魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第16話 魔王様はリストラされる

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「……またとんでもない姿で帰って来ましたね。なにがあったのですか?」

 ニャンニャが僕を見て唖然とした顔で言う。
 上半身のみ裸という実にワイルドでジャングルの王者みたいな格好である。ニャンニャの反応も致し方ないことだろう。
 僕はかくかくしかじかと、コットンの桃尻も含めて事情を説明する。
 ニャンニャはその話を聞き「だからコットンは泣いていたのですね」と、今日一日のことを概ね理解してくれたようだ。

「念のためコットンに緊急魔法も付与してもらっていてよかったです。捕捉ですが、ワンのSP『咆哮』は敵と認識したものを怯ませる効果と共に武装を解かせる効果もあります。後者に関しては敵味方関係ありませんので、コットンには激しく悪いことをしましたね」

 なんて素敵――いや、恐ろしいSPなのだろう。

「ワン、あれほど先走ってはダメと言ったでしょう」

 僕の後ろに隠れていたワンワがびくりと震える。
 くぅん、と涙目で――怒られてしょんぼりした犬のようである。なんだか無性に頭をなでたい衝動に駆られる。

「……ご、ごめんなさい」
「ニャンニャ、ワンワは――ニャンニャ様、ワンワは悪気があったわけじゃないですよ。心配して戻って来てくれましたから」

 普通に喋っていいのは二人きりの時だけだったか――僕は慌てて喋り口調を正す。

「……ワン、そうなのですか?」
「う、うん! あの雷を空に向かって飛ばしたの晴人だよね? SOSだと思ってすぐに戻ったんだっ!」

 はぁ、とニャンニャはため息を交えつつ、

「どうして戻る必要があるのです? 私はあのエリアは危険なので天音さんのそばから離れないように、と言いましたが?」

 うーむ、墓穴を掘ってしまった。
 ニャンニャがワンワをぎろりと睨む。そのプレッシャーに圧されてか、ワンワはあうあうと口を動かすばかりで言葉がでない。こうして二人を近くで交互に見ると、本当に性格の違いがハッキリとわかる。
 ニャンニャはビシりッとワンワに指を差し、

「ワンは天音さんの教官係からはずれてもらいます」
「えぇっ?! やだやだやだっ!」
「駄々をこねても駄目です。さすがにずっとはかわいそうなので――しばらくの間だけにしましょう。その間ワンは反省するように」
「……うぅ、晴人」

 助けを求めるようワンワが僕をじっと見やる。
 だが、正論を突きつけるニャンニャにとても勝てる術は思い付かず――僕はゆっくりと首を縦に振る。
 ガーンなんて音が聞こえそうなくらいに、ワンワはがっくりと地面に膝をつくのだった。


 ◆ フェルティ歴345年、3月3日 ◆


 僕は転移陣を使用し、第三エリアへと移動していた。異なる点といえば僕の担当が変更したということだろう。
 んんー、とリューナは両腕を上げて伸びをしながら、

「というわけで、代理で自分が見ることになりました。なにか質問とかあるっすか? あるなら遠慮せず言ってください。いやー、寒いしだるいわ超絶めんどくさいっすね」
「後半本音だだ漏れ部分はスルーするとして、コットンが僕と話してくれないんだ。具体的にどうすればいいかな? いつもの加護魔法を付与する最中もそっぽを向いて視線すら合わせてくれなくて」
「あやー、質問じゃなく相談がくるとは自分予想外っすよ」
「やっぱり桃尻事件が濃厚だと思うんだ。一応、コットンが気にしないように思わず食べたくなるくらい可憐なお尻だったってフォローしといたんだけど」
「いやもう理由わかってるじゃないっすか。思うもなにも絶対にそれですから」
「くぅうっ! 名誉挽回のチャンスはあるだろうか?!」

 葛藤する僕に対し、リューナはフッと不適に微笑み、

「晴っち、今日の特訓は第三エリアにある山の中腹までのランニングを考えてるっす。そこには雪にも負けずたくましく育った色とりどりの花がいっぱい咲いていましてね」
「ま、まさか?!」
「そのまさかっすよ。プレゼント作戦でいきましょう」
「リューナだったらプレゼントされて嬉しい?」
「いや、自分は食べものの方が嬉しいっす」
「ほほー」
「大丈夫っす、コットンは見た目通り乙女な性格なので絶対に喜んでくれるはずです。今日はその花を一輪摘みに行くまでを目標としましょう」
「ナイスアイディアだね!」
「それでは今日の予定が決まったところで早速スタートしようと思うのですが、まずは昨日から晴っちのステータスが変化したか確認してみましょうか」

 僕はリューナに言われた通りデバイスを開き、


 名前  天音晴人
 職業  大学二年生
 性能  HP15(*500) MP10
     STR3 DEF20(*500) INT111
 耐性 (*氷)
 スキル 天候操作(Lv.2)――天気を晴や雨にできる。
 SP  天撃(1/1)


 おぉ、基本ステータスがアップしている。
 天撃のストックも回復しているので――基本一日一回ということだろうか。どこからが回復する境目なのか、意識しておく方がいいかもしれないな。
 リューナが僕のデバイスを覗き見しながらふんふんと頷き、

「ゴミみたいなステータスっすね」
「否定はしない」
「失礼しました、カスみたいなステータスっすね」
「意味合いとしては一緒だよね」
「それにしても、ステータスが表示されるなんてすごい機械っすね。普通は頭でステータス開示と念じれば、自分のステータスは自分だけに可視化されますよ」

 早速、ステータス開示と念じてみる。
 リューナの言った通り、ステータスが可視化――されることはなかった。考えられる原因としてはこの世界の住人ではないからだろうか? 現時点、デバイスがある限り特に不便はないので可視化については気にしないでおく。

「せっかくだし、リューナのステータスも見てもいい?」
「ええ、まあ自分も晴っちのを見たのでお返しに見てもいいっすけど――って、この機械他者のステータスも見れるんですか?」
「えっ? うん、見れるけど――」

 リューナが珍しそうな顔でデバイスを指でつつきながら、

「はぁー、ギルドや教会にあるアーティファクトみたいなものっすかね? 普通自分以外のステータスは見れないっすよ」
「――そうなの?!」
「相手のステータスが見れるとか、もうその時点でめちゃくちゃアドバンテージ大じゃないっすか。闘う相手だったらなおさらです、スキルからSPにステータスまで丸裸状態なんて状況によっては完全に詰みっすよ」

 激しく正論である。
 今さらながらこのデバイスってすごかったんだな。現在交流のあるメンバーは問題ないとして、基本的にはこの世界ではあまり公にせずひっそりと使用する方がいいのかもしれない。
 許可も頂いたので僕は遠慮なくリューナにデバイスを向け、


 名前  リューナリュララリア・ドーラ
 職業  赤竜族
 性能  HP5565 MP4400
     STR5897(攻撃) DEF6789(防御) INT3300(魔力)
 スキル 無限牙突(Lv.10)――無から有を現生しなにものをも噛み突く力。
 SP  飛行(87/99)
     ブレス(25/30)
     危機感知(9/10)
     竜の鱗(10/10)
     竜気弾(3/3)
     竜化(1/1)


 魔王城の面子強すぎない?
 そりゃもう僕のステータスなんてゴミカスだよ、ゴミカス。ステータスのカンストを目指さなきゃいけない規則でもあるの? 

「うひゃー、本当に丸裸っすね。自分の切り札まで普通に表示されてるじゃないですか。なんか怖いっすよ」

 リューナがデバイスを見て目を丸くしている。

「そういえば、この世界って全体的なレベルとかないの?」
「スキルレベルはありますが、基本ステータスは自身の身体能力に応じた数値のみっすよ。鍛錬すれば上がりますし、怠れば下がりますし――まあ、種族によっては別のステータスの上げ方もありますが大体地道に努力する以外ないっすね」

 僕は昨日の出来事を振り返る。
 ゴンザレスさんに殴られたり、ゴンザレスさんから逃げ回ったり、色々と身体を動かしたのが功をなしたってことなのかな。何百年かけてもワンワやリューナのステータスに追いつける気はしないけど。
 リューナが僕の背中をポンっと叩き、

「さてさて、立ち話ばかりしているとニャンお嬢様に叱られますので――そろそろ出発といきましょうか。今日は自分がずっとそばにいるので安心してくださいね」
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