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第15話 魔王様はなんでも壊せる
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初手は僕の思惑通りとなった。
天撃という名称から察するに攻撃的なSPであると信じてはいたが――あの巨体に見合わぬ素早さを持つゴンザレスさんに当てる、という確率に願うよりは別の意味で使用する方が遥かに期待できると考えた。
いわゆる、救難信号である。
これだけド派手にぶっ放したのだ、誰かが気付く可能性は非常に高いはず――だが、僕は目の前の光景を見て愕然とする。
ゴンザレスさんが一体、二体、三体と――わらわらと集まりだしたのだ。
僕を警戒するよう距離を取りながら円形状に囲み始め、いつの間にかその数なんと数十体と数えるのを放棄するほどである。
……ふっ、どうしてこうなった。
ウサギを狩るのにも全力を尽くすなんてレベルじゃないぜ、こんなにも総動員しちゃって僕を中心にダンスパーティーでも始めるつもりなのか?
とりあえず、僕は立ち上がり――両手を構えながら威嚇のポーズを取る。
「ひょぉおおっ! かかって来るなら来んしゃいやぁあああっ!」
ただのやけくそである。
天撃も打ち止めとなりなにもできない状態なのだが、少しでもハッタリになればそれでいいと思った。
「「……」」
両者、硬直したまま数秒の沈黙が訪れる。
作戦会議でもし始めたのか、ゴンザレスさんが仲間内でぼそぼそと話し出し、
「……んっ? なんだ?」
ピシッと乾いた音と共に、僕の身体になにかが当たった。
まるで、小石が当たったかのような感覚――それは一発、二発、と連発してどんどん数が増えていく。
ゴンザレスさんたちが遠くから――僕に向けて拳を振るっていた。
ざわりと、僕はその行動にいやな予感がしてデバイスを開き、
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*165) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(0/1)
「……HPが1ずつ減ってる、だと?」
こ、こいつら拳圧だけで僕を殺る気なのか。
あの巨体に反してどれだけ慎重なんだと絶句するが――周囲を囲まれている以上、僕にはどうすることもできない。強行突破などしようものなら、直で一撃をくらってしまい瞬時にお陀仏となるだろう。
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*85) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(0/1)
か、完全に詰んだ。
僕は無情にも減っていくHPを眺めることしかできず――魔王城での思い出が走馬灯のよう脳内に流れていく。
HP5(*30) MP6
HP5(*20) MP6
HP5(*10) MP6
ニャンニャ、ワンワ、皆、頑張ってみたんだけど、ごめん――、
「晴人様、ご無事ですか?」
――僕はその声にデバイスから顔を上げる。
僕を案ずる優しい声音、女神が舞い降りたのかと錯覚するほどであった。
「コットンんんんんんんっ」
「ぴぃゃあ! きゅ、急に、抱き付かないでください。な、泣かないでください」
「コットンんんんんんんっ」
「ぴょぇん! も、もらい泣きしちゃうので、落ち着いてほしいです」
「はふぅー、はふぅー」
「い、息遣いが非常に怖いのです。ゆ、ゆっくり深呼吸、してください。わぅ、私の後ろに隠れていてください」
僕は身を縮こまらせ、言われた通りコットンの背中に隠れる。
守らねばと感じさせる幼い見た目の女の子に、逆に守られるというなんとも凸凹な状況であった。
コットンが両手を頭上に掲げ、
「バリア・リング」
結晶のような白い膜が僕とコットンの周囲に出現する。
防御をする結界みたいなものを張り巡らせたのだろう、ゴンザレスさんたちの攻撃は僕たちに届く前に阻まれているらしく――ピタッと、僕への衝撃がやんだ。
コットンは僕の方に振り返り、優しく微笑みながら、
「お、お怪我はないようで、安心しました」
「本当にありがとう、コットンは命の恩人だよ。ただ気のせいかな、コットンが一瞬で僕の目の前に現れたように感じたけど――」
気配もなく、なんの前触れもなくである。
「は、はい。念のため、晴人様の身に危険が迫った時――晴人様を中心とした座標に、転移陣を敷く加護を、付与していました」
コットン曰く、付与したHPの急激な減少がトリガーになるとのことだった。
「――そっか、じゃあ僕がだした音を聞いて来たんじゃないのか」
「お、音、ですか? す、すいません、それについては、わぅ、私は存じません」
「いやいいんだ、結果オーライだよ」
コットンのおかげで、なんの危険もなくほのぼのと会話できる状態になったのだ。
そう、なんの危険もなく――どごどごどぉん、どごどごどぉおん。この会話の間、終始太鼓を叩くような音が響き渡っていた。
気付かないふりができるほど、僕は神経が図太いわけでもなく、
「……ところでコットンさん、この結界って壊れたりしませんよね?」
結界の周りをゴンザレスさんたちが埋め尽くし――力の限り殴り続けているのだ。
「だ、大丈夫です。この程度の攻撃、わぅ、私の結界に傷一つ付けることは、できません」
ただ、とコットンは付け加え、
「わぅ、私は、攻撃魔法が一つも、使えません。こ、こちらから、なにかすることは、不可能です」
「まあ無理に倒すというより、無難に逃げる方がいいよね。コットンがここに来た時と同様に転移陣でどこか離れたところに――」
「ご、ごめんなさい。は、晴人様に付与した加護による転移は、緊急時のみの一方通行になっていまして。け、結界も移動時には、一度解かなくてはなので、今は危険です」
「――なんとぉ!」
サファリパークで車が故障した時ってこんな感じなのだろうか。
しかし、先ほどより遥かに状況は好転した。コットンが自信を持って大丈夫と言う限り、この結界に心配はないだろう。
慌てずとも、時間が経てばゴンザレスさんも諦めて帰る――はず。
せっかくだし、今はコットンと優雅な時間を過ごすことにする。僕はゴンザレスさんが暴れる音をBGMにゆったりと寝転び、
「そういえば、コットンって見た目は幼いけど――いくつくらいなの?」
「わぅ、私の、年齢ですか?」
聞いた瞬間、僕はしまったと気付く。
ここは異世界、見た目に反して実際の年齢は遥かに上の可能性がある。加えて、年齢を聞くのは失礼なことかもしれない。
僕の世界では小さい子にいくつか聞くのはなんの問題もないが、少しアダルト層になると色々な問題が絡み合い相手との心理戦が突如始まることも多々ある。
先日、ニャンニャの角を触った際に――怒られた記憶が蘇る。
まだ、僕にはこの世界《フェルティフェアリ》での一般常識は全くない。なにが駄目でなにがよいのか、付け加えるならばここは魔王城の領域、この世界の根本的な常識をさらに超えている可能性だってある。都度都度、ニャンニャにもはっきり言葉にしすぎだと注意されているが――発言を今さら撤回することもできず、僕はコットンの返事をじっと待つ。正直、素直に気にはなる。
コットンは逡巡するよう人差し指を頬に当てながら、
「こ、コート族はとても長生きな種族でして、5年の歳月を一とし、年齢を重ねていく風習となっています。私の生まれは、フェルティ歴2――」
ズバゴォンっ!
「――な、なので、わぅ、私はそこから逆算した年齢と、なります」
「ごめん。もう一回いいかな?」
「◇〇□××、です」
ズバゴォオオオオンっっ!
唐突な爆音により大事な部分だけ全く聞こえなかった。
音のする方に視線を移すと、ゴンザレスさんが四方八方に吹き飛んでいた。その爆音発生源の中心には見知った人物が――、
「晴人、晴人! 大丈夫?!」
「ワンワ! 戻って来てくれてよかっ、ぶわっ!」
僕はワンワに近寄ろうとし阻まれる。
おっと、結界があるからワンワには触れなかっ――めきめきと、なにかの砕ける音が鳴り響き、なんの障害もないかのごとくワンワが僕の胸に飛び付いて来た。
「晴人!」
「結界張ってなかったっけ?」
僕の問い掛け、コットンはゆっくりと首を縦に、
「ワン魔王様は、全てを破壊する力を持っています。わぅ、私の結界は、ワン魔王様には通用しません。ぉ、お豆腐くらいの感覚かと、思います」
あのビクともしなかった結界が――ワンワからすればお豆腐、だと?
「……晴人、ボロボロになっちゃってる。こいつらが晴人をやったの?」
「いやまあやられたことはやられたけど、コットンのおかげで羽織っていたローブ以外は特になにも――」
「あいつら全員殺す」
「――ワンワさん?」
「皆殺しにする」
「ぅ、うん」
目が超怖い。
ワンワがバキバキと準備運動とばかりに手の関節を鳴らす。これから始まる惨劇を予測してかコットンが前に立ち僕をかばうよう両腕を広げ、
「は、晴人様! わぅ、私の後ろに隠れてくださいっ! バリア・リン――」
「ガ、アアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアッ!」
ワンワが声高らかに吠えた。
ワンワを中心に大気が振動――スパァン! と、衝撃波により僕の上半身のローブが木っ端微塵に吹き飛ぶ。二度目ということもあってか僕はなにが起きるかを瞬時に理解、極めて冷静にコットンを凝視する。
「――ぴぃ、いやぁああああぁっ! み、見ないでぇ、見ないでくださぃい」
な、なんてプリティーなお尻だ。
コットンが盾となった分、僕は上半身のみで助かった。だが、その衝撃波を全身に浴びたコットンはといえばもう生まれたての状態――つまり全裸である。
コットンは潤んだ瞳で全身を両腕で覆いながら、
「……ぐすん。は、晴人様」
「まるで桃だね! 可憐で素敵なフォルムだよっ!」
「ぴょぇん! か、感想を、求めたわけではありません。わぅ、私を、私を見ないで、くださぃい」
「くぅうっ!」
僕は歯噛みしながらコットンの要望に応える。
視線を逸らすと、ふと顔に水滴が当たった。なんだろう? と拭ってみると――手が真っ赤に染まる。上を見るとゴンザレスさんたちが四方八方紙くずのごとく空を舞っていた。どうやら、ゴンザレスさんたちの血しぶきのようである。
ワンワが荒狂う暴風かのごとく――殴り、千切り、吹っ飛ばしていた。
何体いようがおかまいなしに、圧倒的なまでの力の差が素人目にも理解できる。まさに地獄絵図、天国と地獄の境界線って紙一重なんだな――と、コットンの恥じらう姿をチラ見しながら僕はある一種の悟りを開くのだった。
天撃という名称から察するに攻撃的なSPであると信じてはいたが――あの巨体に見合わぬ素早さを持つゴンザレスさんに当てる、という確率に願うよりは別の意味で使用する方が遥かに期待できると考えた。
いわゆる、救難信号である。
これだけド派手にぶっ放したのだ、誰かが気付く可能性は非常に高いはず――だが、僕は目の前の光景を見て愕然とする。
ゴンザレスさんが一体、二体、三体と――わらわらと集まりだしたのだ。
僕を警戒するよう距離を取りながら円形状に囲み始め、いつの間にかその数なんと数十体と数えるのを放棄するほどである。
……ふっ、どうしてこうなった。
ウサギを狩るのにも全力を尽くすなんてレベルじゃないぜ、こんなにも総動員しちゃって僕を中心にダンスパーティーでも始めるつもりなのか?
とりあえず、僕は立ち上がり――両手を構えながら威嚇のポーズを取る。
「ひょぉおおっ! かかって来るなら来んしゃいやぁあああっ!」
ただのやけくそである。
天撃も打ち止めとなりなにもできない状態なのだが、少しでもハッタリになればそれでいいと思った。
「「……」」
両者、硬直したまま数秒の沈黙が訪れる。
作戦会議でもし始めたのか、ゴンザレスさんが仲間内でぼそぼそと話し出し、
「……んっ? なんだ?」
ピシッと乾いた音と共に、僕の身体になにかが当たった。
まるで、小石が当たったかのような感覚――それは一発、二発、と連発してどんどん数が増えていく。
ゴンザレスさんたちが遠くから――僕に向けて拳を振るっていた。
ざわりと、僕はその行動にいやな予感がしてデバイスを開き、
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*165) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(0/1)
「……HPが1ずつ減ってる、だと?」
こ、こいつら拳圧だけで僕を殺る気なのか。
あの巨体に反してどれだけ慎重なんだと絶句するが――周囲を囲まれている以上、僕にはどうすることもできない。強行突破などしようものなら、直で一撃をくらってしまい瞬時にお陀仏となるだろう。
名前 天音晴人
職業 大学二年生
性能 HP5(*85) MP6
STR2 DEF8(*500) INT111
耐性 (*氷)
スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
SP 天撃(0/1)
か、完全に詰んだ。
僕は無情にも減っていくHPを眺めることしかできず――魔王城での思い出が走馬灯のよう脳内に流れていく。
HP5(*30) MP6
HP5(*20) MP6
HP5(*10) MP6
ニャンニャ、ワンワ、皆、頑張ってみたんだけど、ごめん――、
「晴人様、ご無事ですか?」
――僕はその声にデバイスから顔を上げる。
僕を案ずる優しい声音、女神が舞い降りたのかと錯覚するほどであった。
「コットンんんんんんんっ」
「ぴぃゃあ! きゅ、急に、抱き付かないでください。な、泣かないでください」
「コットンんんんんんんっ」
「ぴょぇん! も、もらい泣きしちゃうので、落ち着いてほしいです」
「はふぅー、はふぅー」
「い、息遣いが非常に怖いのです。ゆ、ゆっくり深呼吸、してください。わぅ、私の後ろに隠れていてください」
僕は身を縮こまらせ、言われた通りコットンの背中に隠れる。
守らねばと感じさせる幼い見た目の女の子に、逆に守られるというなんとも凸凹な状況であった。
コットンが両手を頭上に掲げ、
「バリア・リング」
結晶のような白い膜が僕とコットンの周囲に出現する。
防御をする結界みたいなものを張り巡らせたのだろう、ゴンザレスさんたちの攻撃は僕たちに届く前に阻まれているらしく――ピタッと、僕への衝撃がやんだ。
コットンは僕の方に振り返り、優しく微笑みながら、
「お、お怪我はないようで、安心しました」
「本当にありがとう、コットンは命の恩人だよ。ただ気のせいかな、コットンが一瞬で僕の目の前に現れたように感じたけど――」
気配もなく、なんの前触れもなくである。
「は、はい。念のため、晴人様の身に危険が迫った時――晴人様を中心とした座標に、転移陣を敷く加護を、付与していました」
コットン曰く、付与したHPの急激な減少がトリガーになるとのことだった。
「――そっか、じゃあ僕がだした音を聞いて来たんじゃないのか」
「お、音、ですか? す、すいません、それについては、わぅ、私は存じません」
「いやいいんだ、結果オーライだよ」
コットンのおかげで、なんの危険もなくほのぼのと会話できる状態になったのだ。
そう、なんの危険もなく――どごどごどぉん、どごどごどぉおん。この会話の間、終始太鼓を叩くような音が響き渡っていた。
気付かないふりができるほど、僕は神経が図太いわけでもなく、
「……ところでコットンさん、この結界って壊れたりしませんよね?」
結界の周りをゴンザレスさんたちが埋め尽くし――力の限り殴り続けているのだ。
「だ、大丈夫です。この程度の攻撃、わぅ、私の結界に傷一つ付けることは、できません」
ただ、とコットンは付け加え、
「わぅ、私は、攻撃魔法が一つも、使えません。こ、こちらから、なにかすることは、不可能です」
「まあ無理に倒すというより、無難に逃げる方がいいよね。コットンがここに来た時と同様に転移陣でどこか離れたところに――」
「ご、ごめんなさい。は、晴人様に付与した加護による転移は、緊急時のみの一方通行になっていまして。け、結界も移動時には、一度解かなくてはなので、今は危険です」
「――なんとぉ!」
サファリパークで車が故障した時ってこんな感じなのだろうか。
しかし、先ほどより遥かに状況は好転した。コットンが自信を持って大丈夫と言う限り、この結界に心配はないだろう。
慌てずとも、時間が経てばゴンザレスさんも諦めて帰る――はず。
せっかくだし、今はコットンと優雅な時間を過ごすことにする。僕はゴンザレスさんが暴れる音をBGMにゆったりと寝転び、
「そういえば、コットンって見た目は幼いけど――いくつくらいなの?」
「わぅ、私の、年齢ですか?」
聞いた瞬間、僕はしまったと気付く。
ここは異世界、見た目に反して実際の年齢は遥かに上の可能性がある。加えて、年齢を聞くのは失礼なことかもしれない。
僕の世界では小さい子にいくつか聞くのはなんの問題もないが、少しアダルト層になると色々な問題が絡み合い相手との心理戦が突如始まることも多々ある。
先日、ニャンニャの角を触った際に――怒られた記憶が蘇る。
まだ、僕にはこの世界《フェルティフェアリ》での一般常識は全くない。なにが駄目でなにがよいのか、付け加えるならばここは魔王城の領域、この世界の根本的な常識をさらに超えている可能性だってある。都度都度、ニャンニャにもはっきり言葉にしすぎだと注意されているが――発言を今さら撤回することもできず、僕はコットンの返事をじっと待つ。正直、素直に気にはなる。
コットンは逡巡するよう人差し指を頬に当てながら、
「こ、コート族はとても長生きな種族でして、5年の歳月を一とし、年齢を重ねていく風習となっています。私の生まれは、フェルティ歴2――」
ズバゴォンっ!
「――な、なので、わぅ、私はそこから逆算した年齢と、なります」
「ごめん。もう一回いいかな?」
「◇〇□××、です」
ズバゴォオオオオンっっ!
唐突な爆音により大事な部分だけ全く聞こえなかった。
音のする方に視線を移すと、ゴンザレスさんが四方八方に吹き飛んでいた。その爆音発生源の中心には見知った人物が――、
「晴人、晴人! 大丈夫?!」
「ワンワ! 戻って来てくれてよかっ、ぶわっ!」
僕はワンワに近寄ろうとし阻まれる。
おっと、結界があるからワンワには触れなかっ――めきめきと、なにかの砕ける音が鳴り響き、なんの障害もないかのごとくワンワが僕の胸に飛び付いて来た。
「晴人!」
「結界張ってなかったっけ?」
僕の問い掛け、コットンはゆっくりと首を縦に、
「ワン魔王様は、全てを破壊する力を持っています。わぅ、私の結界は、ワン魔王様には通用しません。ぉ、お豆腐くらいの感覚かと、思います」
あのビクともしなかった結界が――ワンワからすればお豆腐、だと?
「……晴人、ボロボロになっちゃってる。こいつらが晴人をやったの?」
「いやまあやられたことはやられたけど、コットンのおかげで羽織っていたローブ以外は特になにも――」
「あいつら全員殺す」
「――ワンワさん?」
「皆殺しにする」
「ぅ、うん」
目が超怖い。
ワンワがバキバキと準備運動とばかりに手の関節を鳴らす。これから始まる惨劇を予測してかコットンが前に立ち僕をかばうよう両腕を広げ、
「は、晴人様! わぅ、私の後ろに隠れてくださいっ! バリア・リン――」
「ガ、アアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアッ!」
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ワンワを中心に大気が振動――スパァン! と、衝撃波により僕の上半身のローブが木っ端微塵に吹き飛ぶ。二度目ということもあってか僕はなにが起きるかを瞬時に理解、極めて冷静にコットンを凝視する。
「――ぴぃ、いやぁああああぁっ! み、見ないでぇ、見ないでくださぃい」
な、なんてプリティーなお尻だ。
コットンが盾となった分、僕は上半身のみで助かった。だが、その衝撃波を全身に浴びたコットンはといえばもう生まれたての状態――つまり全裸である。
コットンは潤んだ瞳で全身を両腕で覆いながら、
「……ぐすん。は、晴人様」
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「ぴょぇん! か、感想を、求めたわけではありません。わぅ、私を、私を見ないで、くださぃい」
「くぅうっ!」
僕は歯噛みしながらコットンの要望に応える。
視線を逸らすと、ふと顔に水滴が当たった。なんだろう? と拭ってみると――手が真っ赤に染まる。上を見るとゴンザレスさんたちが四方八方紙くずのごとく空を舞っていた。どうやら、ゴンザレスさんたちの血しぶきのようである。
ワンワが荒狂う暴風かのごとく――殴り、千切り、吹っ飛ばしていた。
何体いようがおかまいなしに、圧倒的なまでの力の差が素人目にも理解できる。まさに地獄絵図、天国と地獄の境界線って紙一重なんだな――と、コットンの恥じらう姿をチラ見しながら僕はある一種の悟りを開くのだった。
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※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
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