ドクヨク1(不思議との出会い)

101の水輪

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ドクヨク1(不思議との出会い)

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 米本真由は中学一年生、とても読書好き。趣味は読書、好きなことは読書、何よりも読書と公言する、本の虫だ。
「真由、ご飯よ」
 母の律子の呼びかけにも反応なし。もちろん読書の真っ最中だ。
「真由、お風呂入りなさい」
 一切反応なし。食事や風呂よりも読書。
 あるとき、律子が真由の部屋に夜食を持っていたときも、読書のまっ最中。
「あんた少しは勉強しなさい、試験も近いんでしょ。点取れなくても知らないよ」
 しかし、不思議なことにその心配は一切いらない。それほど勉強している姿は見られないのに、真由の成績は抜群だ。

 真由は部活動をしてないぶん、放課後は区立図書館で読書三昧となる。平日とういうことで人影もまばらで、静寂の中で誰にも邪魔されず、読書ができる至福のひととき。
 
 あと100冊

 この図書館には約2000冊の本があるが、読み続けていて、あと百冊となっていた。純文学、宗教、歴史、経済、科学、医学、カルチャーなど、あらゆる分野を読破してきた。

「こんにちは、今日もお越しでしたか」
 真由が声を掛けたのは、白髪の紳士。
「ごきげんよう、お嬢さん。もう学校は終わったのですか?」
「はい。今日もしっかり勉強してきましたよ」
 真由が親しげに話している相手は、歳にして七十歳前後、ネクタイを締めたスーツ姿は、高貴さの裏にどこか怪しさを漂わせている。
「マタイによる福音書は読みがいがあります」
「文章に最終的に価値を付けるのは、読み手の方ですよ」
 図書館で出会った二人は、このような一言二言交わすことふたことがルーティーンとなっていて、それ以外の会話は一切ない不思議な間柄だ。
「お嬢さん、〝awakening〟を読んでみなさい」
「アウエイキングですか?分かりました」
 
 真由は教えられた本を探すためカウンターに行き、見つけてもらうことにした。毎日のように真由は図書館に訪れているので、受付係の木佐とはもう顔なじみといえる。
「あっ、ありました。貸し出すのは初めてですね」
 木佐が蔵庫からようやく見つけ出してくれた。それはドイツの作家が書いた絵本。
 うれしそいうにページをめっくてみる。
   
 その家は生い茂った森の奥にひっそりと建っています。そこにはミシェルとエミリーという仲が良い姉妹が住んでいます。姉妹には両親がいなくておばあさんに育てられています。器量が良く大人びた顔立ちは気品と美しさを兼ね備えています。
  ある日、二人は街へ出かけることにしました。その途中でガチョウの親子と出会い ました。エミリーが子どものガチョウをなぜようと近づくと、親のガチョウはその場 を離れ逃げていきました。「お母さんガチョウがどこか行っちゃった」しかたなく二 人は子どものガチョウを連れて行くことにしました。
  街の入り口には門番がいます。「ここを通るには金を出しな」この門番にお金を渡 さないと街中へ入ることができません。困りましたが先ほどの親のガチョウが産んだ と思われる卵を渡したところ、運良く中に入れてもらうことができました。街は森の 中と違ってとても華やかです。「お姉ちゃん人がいっぱいね。私初めて」エミリが大喜びです。見るものすべてが輝き目移りしてきます。当たり前のように欲しくなって きましたした。でもミシェルは自分のためにシルクのスカーフを買おうとしましたが お金がありません。そのとき、見知らぬ男が声を掛けてきました。「お嬢さんそのガ チョウの卵を売ってくれないか?」聞くと先ほどの門番に渡した卵が黄金色と珍しく 王様が高く買い上げたそうです。「へえ~いいわよ」ミシェルは交換したお金でスカ ーフを買いました。妹のエミリはクマのぬいぐるみを買いました。「おばあちゃんに も何か買ってあげよう」そこで家で待つおばあさんにはおいしそうなケーキをお土産 として持って帰ることにしました。街での楽しかったひとときも終わりを告げようと しています。「エミリ、もう日が暮れるから帰りましょう」
  来るときにくぐった門を出たところお大男が待ち構えていました。そしていきなりガチョウを奪おうとしてきたのです。おそらく街中でガチョウの噂が広まっていたの でしょう。「逃げるのよ、エミリ」二人は全速力で駆け出しました。もちろんガチョウを抱えてです。とっさの行動に大男はついてこられず姿が見られなくなりました。
  二人が家路を急ぐ途中に森の中を歩いていると、なんと先ほどの親のガチョウがいました。「お姉ちゃんお母さんのガチョウじゃない?」とても驚きましたがどこか嬉 しくも感じました。「さあお母さんのところに帰りなさい」そういって子どものガチ ョウを放してやりました。ところが子どものガチョウは親のガチョウに近づこうとしません。それどころかミシェルとエミリの方をじっと見ています。「そんなもう見 ないで。早くお行きなさい」それでも動こうとしません。「お母さんと幸せに暮らす のよ」困り果てた二人は駆け足でその場を立ち去りました。決して後ろを振り返ることはありませんでした。
  二人が家に着いたときはドップリ日も暮れていました。「お土産だよ」おばあさん の声がしません。「おばあちゃ~ん。お姉ちゃん来て!」エミリが叫びます。ミシェ ルがおばあさんの部屋に駆け込むと苦しそうにしているおばあさんがいました。「おばあちゃ~ん、しっかりして」

 あれ?ここで終わってる

  そう、物語はそこで切れていて、真由はどこかモヤモヤ感が残ったまま。すぐにあの紳士のところに行ったがもういない。しかたなくカウンターで聞いてみた。
「先ほどの、あっ、アウエイキングでしたっけ?何か途中で切れてるみたいですけど、あれで終わりですか?」
「じゃあ調べてみますね」
 木佐がパソコンで検索してくれた。
「ごめんなさい、やっぱりなかったわ」
「いいの、もし見つかったら教えてください」
   真由も渋々承諾せざるをえなかった。
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