地獄に落ちた僕らは生きる意味を知った。

姫がかり

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第1章:針山地獄編

第3話  針山地獄②

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五年――。

それは、生きていれば、高校を卒業し、進学し、将来を悩む年齢だ。
でもここでは、そんな時間の流れすら無意味だった。

この地獄に落ちてから、もう何度、足を貫かれたかわからない。
皮膚は裂け、肉が破れ、血が噴き出し、骨まで突き刺さった。
それでも、死ねない。

何度倒れても、立たされる。

魂が砕けようと、時間が巻き戻るように、また“修復”されて――
再び、歩かされる。

ただ、再生するたびに、何かが確実に削れていった。

最初は、痛みに叫んだ。
次は、怒りに叫んだ。
そのうち、涙を流すことすら面倒になった。

今はもう、何も叫ばない。
目の前に広がる、無限の針山を、無心で、ただ、歩くだけ。


---

音が、ない。
風がない。
色がない。

ただ、鉄の冷たさと、血の臭いと、地の底から響くような唸り声だけがある。

誰も話さない。
誰も目を合わせない。

隣を歩いていた誰かが倒れても、誰も振り返らない。
ああ、また一人、壊れた。そう思うだけ。

誰かの足が折れた音。
誰かの魂が砕けた音。
誰かの頭が[棍棒|こんぼう]で叩き潰される音。

全部、聞こえる。
でも、何も思わなくなった。

それを哀れだとも思わなくなった時点で、もう自分も壊れているんだろう。


---

昔のことは、よく思い出せない。
自分の名前さえ、薄れていく。

「[黄泉奏多|よみ かなた]」と、心の中で呟いてみる。
けれど、それすら“誰の名前だったか”わからなくなることがある。

記憶の隅で、誰かの声が残っていた気がする。
「おはよう」「いってらっしゃい」
――それが、誰の声だったのか、もう出てこない。

まるで、泥水の底に沈んだ思い出を、何度も何度も手を伸ばしては、届かずに諦めるような日々。


---

魂は、確実に“擦り減っている”。

痛い。
歩くたびに、足の裏を裂かれる感覚。

無数の針が、血に濡れている。
その血が、自分のものか、他人のものか、もうどうでもいい。


---

夜がこない。
朝もこない。
空は、ずっと赤一色のままだ。

ふと、何かが背後から倒れる音がする。

でも、振り返らない。
振り返るだけの“心”が、もう残っていない。

それが誰であっても、自分が助ける理由なんて、どこにもない。

人の声が、うるさい。
叫ぶな。泣くな。頼るな。

そんな感情を持てるうちは、まだ“甘い”。

自分は、もうそれをとうに失った。


---

ああ、
あと何年、ここを歩けばいいのか。
それを考える余力すら、もうない。

今日もまた、
血を流しながら、
骨を砕かれながら、
魂を裂かれながら――

俺は、生きているのか?
それとも、死に損なったまま、生かされているのか?

もう、どっちでもいい。

ただひとつ、確かなこと。

> この地獄には、終わりがない。




最後まで読んでくれて、ありがとう。
「読了ボタン」を押してもらえると、君の応援が、彼らの魂に届きます。
次の一歩へ、共に進もう。

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