異世界無宿

ゆきねる

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第二十二章 一斉捜査

第三百六十八話 伝わらぬ価値観

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イズミが立ち上がりマスタングの元へ歩き出すと、冒険者ギルドの人間がキマイラの解体を開始した。
どうやらイズミの手向け中は待っていてくれたのだ。

「イズミ、キマイラの素材だけど冒険者ギルドが買い取る気満々だぞ」

「そんなに活用先があるのか?」

「蛇の尻尾からは解毒剤、牙は装飾品、革は色々と使えるし、髭は楽器?とかに使うらしいぞ。キマイラ肉は上質らしいけど、この大きさだとどうなのかな?」

ベリアの説明を聞く限り、上級魔物の素材は希少性と性能の高さで高値での取り引きになると言う。

「キマイラの素材を買い取って、それを売った利益から防壁の改修費に充てたいんだとさ…討伐したのはアタイらだから、一通り解体して素材を採ったら一覧として提示するから、改めて相談させて欲しいって」

「一段落したらな」

イズミはマスタングに乗り込むと、モニターで新規で実体化させた武器を再実体化リストから外した。
今回のような巨大な魔物が相手の場合以外では、あの巨大武器はまともに扱える代物では無いのだ。

「これでよし…一仕事したら腹が減ったよ」

ショルダーバッグに仕舞っていたパンを取り出すと、キマイラを解体中の作業員を見ながら食事をする。

「アタイも結構魔力を使ったから、一気に疲れちまった」

ベリアが助手席に乗り込むと、大きなため息をついて水筒の水を飲む。

「何とかするって言いはしたが、あの巨体を倒せたのは幸運だよな」

「普通に戦ったらこの程度の被害じゃ済まないぞ。町が壊滅してもおかしく無い」

「そうは言っても犠牲者はいるんだ、キマイラを呼び寄せた奴には対価を支払って貰う処置を頼みたいね」

テキパキとした作業でキマイラが解体されてゆく。
いつまでも防壁の外にいるのも変なので、一度冒険者ギルドの馬車置き場へとマスタングを移動させる。

馬車置き場にマスタングを停めると、ソフィアから魔法通信が入って来た。

「イズミさん、今は大丈夫かしら」

「大丈夫ですよ」

「私は証拠資料の回収を終え次第、部隊と共に戻ります。父上達と合流し資料のまとめをしますので」

「では一旦此処で別れると言う事ですか」

「一緒に行動していると、それはそれでイズミさんにも影響がありますし」

ソフィアはイズミの旅路に自分が関わっていると、厄介事が増える可能性を考慮し適度な距離感を保とうとしているように思える。

「ご配慮感謝します。私達はキマイラ討伐後の素材買取りが終わる迄は、この町に滞在しておきますね。その後ヒュミトールに戻ります」

「それが良いと思います」

魔法通信が切れると、イズミは賑やかさを取り戻しつつある通りを見つめた。

「イズミ…これ」

ベリアがアイテムボックスから酒瓶を取り出し、イズミへと手渡した。
キマイラへの手向けとして実体化した酒だった。

「あのまま置いておいたら、誰かが飲むかもしれなかったから回収したんだ。グラスに注いでた分は、勿体無かったけど地面に捨てたよ。ほとんど無くなってたけどさ」

「そうか…」

イズミは酒瓶を受け取ると、蓋を開けて香りを確かめる。
日本酒の柔らかな香りは殆ど抜けていて、何処か間の抜けた感じになっている。

「この酒は今飲んでも美味しくは無いかもな」

「そうなのか?」

「お供えしたからかな、間の抜けたというか…気の抜けたというか」

イズミは言葉を探しながら、自分なりに適切な表現を選んでゆく。

「キマイラの魂が天に帰る時、所持品が何も無いのは寂しいだろ?」

「…イズミ。キマイラは魔物だぞ」

「魔物であってもだ。討伐してハイお終い、解体して素材を売って金にしよう…とは余りなれなくてね」

「魔物ってのは異質な存在なんだ。そんな事をしても、なんにもならないと思うけどな」

ベリアが言うには、魔物はこの世界における異質な存在であり、魔力が溜まり淀む場所で発生する物らしい。
人間や獣人、エルフ族や魔族の様に子を宿し産むのとは全く別の存在であり、魔力が生み出す負の存在と言うのが一般的な考え方のようだ。

「それでも、何故か手向けとして供えた方が良い気がしたんだ。俺が昔聞いた話だと、死ぬ直前ってのは喉が渇くらしくてな…酒より水が良かったかな?」

「どっちでも良いんじゃないかな。アタイはイズミがそうしたいってんなら、別に気にしないけどさ」

「こっちには輪廻転生って考え方はあるのか?」

「輪廻転生?なんだそりゃ」

ベリアはまるで初めて聞いたかのような反応だったので、輪廻転生の考え方を持つ者は少数派なのかもしれない。

「…いや、何でもない」

イズミは酒瓶をショルダーバッグに収納すると、運転席のシートに身体を預けた。
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