月下の妖

てぃあな・るー

文字の大きさ
22 / 30
南ノ神 朱雀

伍,朱雀ノ神技

しおりを挟む
 戦いに惚けている朱空だが、きちんと仕事はし、それなりに力も強いようで、青藍より時間はかからなかった。
 青藍の時と同様、私たちは一番広い屋上に呼び出された。
 朱空は今までと同じ格好に橙色と朱色の羽を羽織っている。

「よく来たな。知っていると思うが、神技を披露する。ほら、座れ座れ」

 私たちは言われるがままに座り、朱空を見守った。
 朱空は翼を実体化させ、ばさっと広げた。
(本来の姿がこれなので出さなければ神技は出来ない)

「我の力を持ってここに新たなる真実を示せ」

 朱空の文句に札がふわりと浮き上がる。
 札ら青藍の時のような柔らかい光ではなく、業火を思わせる力強い光を纏っている。
 私は今度は見逃さまいとひしと見つめた。

「ここにある我が力、我が聖なる羽を持ってここに真実を導け」

 朱空は自らの羽を1枚引き抜いた。それは朱空が手を離すと札の中心、光が溢れている穴のようなところに吸い込まれた。
 その瞬間、ぱっと火の粉が散るように穴から赤い光が吹き出す。
 次に朱空は小刀を取り出し、すっと手首に当てた。

「ここに我が朱雀の血を持って、ここに嘘を祓え」

 朱空は眉一つ動かさず、小刀を引き、浅く手首に傷をつけた。血がつうっと溢れ出す。
 朱空は傍にあった清潔な白い布を傷口にあて、血を染み込ませた。みるみるうちに赤い模様が広がっていく。
 赤く染まった布は朱空の手によって光の穴に放り込まれた。
 穴は今度は黄色い火の粉を吹いた。
 札が纏っている光は今や艶やかな朱色になり、輝いていた。
 そこまで確認すると朱空は私たちにはわからない(どうやら千雨は分かるらしい)言葉で文句を唱え始めた。
 いよいよ文句の熱があがり、力が高まった、と思うとふっ、とそれまでの覇気と神々しい光は消え、一気に静まり返った。
 目をしばしばさせ、朱空を見ると、朱空は笑顔で振り返った。

「できだぜ。まさかこんなに力を使うとは思っていなかったよ」

 こちらに歩いてきて用紙を渡した朱空の額にはうっすらと汗が滲んでいた。どこか疲労も感じられる。
 そんなことにはとっくに気がついていたであろう獣たちはせっせかと準備をしていた。

「ほらほら朱空、水だよ飲みな!」

「暑いでしょ?氷つくったから冷やしてね」

「椅子持ってきてやったぞ。疲れているのだったら座れ」

 完全に召使いですよね貴方達。

 私はつかつかと椅子に座り、水を飲み、氷で体を冷やしている朱空に歩み寄った。
 しばしじっと朱空を見る。

「ありがとう。貴方最低だけど感謝するわ!」

 すっと軽く頬に口付けをする。

「じゃ、じゃあね!先に部屋に戻ってる!」

 ぽかん、としている朱空をよそに私は颯爽と部屋に戻った。
 そんな訳で私は朱空がみるみるうちに赤く染まっていくのも、千雪が二又をぶんぶん振るのも、千雨がぴんっと尾をたてるのも、千凪が爆笑するのも見れなかったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...