373 / 722
第2章 幼年編
374 サンデー商会
しおりを挟む帰省報告はシルカさんにも。
近所の雑貨屋さんといえばサンデー商会のデニーホッパー村店なんだよな。村唯一のお金を使える小さなお店ってイメージだったけど、いつのまにか居酒屋併設の大きなコンビニみたいになった。これには俺もびっくりしている。
貧しいだけだったデニーホッパー村。お金なんてもちろんないし、欲しいものは物々交換がメインだったからね。そんな村民もお金という貨幣経済の恩恵に与れるようになったんだ。採れた野菜はサンデー商会で買い上げてくれるからね。サンデー商会以外にも村の噴水広場には何軒かの屋台まで出店してるんだよ。ツクネ串なんかも売ってるんだ。ちょっぴりお金を稼いだからね、屋台にも寄れるよ。だから屋台には観光客だけじゃなくて村人も利用してるんだ。エール飲んで肉串食べて楽しんでる人も増えたよ。
村のサンデー商会のスタートはシルカさんという山猫獣人さんが1人で切り盛りしてたんだ。明るくてしなやかな肢体のシルカさん。やや露出も多くて健康的且つセクシーなんだよな。俺的には目のやり場に困るからとっても迷惑なんだけどね!実にけしからん!アンナも大人になったらシルカさんみたいになるのかな。うーん、でもなんか家族のそんなハレンチな姿は見たくないような……。
そんなシルカさんが孤軍奮闘してサンデー商会を切り盛りしてたはずなのに。いつのまにか隣の居酒屋と併せて3人の従業員さんを指揮するようになっていたんだ。
「シルカさんただいまー」
「わぁアレク君お帰りっス」
ピョンっと飛びこんで俺を抱きしめてくれたシルカさん。
あ~いい匂いがするなぁ~へへっ
「‥ク君、レク君、おーいアレク君聞いてるっスかー?」
「あわわわっ。ご、ごめんねシルカさん」
「相変わらずっスねーアレク君は」
フフフ
ふふふ
フフフ
若い女性ばかりの従業員さんたちがなぜか生暖かい目で俺を見ていた。ん?なんで?
「食堂のほうに座るっスか。まだ早いからお客さんもいないっスよ」
「うん」
「シルカさんは相変わらず元気だね」
「元気だけが取り柄っスよ」
「サンデーさんは元気?」
「いつもどおりっスよ。いつ寝てるんだろっていうくらい毎日朝から晩まで元気いっぱいに領内のそこらじゅうに行ってるっスね」
「わはは。サンデーさんらしいね」
王家ご用達のミカサ商会ミカサ商会長がその才に惚れ込んだという孫娘のサンデーさん。俺も大好きなんだよな。あっ、もちろん商才や性格がだよ。女性としての容姿の魅力は‥‥ほんの少し。ウソ。その魅力もいっぱいあるんだけどね。
「でアレク君去年の夏からの話を聞きたいっス」
「あのねシルカさん。気を悪くしたらごめんね‥」
俺は学園ダンジョンの話をする前に、サンデー商会やミカサ商会には相談もせずにメイプルシロップの生産をヴィヨルド領が始めたことを詫びた。
さすがというべきか、シルカさんはメイプルシロップの動向をしっかり掴んでいた。
「なんでアレク君が謝る必要があるんっスか。だいたいうちもミカサ商会さんもいつもアレク君に便宜を図ってもらってることに感謝してるんっスよ」
「そう言ってくれると気が楽なんだけどね‥」
「まあサンデー商会はこれからもずーっとアレク君と仲良くやっていきたいんっスよ。もちろん私もっスけどね」
そんなことを言いながら自然体に下から俺を見上げる笑顔に思わずドキドキしたよ。アンナもだけど猫獣人ってときどき反則なんだよな。あざといっていうの?うん。あざとかわいいだ。でもあざとかわいいのどこが悪いんだよ!大賛成だぜ。あんなふうに見つめられたら勘違いしてしまうんだよ。照れるぜまったく。
「アレク君。メイプルシロップは今のやり方が正解っスよ。ヴィヨルドの領都騎士団、冒険者ギルド、商業ギルドの3つが手を組んで何かをするって戦争以来初めてじゃないっスかね」
「うん」
「ただでさえ武闘派として名を馳せるヴィヨルドですからね。メイプルシロップについて難癖をつけてくる領なんかないんじゃないっスかね」
「そうだといいんだけどね」
「もちろんアレク君のアレク工房は王室ご用達のミカサ商会長の庇護下だと世間では思われてますし、その上でメイプルシロップの件でヴィヨルド領のバックアップがあるとも思われるようになりましたからね」
「うん。周りの大人の力、他人の力ばかりを借りてるんだけどね」
「フフフ、それは違うっスよ。借りるだけじゃなくってアレク君はちゃんと返してますよ。もっともっと力をつけるまでは借りれるものはなんでも借りたらいいんっス。でも‥‥それでもちょっかいをかけてくる馬鹿は出てきそうですけどね」
「だろうね‥」
「アレク君は春休みが終わったらまたヴィヨルドに帰るんっスよね?」
「うん」
「じゃあ村にいる間にいっぱいアレク君と話をしとかなきゃサンデーさんに叱られるっスよ」
「あはは」
「で、なんかあるんっスよね?新作」
「あるよー」
こうして俺はシルカさんに新作を説明したんだ。
まずはリズ鍋。これはダンジョンから戻ってすぐにヴィヨルドの商業ギルドで登録してあるからあとは売り出すだけだよ。鍋の中底に保温する魔法陣を描いてあとは鍋の外側側面に魔石入れのスペースを作るだけ。それだけで冬でも温度が冷めない鍋、リズ鍋の完成だよ。魔石はどんな小さな魔獣でもいいからね。このリズ鍋は俺も爆売れの自信がある。何せリズ先輩の名前を冠したリズ鍋だもん。
「じゃあアレク君、リズ鍋は説明書を添付して王都のミカサ商会さんに送っときますね。王都のアレク工房でリズ鍋を作ってミカサ商会とサンデー商会でバンバン売っていくっスよ」
「お願いするねシルカさん」
「これは売れるっスよ。しかも中原中で間違いなく売れるっスよ」
「だといいな」
「利益はアレク君とリズさんの折半でいいんっスよね?」
「うん。俺と領都のリズ先輩でお願いね」
「しかし話題の魔法使いリズさんとも仲良くなるとは。世の中おもしろいっスね」
「だよねー」
「それからね‥」
リズ鍋と並ぶもう1つの自信作がリアカーなんだ。この時代、馬車はあるのになぜか陸送の運搬手段は背負子だけなんだよ。
リアカーは安価な2輪タイプとより安定する4輪タイプを作ったんだ。このリアカーは個人はもとより中原の物流そのものを変えると思うよ。
「アレク君このリアカーはめちゃくちゃ便利っスね。ただ‥」
「真似されやすいよね」
「そうっスね。残念だけど」
「だからアレク工房製リアカーは頑丈で壊れにくいものにしなきゃね」
「これは本格的に鍛冶屋仕事専門の工房も考えなきゃいけないっスね」
「俺言うばっかだから。またシルカさんからサンデーさん、ミカサ会長たちに丸投げするからね」
「任せるっスよ!」
シルカさんからばーんと背中を叩かれた。ああ、これが信頼関係なんだろうな。
「それとねシルカさん。俺が履いてるこの戦闘靴‥」
俺が履いてる戦闘靴を片足脱いでシリカさんに渡した。あっ、足臭くないだろうな。
「アレク君これ‥」
「うん、あとで俺が曳いてるリアカーのタイヤもみてね」
「これは‥‥すごいっスね‥」
戦闘靴の靴底とリアカーのタイヤに履いたもの。靴底のゴムを触りながらシルカさんが呟いた。
「アレク君ちょっと両方貸してほしいっス」
「いいけど‥」
俺が履いてた靴をそそくさとシルカさんが履いたんだ。なんか恥ずかしいな。
ピョーン ピョーン
グリップを確かめるようにピョンピョンするシルカさん。
「なんですかこの柔らかさ。かといって柔らかすぎることもない適度な弾力は!」
「これね、ダンジョン内のゴムの木っていう木の樹液を固めたものなんだ。靴底やリアカーのタイヤに填めるといい感じでしょ?」
「いいどころかこれは革命っスよ!」
「いやいや革命は言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないっス。これは革命っス!」
ピョンピョン跳ねながらそう力説するシルカさんだ。
「でね、このゴムの木はたぶん南の方、年中暑い地域に生えてるはずだからね。樹液がネバネバする木って感じで現地の人たちに探してもらえばおそらくそんなに難しくなく見つかると思うよ」
「わかったっス!これは中原中を最優先で探させますっス」
ゴムの木は熱帯域を探せばそれほど難しくなく見つかると思っている。ゴムさえあれば靴事情は格段に進化するはずだよ。何せほとんどの人は裸足か木靴なんだ。冒険者や裕福な人は獣の皮をなめした程度の堅い靴を履いてるけどね。だからゴム底の靴はみんな履きたいと思うよね。
「まだあるんっスか?」
「あるけどまた明日にしようか。お客さんも入ってきたし」
「そうっスか‥残念だけど仕方ないっスね」
「まだまだいっぱいアイデアとお願いがあるからね」
「やっぱアレク君と話をするのは楽しいっスよ。実現すればすぐにすごい反響になるんっスからね。やりがいがあるっス」
「あはは」
「じゃあまた明日待ってるっスよ!」
あー春休みなのになるのに。やることいっぱいだよ。
―――――――――――――――
いつもご覧いただき、ありがとうございます!
「☆」や「いいね」のご評価、フォローをいただけるとモチベーションにつながります。
どうかおひとつ、ポチッとお願いします!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる