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第2章 幼年編
250 もしもし しもしも
しおりを挟む外堀を渡ってから橋を壊す。
内堀も渡ってから橋を壊す。
ブーリ隊にも同じように、渡ったら橋を壊すよう伝言板で知らせた。
(ヒソヒソ。ちょっとキム、あれ読める?)
(ヒソヒソ。ああマリー、あれは…古文書か何かじゃないのか)
(ヒソヒソ。オニールより酷いわ‥)
外堀、内堀の2重の堀を巡らせた堅牢な野営陣地だ。
来るなら来いと言いたいくらい、堀の深さ、距離ともさらにレベルアップした。さすがのゴブリンソルジャーも夜襲をかけるには難しい要塞となった野営陣地だ。
外堀、内堀を渡り、野営陣地にブーリ隊も到着する。
「なんなんだよ、これ!」
「ワハハハそっくりだぞ」
「ギャハハ、オメーどっちが本物なんだ?」
「本物よりこっちの方がカッコいいの」
「これはまた、素晴らしい芸術品だね」
爆笑の渦となったのは、アレクが発現した野営陣地を守る守護神だ。
ポージングのレベッカ寮長と槍を背にしたオニールの2体の等身大フィギュア。
その精度たるや、ビリーが芸術品と評するほどに精巧な造りだ。
「くそっ!だからあの変な格好をさせたんだな」
地団駄を踏んで悔しがるオニール。
しかしそれを本気でカッコいいと思っているのはアレクとセーラであった……。
「くそー!アレクとセーラめ。覚えてやがれ!」
「でもこのオニールはホントにかっこいいの」
そう言いながらぺたぺたとオニールフィギュアを触るリズ。
「そ、そうか、カッコいいか‥」
リズの笑顔にまんざらでもないオニールだった。
▼
リアカーを土塀の蔵に仕舞い、野営陣地(男子寮食堂)の階段を登る。
当然登った階段は部屋に仕舞う。
「これはまた……!」
「すごいの……」
「「「ああ……」」」
ブーリ隊の誰もが言葉を失くした。
野営陣地とは名ばかり。普通に宿泊施設としても文句なしの野営陣地だ。
テーブルはもちろん、トイレも歩哨も完備。
食堂の格子窓は中からは外が見え、外からは中の様子が窺い知らない造りのものになっている。
しかも土塀故に涼やかな風が通るから、安全且つ涼しいという、これまでの野営キャンプとは雲泥の差となった快適仕様である。
室内灯には魔獣の油が灯す室内灯。
中は明るく、外部に光は漏れない。
一晩中灯して問題はなさそうだ。
「なになに、ここがこうで‥」
「うーん、ちょっと‥‥」
懇切丁寧に室内には、種々の使用方法が土板に記してある。
「はは。アレク君は字は下手だね」
「だな。俺より下手だぞ」
「ん。これはゴブリンが書いたくらいの下手さなの」
「ゴブリンは字が書けたのか、ギャハハ」
本人は気づかないがアレクは字がかなり下手だった。
「なになに糸会話器の使い方‥」
「外の歩哨との間とボル隊との間に糸会話器が使えます」
「糸を張って、話すときは器に話し、聞くときは器を耳に付けてください」
「「「へぇー」」」
「最初に『しもしも』と言って話し始めるのが古文書によるルールです‥」
「おもしろそうだな。俺が歩哨に行くからゲージはそっちで使ってくれ」
「ああわかったぞ」
「始めるぞー」
扉越しにオニールの大きな声が聞こえる。
「しもしもー・・・しもしもー・・・しもしもー・・・あれ?何にも聞こえねーじゃないか!」
「ビリー、聞くときは器を耳に当てるんじゃなかったっけ?」
「あっ、そうか!」
男子寮食堂側でもゲージが同じことをしていた。
「しもしもー、ギャハハしもしもー、ギャハ、しもしもー。ん?何も聞こえないぞ?」
「話すとは器に話し、聞くときは器を耳に当てるってアレクは言ってたの」
「なに?そうなのか」
お互いに幾度か誤りを幾度か繰り返しながら、だんだん糸電話の使用法を理解していくビリーとゲージ。
「しもしもーゲージか?」
「しもしもービリー。おお、けっこう聞こえるぞ!」
「しもしもー。ああ、俺もゲージも魔力が使えないのに話せたな!」
「ああ、びっくりだぞ、ギャハハ!」
「で、歩哨中もし何かあったら鈴を鳴らしてからこの糸会話器を使えばいいんだね」
「なるほど、面白いね」
「向こうの食堂にもつながるのか。楽しみだな」
ズズズーーーーーッ
ズズズーーーーーッ
しばらくすると500メル先にも同じような男子寮が出現した。
500メル先からアラクネ糸が引っ張られる。
どうやら地面に糸会話器の通路が敷かれていれているようだ。
「はは。アレク君、君はどれだけ魔力があるんだい」
500メル先を眺めてビリーが微笑んだ。
「ではさっそく開通テストを始めたいと思います。拍手ー!」
パチパチパチパチパチパチ‥‥
なんだよ。セーラしか拍手してくれねーじゃないか。マリー先輩とキム先輩は生暖かい雰囲気を出してるし。
「フッ」
なんでシャンク先輩は鼻で笑うんだよ。
「では‥‥しもしもーアレクでーす」
「しもしもーオニールだ」
「おおーやったー!開通だー!」
パチパチパチパチ‥‥
「アレクーてめーあんな像つくりやがっ――」
「あっ、あれーなんか聞こえないなぁー。しもしもーもしもーし」
「アレクてめー――」
「あれれ?聞こえないやー」
糸電話(糸会話器)は成功した。これで野営中も連絡が取れるぞ!
「しもしもーリズなの」
「しもしもーアレクです」
「しもしもービリーです」
「しもしもーアレクです」
「しもしもーゲージだギャハハ」
「しもしもーアレクです」
「しもしもータイガーだ」
「しもしもーアレクです」
「しもしもーオニー――」
「てめーアレクーーー!」
500メル先からオニール先輩の大声が聞こえた……。
――――――――――――――
「しもしもーこちらマリー、おはようタイガー。起きた?」
「しもしもーこちらタイガー。ああ、おはよう。野営でちゃんと寝れたのは初めてだったぞ」
「ふふ。よかった。じゃあ1点鐘くらいしたら出発するからね」
「了解」
「おはようみんな。ボル隊からだ。あと1点鐘したら出発するぞ」
「「「おはよう」」」
「あーよく寝たわ。野営中真面目に寝たなんて初めてじゃねーか?」
「「「ああ(ん)」」」
「でもオニールとゲージのいびきがうるさかったの」
「いびきがうるさいくらいに平和だったってことだね」
「ん。そうとも言うの」
野営陣地の男子寮食堂から四方を見渡す。
男子寮食堂にまで届いた矢はなかった。
野営中も遠くに魔獣の声は聞こえていたが差し迫る声や、さして危険なことはなかった。
外堀はかなりの魔獣で埋め尽くされていたが、内堀まで来た魔獣はいなかった。
「さあ、目覚めもいい。今日も精一杯がんばろう!」
「「「ああ(ん)」」」
「「「・・・ワハハハハ」」」
「なんでだよーー!」
出発前。
ビリー像の頭だけが真っ白になっていた。
ガーゴイルが糞をしたらしい。
――――――――――――――
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