3 / 12
第1章:針山地獄編
第3話 針山地獄②
しおりを挟む---
五年――。
それは、生きていれば、高校を卒業し、進学し、将来を悩む年齢だ。
でもここでは、そんな時間の流れすら無意味だった。
この地獄に落ちてから、もう何度、足を貫かれたかわからない。
皮膚は裂け、肉が破れ、血が噴き出し、骨まで突き刺さった。
それでも、死ねない。
何度倒れても、立たされる。
魂が砕けようと、時間が巻き戻るように、また“修復”されて――
再び、歩かされる。
ただ、再生するたびに、何かが確実に削れていった。
最初は、痛みに叫んだ。
次は、怒りに叫んだ。
そのうち、涙を流すことすら面倒になった。
今はもう、何も叫ばない。
目の前に広がる、無限の針山を、無心で、ただ、歩くだけ。
---
音が、ない。
風がない。
色がない。
ただ、鉄の冷たさと、血の臭いと、地の底から響くような唸り声だけがある。
誰も話さない。
誰も目を合わせない。
隣を歩いていた誰かが倒れても、誰も振り返らない。
ああ、また一人、壊れた。そう思うだけ。
誰かの足が折れた音。
誰かの魂が砕けた音。
誰かの頭が[棍棒|こんぼう]で叩き潰される音。
全部、聞こえる。
でも、何も思わなくなった。
それを哀れだとも思わなくなった時点で、もう自分も壊れているんだろう。
---
昔のことは、よく思い出せない。
自分の名前さえ、薄れていく。
「[黄泉奏多|よみ かなた]」と、心の中で呟いてみる。
けれど、それすら“誰の名前だったか”わからなくなることがある。
記憶の隅で、誰かの声が残っていた気がする。
「おはよう」「いってらっしゃい」
――それが、誰の声だったのか、もう出てこない。
まるで、泥水の底に沈んだ思い出を、何度も何度も手を伸ばしては、届かずに諦めるような日々。
---
魂は、確実に“擦り減っている”。
痛い。
歩くたびに、足の裏を裂かれる感覚。
無数の針が、血に濡れている。
その血が、自分のものか、他人のものか、もうどうでもいい。
---
夜がこない。
朝もこない。
空は、ずっと赤一色のままだ。
ふと、何かが背後から倒れる音がする。
でも、振り返らない。
振り返るだけの“心”が、もう残っていない。
それが誰であっても、自分が助ける理由なんて、どこにもない。
人の声が、うるさい。
叫ぶな。泣くな。頼るな。
そんな感情を持てるうちは、まだ“甘い”。
自分は、もうそれをとうに失った。
---
ああ、
あと何年、ここを歩けばいいのか。
それを考える余力すら、もうない。
今日もまた、
血を流しながら、
骨を砕かれながら、
魂を裂かれながら――
俺は、生きているのか?
それとも、死に損なったまま、生かされているのか?
もう、どっちでもいい。
ただひとつ、確かなこと。
> この地獄には、終わりがない。
最後まで読んでくれて、ありがとう。
「読了ボタン」を押してもらえると、君の応援が、彼らの魂に届きます。
次の一歩へ、共に進もう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる