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第14話 魔王様と特訓
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◆ フェルティ歴345年、2月28日 ◆
特訓初日。
僕は魔王城内に設置されてある転移陣、ワンニャン王国内の色々なエリアに一瞬にして飛べるという便利な装置にて、比較的雪の量が控えめだという第三エリアに移動していた。
スキルを難なく使いこなすため、まずは基本的なステータスを上げる。
それがニャンニャのいう特訓、僕に課せられた内容であった。第三エリアに赴く際、コットンによる加護魔法も忘れずに準備は万端である。
そして、特訓のために付き添いしてくれる教官はというと、
「ワンワは晴人の体力面を鍛えていく係に任命されました!」
ワンワが両手を腰に当て、胸を張りながら言う。
それぞれの得意分野によって教官を変更していくようで、今日の担当はワンワであった。ふんふんと鼻息荒く、やる気に満ち溢れた顔をしている。
僕は初日に確認したワンワのステータスを思い出す。
あの振り切った体力面から察するに、どう考えてもこの分野はワンワだよな。不安があるとすればあまりに僕とはかけ離れた数値のため、ワンワの要望に対してついていけるかどうかが問題である。
「ワンワのことは特訓の間、ワンワ先生と呼んでください!」
「ワンワ先生!」
「はい! 晴人くん、なにか質問でしょうか?!」
「呼んでみただけです!」
「元気でよろしいっ! 今日の特訓はワンワの後に付いて来るだけです!」
「ワンワ先生、承知しました!」
「じゃあ、行、く、よ~っ!」
ズバゴォン! と。
耳を劈くような爆音が周囲に鳴り響いた。不安は大的中――ワンワの姿が一瞬にして掻き消えた。
……ロケットかなにかかな?
ワンワはどこに行ってしまったのだろう。開幕スタート音意外に認識できたものがなに一つない状況である。僕の現在地は右も左もわからないエリア、実はサプライズでサバイバル演習なんてことはないよね?
僕は一度、デバイスを確認してみる。
デバイスに表示されるマップは僕自身が訪れたことのある場所が記憶されるようで、魔王城は僕の現在地から東に十キロほど離れた先とあった。だが、転移陣によりショートカットをしたので道中は空白となっている。
現状、手掛かりがあるとすればワンワの足あと、靴先の向きを信じるくらいだろう。問題は転移陣は一方通行とのことで、最悪の場合かなり環境も含めてハードではあるが、徒歩で魔王城まで戻る選択肢も視野に入れつつ僕はワンワが向かった先? に向けて――一歩、また一歩と前に進んで行く。
そして、歩くこと十分ほど、
「……あれ、どう見ても関わったらまずいよな」
早速とばかりに、僕は未開の地にて窮地に陥っていた。
ここは僕の世界とはなにもかもが違う異世界、話の通じない生物がいてもなんら不思議ではない。
いわゆる、モンスターみたいなものだろう。
全長三メートルはあるであろう大きく禍々しさのある体躯、獣じみた瞳に四足歩行、ゴリラと牛を足したような容貌のなにかが僕の行く先で闊歩していた。
幸い、まだ気付かれていない。
僕は近くの岩場に身を隠す――ゴリラ牛さん(仮称)を見た瞬間、ちょっとお友達にはなれないなと瞬時に判断できた。
気付かれぬよう、僕はデバイスをゴリラ牛さんに向ける。
名前 ゴンザレス・ドドコンゴ
種別 獣幻種
性能 HP 1200(生命力) MP 0(魔力)
STR 600 DEF 500 INT 0
スキル 瞬飛(Lv.5)――恐ろしく速い一足飛びが可能。
SP 硬拳(5/10)
僕とは桁外れなステータスである。
いや、普通に考えたら当たり前か――なんせ、ここは魔王城周辺なのだ。周囲にいる生物だってその環境に見合った力を備えているのは当然だろう。
このまま、ゴンザレスさんが去ってくれるまで息を潜めのが得策か――、
「こふーこふー」
――ふと、頭上に生温かい風が当たる。
今は絶賛頭の防御がないに等しいため敏感肌とでもいおうか、頭になにか違和感があるとすぐに察知できる。
……いる、確実にいる。
さあ天音晴人、運命の時だ。自身を鼓舞しながら僕は生温かい風の吹く方向を見上げ、
「こ、こんにちは、言葉とか通じます?」
「通じたりする」
「通じるの?!」
「かもしれない」
いや、なにかがおかしい。
目の焦点も合っていないし、会話ができているという感覚が全くない。
「エサはちぎって食べるもの」
瞬間、岩が粉々に砕け散る。
その衝撃に吹き飛ばされ――僕は地面を二度、三度と勢いよく転がった。ゴンザレスさんが攻撃を仕掛けてきたことは間違いないだろう。
僕はゴンザレスさんからなんとか逃げねばと立ち上がるものの、
「……っ」
追い打ち――直撃だった。
大きな腕が僕の視界を埋め尽くし、その強大な一撃が僕をさらに後方へと吹き飛ばす。ボーリングの玉のよう、周囲の木々をなぎ倒してようやく勢いがとまる。
……だが、死んでいなかった。
むしろ、痛みすらない――最初はあまりの激痛に脳が麻痺ったのかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。
何故なら、僕は無傷だからだ。
なにがどうなっている? さすがに、ここまで攻撃をくらって僕のステータスで耐えられるわけがない。
僕は自身の状態を確認するべくデバイスを開き、
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*300) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(1/1)
なんだ? この花びらマークの付いた数値は?
と、逡巡する間もなく豪快に殴り飛ばされる。巨体に似合わぬ猛スピード、またしても痛みはない。だが、目に見える変化はデバイス内にあった。
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*200) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(1/1)
もしかして、コットンの加護魔法?!
だとすると、この花びらマークの数値が100減ったから――ゴンザレスさんの一撃につきダメージが100、攻撃を三発くらったら終わりという計算になるのか。
僕は倒れたままの状態、大の字にて空を見上げる。
まさか、耐性以外にも色々付与してくれていたとは――この場にはいぬコットンに感謝するが、攻撃をただ無防備にくらい続けているだけでは、コットンがしてくれたことを台無しにしてしまう。
少しずつ、ゴンザレスさんの足音が近付いて来る。
僕が動かなくなったので、もう抵抗する力はないと考えているのだろう。変に動くとさらなる追い打ちがきそうなので、今は少しでも時間を稼ぐためじっとする。
このまま、強制帰還となることだけは――絶対に避けなくてはいけない。この呪縛を必ず解くといった約束、心残りがあるまま僕の異世界履修を終わらせるわけにはいかないのだ。
仮に強制帰還となったとして留年、また来年に改めてやり直したとしよう。再度《フェルティフェアリ》に来れるとは限らない、進級条件のレベルを落とされて別の異世界に転送される可能性の方が遥かに高いのだ。もう二度と魔王城の皆には会えないかもしれない。
……なにか手はないだろうか?
一縷の望みに賭けるとすれば、先日覚えたばかりのSP『天撃』だが――発動の仕方、効果すらも全て不明である。スキルだけでなくSPについても勉強しておけばよかったと今さらながらに後悔する。
だけど、やってみるしかない。
僕は確実性を高めるため――右手を天にかざす。ゴンザレスさんを倒すなんて大それたことは考えず、ただ少しでも生き残る確率を上げるために。
そう、派手になにか起きればそれでいい。
「天、撃ぃいいいいいいっ!」
瞬間、地面が揺れるほどの衝撃音が鳴り響く。
僕の右手から稲光が発生し、頭上にある雲が真っ二つに割れた。
特訓初日。
僕は魔王城内に設置されてある転移陣、ワンニャン王国内の色々なエリアに一瞬にして飛べるという便利な装置にて、比較的雪の量が控えめだという第三エリアに移動していた。
スキルを難なく使いこなすため、まずは基本的なステータスを上げる。
それがニャンニャのいう特訓、僕に課せられた内容であった。第三エリアに赴く際、コットンによる加護魔法も忘れずに準備は万端である。
そして、特訓のために付き添いしてくれる教官はというと、
「ワンワは晴人の体力面を鍛えていく係に任命されました!」
ワンワが両手を腰に当て、胸を張りながら言う。
それぞれの得意分野によって教官を変更していくようで、今日の担当はワンワであった。ふんふんと鼻息荒く、やる気に満ち溢れた顔をしている。
僕は初日に確認したワンワのステータスを思い出す。
あの振り切った体力面から察するに、どう考えてもこの分野はワンワだよな。不安があるとすればあまりに僕とはかけ離れた数値のため、ワンワの要望に対してついていけるかどうかが問題である。
「ワンワのことは特訓の間、ワンワ先生と呼んでください!」
「ワンワ先生!」
「はい! 晴人くん、なにか質問でしょうか?!」
「呼んでみただけです!」
「元気でよろしいっ! 今日の特訓はワンワの後に付いて来るだけです!」
「ワンワ先生、承知しました!」
「じゃあ、行、く、よ~っ!」
ズバゴォン! と。
耳を劈くような爆音が周囲に鳴り響いた。不安は大的中――ワンワの姿が一瞬にして掻き消えた。
……ロケットかなにかかな?
ワンワはどこに行ってしまったのだろう。開幕スタート音意外に認識できたものがなに一つない状況である。僕の現在地は右も左もわからないエリア、実はサプライズでサバイバル演習なんてことはないよね?
僕は一度、デバイスを確認してみる。
デバイスに表示されるマップは僕自身が訪れたことのある場所が記憶されるようで、魔王城は僕の現在地から東に十キロほど離れた先とあった。だが、転移陣によりショートカットをしたので道中は空白となっている。
現状、手掛かりがあるとすればワンワの足あと、靴先の向きを信じるくらいだろう。問題は転移陣は一方通行とのことで、最悪の場合かなり環境も含めてハードではあるが、徒歩で魔王城まで戻る選択肢も視野に入れつつ僕はワンワが向かった先? に向けて――一歩、また一歩と前に進んで行く。
そして、歩くこと十分ほど、
「……あれ、どう見ても関わったらまずいよな」
早速とばかりに、僕は未開の地にて窮地に陥っていた。
ここは僕の世界とはなにもかもが違う異世界、話の通じない生物がいてもなんら不思議ではない。
いわゆる、モンスターみたいなものだろう。
全長三メートルはあるであろう大きく禍々しさのある体躯、獣じみた瞳に四足歩行、ゴリラと牛を足したような容貌のなにかが僕の行く先で闊歩していた。
幸い、まだ気付かれていない。
僕は近くの岩場に身を隠す――ゴリラ牛さん(仮称)を見た瞬間、ちょっとお友達にはなれないなと瞬時に判断できた。
気付かれぬよう、僕はデバイスをゴリラ牛さんに向ける。
名前 ゴンザレス・ドドコンゴ
種別 獣幻種
性能 HP 1200(生命力) MP 0(魔力)
STR 600 DEF 500 INT 0
スキル 瞬飛(Lv.5)――恐ろしく速い一足飛びが可能。
SP 硬拳(5/10)
僕とは桁外れなステータスである。
いや、普通に考えたら当たり前か――なんせ、ここは魔王城周辺なのだ。周囲にいる生物だってその環境に見合った力を備えているのは当然だろう。
このまま、ゴンザレスさんが去ってくれるまで息を潜めのが得策か――、
「こふーこふー」
――ふと、頭上に生温かい風が当たる。
今は絶賛頭の防御がないに等しいため敏感肌とでもいおうか、頭になにか違和感があるとすぐに察知できる。
……いる、確実にいる。
さあ天音晴人、運命の時だ。自身を鼓舞しながら僕は生温かい風の吹く方向を見上げ、
「こ、こんにちは、言葉とか通じます?」
「通じたりする」
「通じるの?!」
「かもしれない」
いや、なにかがおかしい。
目の焦点も合っていないし、会話ができているという感覚が全くない。
「エサはちぎって食べるもの」
瞬間、岩が粉々に砕け散る。
その衝撃に吹き飛ばされ――僕は地面を二度、三度と勢いよく転がった。ゴンザレスさんが攻撃を仕掛けてきたことは間違いないだろう。
僕はゴンザレスさんからなんとか逃げねばと立ち上がるものの、
「……っ」
追い打ち――直撃だった。
大きな腕が僕の視界を埋め尽くし、その強大な一撃が僕をさらに後方へと吹き飛ばす。ボーリングの玉のよう、周囲の木々をなぎ倒してようやく勢いがとまる。
……だが、死んでいなかった。
むしろ、痛みすらない――最初はあまりの激痛に脳が麻痺ったのかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。
何故なら、僕は無傷だからだ。
なにがどうなっている? さすがに、ここまで攻撃をくらって僕のステータスで耐えられるわけがない。
僕は自身の状態を確認するべくデバイスを開き、
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*300) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(1/1)
なんだ? この花びらマークの付いた数値は?
と、逡巡する間もなく豪快に殴り飛ばされる。巨体に似合わぬ猛スピード、またしても痛みはない。だが、目に見える変化はデバイス内にあった。
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*200) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(1/1)
もしかして、コットンの加護魔法?!
だとすると、この花びらマークの数値が100減ったから――ゴンザレスさんの一撃につきダメージが100、攻撃を三発くらったら終わりという計算になるのか。
僕は倒れたままの状態、大の字にて空を見上げる。
まさか、耐性以外にも色々付与してくれていたとは――この場にはいぬコットンに感謝するが、攻撃をただ無防備にくらい続けているだけでは、コットンがしてくれたことを台無しにしてしまう。
少しずつ、ゴンザレスさんの足音が近付いて来る。
僕が動かなくなったので、もう抵抗する力はないと考えているのだろう。変に動くとさらなる追い打ちがきそうなので、今は少しでも時間を稼ぐためじっとする。
このまま、強制帰還となることだけは――絶対に避けなくてはいけない。この呪縛を必ず解くといった約束、心残りがあるまま僕の異世界履修を終わらせるわけにはいかないのだ。
仮に強制帰還となったとして留年、また来年に改めてやり直したとしよう。再度《フェルティフェアリ》に来れるとは限らない、進級条件のレベルを落とされて別の異世界に転送される可能性の方が遥かに高いのだ。もう二度と魔王城の皆には会えないかもしれない。
……なにか手はないだろうか?
一縷の望みに賭けるとすれば、先日覚えたばかりのSP『天撃』だが――発動の仕方、効果すらも全て不明である。スキルだけでなくSPについても勉強しておけばよかったと今さらながらに後悔する。
だけど、やってみるしかない。
僕は確実性を高めるため――右手を天にかざす。ゴンザレスさんを倒すなんて大それたことは考えず、ただ少しでも生き残る確率を上げるために。
そう、派手になにか起きればそれでいい。
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【作者より、感謝を込めて】
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そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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