134 / 636
第2章 幼年編
135 タイガー
しおりを挟むヴィヨルド領領都学園の校舎は大きく1年から3年の年少棟と、4年から6年の年長棟から成る。
そんな学園の年長棟の一室。
学園ダンジョンの攻略者たる10傑のみが使用できる部屋で。
「今年こそ記録を更新したいな」
筋骨隆々。それでいて俊敏さも窺える虎獣人のタイガーが、同級生のエルフのマリーに言った。
虎獣人タイガーは、現席次2位である。
「今年は1年生に聖魔法士の子、セーラさんが入ったから心強いわよ。あと確実に10傑に入る1年生もいるし」
精霊魔法を発現できるエルフのマリー。
現席次首席である。
「マリー、それってこないだのクラス分けのときの子‥アレク君か?」
「ええアレク君よ、あの子は魔法、剣、体術のどれも使えるわ。それに弓も使えるから。遠距離の選択肢も増えるわね」
「そいつはいいなあ」
「アレク君が入ると私たちのチーム編成の選択肢も確実にひろがるわ」
「ああ。楽しみな子が入ってくれたな」
「ええ」
タイガーとマリー、現席次1位2位の2人から見て、秋の武闘祭で1年生のアレクが10傑に入るであろうことは織り込み済みであった。
「今年こそ‥」
「ああ今年こそ‥」
学園ダンジョン深層階の更新又はその制覇を。そんな想いを募らせる2人であった。
【 タイガーside 】
いよいよ6年、最後の夏休みだ。秋に向けて身体はしっかり作ってきた。俺とマリーの目標は武闘祭ではない。目標はあくまでも学年最後の学園ダンジョンだ。
俺は学園10傑には3年生から入っている。入学時から10年に1人の逸材とも言われ、自分でもそう思っていた。
だが10傑になれたのは3年からだ。
3年からでも10傑に入れることはすごいことなんだと思うのだが、1人同期のマリーだけは違っていた。
マリーは1年から10傑に入っていた。
俺はそんなマリーに入学以来1度として勝てていない。
さすがは20年に1人の逸材、俺とは10年違うわけだ。
マリーには勝てないが、不思議と悔しくはない。
それは学園ダンジョンに挑む同志、生命を預け合う仲間との想いからだろう。
事実、過去5年のダンジョンではお互いがお互いを助け、助けられた。
ダンジョンでは何が起こるか予測不能だ。
今年は聖魔法士の女の子が入学してくれた。リズと合わせてこれでリスク回避は格段にし易くなる。
もう一つの今年の希望は、新1年生で10傑に入るであろうアレク君の存在だ。
クラス分け試験で見せた彼のすごさ。魔術も格闘も剣術も新1年生とは思えないレベルの高さだった。
思わず俺も立ち合いたいと思うくらいに。
特に彼の剣術。
圧倒的とさえ思えるあの剣技には驚くばかりだった。そして嬉しくなった。
彼の剣技に触れ、しんとなった訓練所ではっきりと笑っていたのはマリーだけだったしな。
10傑で挑むという制約がある以上、案外そのチーム編成に必ずしも10傑が相応しいとは限らない。斥候、前衛、盾役、ヒール職、魔法職といったチームバランスがダンジョン攻略には不可欠だからだ。
そんな中、アレク君のように剣術に近接戦もこなせて、魔法も使える。こんなユーティリティプレイヤーはダンジョン探索にとって大きなアドバンテージだ。
だからこそ。
マリーともども今年こそは階層記録の更新、その想いを遂げたいものだ。
次回夏休み
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる