。
本当に情報が正しいのか調べるために、冒険者はよくこの方法を使うのだ。
帰ってきた答えは店主と同じ。店主の言葉は信じられることが分かった。
因みにエルフが店主をしている理由は、独りで旅人していてたまたまここが気に入ったかららしい。
カウンターの置物通り子どもたちが好きなようで、メラちゃんも時々皆と雑貨屋に遊びに行っているみたい。
子供たちに人気があるなら、私よりましね。
話の途中、お店にお客さんが来たようでお母さんが少し席を外した。
その間私は色々旅の話をしてあげた。メラちゃんも橋の子供たちたちと一緒で冒険には興味があるみたいで、ずっと目を輝かせながら聞いていた。
だけど、旅の話は途中で終わってしまった。
急に外からとても大きな鐘の音が壁を揺らしながらに部屋の中を埋め尽くした。
「なんの音かしら、」
「…」
訝しげに天井を見上げた後に机に視線を戻すと、とてもこわばった顔をしたメラちゃんの姿が見えた。
「なにか、やばいものなの、?」
「…警鐘です。魔物が襲撃してきたときの…」
磨かれた凹凸のある岩を粘土で固めたそれは、誇らしげに浅く広い受け皿に止むことなく水を注いでいて、たまに飛んでくる水しぶきはひんやりとしていて気持ちが良い。
外に出ている村人たちは皆幸せに溢れた笑顔をしていて、どれだけ村が平和なのか教えてくれる。
なにか無いかと村を散策している途中、たまに看板の出ている建物から魚やお肉の美味しそうな匂いが踊りながらに近づいてくる。
また後でルクスと一緒に食べに行こうかしら。
今のうちに他のところに隠れた名店がないか探しておくことにする。
それから少し進んで、舗装がしきれていない草道を進んでいくとあるポーションの絵の書かれた寂れた建物を見つけた。
看板を読むと雑貨屋と走り書きに見える文字で書いてある。
「雑貨屋、いろいろな客が来たりするから情報収集には良さそうね」
「見ねえ顔だな、何のようだ」
私がドアを開けると付いていたベルが鳴り店主と思われる男性がこちらを向く。
「私は旅人よ。旅の途中に丁度見かけたからこの辺りについて少し尋ねようかと」
「そうか。丁度暇してんだ、何でも聞いてくれ」
顔の印象は年老いて貫禄を持った気難しい学者だ。
モノクルから覗く目は少し尖っていて、僅かな剃り残しが少し目立っている。
鋭く細いをさらに細めてこちらを睨んでくるので、私の視線は無意識にカウンターの方へ向いてしまった。
カウンターにはその厳格な風貌にはとても合わないような、子供が喜びそうな可愛い置物がいくつか置かれていて、彼の根は優しいことを理解できる。
見た目で判断は良くないと、私が一番、誰よりも解っているはずだったのに。
「助かるわ。早速質問なんだけど ― 」
店主に村の話を聞くと、やっぱり平和な村だったらしく、でてくる話は「美味しい魚」や「流行っているファッション」のようなものばかりだった。
この辺りの生態系に魔物関係は殆ど存在していないらしく、動物も基本温厚な種類が多く瘴気も溜まりにくいため、魔物が近くに現れることすらここ数ヶ月はなかったと言っていた。
因みに、この近くの山を挟んだ反対側の村ではつい最近に魔物の襲撃があり、丁度居合わせた勇者が村を救ったという話があるらしい。
私がいなくなっても旅は順調に進んでいるようで安心した。
「ありがとう、おかげで今後の行き先も見つけたわ」
「お前さん。まさかあっちの村まで行くつもりか?まだ残党が彷徨ってるかもしれんぞ。」
「心配ありがとう。だけど、こう見えて一応腕は立つのよ。それに、もしかしたら勇者に会えるかもしれないじゃない?」
「勇者か、どいつもこいつも。…下らんな、行くなら勝手に行け。俺は知らん」
過去に勇者を名乗る誰かとなにかあったのか、店主はそれだけ言うと私から視線を外して不満げに目を閉じる。
急な豹変に驚いて少しの間視界を変えられずにいると、ふと店主の耳に焦点が合う。
普通の人と比べて明らかに横に長く、ピアスをしている耳たぶと一番先の部分が少し尖っている。
エルフだっけ、滅多に人と関わらない種族と聞いていたけど、村に住んでいることもあるんだ。
「…うちは情報屋じゃないんだ。品ぐらい見ていけ」
その場を動かず顔を見続ける私に気付いた店主がほんの少しだけ目を開いて再度私を睨む。
もう話をする気はないらしい。
ルクスには子どもの相手を頼んでしまったから、なにか喜びそうなものでも買っておこうかしら。
「まいど。お釣りだ」
「ありがとう。あっ」
店主が私の手に銅貨を乗っけようとしてカウンターの置物の1つを落とす。
「…悪い、拾ってくれるか?」
焦り気味に下を向いた私と違い、店主は表情1つ変えずに無愛想にそう頼む。
「どうぞ」
拾い上げて少し回りを確認すると、傷はついていないようで安心した。
買い物もしたし、店主から聞けることはもう無さそうだから他の場所にも行ってみることにしよう。
「なぁ、最後に1つ良いか?」
「何かしら?」
私が部屋を出ようとドアを開けると初めて店主から口を開いた。
「お前さんは、【勇者】に憧れるか?」
店主から出てきた言葉はそれだけ。
普通に考えたら「勇者が好きか?」って捉えられるけど、多分店主が言いたいことは多分違う。
何故か分からないけど、こちらを向く目は少し悲しそうで。私を見ているはずなのに、瞳に映っている景色はここではないみたい。
「私はそれほどね。1度きりの人生を懸けてまで見ず知らずの人を救うだなんて、聞こえは良いけど私はごめんだわ」
私は微笑みを崩さないように言ってみせた。
それに対して店主は静かに「そうか」とだけ零し、あとは私が店を出るまで口を開くことはなかった。
たしかに私は魔王を討伐しようとしてる。
だけど、私は天命に縛られているわけでも誰かの願いを背負っているわけでもない。
パラに聞かれると、少し心が苛まれるかもしれない。
だけど、今の私はあくまでも自分のため、嘘は言ってない。
雑貨屋を出てまた別の道を歩いてみると、そこまで幅の広くない小川とその上に架かる橋を見つけた。
来たときに渡った川から枝分かれして出来たのだろう。
川の向こう側には少し大きめの倉庫と柵に囲まれた動物たちが見える。昨日の魔物化した家畜はここから逃げたのだろう。
「あれ、お客さん?いらっしゃい!」
遠目に牧場に見えるそれを見ていると、作の中で羊を撫でていた少女から声がかかる。
ショートボブの髪型に夜空の星のような黄色い瞳、腰に小さなフリルの着いたエプロンを着た可愛らしい女の子。その下には白色のワンピースが顔をのぞかせていて、まさに元気ハツラツのような印象だ。
「あなた、もしかして昨日の?」
「あっもしかして昨日のお兄ちゃんのお仲間さんなんですか?…あのときはごめんなさい」
やっぱり昨日の子供で合っているみたい。
「あっそーだ。お礼したいから家来て!」
女の子はそう言って、私に走り寄ってくる。
それにつられて私も少し近づくと、軽々しく柵を飛び越えた女の子に手を捕まれ奥へと引っ張られた。
家は牧場の隣のようで風車小屋のような見た目をしていた。
女の子が「ただいま!」ドアを開けると、内装はお店のようになっていていくつかの棚が均等に置かれていた。
「あら、おかえりメラ。もう仕事は終わったの?って、あらお客さん?」
私が少し店の中を見回しているとカウンター奥のドアから一人の女性が入ってくる。
メラと呼ばれた女の子は更に強く私の手を引っ張ってカウンターまで連れて行く
「うん!お母さん見て。昨日私たちを助けてくれた人のお仲間さんが近くまで来てくれたから」
「あっ本当ですか?昨日は本当に2人がどうもお世話になりました。すぐにお茶を用意するので上がってください」
「あ、ありがとう」
メラちゃんのお母さんは突然の訪問に少し焦りながらも家に上げてくれた。
見た目はメラちゃんに似ていて結構美人な部類だった。
「本当に、昨日は娘を助けてくださって本当にありがとうございました。良ければ他の皆さんにもお礼がしたいのですが、ここにはいらっしゃらないので?」
「いつもは一緒なのだけど。今日はは子供たちの相手をしていてね」
「そういうことでしたか。なら今度にでも一緒に来てくださればおもてなしします」
「ではお言葉に甘えてまた村を出るときにでも」
それからは私は雑貨屋でしたのと同じ質問をしてみた。
本当に情報が正しいのか調べるために、冒険者はよくこの方法を使うのだ。
帰ってきた答えは店主と同じ。店主の言葉は信じられることが分かった。
因みにエルフが店主をしている理由は、独りで旅人していてたまたまここが気に入ったかららしい。
カウンターの置物通り子どもたちが好きなようで、メラちゃんも時々皆と雑貨屋に遊びに行っているみたい。
子供たちに人気があるなら、私よりましね。
話の途中、お店にお客さんが来たようでお母さんが少し席を外した。
その間私は色々旅の話をしてあげた。メラちゃんも橋の子供たちたちと一緒で冒険には興味があるみたいで、ずっと目を輝かせながら聞いていた。
だけど、旅の話は途中で終わってしまった。
急に外からとても大きな鐘の音が壁を揺らしながらに部屋の中を埋め尽くした。
「なんの音かしら、」
「…」
訝しげに天井を見上げた後に机に視線を戻すと、とてもこわばった顔をしたメラちゃんの姿が見えた。
「なにか、やばいものなの、?」
「…警鐘です。魔物が襲撃してきたときの…」
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