連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

あたしのやり方!

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 第一印象はへんなヤツ。いつもと違い逃げもせずに、おかしな事を言い始めたソイツ。
 終いにはあたしのところにまで来て、これまたよく分からない事を言い出した。

 けど、あんなことを言われたのは初めてだった。

 その前に、自分の口から出てしまっていた言葉にも驚いた。『どうしてこんなヤツにペラペラと』『誰にも言わなかったことを』『あたしは何で話しているんだろう?』そう思った。

 でも、今なら分かる。あたしはアイツを試したんだ。あたしのことを、へんに美化しているようだったから、それが幻想だと知ったらどうするのかと思って。試してみた。

 そうしたら、やっぱり違った。

 へんなヤツなのは変わらないが、そのへんだと思う部分は、あたしと同じだったから。
 何をするでもない日常。戦がなければこんなものなんだろうとは思わない。あたしの日常は前と後で変わらなかったから……。

 変わったのは、厳しい人がいなくなって、戦に行く人たちに会うことが無くなった。それだけだ。
 何年経っても城から出るには、許可とお供が必要で、友達は1人もいない。いたけどいない。

 つまらない……。ずっとそう思っていた。

 パパがいくら頑張っても、セバスがいくら人を連れて来ても、二クスがどんな話を聞いても、何も起きないし変わらない。ずっと、つまらないはつまらないままで行くんだと思ってた。

 ──でも、違った。

 つまらない世界じゃなく、自由でステキな世界があって。そこは争いの匂いはしても、それだけじゃないと感じるところだった。
 あたしには2つの何が違うのかが分からなかった。同じように人がいて、生活していて、戦もない。でも、まるっきり違う。確かな輝きがあった。

 バレンタイン。それはここにはない。なら、それをすれば。そうやってないモノを埋めていけば。つまらない世界は、つまらない世界じゃなくなるのではないか?
 きっとその通りなんだ。現に、口に出したことは何も咎められなかった。誰にもだ。ただ、言う勇気がこれまでなかっただけだった。

『もう1つの世界を見てきたい』

 そう言ったあたしにパパは驚いた顔をしたが、「行ってきなさい。車に気をつけて」と言ってくれた。
 セバスはパパに言われて、後をついてきていたんだろう。

『城下町に行きたい。自分の足で歩いてみたい』

 これもすんなり許しが出た。お供も必要ないと言ったら、それも許しが出た。
 セバスすら連れて行かずに許しが出たのには驚いた。アイツは役に立たないのに。

 これらは全部にあのへんなヤツが関わっている……。
 不思議と誰もアイツに反発しない。言われるままにしている。意外だし異常だ。

 パパが何も言わないからか。二クスが何も言わないからか。セバスが何も言わないからか。 ……あたしが何も言わないからかは分からないけど。

「2、3日。泊めてくれ……」

 そんなへんなヤツがついさっき、そう死んだ魚のような目をして言いにきた。
 いつもと様子が違うのはすぐに分かった。毎日のように顔を合わせているのだから、そのくらいの変化には気がつく。

 バレンタインまで時間はそれほど無いはずだ。それなのにあんなことを言うなんて……。

「はい、どうぞ。セバス。どうしたの? 何か用?」

 窓辺にいるとノックの音がして、返事を返すとセバスが部屋に入ってきた。部屋を見渡し、誰かを探しているようだ。

「小僧を見かけてませんでしたかな?」

「あそこよ。あそこ」

 パパの趣味で手入れの行き届いている城の庭。あたしの部屋から見下ろせるその庭の真ん中に、さっきからアイツは座り込んでいる。
 誰に話しかけられても無言で無反応。いつもとの違いにみんな戸惑っている。返事くらいしなさいよとは思うが、先ほどの様子が気にかかる。

「ニクス殿が探しているのですが……」

「どうしたの?」

 セバスの歯切れが悪い。どうやら何かあったらしい。二クスの名前が出てくるあたり、あまりよく良くないことのようだ。

「チョコレートに使用する材料がありません。それも全てです。豆もなければ砂糖もない。直ぐにでも行動しなくては間に合わない」

「それなのに、本人はあのザマなのね」

 まったく。なにを考えているのか。訳を聞かなかったから分からない。
 ううん、聞けなかったから分からないだ。あたしが聞いていいことなのか分からなかった。

「あいつは本当にどうしたの?」

「どうも人間らしいことに悩んでるようですな」

「ふうん……。それは、あのくらい落ち込むようなことなのね。唯一の取り柄が、機能しなくなるようなことか」

「このようなことでは困るというのに……」

 あの無駄にある行動力には感心していた。それに、誰にだって同じように接することができる。
 なかなかできることではない。あたしには絶対に無理だ。

「セバス。あなた結構、アイツの肩を持つわね? 珍しいじゃない」

「それなりに評価していますので」

 何が気に入ったのかは知らないが、セバスがこんなに手を貸すのは珍しい。扉も繋げて、時間も調整してと手を貸している。

「そうね。悪魔が手を貸すくらいだものね」

「いかがいたしましょう?」

 アイツをあのまま放っておいても事態は好転しない。今は時間がないのだから、無理にでも行動させなくては。
 ……ちゃんと原因も探るべきかしらね?

「セバス。ニクスに城の移動の用意と、材料のあるところを急ぎ調べさせなさい。あなたなら文字だって読めるし、こっちの事情にも詳しいでしょ」

「かしこまりました。ところで姫様はどちらに?」

「責任者がアレではね。しょうがないから手伝ってあげるわよ!」

 元気付ける気はないが、あんな姿をさらしていられないようにしてあげましょう。だって、チョコレートをいつでも食べられるようにしてくれるんでしょう? プロデューサーさん。

「……姫様。あまり手荒な真似は……」

「それはアイツ次第ね!」
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