連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

KZ

文字の大きさ
26 / 101
天使のホワイトデー

天使が憤っていた理由

しおりを挟む
♢14♢

 天使はお姫様のところに来た時点で怒っていた。いや、正確にはチョコレートが届いた時点でだな。
 これが元から不仲なヤツらなら特に不思議はない。

 しかし、仲が悪いヤツにそもそもチョコレートは贈らない。『この機会に仲良くなりたいからじゃないか?』とも考えられたが、それも違った。
 お姫様が天使にチョコレートを贈った理由は未だに不明だが、天使が最初から憤っていたのは、もっと別な理由があったんだ。

「まさか室外まで蹴り出されるとはな。少しは手加減してくれて良かったんだぞ」

 お姫様に室内から室外へと蹴り出されたモンスターペアレントこと、ミカエルという名の天使のおっさん。
 クソ執事いわく、マジもんのミカエルさんらしい。

 お姫様に壁をぶち抜く威力で蹴り飛ばされたのにピンピンしている、そんなモンスターペアレントから聞いた話だ。
 これで足りなかったピースが埋まった。

「ルシア。覚えているか? ミカエラとここで最後に会った時の事を……」

 モンスターペアレントが言った最後とは、ミカが遊びに来た今回のことではなく、それより前のことだ。
 遊びに来ていたのはもう昔のこと。その後、お姫様たちは時折顔を合わせるだけだったらしい。

 あとモンスターペアレントについてだが、クソ天使と表記してもいいが、クソ執事と被ってしまう。
 なので、クソ天使とはせずにモンスターペアレント。または、おっさんと表記する。

 俺はだいたい中年はおっさんと表記する。
 だって、『おっさんはおっさん』だから。
 紛らわしいかもしれないが宜しく頼む。

「その日。帰る時間となってもミカエラの姿は見えなかった。何故ならオマエと2人で画策し、帰りたくないをアピールするために2人で隠れていたからだ。皆が城中を探すも、見つけるには至らなかった」

 当時、一桁の年齢の2人にしては良く考えたのだろう。帰るのが遅くなれば、今日も泊まっていきなさいと言われると考えたわけだ。
 それが毎日続けば、ずっと一緒にいられるとな……。

「だが、どちらが言い出したのかは知らぬが、一度様子を見てこようとなった」

 誰にも告げず姫2人が城から失踪。これでは騒ぎになったのは明らかだ。
 実際、城は大変な騒ぎだったらしい。

 隠れていた場所にも、そんな声が聞こえたのかもしれない。子供だから単に寂しくなったのかもしれない。
 すぐに戻ると言い、お姫様が1人様子を見に出て行った。

「そこでルシアは母親に捕まり、部屋に連れ戻され、ミカエラは居場所がバレ確保された。そんなことがあったのを覚えているか?」

 これは大人から見た事の顛末だ。当事者の2人の気持ちとかは含まれていない。
 お姫様は親に叱られ、無理矢理にでもミカの居どころをはかされた。

 ミカからすれば様子を見に行ったお姫様ではなく、自分を探していた大人たちが隠れ場所に現れる。
 そして今回のように嫌々、連れ帰られたわけだ。

「ミカエラは、『ルシアが居どころを言ったんだ!』そう口にした。何も間違いではないが……」

 お姫様も親に問い詰められて、黙秘はしていられなかったんだろう。
 王様はお姫様に対して『あまあま~~』だが、母親はどうも違うようだ。俺はできれば会いたくないなぁ。

「あの子からしたら裏切られた。そう思ったのかもしれん」

 そうだったんだろう。
 一緒だったのに。明日も遊ぶと約束したのに。
 その明日は来なかったんだから。

「ミカエラはずっとそれを身の内にしまっていたようだ。学校に行かなくてはいけないというのもあったのだろう。ついには、遊びに行くとすら言わなくなった」

 お姫様からのアクションがあったから、今回ミカはやってきた。なければ顔を合わすこともなかったかもしれない。
 学校も忙しかったのだろう。姫的な仕事もある。何より、その最後を思い出してしまう。

「昔からケンカが絶えんオマエたちだが、それだけではないと知っている。ミカエラが姉ぶり、ルシアが反発するのも変わらんだろう。しかし、アレはルシアとケンカしている時が一番イキイキしていた。今とは違ってな」

 顔を合わせればケンカばかり。
 理由などあってもなくても大差ないのかもしれないけど、本当はそれだけじゃなかったはずだ。

 喧嘩するほど仲がいいと、そういうことだな。
 あれはもう病気なのかもな。何としても張り合いたいのだろう。
 その時間が今となっては唯一、昔のようにいられる時間だから。

「ケガなど1日2日あれば治る。だが、もう休みのやり直しは効かんのだ。天使長というヤツは、ミカエラに限り融通が効かん。それはもう驚くほどな。アレが憎らしいんじゃないかと、薄々思っているほどだ」

 それは知らないわーー。このおっさんが天使長にモノ言えないのが、一番の問題だと俺は思うよ?
 このおっさん。威厳あったのは最初だけだな。

 顔は怖いがなんやかんや娘にあまいし、真顔でふざけてくるし。
 お姫様に蹴られて、頭から地面に埋まってもピンピンしてるのは本当にビックリだけどね!

「今回はミカエラに非がある。しかし、発端はそれ以前にあったのだ。娘を庇うつもりもないが、オマエが知らぬことだろうと思ってな。それをわざわざ伝えに来た」

 これは嘘だ。本当の本当は、姫がケガして帰ってきたから黙っているわけにはいかなかったんだ。
 何もしないでいられる立場の人ではないし、何もしなかった場合、勝手に何かしようとする動きがあったようなんだ。

 おっさんは一言もそれを言いやしなかった。カッコつけやがってーーっ。
 これではクソ天使などとは呼べないではないか。

 クソ執事の言っていたシコリ。
 天使と悪魔間にあるそれが表に出ることはあってはならない、か。
 なら、どうするべきか……。


 ※


「カッコつけるだけつけて帰りやがったな。悔しいが大人なおっさんだった」

「……それ、同じこと2回言ってない?」

「同じじゃないだろう? 大人イコールおっさんではない。おばさんとか、おじいちゃんとか、おばあちゃんもいるだろ」

「別に何でもいいわよ、そんなこと」

 自分で言ってきたくせになんなんすかね。
 新たにぶっ壊された……いや、自分がぶっ壊した壁を見ながら、お姫様はずっと黄昏ていた。
 ミカエルのおっさんの話を聞いてから、何も言わないし動かないから心配になっていたんだが、大丈夫そうだ。もう調子を取り戻したらしい。

「それで。どうするんだ? ルシア」

「初めて名前で呼んだわね。大分時間がかかったこと」

「……どうするんだ? お姫様」

「はぁ……。まだまだ時間が必要みたいね」

 そんな気がしたんだよ! 今ならいけるって!
 でも、その返しは予想外だよー。これじゃあ、いつになってもルシアとは呼べないよー。

「おじ様の話を聞けて良かった。理由があったんだと知れたから。ミカは一言も言わなかったのよ。けど、あたしみたいに無視したりもしなかった。これじゃあ、姉ぶられてもしょうがないわ」

「よし、プロデューサーの出番だな! バレンタインでは助けてもらったからな。任せておきたまへ」

「あんたの手なんて借りないわ。やることは分かってるもの」

「そんな……やっぱり俺は必要ない……。今日もまったく役に立ってないのに……」

 お姫様にもいらないと言われたら、俺はどうしたらいいの? 引退か? もうプロデューサーは引退か?
 失敗ばかりでパッとしないし。イケメンにいいとこ全部持っていかれてるし。いらない子なのかな……。

「冗談よ。味見くらいはしてもらうわよ」

「──ビックリさせんなよ! いらない子なのかと思ったよ! んっ、味見?」

「もう一度作ればいいのよ。チョコレート。たったそれだけのことだったのよ。それを嫌な態度をとって、ミカにケガまでさせてしまったわ。あいつは謝りになんてこないでしょうから、あたしから謝りに行く」

 なんていうか逆転の発想だね。
 これまで誰も考えもしなかっただろうね。
 謝りにはこないから、こちらから謝りに行くとか。

 だけど、実にお姫様らしいと思う。
 ミカも十分悪いのだが、それを言うこともしないとは。流石は姫。その心はまさに姫だね。
 これでこそ我らがお姫様だね。

「ひな祭りにはケーキもあるのよね。ルイに頼んでチョコレートケーキを教えてもらおうかしら」

「また、ルイちゃんのチョコレート講座すか? 俺がイジメられるからイヤなんすけど……」

「誰も参加しろだなんて言ってないじゃない。あんたには別にやってほしいことがあるわ。一愛いちかにも頼まなくちゃ」

「えーーっ、別の作業とかいやだ。俺もそっちがいい」

 あの顔、絶対にめんどくさいヤツやで。
 あんな顔してるやつからは、ろくなことを頼まれないと思う。このパターンは断らなくてはいけない!

「これはプロデューサーへの命令よ。逆らうなら────するわよ?」

「喜んでやらせていただきます! 誠心誠意取り組ませていただきますので! お姫様万歳!」

 ────されるくらいなら、やります。
 ────が何かって? ……知らない方がいい。知らないでいた方がいいよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...