魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第36話 魔王様にもう一度

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「トキミヤレン、見つけたわよ」

 一週間後、朗報が入る。
 お互い、トキミヤレンに関して手分けして探していたのだが――碧土さんがヒットしてくれたようだ。
 碧土さんはため息を吐きながら、

「貯金の半分くらい使ったわ」
「ごめんなさい」
「そういう意味じゃないの。自慢じゃないけれど、私の資産ってすごいのよ? それだけのお金を使って――ようやく掴めた情報なの」

 碧土さんは真剣な眼差しで、

「私の言っていることわかる? この人――普通の一般人じゃないわ。裏社会、そちら側で生きている人間といった方が話が早いかしら」
「……極道的な?」
「そうね。私も情報を探っている間――危ない場面が何回かあったわ」
「碧土さん、ありがとう。僕だけだったら――何年かかってもたどり着けなかったかもしれない。あとは、どうやって面会するかだね」
「安心しなさい。面会日は――すでに決めてきたわ」
「えっ?」
「行くわよ」

 言うが早いか、車に乗り込む。
 前と同じ運転手、もしかして――碧土さんの専属だろうか。2時間ほど車に揺られ向かった先は、山奥の辺鄙な土地に建った一軒家であった。
 裏社会の人間、この場所で人一人――消えたところで気付かなさそうだ。
 僕と碧土さんはベルを鳴らして中に入り込む。薄暗い廊下を歩いた先――目的の人物は堂々とした振る舞いで待っていた。
 ぷかぁ、と煙の輪が宙を舞い、

「やぁ、いらっしゃい」

 この人が――トキミヤレンなのか。
 メガネ姿の凛とした雰囲気、ピチッと整えたスーツからは――常日頃からの清廉さを感じさせる。

「うちの名前は時宮蓮、まさかこんな若者が来るなんて――想像もしていなかった。これはこれは面白い、なにが希望か端的に言ってごらんよ」
「……女性、だったんですね」

 てっきり、話から――厳つい男を想像していた。

「ふむ。そう来たか――見てわかる通り、うちは女性だ。予想をしよう、裏社会というワードだけで勝手に男性と思っていたんだろう」
「天音くん。本題に入りなさい」

 碧土さんにお尻をつねられる。

「時宮さん、失礼しました。単刀直入に――僕をタイムリープで過去に飛ばしてくれないでしょうか」
「逆にこちらもいいか? タイムリープなんて夢物語、実現できると思うか?」
「できます」
「へぇ、根拠は?」
「あなたは――僕たちがここに来てから一度も否定をしていない」
「面白いことを言うじゃないか」

 くつくつと、時宮が笑いながら、

「まあ、できる。ただし――一人のみ、10日以内に限ってだ。うち自身は際限なくどこまでも飛べるんだが、他者は色々と条件が厳しくてね」

 10日前、勇者が攻めて来た――当日だった。
 碧土さんがいなかったら、僕は何年もかかってここにたどり着き――今の答えを聞いて絶望していたに違いない。
 まだ、間に合う――可能性は残された状態だった。

「ここからはビジネスのお話だ。まず、自身が今持っているもの――今後だせる資産も全て投げ出してもらう」
「今後の資産も――ですって?」
「言葉通り、君たちはうちの奴隷となるんだ」

 時宮は不敵な顔付きで――言う。

「過去を与える代わりに、君たちの未来を全て貰う。ただ、安心して欲しいのはタイムリープをして成功すれば――このやり取りはなかったことになる。何故なら、成功したら君たちはうちに会ってすらいないのだからね」

 時宮は次いで、

「失敗した時、未来は変わらない。今の条件は全て飲んでもらう。まあ、未来を変えることができたやつなんて長い年月で一握りだけだよ。奇跡で上書きしない限りは――ね。正直、うちはもうお金なんてものはどうでもいいんだ。こういった人間同士の底を見るやり取り、それだけが生き甲斐となっていてね」
「やります」
「ん? 天音といったな――うちの話、聞いていたか?」
「ただ、碧土さんは含めないでください」
「君が2倍、背負うのか?」
「背負い」
「待ちなさいよっ!」

 僕が全て言い終わるまでに――碧土さんが勢いよく叫ぶ。

「その条件、私も飲みます」
「へぇ、君たち――恋人かなにか?」
「恋人どころか、友達でもない――私たちは、すれ違っていただけの同級生です」

 碧土さんは言う。

「今は――挨拶くらいはする仲だわ」
「あっはっはっ!」

 時宮は腹を抱えて笑いながら、

「初めてだ。そんな二人がやって来たのは――いいよ、商談は成立だ。天音、君の顔を見る限り時間はないんだろう? 今すぐに送ってあげるよ。場所は誰かを起点としたら問題ない、その飛びたい場所の人物を想定するんだね」

 飛びたい場所の人物、か。
 おそらく、今飛んだら――勇者が襲撃する直前くらいになるはずだ。ニャンニャのところにするか? 
 いや、それだと――同じ未来をたどるだけになる。

「天音くん、私を起点にしなさい」
「碧土さんの、ところ?」
「私を説得して、あなたなら――できる」

 碧土さんは胸に両手を置きながら、

「あの時、私は後悔しかしていない。過去の私に会ったら――伝えて。あなたが未来から来たこと、その未来で今果てしない後悔をしているということ」
「碧土さん、僕が未来から来たって――信じてくれるかな」
「私、1日1回は必ずオ◯ニーするの」
「どういうことっ?」

 唐突すぎて聞き返してしまう。

「フラ・フラワーを食べた日は、いつもより――燃え上がったわ。いつも使っている玩具には『デンちゃん』って名前を付けているの」

 碧土さんは茹でたての蟹の甲羅くらい顔を真っ赤に、

「そ、それを伝えなさいっ! いいわねっ?!」

 世界が――暗転する。
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