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天使のホワイトデー
寒い夜の出来事
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これは、お姫様のことがバレた出来事の話だ。あれは、寒い夜の出来事だったんだ。
あの日、俺はバイトが休みで、学校が終わるなり早々に帰宅。自室で動画を観るのに忙しかった。
あの日まで、自室で動画を観ることはできなかったんだ。家にWi-Fiないし、俺にはスマホしかなかったから。
そしてWi-Fiなしで動画なんて観れない。わかるよな?
しかし、あの日は念願のタブレット端末を手に入れ、Wi-Fiも自室で使えるようになった日だったんだ。だからこそ、家に早く帰った。
Wi-Fiの導入に関しては、家族全員に恩恵があるのだから誰も異論は無く、金も俺持ち。
異論なんてない。あってたまるか!
まぁ……自室で動画を観ていた。言いたいのはそれだけだ。
じゃあ、そろそろ説明するよ?
♢2♢
「──もっとそっちに寄って! あたしが見えないじゃないの!」
「…………」
「かわいいわね、猫。こんなのが沢山あるなんて、ずっと観てられる」
やあ、突然だが俺の今の状況を説明してやろうか?
俺の部屋で、お姫様ことルシアと2人で、可愛い動物の動画を観ている。
お姫様は猫派らしい。友達にもネコミミがいるからかな。しかし、問題はそこではない。
「なぁ、少し離れないか?」
「離れたら見えないじゃない。それにこの部屋、寒くて無理!」
問題は、俺のベッドに2人してうつ伏せになり、隣同士で動画を観ているということです。
これはなんなんでしょう。先ほどからボクは、すごくドキドキしています!
寒いのも否定できない。部屋の唯一の暖房である、石油ファンヒーターもついてないからだ。
俺の部屋にエアコンはない。この家にエアコンは、茶の間にしかないんだ。
それに、部屋が寒いのも理由がある。だって俺は、動画を観ながら寝るつもりだったんだ。
灯油もったいないし、布団に入ってぬくぬくとタブレットを操作していたんだ。
そこにお姫様がやってきて、タブレット端末に興味を示した。
そんな彼女に俺はタブレットを自慢げに自慢し、お姫様は可愛い動物たちの動画に食いついた。
それでね──。
あろうことか、お姫様は俺の布団に潜り込んできたんだ。どうなってるの!? 彼女の危機感とか!
確かに、俺ではお姫様には敵わないよ。それにしたって……ねぇ?
「──次よ、次! 他の動物も見たいわ。早く検索して」
「ちょっと自分でやっててくれ。俺が悪かった。ヒーター付けてテーブルに移動しよう。飲み物取ってくる」
「そう? 悪いわね。あったかいやつね」
「あぁ、わかった」
飲み物を取ってくると言って部屋を出て、廊下の寒い空気を一気に吸い込み、なんとか落ち着こうと俺は試みた。
平静を装っているのも、限界だったからだ。
「……」
あーーっ。あいつはどういうつもりなんだーー!
俺が異世界に行かなければ、向こうから来る。それはいい。
しかし、ベッドに入り込んでくるとか! 俺はそんなことしたことないよ!?
お姫様は風呂上がりなのか、いい匂いするし! 寝巻きは薄いし! 危機感もないし!
男子なんだよ。プロデューサーという肩書きの前に、男子高校生だから!
「はぁ……はぁ……」
俺が理性的な男でなかったら、どうなっていることか。だが、限界というのはあるんだ。ヤバかった……。
物理的には勝ち目がない。すぐ手が出るからな。それに、変なことして……──っ、なんでもない!
「いかん。本当に何か飲んで落ち着こう」
そんなつもりはなかったんだけど、付けてきたヒーターが部屋を暖めるのにも、俺が変な熱を冷ますのにも時間が必要だった。
お湯を沸かして、ココアを2人分用意するくらいの時間は必要だったんだ。
※
熱々のココアを2人分。家族にバレないように部屋へと運ぶことに成功した。
1人のはずなのに、両手にカップ持ってるのは不自然な感じだが、上手くいった。
エアコンのある茶の間には、パパンとママンがまだいたが、特に何もなくスルー。
茶の間にいたと思った、やっかいな妹も部屋に帰ったらしい。詮索されなくてよかった。
「ほらよ、熱々のココアだ。火傷しないように……いないんだけど。そしてタブレットがない!」
部屋に戻ったら、ベッドに入り込んでいたお姫様はおらず。電気、ヒーターがつけっぱなし。
あぶねーな、と思いつつさらに状況を確認する。
「お姫様はいないが、クローゼットは少し開いてる。なるほどなるほど。タブレットを持って帰って動画を見ようとし、一度はクローゼットを閉めたが、電波とWi-Fiが切れて動画が見れなくなり、仕方ないから隙間を開けておいたというところだな」
俺の部屋のクローゼットは異世界へ。お姫様の部屋のクローゼットへと繋がっている。
急にどうかしたわけではなく、忘れている人のための説明だ!
クローゼットが開いている間は世界が繋がっていて、閉まると繋がりがなくなる。
そして俺の部屋は鍵が付いてないが、お姫様の部屋には鍵が付いてる。
お姫様はいつもなら鍵をかけるところが、動画見たさにこうなったわけだ!
犯人は重要なところでミスをしました。俺が優しいだけの男だと思っていたらしいです。
「──それは俺のだ。大人しく返せ! そしてもう寝ろ。お姫様はとっくに寝る時間だよ!」
クローゼットが開いているなら向こうに行き、力ずくで取り返すまでだ。俺がタブレットを買ったのに、ろくに見たかった動画を観ていない!
動物動画も嫌いではないが、それはそれだから。
何より、やはりこうでなくては。あんなドキドキするのはらしくない!
「……あんたがもう寝たら? これはしばらく借りておくわ。そのうち返すから」
「ジャ◯アンの理論じゃねーか! 絶対返さないやつのセリフだぞ。それは!」
そんな理論を振りかざす、横暴なお姫様。
自室のベッドで優雅に寝っ転がり、新たな可愛い動物の動画を見ていたお姫様を急襲し、タブレットを奪いとる。
いかにルシアが鬼強くても、起き上がってすらいないなら、俺にだってこのくらいはできるのだ。
「乙女のベッドに入ってくるなんて何を考えてるの。引っ叩くわよ!」
「自分はどーなんだよ。俺はのっただけ。おまえは完全に潜ってたからな? とにかくだ。これは返してもらう!」
あとは逃げるが勝ちだ。俺の側から鍵はかけられないが、クローゼットを開かないようにすれば諦めるだろう。
今日はやられっぱなしだからな。このくらいはやり返さないといけない!
「──逃げられるわけないじゃない。あたしに勝てると思ってるの?」
「──速っ! クローゼットを閉める間も無く、肩を掴まれるだと!? バカな、お姫様はベッドから出てすらいなかったのに……」
あの位置から一瞬で追いつかれ、掴まれた。
瞬間移動でもしたみたいだが、風圧を感じたので瞬間移動ではないらしい。
この戦闘力の差はいかんともしがないが、ここで譲ったら、俺はの◯太くんになってしまう。
「それでもこれは渡さん!」
「ちょっと貸してくれたっていいじゃない!」
渡すまいとする俺。奪い取ろうとするお姫様。
精密機器であると理解しているのか、お姫様はあまり力を込めていない。
だからなのか力は拮抗し、もつれ合い、ひょんなことからタブレットがすっぽ抜けた。ツルッといったんだと思う。
「うぉ──」「きゃ──」
互いにそう声を出し、俺のベッドへと2人して倒れ込み、勢いあまって頭と頭がぶつかる。
「いてっ」
そんな時だった。『──ドタドタドタドタ──』と聞こえてきたのは。すぐに部屋のドアが開き、
「今、何時だと思ってんじゃーー! れーと、さっきからうるさい! バタバタと1人で何をやってんじゃーー!」
パジャマな妹。一愛ちゃんが現れた!
一愛はまずベッドにいる俺を見た。次に隣にいる、未だに起き上がっていないお姫様へと視線が移っていく。
その顔は怒りから、無に……真顔になっていく。
「「……………………」」
「いったーーっ、何すんのよ!」
何も言えない俺と、何も言わない妹。
その沈黙をお姫様が破った。
「おとうさーーん。れーとが部屋に女の子を連れ込んで、ちょっと一愛の口からは言えないことしてるーー!」
「──待って、何もしていない!」
「おかあさーーん。女の子は痛いと言ってるのに、れーとは何もしていないと言ってるーー! 警察呼んで警察」
「呼ぶなーーーーっ! 何故、おまえは何より先に警察に行こうとする!? 話くらい聞いてくれてもいいじゃない!」
突如として現れた妹は、本当に警察が必要かのように大声で訴える。
もうバッチリ見られてはいるが、身に覚えのない罪を負うのはお断りしたい。あと、自分が一番うるさいと自覚してもらいたい。
「そして話をしようと言って、一愛も部屋に連れ込まれる。助けてーー」
「お前は大声で何言ってんだーーっ! 自分から部屋に入ってきたし、自分でドア閉めたんだけど!? 何もかもが違うからな!」
「……誰? そしてなに?」
突如現れた一愛に、身体だけ起き上がったルシアはそう口にした。いや、これさ……。
「全部、おまえのせいだーー!」
こうしてお姫様のことと異世界のことが、家族にバレた。仕方ないじゃん。しらを切れば警察沙汰だよ?
なので正直に言って、お姫様からも説明していただいた。
「「「ふーん」」」
両親と妹からの反応はそれだけだった。
部屋でのドタバタも、女子側が何もされていないと証言してくれて、俺は罪に問われなかった。
ヘタレに何もする勇気はないと家族は分かっているし、お姫様も何かされそうになったら──すると言っていたし。
……何か俺だけひどくないだろうか?
気のせいだよね? ねっ?
※
パパンとママンは『ふーん』と残して消え、一愛だけが俺たちの前に残った。
そして俺の淹れてきたココア(俺の分)を飲みながら、喋り始めた。
「まずは、お名前からお願いします。私は白夜 一愛と申します。いちおうソレの妹です」
「ルシアです」
「ルシアさん。ご職業は何を?」
「……職業? いえ、働いてはいないです」
何故だかテーブル越しに一愛とルシアが向かい合って座っていて、事情聴取のようなやり取りが始まった。
ちなみに俺は、冷たい床に正座させられております。発言は許されていません。
「しかし……ずいぶんと豪華な部屋に住まわれているようですが?」
「それは父が王様だからだと思います」
「なるほど。お姫様であるというわけですね。なるほど、なるほど。お歳は?」
一愛はクローゼットを通り抜け、お姫様のお姫様な部屋を見てきている。
異世界とかいくら口で言っても、本当だとは信じていなかったのだろう。だが、見てしまったからには認め、事情聴取をすることにしたらしい。
「14歳です。今度15になります」
「私と同じ中3であると……つまり未成年。やはり犯罪なので通報しますね」
いや、通報はやめよう。そして今の話は本当?
名前だってつい先日まで知らなかったんだから、年齢なんて情報はさらに知らない。
一愛が今言わなかったら、いつ知ることになっていたのかも定かではない。
「おまえ、一愛と同じ年齢だったのか。歳下? 歳下だったの!? すげー、ビックリなんだけど!」
「おまえはだまってろ。お姉ちゃんにチクるぞ」
「いや、ルイは知ってるよ。異世界は言ってないけど、ヒメちゃんは知ってる」
「……えっ? お友達のヒメちゃんなの?」
幼馴染と仲のいい一愛は、友達だとお姫様のことを聞いていたようだった。
それで何故だか妹は納得し、お姫様と2人で可愛い動物の動画を見ていましたとさ。
えーと、この話はこれでお終いです。
俺のタブレットは、お姫様と妹と共用されることになりました。納得はいかないけど、物理攻撃が恐ろしいので何も言えません。
というわけで、──次は天使のターン!
あの日、俺はバイトが休みで、学校が終わるなり早々に帰宅。自室で動画を観るのに忙しかった。
あの日まで、自室で動画を観ることはできなかったんだ。家にWi-Fiないし、俺にはスマホしかなかったから。
そしてWi-Fiなしで動画なんて観れない。わかるよな?
しかし、あの日は念願のタブレット端末を手に入れ、Wi-Fiも自室で使えるようになった日だったんだ。だからこそ、家に早く帰った。
Wi-Fiの導入に関しては、家族全員に恩恵があるのだから誰も異論は無く、金も俺持ち。
異論なんてない。あってたまるか!
まぁ……自室で動画を観ていた。言いたいのはそれだけだ。
じゃあ、そろそろ説明するよ?
♢2♢
「──もっとそっちに寄って! あたしが見えないじゃないの!」
「…………」
「かわいいわね、猫。こんなのが沢山あるなんて、ずっと観てられる」
やあ、突然だが俺の今の状況を説明してやろうか?
俺の部屋で、お姫様ことルシアと2人で、可愛い動物の動画を観ている。
お姫様は猫派らしい。友達にもネコミミがいるからかな。しかし、問題はそこではない。
「なぁ、少し離れないか?」
「離れたら見えないじゃない。それにこの部屋、寒くて無理!」
問題は、俺のベッドに2人してうつ伏せになり、隣同士で動画を観ているということです。
これはなんなんでしょう。先ほどからボクは、すごくドキドキしています!
寒いのも否定できない。部屋の唯一の暖房である、石油ファンヒーターもついてないからだ。
俺の部屋にエアコンはない。この家にエアコンは、茶の間にしかないんだ。
それに、部屋が寒いのも理由がある。だって俺は、動画を観ながら寝るつもりだったんだ。
灯油もったいないし、布団に入ってぬくぬくとタブレットを操作していたんだ。
そこにお姫様がやってきて、タブレット端末に興味を示した。
そんな彼女に俺はタブレットを自慢げに自慢し、お姫様は可愛い動物たちの動画に食いついた。
それでね──。
あろうことか、お姫様は俺の布団に潜り込んできたんだ。どうなってるの!? 彼女の危機感とか!
確かに、俺ではお姫様には敵わないよ。それにしたって……ねぇ?
「──次よ、次! 他の動物も見たいわ。早く検索して」
「ちょっと自分でやっててくれ。俺が悪かった。ヒーター付けてテーブルに移動しよう。飲み物取ってくる」
「そう? 悪いわね。あったかいやつね」
「あぁ、わかった」
飲み物を取ってくると言って部屋を出て、廊下の寒い空気を一気に吸い込み、なんとか落ち着こうと俺は試みた。
平静を装っているのも、限界だったからだ。
「……」
あーーっ。あいつはどういうつもりなんだーー!
俺が異世界に行かなければ、向こうから来る。それはいい。
しかし、ベッドに入り込んでくるとか! 俺はそんなことしたことないよ!?
お姫様は風呂上がりなのか、いい匂いするし! 寝巻きは薄いし! 危機感もないし!
男子なんだよ。プロデューサーという肩書きの前に、男子高校生だから!
「はぁ……はぁ……」
俺が理性的な男でなかったら、どうなっていることか。だが、限界というのはあるんだ。ヤバかった……。
物理的には勝ち目がない。すぐ手が出るからな。それに、変なことして……──っ、なんでもない!
「いかん。本当に何か飲んで落ち着こう」
そんなつもりはなかったんだけど、付けてきたヒーターが部屋を暖めるのにも、俺が変な熱を冷ますのにも時間が必要だった。
お湯を沸かして、ココアを2人分用意するくらいの時間は必要だったんだ。
※
熱々のココアを2人分。家族にバレないように部屋へと運ぶことに成功した。
1人のはずなのに、両手にカップ持ってるのは不自然な感じだが、上手くいった。
エアコンのある茶の間には、パパンとママンがまだいたが、特に何もなくスルー。
茶の間にいたと思った、やっかいな妹も部屋に帰ったらしい。詮索されなくてよかった。
「ほらよ、熱々のココアだ。火傷しないように……いないんだけど。そしてタブレットがない!」
部屋に戻ったら、ベッドに入り込んでいたお姫様はおらず。電気、ヒーターがつけっぱなし。
あぶねーな、と思いつつさらに状況を確認する。
「お姫様はいないが、クローゼットは少し開いてる。なるほどなるほど。タブレットを持って帰って動画を見ようとし、一度はクローゼットを閉めたが、電波とWi-Fiが切れて動画が見れなくなり、仕方ないから隙間を開けておいたというところだな」
俺の部屋のクローゼットは異世界へ。お姫様の部屋のクローゼットへと繋がっている。
急にどうかしたわけではなく、忘れている人のための説明だ!
クローゼットが開いている間は世界が繋がっていて、閉まると繋がりがなくなる。
そして俺の部屋は鍵が付いてないが、お姫様の部屋には鍵が付いてる。
お姫様はいつもなら鍵をかけるところが、動画見たさにこうなったわけだ!
犯人は重要なところでミスをしました。俺が優しいだけの男だと思っていたらしいです。
「──それは俺のだ。大人しく返せ! そしてもう寝ろ。お姫様はとっくに寝る時間だよ!」
クローゼットが開いているなら向こうに行き、力ずくで取り返すまでだ。俺がタブレットを買ったのに、ろくに見たかった動画を観ていない!
動物動画も嫌いではないが、それはそれだから。
何より、やはりこうでなくては。あんなドキドキするのはらしくない!
「……あんたがもう寝たら? これはしばらく借りておくわ。そのうち返すから」
「ジャ◯アンの理論じゃねーか! 絶対返さないやつのセリフだぞ。それは!」
そんな理論を振りかざす、横暴なお姫様。
自室のベッドで優雅に寝っ転がり、新たな可愛い動物の動画を見ていたお姫様を急襲し、タブレットを奪いとる。
いかにルシアが鬼強くても、起き上がってすらいないなら、俺にだってこのくらいはできるのだ。
「乙女のベッドに入ってくるなんて何を考えてるの。引っ叩くわよ!」
「自分はどーなんだよ。俺はのっただけ。おまえは完全に潜ってたからな? とにかくだ。これは返してもらう!」
あとは逃げるが勝ちだ。俺の側から鍵はかけられないが、クローゼットを開かないようにすれば諦めるだろう。
今日はやられっぱなしだからな。このくらいはやり返さないといけない!
「──逃げられるわけないじゃない。あたしに勝てると思ってるの?」
「──速っ! クローゼットを閉める間も無く、肩を掴まれるだと!? バカな、お姫様はベッドから出てすらいなかったのに……」
あの位置から一瞬で追いつかれ、掴まれた。
瞬間移動でもしたみたいだが、風圧を感じたので瞬間移動ではないらしい。
この戦闘力の差はいかんともしがないが、ここで譲ったら、俺はの◯太くんになってしまう。
「それでもこれは渡さん!」
「ちょっと貸してくれたっていいじゃない!」
渡すまいとする俺。奪い取ろうとするお姫様。
精密機器であると理解しているのか、お姫様はあまり力を込めていない。
だからなのか力は拮抗し、もつれ合い、ひょんなことからタブレットがすっぽ抜けた。ツルッといったんだと思う。
「うぉ──」「きゃ──」
互いにそう声を出し、俺のベッドへと2人して倒れ込み、勢いあまって頭と頭がぶつかる。
「いてっ」
そんな時だった。『──ドタドタドタドタ──』と聞こえてきたのは。すぐに部屋のドアが開き、
「今、何時だと思ってんじゃーー! れーと、さっきからうるさい! バタバタと1人で何をやってんじゃーー!」
パジャマな妹。一愛ちゃんが現れた!
一愛はまずベッドにいる俺を見た。次に隣にいる、未だに起き上がっていないお姫様へと視線が移っていく。
その顔は怒りから、無に……真顔になっていく。
「「……………………」」
「いったーーっ、何すんのよ!」
何も言えない俺と、何も言わない妹。
その沈黙をお姫様が破った。
「おとうさーーん。れーとが部屋に女の子を連れ込んで、ちょっと一愛の口からは言えないことしてるーー!」
「──待って、何もしていない!」
「おかあさーーん。女の子は痛いと言ってるのに、れーとは何もしていないと言ってるーー! 警察呼んで警察」
「呼ぶなーーーーっ! 何故、おまえは何より先に警察に行こうとする!? 話くらい聞いてくれてもいいじゃない!」
突如として現れた妹は、本当に警察が必要かのように大声で訴える。
もうバッチリ見られてはいるが、身に覚えのない罪を負うのはお断りしたい。あと、自分が一番うるさいと自覚してもらいたい。
「そして話をしようと言って、一愛も部屋に連れ込まれる。助けてーー」
「お前は大声で何言ってんだーーっ! 自分から部屋に入ってきたし、自分でドア閉めたんだけど!? 何もかもが違うからな!」
「……誰? そしてなに?」
突如現れた一愛に、身体だけ起き上がったルシアはそう口にした。いや、これさ……。
「全部、おまえのせいだーー!」
こうしてお姫様のことと異世界のことが、家族にバレた。仕方ないじゃん。しらを切れば警察沙汰だよ?
なので正直に言って、お姫様からも説明していただいた。
「「「ふーん」」」
両親と妹からの反応はそれだけだった。
部屋でのドタバタも、女子側が何もされていないと証言してくれて、俺は罪に問われなかった。
ヘタレに何もする勇気はないと家族は分かっているし、お姫様も何かされそうになったら──すると言っていたし。
……何か俺だけひどくないだろうか?
気のせいだよね? ねっ?
※
パパンとママンは『ふーん』と残して消え、一愛だけが俺たちの前に残った。
そして俺の淹れてきたココア(俺の分)を飲みながら、喋り始めた。
「まずは、お名前からお願いします。私は白夜 一愛と申します。いちおうソレの妹です」
「ルシアです」
「ルシアさん。ご職業は何を?」
「……職業? いえ、働いてはいないです」
何故だかテーブル越しに一愛とルシアが向かい合って座っていて、事情聴取のようなやり取りが始まった。
ちなみに俺は、冷たい床に正座させられております。発言は許されていません。
「しかし……ずいぶんと豪華な部屋に住まわれているようですが?」
「それは父が王様だからだと思います」
「なるほど。お姫様であるというわけですね。なるほど、なるほど。お歳は?」
一愛はクローゼットを通り抜け、お姫様のお姫様な部屋を見てきている。
異世界とかいくら口で言っても、本当だとは信じていなかったのだろう。だが、見てしまったからには認め、事情聴取をすることにしたらしい。
「14歳です。今度15になります」
「私と同じ中3であると……つまり未成年。やはり犯罪なので通報しますね」
いや、通報はやめよう。そして今の話は本当?
名前だってつい先日まで知らなかったんだから、年齢なんて情報はさらに知らない。
一愛が今言わなかったら、いつ知ることになっていたのかも定かではない。
「おまえ、一愛と同じ年齢だったのか。歳下? 歳下だったの!? すげー、ビックリなんだけど!」
「おまえはだまってろ。お姉ちゃんにチクるぞ」
「いや、ルイは知ってるよ。異世界は言ってないけど、ヒメちゃんは知ってる」
「……えっ? お友達のヒメちゃんなの?」
幼馴染と仲のいい一愛は、友達だとお姫様のことを聞いていたようだった。
それで何故だか妹は納得し、お姫様と2人で可愛い動物の動画を見ていましたとさ。
えーと、この話はこれでお終いです。
俺のタブレットは、お姫様と妹と共用されることになりました。納得はいかないけど、物理攻撃が恐ろしいので何も言えません。
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