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氷迷宮の迷い子編
29話 未知なる存在
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「クーちゃん、黒猫ちゃん、少し見てほしい場所があるんだ」
食事も終わり一段落した折、リーナが僕たちをある場所へと促す。
キャンプ地から十分ほど歩き、底の見えない崖の前でリーナは立ち止まった。
ゲームでいうところのこれ以上は進むことのできないエリア、進入不可のエリアとでもいうべきか。
周囲を見渡すが、特になにもない。
僕もこのダンジョンには何度も来たことはあるがここはただの行き止まり、目立ったアイテムやネームドがいたなんて記憶もない。
リーナは崖下を真っ直ぐに見つめながら、
「何度も言うけど、この世界はリアルと一緒で行けない場所なんてないんだよ。壁があったら壊せるし、海があったらどこまでも潜ることができる。クーちゃんはまだこっちに来たばかりでどうしてもゲーム的な部分残るでしょー? 今からリーナがその概念をバッキバキにぶち壊してあげる。ここ、覗いてみてくれるー?」
僕とナコも崖下を見つめるが、やはり暗闇でなにも見えない。
「はい。よいしょー」
どどんっ!
リーナのかけ声と共に、背中に衝撃が走った。
「「◯×◇△××@@!?」」
声にならない声を上げ、僕とナコは――暗闇の中へと真っ逆さまに落ちる。
一瞬なにが起きたか理解できなかったが、すぐにリーナが僕とナコを突き飛ばしたのだと悟る。
どうしてこんなことを? いや、今は理由を考えている場合ではない。
十秒にも満たない暗闇を抜けると、底付近には魔水晶があるのだろう――地面が見えてくる。
もう着地まで猶予がない。
どこか触手で引っ掛けて衝撃を緩和できる箇所はないか?
せめて、ナコだけでもどうにか助け――、
「大丈夫、大丈夫ー。リーナが支えるからね」
――僕とナコの中心、同じくリーナも落下していた。
着地寸前、ふわりとした浮遊感が全身を包み込む。リーナがスキルで僕たちを保護してくれたのだろう。
サプライズにもほどがある。
文句の一つでも言いたいところだが、得意満面悪戯気にほくそ笑むリーナを見て怒る気力がなくなった。
「きひひ、驚いちゃったー?」
「あのまま無抵抗に死んでしまうのも悔しいので、ハッピーをぶん投げて相打ちにしようかと思いました」
「脳みそ筋肉でできてるの?! 黒猫ちゃんの発想が軍人的すぎるーっ!」
「それで、リーナの見せたいものって」
僕は言いかけて、目の前の光景に言葉を失った。
「これがね、リーナの見せたかったもの。偶然見つけたんだけど、ゲームには存在しなかった、ゲームでは行くことのできなかったエリア」
「……こんな怪物が、未知の領域にいるのか」
「もしかすると、アップデートで追加予定だったのかもしれない。今となってはもう答えはでてこないけどねー。だけど、ゲームの知識以上のものがこの世界には確実に存在している」
全身を鎖に繋がれた、要塞型ゴーレムだった。
両手には大砲のような丸い大穴、胸から漏れる魔核の光は通常よりも赤みが濃い。
普通のゴーレムが全長数メートルに対し、こちらはその三倍~四倍はあるだろう。
「既存のネームドでもない、未確認のモンスター。リーナは勝手に『シークレット』って呼んでるんだけどねー」
僕は要塞型ゴーレムを見上げながら、ある疑問をぶつけてみる。
「リーナはどうしてこのダンジョンにいるんだ?」
氷迷宮ホワイト・ホワイトには本当になにもない。
憶測だが、要塞型ゴーレムがいるエリアを見つけるまで、リーナはダンジョンの中を歩き回っていたのではないだろうか。
崖下なんて普通は探そうと思わない。
もしかして、という直感だった。
リーナが偶然見つけたという言葉、その偶然の始まりが必然であったとしたら?
僕の問いかけに、リーナは少し寂しそうな顔付きで、
「クーちゃんの想像通りだよ。リーナは自決しようとしていたんだ」
その答えに驚くことはなかった。
リーナがため息を吐きながら、その場に崩れ落ちるよう腰を下ろした。
吐き出された白い息は、心情を表すよう形なく霧散していく。
「思い出のダンジョンを巡り巡って、命を絶つのもありかなってねー。踏みとどまれたのが親友の存在だった。やっぱりさ、どうしても最後に会いたくなっちゃって」
「……リーナさん」
ナコが慰めるようリーナの頭をなでる。
「きひひ。カマクラを見た時懐かしくなっちゃって、無意識に二人の輪の中に入り込んじゃってたんだよねー」
リーナは言う。
このダンジョンの景色が好きで、ギルドメンバーだった親友とよくチャット場にして来ていたと。
場所が不人気すぎて知らない人が多い小ネタだが、ゲームのころからカマクラや雪だるまが作成できたのだという。
「その絶妙な小ネタは知らなかったよ」
「そうそう、同じギルドメンバーではあったけど誤解しないでね。親友はまだ転生して来ていなかったの、転生にはクーちゃんたちのようにラグがあるんだー」
ギルドが壊滅する瞬間まで、リーナの親友は来なかったという。
「親友も転生してきたらリーナを必ず探しに来る、この思い出のダンジョンにたどり着くと思ってる。ギルドを壊滅させた張本人のリーナを許してくれるかはわからない、リーナは殺されるかもしれない」
「事情を説明すればわかってくれるんじゃないか?」
「クーちゃんは優しいね。親友の答えがどうであれ、全てを受け入れるためにリーナはここで待ってるんだ」
意志の強い眼差しだった。
待ち人がいるという『理由』があるからこそ、リーナはリーナであり続けられるのかもしれない。
踏み込むことのできない心の領域――、
「リーナは待つんだ、いつまでもねー」
――まるで自身に言い聞かせるよう、リーナはそっと呟いた。
食事も終わり一段落した折、リーナが僕たちをある場所へと促す。
キャンプ地から十分ほど歩き、底の見えない崖の前でリーナは立ち止まった。
ゲームでいうところのこれ以上は進むことのできないエリア、進入不可のエリアとでもいうべきか。
周囲を見渡すが、特になにもない。
僕もこのダンジョンには何度も来たことはあるがここはただの行き止まり、目立ったアイテムやネームドがいたなんて記憶もない。
リーナは崖下を真っ直ぐに見つめながら、
「何度も言うけど、この世界はリアルと一緒で行けない場所なんてないんだよ。壁があったら壊せるし、海があったらどこまでも潜ることができる。クーちゃんはまだこっちに来たばかりでどうしてもゲーム的な部分残るでしょー? 今からリーナがその概念をバッキバキにぶち壊してあげる。ここ、覗いてみてくれるー?」
僕とナコも崖下を見つめるが、やはり暗闇でなにも見えない。
「はい。よいしょー」
どどんっ!
リーナのかけ声と共に、背中に衝撃が走った。
「「◯×◇△××@@!?」」
声にならない声を上げ、僕とナコは――暗闇の中へと真っ逆さまに落ちる。
一瞬なにが起きたか理解できなかったが、すぐにリーナが僕とナコを突き飛ばしたのだと悟る。
どうしてこんなことを? いや、今は理由を考えている場合ではない。
十秒にも満たない暗闇を抜けると、底付近には魔水晶があるのだろう――地面が見えてくる。
もう着地まで猶予がない。
どこか触手で引っ掛けて衝撃を緩和できる箇所はないか?
せめて、ナコだけでもどうにか助け――、
「大丈夫、大丈夫ー。リーナが支えるからね」
――僕とナコの中心、同じくリーナも落下していた。
着地寸前、ふわりとした浮遊感が全身を包み込む。リーナがスキルで僕たちを保護してくれたのだろう。
サプライズにもほどがある。
文句の一つでも言いたいところだが、得意満面悪戯気にほくそ笑むリーナを見て怒る気力がなくなった。
「きひひ、驚いちゃったー?」
「あのまま無抵抗に死んでしまうのも悔しいので、ハッピーをぶん投げて相打ちにしようかと思いました」
「脳みそ筋肉でできてるの?! 黒猫ちゃんの発想が軍人的すぎるーっ!」
「それで、リーナの見せたいものって」
僕は言いかけて、目の前の光景に言葉を失った。
「これがね、リーナの見せたかったもの。偶然見つけたんだけど、ゲームには存在しなかった、ゲームでは行くことのできなかったエリア」
「……こんな怪物が、未知の領域にいるのか」
「もしかすると、アップデートで追加予定だったのかもしれない。今となってはもう答えはでてこないけどねー。だけど、ゲームの知識以上のものがこの世界には確実に存在している」
全身を鎖に繋がれた、要塞型ゴーレムだった。
両手には大砲のような丸い大穴、胸から漏れる魔核の光は通常よりも赤みが濃い。
普通のゴーレムが全長数メートルに対し、こちらはその三倍~四倍はあるだろう。
「既存のネームドでもない、未確認のモンスター。リーナは勝手に『シークレット』って呼んでるんだけどねー」
僕は要塞型ゴーレムを見上げながら、ある疑問をぶつけてみる。
「リーナはどうしてこのダンジョンにいるんだ?」
氷迷宮ホワイト・ホワイトには本当になにもない。
憶測だが、要塞型ゴーレムがいるエリアを見つけるまで、リーナはダンジョンの中を歩き回っていたのではないだろうか。
崖下なんて普通は探そうと思わない。
もしかして、という直感だった。
リーナが偶然見つけたという言葉、その偶然の始まりが必然であったとしたら?
僕の問いかけに、リーナは少し寂しそうな顔付きで、
「クーちゃんの想像通りだよ。リーナは自決しようとしていたんだ」
その答えに驚くことはなかった。
リーナがため息を吐きながら、その場に崩れ落ちるよう腰を下ろした。
吐き出された白い息は、心情を表すよう形なく霧散していく。
「思い出のダンジョンを巡り巡って、命を絶つのもありかなってねー。踏みとどまれたのが親友の存在だった。やっぱりさ、どうしても最後に会いたくなっちゃって」
「……リーナさん」
ナコが慰めるようリーナの頭をなでる。
「きひひ。カマクラを見た時懐かしくなっちゃって、無意識に二人の輪の中に入り込んじゃってたんだよねー」
リーナは言う。
このダンジョンの景色が好きで、ギルドメンバーだった親友とよくチャット場にして来ていたと。
場所が不人気すぎて知らない人が多い小ネタだが、ゲームのころからカマクラや雪だるまが作成できたのだという。
「その絶妙な小ネタは知らなかったよ」
「そうそう、同じギルドメンバーではあったけど誤解しないでね。親友はまだ転生して来ていなかったの、転生にはクーちゃんたちのようにラグがあるんだー」
ギルドが壊滅する瞬間まで、リーナの親友は来なかったという。
「親友も転生してきたらリーナを必ず探しに来る、この思い出のダンジョンにたどり着くと思ってる。ギルドを壊滅させた張本人のリーナを許してくれるかはわからない、リーナは殺されるかもしれない」
「事情を説明すればわかってくれるんじゃないか?」
「クーちゃんは優しいね。親友の答えがどうであれ、全てを受け入れるためにリーナはここで待ってるんだ」
意志の強い眼差しだった。
待ち人がいるという『理由』があるからこそ、リーナはリーナであり続けられるのかもしれない。
踏み込むことのできない心の領域――、
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――まるで自身に言い聞かせるよう、リーナはそっと呟いた。
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