異世界無宿

ゆきねる

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第二十八章 梅雨が明けるまで

第五百八十四話 打ち上げ

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「これほどの代物を受け取ったのだ、礼をするのが筋というものだな」

魔王2人はイズミのショルダーバッグに手をかざすと、アイテムボックスに干渉して2丁拳銃用のホルスターを取り出した。
マスタングのトランクに置いていた2丁拳銃をホルスターに納めると、青紫色の光に包まれる。

「イズミよ、装着したまえ」

「分かりました」

イズミは魔王から促されるままにベルトホルスターを装着すると、身体に吸い込まれるようにして消えてしまった。

「な!?」

「心配するでない。あのホルスターに魔法をかけた…今後はイズミがホルスターに付けている武器を使いたいと念じれば、例え外部から魔法を封じられていようと身体を拘束されていようと、いつ如何なる時でも実体化出来るようにしたのだ。背中側に隠した、もう1つの銃もな」

イズミはものは試しと軽く念じてみると、なんの違和感も無くホルスターが実体化された。
更には右の拳銃だけや、バックアップのリボルバーだけと言う特殊なオーダーすら完璧に対応したのだ。
更には予備の弾倉をまとめていたポーチもカスタムされており、ベルトに装着してあるのは弾倉2個用のポーチに変更され、ショルダーバッグから自動的に補給される機能まで搭載されていた。

イズミからしたら有難すぎるカスタムである。

「ショルダーバッグ内の在庫が空になったら、アーティファクトから直接補給も出来るぞ。これは銃に対する礼だ。バイクの礼は…そうだな、この世界で寿命を迎えたら、魂を聖樹に預かってもらうように手配してやろう。異世界から正しい手順で転移をしていない魂は、死んだ後の行き先が無いのでな」

「聖樹にですか」

「行き先が無いと消滅するのだが、そうなるとイズミのもたらした全ての物が消滅するのだ。それは我としても旨味が無い、我々から創造の女神への嫌がらせも兼ねた礼になる」

魔王の説明によると、自分の魂がこの世界から完全に消滅した場合、マスタングやマスタングで実体化した物が全て消滅してしまうらしい。
それだとグラテミアに渡したネックレスやレシピ本も消えてしまうので、イズミとしても美味しくはない。

「イズミよ。異世界から持ち込んだオリジナルの私物はあるか?」

「あるにはありますが…」

イズミは久し振りに宝物の腕時計をマスタングから取り出した。
角形のクロノグラフ腕時計だ。
魔王はこの腕時計にも魔法をかけた。

「生きている内に活用する事は無いだろうが、誰かに預けた時に便利な魔法を掛けておいた。魂だけの存在になっても有効だ」

前魔王の説明によると、イズミとマスタングの存在を魔力レベルでリンクさせており、生前でも死後でも腕時計を経由してやり取りが可能になるそうだ。

「これで聖樹の元で暇になっても、この腕時計を預けた者とは連絡が自由に取れる。マスタングは腕時計の近くであれば実体化も出来るだろう、イズミは何か魂を入れる器があればだな」

「そこまでする事は」

「何を言っている。魔王たる者に異世界の技術の結晶たる品々を献上した男に対して、それ相応の礼をしたまでの事だ」

腕時計を経由してアレコレ出来るようになると言う事は、宝物である腕時計を誰かに渡しておかないと活用出来ないと言う事だ。
つまりマスタングに仕舞ったままでは駄目になってしまった。

今の時点で預けておける人物で思い付くのは、グラテミアくらいである。
これは明日以降に相談してみるとしよう。

「イズミよ、そろそろ戻るとしよう。まだ酒盛りは終わっていないぞ」

魔王2人は壁をすり抜けるようにして酒盛りの席へ戻っていってしまった。
イズミはマスタングのトランクを締めてから、宝物の腕時計をマスタングに仕舞った。

「全く理解が追いつかん。死んだ後の話までされても、何も実感も湧かない」

イズミは口直しに軽くドワーフ酒を飲むと、酒盛り中の家に戻るのだった。


ヒュミトールで行なう最後の酒盛りは、用意していた酒が全て底を尽きてからが本番だった。
男神様達は勿論、魔王様も精霊達もイズミのアーティファクトであるマスタングが酒を出せる事を知っているので、異世界の酒へと手を伸ばし始めたのだ。

イズミが腕時計を見るとまだ夜の8時を過ぎたくらいであり、皆が過去4回行った酒盛りよりもハイペースで飲んでいるのが分かる。

「…今回は特別ですよ」

マスタングに頼んで大量の酒を用意すると更に盛り上がり始めて、イズミとメーレルはカクテル作りに集中する事になった。
ベリアとオリヴィアも途中まではグラスを運んだり洗ったりしてくれていたが、流石に疲れているのが分かる。

完全にお開きになったのは、日が変わる少し前の事だった。

「…終わったな」

「イズミ、マジで疲れたんだけど」

片付けを終えたメーレルとロレッタは一足先に帰っており、明日改めて屋敷にて話をする予定に調整をしてはいるが、家に居る3人は疲労困憊である。

「お二人さん、何か飲むか?俺達だけの打ち上げがてら、作るよ」

「良いのか?なら先ずはジントニックが良い!」

ベリアはテーブルに倒れ込んでいた身体を起こすと、元気にジントニックをオーダーする。
オリヴィアは飲んだ事が無いが、同じものをとオーダーした。
今回は全ての材料をマスタングに実体化してもらったが、いずれは異世界の材料だけでも容易に作れる環境になって欲しいものである。

「おまちどうさん…それじゃ皆、お疲れ!」

「「お疲れ!」」

3人がグイッとジントニックを飲むと、脱力するようにため息をついた。

「やっぱ美味いなぁ!単にドワーフ酒を飲むのとは全然違うぜ」

「キツイ酒かと思ったけど、飲みやすいね!冷えてるのが疲れた身体に染み入るよ」

オリヴィアはメーレルが何度も何度も作っていた、ジントニックなる飲み物が何故神々や精霊達に人気なのかがようやく分かったようだ。
少し緊張がほぐれているのか、レザースーツのジッパーを気持ち下ろし気味であり、臍がギリギリ見えない程度にまで下ろしているので目のやり場に少し困った。

「これで梅雨明け迄はほぼフリーになったな」

「ほぼって事は、何かやる事自体はあるんだな?」

「小物作りがちょっとな」

「細かい作業はパスで」

ベリアはイズミが見せたブレスレット用の石を見ると、即答で断りを入れた。
どうも苦手な分野のようだ。

「時間がある時に、まったりと作るさ」

「運動不足は?」

「…それも頑張るとしよう」

万年運動不足な身体では、やはり戦闘後は筋肉痛で辛いのだ。
日常生活に運動を盛り込んで、健康維持もしつつ肉体の改良をする必要がある。

「だったらアタシが運動メニューを考えるよ」

「オリー、本当にお手柔らかに頼みたい」

「しっかりとベリアさんと一緒に考えるから、安心して」

「オリヴィア、アタイの呼び方はベリアで良いぞ。さん付けはなんかゾワゾワしちまって駄目だ」

少しづつだがベリアとオリヴィアの距離感は近くなっているようだ。

「そう言えばオリー、加護を授かったらしいが実感は?」

「うーん…今のところは、特に何も」

「説明も無かったのか?」

「旅をしていればいずれ分かるとだけ」

「旅をしてれば、か。魔物を討伐したり、ベリアに同行する形でダンジョンに入れば何か分かりそうだな」

イズミは自分用のドワーフ酒をテーブルに置きながら呟くと、ベリアから指摘が入った。

「まだオリヴィアの武器も買って無いだろ」

「そうだった、武器無しじゃ話にならないな。オリー、今度武器屋に一緒に行こう」

「分かったよ」

軽い打ち上げのつもりだったが、腕時計を見ると日を跨いでしまった。
明日は明日で予定があるので、3人は程々の飲みで切り上げて眠り支度をするのだった。
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