ゲームチェンジャー

101の水輪

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「ねえ、文化祭での出店クレープでいいよね」
「OK、クレープ最高。さすが夕梨花はいいアイディア出すね」
「じゃあさっそく係を決めましょう」
 もちろん反対者は出ず、朝霧中学校3年6組の今年の文化祭の出店が決まった。この教室では、夕梨花が提案し英太が後押しすると、クラスでの全ての物事が決まってしまう。一応は全員から意見を聞く時間を取るからある意味民主的と言えるが、その答えはすでに出ていた上だ。
「また、夕梨花の意見か、本当はアイドルグッズの展示会をしたかったんだけど」
 啓祐はアキバ系オタクで、キラキラクイーンの大ファン。押しは水無月ありさで、寝ても覚めてもありさ命で、頭がいっぱとなっている。
「賛成、俺もそっちの方が断然いいよ」
 一汰も同調してくれる。それもそのはずで、啓祐と一汰は趣味が合い、休日になると秋葉原へ一緒に出没する。 
「それにしても、このクラスいつも夕梨花たちの意見となっちゃうんだよなあ」
 誰もが気づいている事実だ。
「しかたないさ、だって俺たち3軍だから」
「そうそう1軍様には逆らえないよ」
 世間一般にクラスで見られるのごとく、ご多分に漏れず6組にもれっきとした序列がある。それはスクールカーストと言われ、はっきりと目に見える階層が存在する。
 1軍のトップに君臨するのは、夕梨花、通称〝夕梨花様〟。学力やスポーツで目立つことはないが、ダンスが得意で、容姿はやや派手目だ。声が大きく発言力があるため、いつのまにか彼女の言うことが、クラスの意見となっていく。英太もやはり1軍。ややヤンキー系だが、問題児ではない。どちらかというと、コバンザメのように夕梨花にくっつき、彼女の持ち上げ役だ。彼女がいるから英太も自由に発言でき、世間で言う典型的な陽キャ。
 それに対して啓祐、一汰はバリバリの3軍で、目立たぬように存在を消そうとしているようにさえ見える。こちらは陰キャ。1軍が表だって3軍をいじめることはめったにない。それは3軍が1軍様のご機嫌を損ねるような行動をとることは、まずありえないからだ。彼らなりに、クラスという狭い社会で生き抜く術を、自然と身に付けてきていて、少し我慢さえすれば、自身もストレスなく過ごせることをよく知っている。

 そんな6組に、転校生がやって来た。朝いちに担任が紹介している。
「今日からこのクラスに転校生が入ります。それも女子2名です」
「おーーー」
 男子の喜びといったら半端ない。
「先生、かわいい子ですか?」
 その言葉を待ってたかのように、廊下に待っていた2人の転校生が入って来た。男子たちは目を丸くして興味津々のご様子。
「初めまして、高津蛍です。アメリカのシアトルから来ました。よろしくね」
「こんにちは、村雨愛結です。私はドイツのケルンから来ました」
 そう2人とも外国からの転校で、父親の仕事の都合で帰国してきた。さすがに女子2人だけでも大騒ぎなのに、それが2人とも帰国子女とは。みんな目がテンになってしまった。
 ただこの状況をおもしろくないとらえているのが夕梨花。とにかく自分の他に目立つ生徒は、邪魔以外の何者でもない。それがまさしく一軍の誇りだ。
  
 愛結と蛍は、登校したその日からクラスの人気者となっていた。見た目はどこにでもいる普通の子だが、ユーモアたっぷりに話すコミュ力は、やはり日本人には敵わない。そして決してブレズに、自分の意見を臆せず主張する姿には、頼もしささえ感じられる。仮に愛結と蛍の意見が違っても、互いに譲ることなく意見をぶつけ合い、一端決まったらノーサイドとなる。そこにはすがすがしさを覚える。
 この目に見えない空気感が、今まで6組を覆っていた閉塞感を確実に打ち砕いていく。そしてこれまでにない雰囲気が生まれ、明らかに新風が吹き出しているのが分かる。
 
 こうなると気になってくるのは友梨佳だ。
「英太、何かおもしろくなってきたわね」
 ただの強がりなのか、本気なのか。夕梨花の含み笑いに不気味さが漂よっている。
「1軍の力を見せてやろうじゃない」      
「だよね。転校生のくせにあいつら調子に乗りやがって」
 夕梨花や英太の一軍にとって、愛結や蛍のような新参者は、まさに目の上のたんこぶ以外の何物でもない。
 大火になる前に、早めに鎮火しておく必要があると考え、とにかくつぶしに掛かる。
 
 6組で文化祭の出店についての話合いが始まり、まず英太が口火を切った。
「それでは文化祭の出店のクレープのことなんだけど」
 そこまで英太が言いかけたとき、突然に啓祐が口を挟んできた。
「いい?そのことんなだけど。やっぱりクレープってのは止めないかなあ?」
 恐る恐る出た啓介の突然の言葉に、みんな驚きだ。何と一軍の英太の話を三軍の啓祐が遮ってしまったのだ。
 これまでの6組ではあり得ない、いやあってはならないこと。
「何で今さらそんなこと言うんだよ」
「だって今どきクレープだなんて。それよりも漫画喫茶みたいに、好きなことを自由にできる場所にしたらどう?」
  そこで夕梨花が静かに口を開いた。
「クレープがいいじゃない。反対する人はあんただけでしょ」
 一気に体勢が決まってしまった。むろん夕梨花に反対する者などいない。そんな夕梨花と英太が勝ち誇った気分になってると、愛結が意見を求めてきた。
「う~んクレープね。でも漫画喫茶ってのも面白しろそう。ここはどう?みんなの1票で決めるのって。だって朝霧中学校って、物事は多数決で決める伝統があるって聞いてるよ」  
 確かにこの中学校には多数決で決める伝統はある。でもそれは有名無実だってことは、誰もが知っている。ましてや1軍の提案をひっくり返そうだなんて、誰も思いもつかない。それほど学級内の序列は、発言に大きな絶対的な影響を与えていた。
「分かった、それでいいわ。じゃあ一週間後にクラス投票ってのどう?」
 まさかの夕梨花からの逆提案だ。これにはみんなもビックリしたが、きっと何か魂胆があるのだろうと、返って疑いの目をもたれてしまう。
「夕梨花のことだ、きっと何かある」
 そう思うことに、疑う者はいない。

「やっぱり来てた」
 早樹と修太が一緒に学校から帰宅していると、クラスLINEに夕梨花からのメッセージが届いていた。
「夕梨花らしいなあ。どちらに入れるか分かってるんでしょうねだって。さすが一軍様、やることが違うわ」
「おお恐、これじゃ投票しなくても決まりね」
 どちらかというと2軍の2人は、1軍の徹底ぶりに寒気を感じてしまう。
「でも不思議じゃない。なんでLINEなんかしてきたんだろう?」
「そりゃ勝ちたいからじゃない?」
「そうだけど、そこまでする必要があるかってこと」
「だから勝ちたいから。みんなを従えさせたいからじゃない?」
「だってこれまでだったら、恵里佳に楯突く人なんていると思う?」
「そっか。自信があればそんなことする必要ないってことか。ということは」
「彼女はあせってる。いや自分たちは負けるとでも思ってるのかも。だから私たちのこと聞きなさいという圧力ね」
「なんでそうなっちゃったのかな?」
「だよね。何で急に変わちゃったのか・・・」
 ふと同じ考えが、頭を過ぎった。
「そっか!」
 2人は声を合わせた。
「謎の転校生の2人だ。確かに彼女たちが来てから、クラスの雰囲気が激変したよね。何かみんなトゲが取れ、リラックスし出したというか」
「でも愛結も蛍も、我を押し通すタイプじゃないし。ましてや夕梨花たちとケンカしてるわけでもないし」
「それってきっと、1軍にしか分からない空気感かも。私たちには知り得ない何かがあるんじゃない?」 
 
 翌日登校すると、クラスの空気感が違っていた。みんなの表情が明るいというか、何にも恐れていないというか。
 そんな中で、文化祭の出店を決める投票が始まった。
「それでは文化祭の出店の件で、多数決を採ります。クレープに賛成の人・・・・・・・」
 1軍の敗北という結果が出た。ところが漫画喫茶が多数という事実に、なぜか驚く者はいない。それどころか予想通りとさえ捉えているみたいだった。
 何かが変わっていくことを、みんな感じとっていたのだ。それも180度変わってしまうことを。
「ありがとう、愛結と蛍」
「そうだよなあ。2人が転校してきてから、このクラスの何かが激変したというか」
 そんなクラスメイトの疑問に対し、愛結と蛍の2人はけげんな顔つきでこう答えた。
「えっ何もしてないよ。私たち」
 2人が何かをしたわけではない。でもなぜ?
「私たちの名前が〝愛結と蛍〟ってことかなあ?」
  確かに鮎とホタルは、ともに清らかな水にしか住まないというが、まさかそんな理由でもなかろう。

 それまでの風向きがいきなり変わるこもある。
 そのきっかけは身近なところに。
 世の中に常はない。
 ゲームチェンジが今起きる。
 
 
 
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