異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
458 / 625
第二十五章 オブリビアダンジョン

第四百四十六話 事実に殴られたかの如く

しおりを挟む
お茶会もお開きとなり食器類を片付けていると、女神は御子達と少し会話をした後に野良猫と共に帰っていった。

完全に消え去ると部屋の扉が開かれ、シュナイダーが姿を見せる。

「そうか…帰られたから効果が切れたのか」

「何があったのか…ご説明いただきますよ」

「特別なゲストをお迎えして、ささやかなお茶会をしていただけですよ」

イズミは椅子に座ると、カクテル作りで余ったライムの汁を水に混ぜて飲む。
これはこれで良い、比率上薄いが爽やかな味わいである。

「この魔力の満ち方は尋常ではありません、正に異常事態です。お答え頂けないのであれば教会への反逆行為とみなし、貴方の身柄を拘束しあらゆる手段を用いてでも答えて頂く事にします」

「それが女神様のお導きか?」

「そうです。教会や国への反逆行為など、あってはなりませんので」

自信満々に答えたシュナイダーを、イズミは敵を殺す時の様な鋭い目で睨みつけた。

「女神ではなく、教会を信じている。か…確かにそのようだな」

小さく呟いたイズミは、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

「そんなだから招待状を貰えなかったんだよ」

「なにを!?」

シュナイダーの顔が真っ赤になり、今にもイズミに飛びかかって来そうである。

「シュナイダー様。私達は先程、女神様より『直接』祝福を授かりましたわ」

そう告白したのはセリーヌだった。
勝ち誇ったような笑みを浮かべ、シュナイダーの前に立ち言葉を続ける。

「女神様がお認めになられた美酒で盃を交わし、女神様が私達の目の前で描かれた図に沿って作られたメダルを、証拠として授かっておりますわ」

セリーヌの言葉を理解出来ないのか、シュナイダーは口をパクパクさせてはいるものの、言葉が出て来ていない。

メダルを目の前に出され、いよいよ理解の限界に到達したのかシュナイダーは尻もちをついてしまった。

「テレジア、頂いた羊皮紙を見せて差し上げましょう」

「分かりました」

テレジアが丁寧に仕舞っていた羊皮紙を取り出し、シュナイダーには渡さずに見せつける。
シュナイダーの視線はメダル用のレイアウトではなく、余白に描かれた魔法陣と文字に向けられている。

「信じられない…こんな事、信じられる訳が無い!」

完全に容量オーバーのようで、シュナイダーの表情がコロコロと変化しており、むしろ此方が心配になる程だ。
やがて燃え尽きたかのように、力無く動かなくなった。

「さて、帰るとしましょう。オブリビア調査は明日からですし、しっかりと休んでおくのが1番です」

イズミとベリアはテレジア達と別れの挨拶を交わしてから、借りている宿屋へ向かう。

「イズミ。アタイはほぼ確定でSランクになるだろうって、野良猫さんに言われたよ」

「そうか、お墨付きか。退屈しない人生を送れそうだ」

「他人事みたいに言うなよ、アタイはイズミとの旅から離脱するつもりはないからな。面倒事にも付き合ってもらうぞ」

「それが女神サイドの意向なんだろうよ。俺達は皆、女神様の掌の上で踊ってるのさ」

「…言えてるかも?」

「なら、派手に踊った方が楽しいだろ。それに、ベリアが居てくれると俺も助かる」

宿屋に到着したイズミは食事処で夕食を食べようとしたが、ベリアはお菓子で満足したらしく夜食を買って部屋に戻って行った。


その日の夜の事。
日が完全に沈み、光魔法で室内を照らしたテレジア達が夜の祈りを捧げていると、野良猫が姿を見せた。

「精霊様!」

「お茶会ぶりだな。女神様がコレを」

野良猫が何処からか実体化させたのは、メダル用の革紐だった。

「長い方が女神様より授かったメダルに使うようで、首掛けを想定しており日常使いに適しておる。横顔のメダルは短い方の革紐で、祈りを捧げる時に手に持っておくのが良いだろう…オブリビアの調査が終わったら、各々の気に入った紐に交換すると良いぞ」

「分かりました、ありがとうございます」

「それとな、今後はその横顔のメダルが作られる事は原則として無いだろう、そう指示を出した…この世界でお主ら3人しか持っておらん特別なメダルになったな。だが、もしも同じメダルを持つ者が現れたら」

「現れたら?」

「それは女神様からの緊急メッセージだと思う事だ。そのメダルを受け取ったら、速やかに女神様へ祈りを捧げ対処に動くのだ」

野良猫の助言を聞いた3人は、事の重大さに思わず息を飲む。

「教会の動きが遅いと思ったら、あの気楽者に取り次ぐつもりで祈りを捧げれば、我が話をしてやろう」

「気楽…者ですか?」

「現状あの特別な酒と菓子の唯一の出所であり、実はある女神様の所有物だ。奴は気付いておらんようだがな…この事は秘密だぞ?お主らは程良い交友関係に留めておくのが良いだろう、オブリビアでそれとなく恩を売っておけ。奴は義理堅い男だ、存命ならば必ず頼みに応えてくれよう」

3人は顔を見合わせてから、小さく頷いた。

「よろしい…して、聖魔法の特訓もしておくか?菓子と酒をを楽しめて機嫌が良いのだ、応用術を教えてやってもよいぞ」

そこから数時間、野良猫の聖魔法のスパルタ特訓は続いた。

後の時代において、あるハーフエルフの御子が書き残した回顧録にこう記している。

『野良猫の姿をした光の女神の眷属たる精霊は、稀に御子の前に姿を現し聖魔法の使い方を教える事がある。その特訓を乗り越えた者は大成を約束されたようなものだが、1人では心が挫けてしまうだろう。思い出すだけでも身震いがしてしまうほどに、非常に短期間かつ高負荷な特訓なのだ』
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵
ファンタジー
連日の残業で終電帰りのサラリーマン、神無月無名21歳。 ある夜、突然足元の光に包まれ異世界へと召喚されてしまう。 そこは豪華絢爛な王宮。 第一王女ラクティスは、彼を含む男女5人を「勇者」として召喚したと告げる。 元の世界では時間がほぼ止まっているという説明を受け、半ば強制的に魔国との戦いに協力することになった無名たち。 発現した無名の紋章は歴代でも最高クラスを示し万能の勇者と称され、周囲を驚愕させる。 元の世界への帰還を条件に口頭で協力を約束する勇者たちだが、無名だけは王家に対し警戒心を抱き、王に元の世界への帰還とこの世界で得た力を持ち帰ることを書面で約束させる。 協調性がないと周囲から思われながらも、己の最適解を優先する無名は、果たして他の勇者たちと協力し、魔国を打ち倒して元の世界へ帰ることができるのか。 それぞれの思惑が交錯する中、勇者たちの戦いが幕を開ける。 これは社会不適合者が歩む成長の物語。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

龍と旅する。

水無月
ファンタジー
治安が良くない島々や国を龍と旅する物語。 主人公たちが探すのは「龍の卵」。だがそれを狙うのは彼らだけではなく、「龍狩り」や貴族とも争うことになる。 出会いと別れを繰り返して、ロッドとレリスは大海原を渡る。 ・海龍 ロッド……最強。頼りになる。こいつ一人でいいんじゃないかと思われるが、とある理由からレリスと行動している。威厳のある話し方をするが、中身は幼い男の子。 ・人間 レリス……男性。人間基準で言えば強いが、あくまで人間の枠組みの中でのこと。お人好し。 ※注意 〇喧嘩しまくりの異種族同士ですが、彼らはお互いを家族だと認識しています。家族愛です。 〇レリスが生まれ持った性質のせいで「龍の卵」なみに狙われる時があります。徐々に巻き込まれヒロインみたいになります。 〇上記のふたつが無理な方はお気を付けください。表紙と挿絵は手描きです。

処理中です...