異世界無宿

ゆきねる

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第十七章 臨時の同盟

第二百四十二話 女神は酒を所望する

ベリアが炭化した木材の処理をしていると、ふいに虚空を見つめだした。
一点をジッと見つめ、動きが完全に止まっている。

「どうした?」

「いや、なんか視線を感じてな…」

ベリアは目を細めて確かめているが、イズミには何も無いように見える。

「ずっと見られてる気がするんだよなぁ」

細かに調べているものの、手掛かりになりそうなものは無い。
あぐらをかいたベリアが、分からんと言って頭をかいた。

「俺も分からん」

イズミはメガネを掛けてベリアの近くを見てみたが、それらしい気配は視覚化されなかった。

「マスター。精霊や妖精の類いの可能性があります」

「ジーヴルやアルハみたいな?」

「あの方々は上位存在ですので例外となります。マスターには見えないかもしれませんが、ベリア様なら見えるかと」

マスタングがメガネを1つ実体化させる。
黒縁の有名サングラスにソックリだが、レンズはクリアの度無しである。
試しにイズミが掛けてみるが、何も変化は見られなかった。

「ベリア?コレを使ってみてくれないか」

「何だソレ?こう使うのか?」

メガネを受け取ったベリアが、イズミのレクチャーを受けてメガネをかけた。
装着者の魔力を受け取ったメガネが淡い光を放つ。

「コレをどう使うんだ?…ぉ?」

ベリアが視線を感じる場所を凝視すると、また動きが止まった。

「居る!何か居るぞイズミ!」

尻尾をピンと立たせたベリアが何かが居ると言う場所へと歩き始める。
魔力を吸収したメガネの効果で、通常では見え難い存在の姿がぼんやりと見えている…らしい。

「ベリア様、もう少しメガネに魔力を流せば姿もより鮮明に見えます」

マスタングの助言を聞いたベリアが両手でメガネに触れ魔力を注ぐと、メガネ越しに見える世界が大きく変わった。

「…すげぇ光景だ」

驚きのあまり口をアングリと開けたまま、ゆっくりと周囲を見渡し始める。
ベリアが右手を伸ばすと特に何も見えない空間が光りだし、そこから精霊の様な存在が姿を現した。

精霊はベリアの掌の上に座り、何か話をしているようだ。
何故イズミにも見えるのかは、全くの謎である。

「ベリア、掌に居るのは?」

「あぁ。風の女神様の遣いで、アタイ達を観察してたんだって。イズミにも見えてるのか?」

「突然な」

掌からフワッと浮くと、イズミの目の前まで移動してグルグルと品定めをするように見つめる。
そのままベリアの掌まで戻って行った。

ベリアは精霊から何かを聞いているようだが、イズミには何も聞こえて来なかった。

「イズミ。この子か仕える女神様が、話題のお酒を欲しいって。対価は支払うって言ってるけど」

「酒かい…俺は対価を貰っても何にもならないしなぁ」

イズミはマスタングに頼んで酒瓶を1本実体化させると、ベリアに渡してから掌に座る精霊に話しかけた。

「その酒が精霊界隈で噂の品です。対価はベリアに渡して下さい」

『…ありがとう。そう伝える』

イズミの脳内にそんな言葉が伝わって来たので精霊を見ると、酒瓶を持って風の中に溶けるように消えてしまった。

次の瞬間、イズミ達の回りに突風が吹いた。

「ジーヴルが熱心になるのも分かるわ」

そんな声と共に、目の前に白いドレス姿の女性が現れた。
その左手にはグラスを持っており、恐らく中に注がれているのは先程渡した酒だと推察出来る。

「貴女がベリアね…風と火か。ならば対価には風の加護を与えよう」

女がベリアに右手をかざすと、ベリアの全身が光りに包まれる。

「これで良し」

「…遠くの風の動きが分かる」

光が消えるとベリアは遠くを見つめ、小さく呟いた。

「我が名はウィンニルと呼ばれておる…この世界を生きる者は、我を風の女神と呼ぶ。また会おうぞ、理の外からの来られし者よ」

そう言い残すと、イズミ達の話は聞くこと無く居なくなってしまった。

風が1つ吹くと、2人に向けて声が聞こえた。

『またお酒が欲しくなったら声をかけるから、その時は宜しくね』

イズミもベリアもあまりにもスピーディーな出会いと別れに呆然としながらも、何とか意識を取り戻した。

「アタイは、生まれて初めて女神様に会ったぞ」

「そりゃあ、何よりだ。とりあえず町へ戻るか」

イズミはベリアの肩を軽く叩くと、マスタングの元へ歩き出す。
ベリアは一度周囲を見渡してから、イズミの後を追いかけて行く。
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