魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

ともQ

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第12話 魔王様喜ぶ

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 僕は両手を天に掲げ、脳内にてある光景を思い浮かべる。
 この雪景色が晴れ渡り、太陽の下全ての雪が溶け広がる大地、草原にてワンワが元気に走り回る姿を――、

「天候操作」

 ――瞬間、僕の目の前が真っ白になる。
 好きなように色付けしろといわんばかりに、それはまるでなにも描かれていないキャンバスのようだった。 
 正直、僕は可愛いものが大好きだ。
 そういった題材を主として作り出すことを個人的な趣味としており――所属するサークル『ラブリー卍』では萌えイラストから人物画、人形作り、お菓子作り、自身が愛らしいと感じるものは色々と形にしてきた。ちなみに、この『ラブリー卍』とは初代サークル代表が、可愛いものを見た際に歓喜でのけぞるサマが卍だと語尾に付け足しただけであるという。
 ……サークルの他の皆は元気だろうか。
 転送される異世界はランダムな上にかなりの数があるため、かぶっているという確率は稀だろうが皆無事に進級できるといいなぁ。
 僕も僕で頑張ろう。
 クリア条件とは見当違いの方向へと向かっているが、今は目の前にある壁を愚直に一つずつ乗り越えてその先に新たな道があると信じよう。
 僕は見てみたい光景をイメージする。
 太陽照らす大地の上、ワンワが元気よく走り回る姿――その光景に雪はいらない、ワンワが見たことのない景色を見せてやりたい。さらに想いを追加で上乗せしておこう――上手くいったあかつき、ご褒美でニャンニャにぎゅーしたい、ハグしたい、キスしてみたい。
 スキルが発動しているのか、僕の身体が――特に両手が熱い。
 昨日とは違う感覚が全身を駆け巡っていた。そして、それを裏付けするかのようにデバイスから音が鳴り響く。



 ◇ 『天候操作 Lv.1』 → 『天候操作 Lv.2』に成長しました。   
 ◇ SP『天撃』を習得しました。


 そして、雪は――あっさりとやんだ。

「すごい、すごいよ晴人っ!」

 ワンワが大声で叫ぶ。
 すでに真っ白なキャンバスは消えていた。いや、正確には消えてはいない――今僕の目の前に広がる光景こそが僕がそこに描いたものなのだろう。
 空の合間から大きな光が差し込む。
 太陽の下ワンワが元気に走り回る姿、目をキラキラとさせながらその表情はとても嬉しそうだ。ニャンニャはというと太陽を見上げながら固まっていた。現状を見て思うところもあるだろう、今はそっとしておく。

「晴人、晴人っ!」

 ワンワが僕の方に駆け寄り、勢いよく抱き付いて来る。

「やっぱり、同じ匂いだったね!」
「同じ匂い?」

 僕は聞き返す、ワンワはぐりぐりと僕の胸に顔を擦り付けながら、

「えへへ、晴人の匂いと太陽の匂いだよ。ワンワの鼻はすごいんだからね、もっといっぱいほめてくれてもいいんだからね」

 きゃわぃぃいっ!
 意味はよくわからないけど、僕はワンワの頭を優しくなでる。あぁー、癒される。ただ一つ身体に違和感が――正直、昨日とは比べものにならないくらい疲労感がすごい。
 ……スキルを使った影響だろうか? 
 となると、昨日の段階では発動していなかったのか? 明確な発動条件はなんだ? 色々な疑問が脳内に浮かぶ。この『天候操作』はまだまだ謎が多く、全てを知るには時間がかかりそうだ。

「晴人、大丈夫?!」
「……っ。ごめん、ワンワ。重かったら、地面に置いてくれていいから」

 貧血のような立ち眩み、倒れ込む寸前ワンワが咄嗟に僕を支えてくれた。

「ワンワは力持ちだから気にしないで。スキルの発動に慣れていないからかな?」
「す、スキルって慣れとかいるの?」
「体力、技術みたいなもので積み重ねが必要なんだよ。でもここまで疲労するのは珍しい方だと思う」

 体力がいるとしたら非常に大問題である。
 どちらかというと――いや、どちらかもくそも僕はバリバリのインドア派だ。小中高はもちろん、現在も含め運動とは無縁の世界に生きてきた。
 まさか、その代償がこんな形で押し寄せて来るとは――、

「……っ! ワン、天音さんをゆっくり城内に運んでください」
「晴人、しっかりしてっ!」
「こらっ! ゆっくりと言ったでしょう!」
「ワンワにお任せっ!」

 ――激しい振動と共に、僕の意識は暗闇に飲み込まれていった。
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