ラムネ色の恋

あっぷるソーダー

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キスの温度(雪見だいふく)

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それからの愛ちゃんは、
積極的だった。

平日に2人でそれぞれ
休みを取って、
車で鎌倉にドライブに行った。

小町通りをクレープを持って歩き、
鶴岡八幡宮まで歩いた。
長い階段を登るとき、
転げ落ちたら困るからと、
右手を差し出してくれた。

「おばぁちゃんみたいじゃん。」
と照れながらその手を握った。

愛ちゃんの手は冷たかった。
自分の体温で愛ちゃんの指が
だんだん温かくなるのが
嬉しかった。

上まで登ると赤塗りの本殿が
見えてきた。

ここでお賽銭を
投げて祈りを捧げる。

愛ちゃんはリュックから
お財布を出そうと
繋いでいた手を離した。
そらもそれに合わせて小銭を
出そうとした。

チャリーンと5円らしき硬貨を
賽銭箱に愛ちゃんは投げた。
そらも続けて5円玉をチャリーンと
投げたが縁にあたりどこかへ飛んだ。

「……そういうとこが、
 そらさんぽいですよね。」

「うん、私もそう思う。」

何を祈ったのか、
お互い聞くことはしなかった。
それが私達の関係を今のままで
続けたいという願いだと
薄っすら感じた。
聞いてしまえば、
自分の願いも話さなければならない。
返答に困るというのが
正直な気持ちだ。
そらが祈ったのは
 《自分の周りの人が幸せで
 ありますように》
ということだった。
それは、自己満足の一方的な
考えだ。
愛を満たすことができているのか
わからない。
もし誰か一人を選ぶなら
それは全て歪んで上手くいかなくなる
ことがわかっていた。
誰も選ばない答えもある。
だけど今は、このままがいい。
いつか、動き出さなければ
ならない時が来るだろう。

階段を、ゆっくり降りる。

「絶対転げ落ちるから、本当に
 足元気をつけましょうね。」
と言いながら、愛ちゃんは
左腕を絡ましてきた。
確かに手を繋ぐより安定して
降りられる気がした。

大きな鳥居をくぐると、
小町通りの一本隣りの大通りだ。
銀杏の木が並んでいる。
まだ紅葉していない銀杏の木は
秋の空に映えて美しかった。

少し歩くと、そらが好きな
お蕎麦屋さんが見えてくる。
わらび餅も有名な店だ。

5名くらい並んでる客の
後ろに並んだ。

付き合いはじめると
その人の好みを一つ一つ
学んでいく。

どんなお蕎麦が好きで
蕎麦つゆは何を入れるのが好きで。
そば湯はどうやって飲むのか。

そういう小さい事を
ともにする時間が愛おしい。

そらは蕎麦つゆにわさびと
ネギを入れる。
そば湯は多めにいれて
ぴりりとわさびのあじが薄く
感じられるくらいが好きだ。

愛ちゃんとお互いに
自作のそば湯のつゆを
飲み比べをした。

少し味が濃い目で、
天ぷらの甘い香りが残っていて
美味しかった。

その後は、また小町通りを歩き
甘味を食べて過ごした。
愛ちゃんがアップルパイを
歩きながら食べて
ボロボロとこぼす姿をみて
「子供みたい~!」とからかっては、
むっとしたような
笑顔を楽しんでいた。

帰りの車は、愛ちゃんは
疲れたようで寝てしまった。
秦基博のひまわりの約束を
歌ってたかと思うと、
2番になると、寝息を立てていた。

1時間くらい眠っている
愛ちゃんを乗せて車は国道2号を
走っていた。
両脇にラーメン屋さんが軒を連ねる。

それをチラチラ見ながら
真っすぐ真っすぐ走っていく。

愛ちゃんの最寄りのコンビニに
到着して、駐車場に車を停める為に
バックしたときの音で、
愛ちゃんは目を覚ました。

「あ、もう家だ。寝ちゃってたんだ~
 運転お疲れ様。」
と、愛ちゃんがお礼を言った。

「途中ラーメン屋さんに
 入りたくなったけど我慢したよ」と
笑って答えた。

ニコッとまだ眠そうな顔で
笑うと、
「まだ一緒に居たかったな。
 寝ちゃうなんて勿体なかったな。」
とつぶやいた。

「私は寝顔を見れて幸せだったけど」
そらの本音だった。

「もぅ、そんなこと言って。
 ラーメン屋さんばかり見てたくせに」
と愛ちゃんは、伸びをしながら言った。

時刻は夜の7時を回っている。
そろそろさとるが帰ってる頃だ。
帰らなきゃという気持ちと、
まだ愛ちゃんといっしょに
居たい気持ちが交錯していた。

私達は一緒にファミリマートで
アイスを買った。
それから車を駐車場に停めたまま
愛ちゃんの家に行ってアイスを
食べた。

雪見だいふく2つ目を
頬張りながら、遅く帰る言い訳を
考えていた。
ふと気が付くと、愛ちゃんが
すぐ隣りにいた。
「私も雪見だいふく食べたい。」
 と口を、開けて待つ愛ちゃん。

残りの半分を口に入れてあげた。
「んーーでかっ」と言いつつ
もぐもぐ口を、動かす愛ちゃん。
それを見て、満足そうに
そらは笑っていた。

アイスを飲み込んだあと
愛ちゃんは、腰に手を回して
抱きしめてきた。
「キスは……いいんだよね」
耳元で囁く。

返事をしないうちに、
そらの唇は愛ちゃんの唇で塞がれた。
アイスを食べていたからか、
冷たい感触だ。
でも柔らかい。
雪見だいふくよりも
柔らかい。

愛ちゃんの手は
腰から首筋へと移り
そらの首は動かせず
長いキスをした。

首筋を撫でられるたびに
感じてしまいそうになり
声を堪えていた。
愛ちゃんの唇が開いて
そらの唇を軽く噛んだとき
「ん……」という声が漏れて
これから先は戻れなくなりそうで

「これ以上したら帰れなくなっちゃう」
と言って立ち上がった。
顔が真っ赤になっているのが
自分でもわかる。

「そうだね。もう帰らなきゃね。
 今日は、ありがとう」そう言って
愛ちゃんも立ち上がった。

ドアの前でハグをして
車に戻った。


家に帰るとさとるはもう
帰っていて、お風呂も済ませていた。
仕事が遅くなったことにして、
夕飯はピザを頼んだ。

ピザが来るまでの間に
お風呂に入った。
湯船に浸かり顔半分まで
潜るとぶくぶくぶくと息を出した。
お湯が唇のところで優しく揺れて
いくつも泡を作る。
さっきの愛ちゃんとの
キスの感触が蘇ってきていた。
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