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第2章 幼年編
334 逆転
しおりを挟むダッダッダッダッダッダッダッダッ‥
ギャッギャッギャッ‥
シュッ!
ギャーーッ!
「タイガー大丈夫かい?」
「ああ大丈夫だ」
「キムは?」
「ああ問題ない」
「オニールは?」
「ぜんぜん大丈夫だ」
「シャンク君は?」
「僕も問題ありません」
「マリーは?」
「大丈夫よ」
「アレク君は?」
「大丈夫です」
「ゲージあと少しだからね」
「リアカーを曳くだけだ。オイも問題ないぞギャハハ」
「セーラさんは?」
「大丈夫です」
「みんなあと少しだよ。もう少しだけ頑張ろう」
「「「おお!(はい!)」」」
その後も散発的に魔物は現れた。天狼はほぼ見られない。やってくるのはただのゴブリンにほんのちょっとどけ上位種のボブゴブリン、狼に騎乗して現れるゴブリンライダー、ときどき岩陰から隠れて矢を放ってくるゴブリンアーチャーくらい。
たしかに魔物の数は多いけど、構えてた撤退戦にしてはわりと余裕で対応できている。やっぱり最初にリズ先輩の爆弾で大型魔物を倒せたからだろうな。
「休憩室が見えてきたぞ!」
「ホントだ!」
「あと少しだぞゲージ」
「おお。もうちょっとだなギャハハ」
旧街道の1本道は出発したときと変わらない風景だった。
前方に休憩室が見えてきた。
よしもう大丈夫だ。ここまで来たら残りの魔力も気にせず使える。
「待ち構えてるぞ」
「だな」
「「「やっぱり‥‥」」」
休憩室の扉を前に。
そこには数多くのゴブリンたちが蠢いていた。
「やっぱりね‥‥」
俺もそんな気はしてたんだよね。このまま順調にいくわけないって。魔物が追っかけてくるのを逃げるのは想定内だったけど、逆の立場で考えたらやっぱり待ち構えて囲んだほうが断然戦略的に効果ありだもん。
撤退戦に移行している俺たちが45階層の休憩室を目標に進んでいるのは当然奴らも知るところなんだから。
1エルケ(1㎞)ほどの距離を空けて対峙する俺たちとゴブリンたち。
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
いつものゴブリンたち魔物なら、ギャーギャー叫びながら駆け寄ってくるのに……。
休憩室の前で待ち構えるゴブリンたちは不気味なくらい静かだった。
大声で叫ぶゴブリンさえいなかった。
そして何より、走り寄って来ないんだ。明らかに統制がとれている。明らかに何かの指示待ちだ。
「来ないな‥」
「ああ‥」
「どう思うキム?」
「タイガーと同じだ。何か仕掛けてくるはずだ」
「どうするビリー?」
「このままゆっくり前進するよ」
ザクッザクッザクッザクッザクッ‥
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ‥
戦闘靴の音とリアカーの荷車の音しかしない中を俺たちはゆっくりと歩いていく。
900メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
800メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
700メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
600メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
500メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
500メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
400メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
300メル‥‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッ‥
200メル‥‥
ギャッギャッ‥
ギャッギャッ‥
休憩室の扉まであと200メルをきった。
ここからなら俺の雷魔法の射程内だ。
「ゆっくり行くよ」
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッギャッ‥
ギャッギャッ‥
ギャッギャッ‥
ギャッギャッ‥
ゴブリンたちの声のトーンが変わってきた。
「ははは。わかりやすいゴブリンたちだね。そろそろ何かあるよ。後ろと横からの気配はないよねマリー、アレク君?」
「ええ大丈夫よ」
「はい。後ろからも新たな気配はありません」
「アレク君100メルに近づいたら道に何か仕掛けはないか調べてくれるかい?」
「はい」
「馬房柵!」
ズズズーーッッ
まず俺は休憩室から一直線に伸びている旧街道沿いに馬房柵を発現したんだ。
仮に何かなくてもこれがあれば両サイドからの防御になるからね。
ズズズーーッッ
ズズズーーッッ
ズズズーーッッ
ズズズーーッッ
10メル刻みで馬房柵を発現していく。少なくともここまでは問題はなさそうだ。
休憩室まであと50メルのところで。
「‥‥‥‥」
馬房柵が発現しない……。ひょっとして……。
「馬房柵!」
今度は旧街道の道の内側に沿って馬房柵を発現しようとするが……。やっぱり発現しない。これはもう「あれ」を仕掛けたんだよな。
「煉瓦バレット!」
攻撃の威力はないが、距離だけは稼げるはずと道の上に煉瓦を落としていってみる。
ドーンッ
ドーンッ
ドーンッ
それはあと50メルのところで起こった。
ドーンッ‥‥
ザクッ‥‥ガラガラガラガラガラガラ‥
そこには深さ3メルほどの大きな奈落、落し穴が掘られていた。ご丁寧にも底にはおびただしい数の錆びた刀や槍がお出迎えした状態で。おそらくゴブリンたちの手掘り……。
「おいおいおい。やってくれるじゃねぇか!」
幅3メル~5メル。リアカーもあり飛び越えるには少々ハードな堀。
「アレク君これって‥‥」
「はい、俺の野営陣地を真似たものですね」
そう。それはまさに俺が土魔法で構築した内堀外堀の仕様を真似たものだ。ただそれを発現したのは魔法ではなくゴブリンたちの「人力」に底知れぬ怖さを感じるのだが。
「アレク君越えられるかい?」
「はい。手前から土魔法で橋を作れば難なく越えられます」
「ははは。さすがだね」
「休憩室に入れば俺たちの勝ちですからね。あとちょっと。魔力も制限なしにいきますよ!」
「頼もしいぞアレク、ギャハハ」
「さすがは3馬鹿の筆頭だぜ」
ははは
フフフ
いやいやオニール先輩、ここで3馬鹿は関係なくない?
「敵の仕掛けはこれだけじゃないはずだからね。油断せずゆっくり行くよ」
「「「はい!」」」
「では橋をかけますね」
「頼んだよ」
「土魔法、明日にかける橋!」
ズズズーーッッ
なんかね‥‥言いたくなったんだよ。なんかカッコよくない?これ。
「‥‥よし、みんな急いで渡るよ!」
「「「‥‥ああ!(はい!)」」」
あらら‥‥みんなシカトなのね……。
落し穴がある堀を渡った。休憩室まではあと50メルだ。
「いいかい。おそらくだけど、魔物は休憩室の中には入れない。そして誰か1人でも休憩室に入ったらその時点で奴らの攻撃は終わると思う」
おおー!これビリー先輩の新説だよ。でも‥‥うん、俺もそう思う。それはダンジョンの禁忌の中でも最上級に守らなければならない「決まり」のはずだから。
ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ‥
ゴブリンたちの声がどんどん大きくなってきた。奴らのボルテージも最大限に近づいてるんだろう。
そのとき。
ゴブリンたちの真ん中、先頭にあいつが現れた。
ゴブリンソルジャー、あいつだ。
「待ッテイタゾ!」
ちゃんとした人の言葉を話すゴブリン。
「帰リタケレバオレタチヲタオシテミロ!」
「ははは。名乗りをあげてきたか。いいかいみんな。暗くなるまでが勝負だよ。ここで野営は危険すぎるからね」
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