魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第30話 魔王様の命令は絶対

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 魔王城をでて一本の橋を渡ると、そこには大きな町が広がっていた。
 この環境の影響によってか、賑わいなどは特になく家の明かりだけが目立っている。ポツリポツリと人影はあるが、用事で少し外出程度のものなのだろう。リューナの故郷によく似た雰囲気が漂っていた。
 さくさくと雪の上を歩く音が響く中、

「ダーレンさんは魔王城に――ニャンニャ様にお仕えして長いんですか?」

 僕はなんとなしに聞いてみる。

「わたくしは先代の魔王様よりお仕えしておりましてな。姫様のことは小さいころより存じ上げています。晴人殿のお噂も外出中すでに老年の耳に、先日の希望の光はしっかりとこの目に宿しましたぞ」
「ふーん。天音くん、私がいない時にも意外と役に立っていたのね」

 意外は余計である。

「まだ役に立ったなんて胸を張って言えないけど、必ずダーレンさんの言う希望の光になってみせるよ」
「ほっほっほ、頼もしいお言葉ですなあ」
「いつなるのだ?! 晴人よほほほおぉおおおい! 早いところ希望の光になれ!」

 ダーレンさんの言葉に重なる声、静かな街中に僕の名前が大きく木霊した。
 自然と声のする方向に視線を向けると、そこには両腕を組みながら屋根の上に立つ男が一人いた。
 なんか見覚えあるなぁ、気のせいかなぁ。
 赤髪、褐色の肌、この元気なハイテンション――男は「とうっ!」とヒーローのように屋根から降り立ち、

「元気にしていたか晴人よ、この俺様が認めた男よ」

 以前、僕のSP天撃により危うく命を奪いかけたのだが――この様子から察するに、あの一件以来僕の評価は上がっているようだ。
 さすがリューナの家族、いや赤竜族だからこそだろうか。

「リュージンさんもお元気そうでなによりです」
「ふははっ! リュージン?! 水臭いではないか、気軽にお兄さんと呼べ」
「はい。リュージンさん、僕たちこれから少し仕事がありまして――非常に残念ですがまたゆっくりお話しましょう」

 もうすでにいやな予感しかしない。
 僕は早々にリュージンさんとの会話を切り上げるべく歩みを再開する。ダーレンさんとはさすがに顔見知りと予想、碧土さんのことはあえて紹介しないスタイルでいく。
 だが、そうは問屋が卸さないようで――、

「待て、晴人よ。その後ろのハイパー美女は誰だ?」

 ――直球で来るぅ。

「ほっほっほ、お久しぶりですのうリュージン坊っちゃん」

 困った僕の様子を見てか、助け舟のようダーレンさんが間に入る。

「おぉ! いたのかダーレン殿! 生気がなさすぎて気付かなかったぞ!」
「老いと共に自然と気配を消す癖が身に付きましてなぁ。それはさて置き、すみませぬがリュージン坊っちゃん、晴人殿のおっしゃる通りわたくし共は姫様より命令を承っておりましてな。長話している暇はないのですぞ」
「少しくらいよいであろう! 俺様のことを軽く語るならばそうだな――三時間ほどあれば問題ないっ!」
「ほっほっほ、長すぎますぞ」
「……ねえ天音くん、この脳まで筋肉に侵食されていそうな人は何者なの?」

 碧土さんが僕にひっそりと耳打ちする。

「碧土さん、興味を持っちゃ駄目だ。もし聞かれていたら大変なことになる。まあ、君がキレイだからこういった風に誰かの目を引くのは仕方ないことだけどね」

 これこそが付き添いを頼んだ理由の一つであったりもする。 

「……ふーん、天音くんは私のことキレイだと思うのね」
「超絶思うよ。魔王城に来てから美人、可愛いって思う対象は一気に増えたけど――碧土さんはその中に混じってもなんの違和感もないね」
「ま、真顔で言わなくてもいいのよ。あなたはあまりそういったことには興味がないと勝手に思っていたわ」
「無論あるさ。ただ心が惹かれる対象が限定されすぎなのかもしれない」
「ふふっ、そういった意味では私たち似ているかもしれないわね」

 そんなやり取りを碧土さんとしている僅かな間に、

「ダーレン殿、わかりあえぬならやり合うしかないなぁっ!」
「ふむ。致し方ありませんな」

 なにがどうしていきなりこうなったの。
 唐突に始まるバトル、ここに来て間もないころにニャンニャとワンワの戦闘も見たが――それに負けず劣らず激しい。
 まさに、パワーとスピードか。
 リュージンさんが振るう剛腕をダーレンさんが軽やかにいなす、その流された攻撃が城下町の一角を次々と破壊していく。

「天音くん、とめてきなさいよ。このままじゃ城下町の皆さんに迷惑がかかるわ」
「本気で勘弁してください、間に入ったら風圧だけで死ぬレベルです」
「……はぁ、仕方ないわね」

 碧土さんはスゥっと大きく息を吸い、

『控えるのですリュージン、私の命令にて動いてるものを邪魔するおつもりですか?』
「がっ! にゃ、ニャンニャ様?!」
『今私はこのものに憑依の魔法を付与しています。このものが話す内容全てを私だと思いなさい』

 なんて大胆な嘘だろうか。
 その立ちふるまい、喋り口調、小さな仕草――ニャンニャがよく見せる姿にそっくりであった。さすが碧土さんと言うべきか、仕事で演技もやっているだけある。
 碧土さんのSP『演者』。
 誰かの声をトレースするSPだそうだが、使い方と状況によってはものすごい効果を発揮するということを思い知らされた。この緊張した場面でこの柔軟な発想が浮かぶ碧土さん自身もなんて恐ろしい。
 リュージンさんが拳を降ろし、ダーレンさんが剣を納める。碧土さんの機転にて事態は一瞬にして収束するのであった。
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