魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第27話 魔王様は大歓喜する

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 ◆ フェルティ歴345年、3月7日 ◆


 今日は僕の特訓は休みとの通達がリューナより入り、碧土さんと共に魔王城の出入口前に集合してほしいと指示されていた。
 朝起きると僕の筋肉はいつも通りに戻っており、気のせいかコットンの加護魔法が付与された状態でも少し肌寒く感じてしまう――急に筋肉がなくなったという心の寂しさによるものだろうか。
 僕はふぅーと白いため息を一つ、

「碧土さん、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「……天音くん、昨日の今日でよくそのセリフがナチュラルに吐けたわね」

 じろりと、碧土さんが僕を睨み付ける。
 その顔付きには生気がなく、目の隈もすごい――昨夜の碧土さんは一体どのようにして一晩過ごしたのだろう、フラ・フラワー(ピンク)はどれほどの破壊力があったのだろう。

「……絶対に復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐してやる、復讐、復讐、復讐」

 碧土さんが念仏のよう、僕への恨み言を十回ほど呟いた後、

「お待たせしました」

 ニャンニャがやって来る。

「天音さん、碧土さん、今日はお二人に頼みたい仕事があるのですが――」
「魔王様、私にできることでしたらなんなりとお申し付けください」

 この切り替えの早さ見習いたい。

「――えっと、は、花を」
「花、ですか?」
「……は、はい。魔王城の周りに、お花とか、植えてみたくて」

 照れくさそうにニャンニャが言う。
 確かに、魔王城の周りは一言でいうならば殺風景――それもそのはず、この厳しい寒さの環境下では当然とも言えるのだが、最早そんなことは置いといてニャンニャの言い方が可愛すぎてキュン死しそう。

「……か、可愛すぎる」
「天音くん、泣きながらなにを呟いてるの? シンプルに気持ち悪いわよ」
「いやもう魔王様がお花植えたいとか称号と願望のギャップが尊すぎて」
「言われてみれば確かにそうね」
「……お二人共、せめて私に聞こえないように言ってください」

 ニャンニャが頬を染めながらジト目で言う。

「失礼しました。私のスキル――『豊穣の雫』があれば花が咲く可能性は高いと思います」

 ですが、と碧土さんは付け加え、

「この魔王城の周囲全てとなると――太陽の光が少し必要になるかと思います。豊穣の雫は太陽の光があればスキルの効果が増し、広範囲に影響を与えることが可能となります」

 ニャンニャは熟考するよう顎に手を置きながら、

「スキルの性質上、その可能性も考慮していましたが――正解だったようですね。そのために天音さんには今日特訓をお休みしていただいてます」

 ニャンニャはニコリと僕に微笑みかけ、

「天音さん、特訓の成果を見せる時です」

 魔王城の周囲にフラ・フラワーの種をまく。
 種はリューナがパッと飛んでパッと取って戻って来た。除雪はニャンニャが攻撃魔法で一瞬にして溶かしたので下準備は瞬時に整う。
 リューナ曰く何色の花が咲くかは咲いてからのお楽しみだというが、オールピンクであろうともニャンニャの希望が叶うのであれば些細な問題だろう。
 この雪に覆われた領地、魔王城の領内が少しでも華やかになれば嬉しい。
 僕のスキルですぐにでも呪いが解ければいいのだが、まだまだ先が見えないためなにかよい方向に形を変えていくのは僕も大賛成だった。
 碧土さんは深呼吸を一つ、地面に両手を付けながら、

「それではスキルを発動させますね。天音くんは私がスキルを発動している最中に太陽を出現させて――絶対よ? 失敗したら本気で許さないからね」
「激しい圧を感じる」

 許さないという曖昧な言葉がまた怖い。

「豊穣の雫よ、この土地に恵を与えなさい」
「天候操作、魔王城の周囲に陽の光を照らせ」

 碧土さんのタイミングに合わせ、僕は両手を天に掲げてイメージする。
 前回はワンワが太陽の下元気に走り回る姿、ワンニャン王国全てを照らすくらいの勢いでスキルを発動したが――今回は魔王城の周囲、場所を細かく制限してイメージを固めていく。やはりというか、以前に比べて段違いで疲労感が少ない。僕の勝手な憶測だが、単純に天候操作をする範囲によって疲労感の具合いが変わってくるのではないだろうか。無論、特訓の成果によるステータスの基本値が上昇していることも関係はしていそうだけれど。
 魔王城の真上から、太陽の光が降り注ぐ。
 碧土さんの言っていた通り、効果はかなり上乗せされているようで――フラ・フラワーがそこら中から一気に芽をだし、あっという間に花が咲いた。

「わぁ」

 ニャンニャが嬉しそうに声を上げる。
 リューナのことだからマジでピンクオンリーかと危惧したが、三種の花が咲いた様子を見て僕は安堵する。

「ありがとうございます。天音さん、穂波さん」
「とんでもないです。魔王様に喜んでいただけてなによりです」

 天音さん、穂波さん。
 なんだろう、この漠然とした疎外感――碧土さんもそれに気付いたのか、一瞬僕の方をチラリと見やり鼻でフンッと笑うのであった。
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