魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第7話 魔王様は合法ロリっ子

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「おかえり、晴人!」
「ただいま、ワンワ」
 部屋に入ると、ワンワが笑顔で抱き付いてきた。
 僕はワンワの頭をなでなでと――結局のところ、僕はワンワとニャンニャの部屋に住むこととなっている。
 ワンワ曰く、僕がパンてぃ事件によりニャンニャに二度目の半殺しにあった後、


 ◆ ◆ ◆


「晴人の話を聞くのは晴人のお願いであって、ワンワのお願いは別だよ? それに、お願いが一つだけとは言ってないもん」
「……ワン、ズルいです」
「ふふー、ワンワのお願いは晴人と一緒の部屋で住むこと」
「はぁ、もうなにを言っても聞く耳持たずですね。仕方ありませんが、ある程度良識の範疇にしてください」


 ◆ ◆ ◆


 そんなやり取りがあったそうだ。
 現在、床で寝るならとギリギリ了承されている次第である。最初、ニャンニャは僕の部屋を牢獄と考えていたらしいので――ワンワさまさまと言わざるを得ない。
 どうしてワンワが僕にここまでしてくれるのか、確か匂いがどうとか言っていたが――来たばかりで右も左もわからない僕は、その優しさに素直に甘えてみる。
 まるで、甘える子犬のようにワンワは僕の膝に乗り、

「ニャン、厳しくなかった?」
「厳しい部分はあったけど、先生みたいに色々教えてくれたよ。どちらかというと僕は優しい方かなって思った」
「えへへ、ニャンはすっごく優しいよ。ワンワのわがままもいっぱい聞いてくれるし、ワンワはニャンが大好きっ!」

 にこやかにワンワが言う。
 本当に仲がいいんだな――そう思うと、僕が原因で姉妹喧嘩させてしまったことに胸がちくりと痛む。もうあんなことにならないよう――少しは信頼されるよう、今は与えられた仕事を前向きに取り組んで行こう。無論、それとは同時進行で考えねばならない大きな課題も一つあるが――現時点ではクリア条件に該当する案は思い付かない。
 このままでは留年確定だが、慌てるほど切羽詰まってはいなかったりする。
 この異世界履修については十分な時間があるのだ。今はとにかく二人に付いて行きこの世界をもっと知っていくことが先決と考えよう。
 こうなってああなって、僕は今日あったことをワンワに話す。

「……それで、雪をやまそうってイメージしたんだけど全く上手くいかなくてさ」
「晴人は雪以外の景色を見たことがあるの?」

 不意の質問、僕は故郷を思い出し、

「僕がここに来る前の世界――住んでた場所は日本っていうところなんだけど、むしろ雪の方が珍しかったかな。春夏秋冬っていう四季がハッキリしていて、暑い時は暑いし寒い時は寒いみたいな」
「それってさ、こんな感じ?」

 ててて、とワンワが小走りでなにかを手に戻って来る。
 ワンワが僕に見せてきたのは――何冊かの絵本だった。どれも雄大な自然のイラストがたくさん載っており、特にその内の一冊が四季折々の日本風景によく似ている。
 江戸時代や原始時代のイラストも載っており――いや、これはイラストといっていいものなのか? 写真に近いなにか、ここまで鮮明に描けるものなのだろうか。
 違和感のある、この絵本――、

「日本語で書いてあるな」

 ――著者名は『トキミヤレン』。
 まあ、これだけ異世界が普通となった現代だ。別世界の色々な品物が流通していてもなんら不思議はないが。

「シュンカシュウトウ! 晴人の世界の本だったんだ! ワンワたちの世界とは全然違うんだねっ!」

 目をキラキラさせながらワンワが言う。
 確かに、魔王城周辺と比較すれば遥かに違うことは同意である。もうなんていうかここは南極クラスだよね。無論、直接南極には行ったことないけれど、例を挙げるならそこが一番しっくりくる。
 ただ、少し驚いたことが一つ、

「ワンワ、日本語が読めるの?」
「えへへ、すごい? 昔この絵本をくれた人が教えてくれたんだ」
「普通にすごいよ。僕はこっちの世界の文字は読めないから」
「でも晴人もワンワたちの世界の言葉を喋れるよね! ワンワと晴人、ダブルすごいで最強ってことかなっ!」

 ワンワが嬉しそうに鼻をふんふんとしながら言う。

「……僕はある意味ズルというか、最強にはほど遠いというか」

 今思えば、確かにワンワは僕のデバイスを覗き込んだ時も読めていたっけ。
 僕の場合、あくまでこちらの世界の言語に対しては通常会話のできるレベルが自動習得されているのみで、文字はデバイスの翻訳機能を通さない限り読むことはできない。用意されたものに甘んじているだけである。

「……でも、晴人の世界はいいなぁ」

 ワンワは絵本のページを一枚、また一枚と捲りながら、

「最近は特に雪の量がひどくてね。いつかこういう絵本にでてくるような太陽のある暖かい風景、一度でいいから緑色の大地で走り回ってみるのが夢なの。ワンワね、実は生まれてから雪景色以外見たことがないんだ」

 ワンワが笑顔で走り回る姿、それはとても癒される光景だろうなと思った。
 ただ、ワンワの言葉で気になる点が一つ――雪景色以外を見たことがない? ニャンニャが呟いた『呪い』となにか関係があるのだろうか。言葉からの憶測にすぎないが、もしかすると魔王城のある領域外にでることができないのか?
 熟考していたのか、気付けばワンワが僕の顔を覗き込んでおり、

「……晴人、疲れてるのに話し込んじゃってごめんね。お外でお仕事してたから身体も冷えてるよね。ワンワと一緒にお風呂入る?」
「いや、僕の方こそごめん。考えごとしてい――って、お風呂ぉっ?!」

 ワンワさんマジっすか。
 こんな可愛いロリっ子と一緒にお風呂なんて入ってしまったら、ありとあらゆる意味で覚醒してしまう――僕はもう正常な意識に後戻りできるだろうか。
 いや待て、魔王というからには――実年齢は僕より上になるのか?
 だとしたら僕的には合法、限りなくセーフなのではないだろうか。うん、セーフだセーフにしよう。やましい気持ちなんてない、ないよぉっ!

「よーし、ワンワ一緒に――」
「一緒に、の続きはなんですか」
「――ひょえぇ」

 真後ろから怒りを帯びた声、振り向けばニャンニャが眉を吊り上げながら、

「天音さん、ワンが優しいからって調子に乗ってませんよね? この部屋に住むだけでは飽き足らず、ワンまでどうにかするおつもりですか? 人間の欲求とはどうなっているのでしょう? 天音さんの世界ではそのスタンスが一般的なのですか?」

 そう早口で捲し立て、ニャンニャは最後にポツリと、

「……えっちです」
「ニャンニャ様、今なんて言いました?」
「……えっちです」
「えっ?」
「ぇ、えっちだと言ったのですっ」
「ニャンニャ様の照れくさそうな言い方可愛いぃいいいいいいいっ!」
「ワン、やっぱりこの男消滅させてもいいですか? いえもう消滅させます」
「だ、駄目だよっ! ワンワのSPは残り少ないから、今なにかあったら晴人が本当に死んじゃうよ!」
「……ぐぬぬぅ。ワン、お風呂は絶対に一緒に入ってはいけませんからね。ワンに欲情してくるかもしれませんから」
「えょっ?! 晴人、ワンワの裸に興味あるの? ぜ、全然発育もよくないし、見ても面白くないと、思うけど」

 合法ロリっ子かぁ。
 興味があるかないかでいえば――可愛いもの好きな僕としては前者である。ただ、どちらかといえば癒しという意味合いが大きい。ワンワとニャンニャ、どちらも僕にとっては愛くるしさマックスの存在である。
 一緒にお風呂、お風呂か――、

「僕としてはワンワとニャンニャ様、仲良く三人で入りたいなぁ」
「……天音さん、あなたよくこの流れで私とも一緒に入りたいなんて発言できましたね?」

 呆れ顔で言うニャンニャ、僕は視線を真っ直ぐに口を開き、

「覚悟を決めたんですよ。どうせならもうとことんまで前に進んで行こうかなって。雪だって必ずやませてみせます」
「なんか晴人かっこいいねっ!」
「やる気をだすのはいいことです。もし本当にやますことができたのなら、ちゃんとご褒美を差し上げますよ」
「じゃあ、ニャンニャ様を思いっ切り抱き締めたいっ!」
「……そ、即答ですか?! いいでしょう、実現した際はいくらでも抱き締めてくださいな」
「やったぁっ!」

 僕は思わずガッツポーズする。
 あの時の続きが合意のもとにできる――ワンワが「ワンワは仲間はずれ?」と、潤んだ瞳で聞いてきたので僕はワンワも一緒だよと頭をなでなでする。

「……はぁあ。ワン、冷えた身体で風邪を引かれでもしたらさらに迷惑です。早いところその素直なおバカさんを浴場まで案内してあげなさい」

 僕とワンワのやり取りに、盛大なため息を吐きながらニャンニャが促す。

「了解! 行こっか、晴人!」
「ワン。く、れ、ぐ、れ、も、案内が終わったらすぐに戻って来るのですよ」
「はぁ~い」

 厳しく念を押すことも忘れないニャンニャ。
 残念ながら一人ゆっくりと湯に浸かり、なにごともなく一日が終了するのであった。
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