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第2章 幼年編
602 人の妬み
しおりを挟む夜ごはん。
ちゃんこ鍋は大成功だったよ。本当はデザートも出したかったけど、遊びで来たダンジョンじゃないし、心配してる仲間を思ったらなおさらね。ここは自粛かな。
「(ジャック副長)」
「(はいメイズ団長)」
「(こんなダンジョン探索を知ったら‥‥人はだめになるね)」
「(おっしゃるとおりかと‥‥)」
あはははは
アハハハハ
メイズ団長とジャック副長が苦笑いしたみたい。
「(僕らは騎士団で良かったよ。彼と一緒に潜る冒険者が不憫でならないな)」
「(まったく同感ですな)」
わはははは
ワハハハハ
▼
「おそらく想定の倍の速度で進めてるね。うれしい誤算だよ」
「はい」
そんなうれしい誤算もありつつ、わずか4日めにして目的地入口に到着したんだ。
ここまでに出てくる魔獣はまったく問題なかったよ。鉄級冒険者が1人でもいけるっていう情報どおり。
―――――――――――――――
「団長着きました」
「うん。間違いないね」
それは直線道の進行方向右側に突然出現した狭めの穴だった。
人1人がギリギリ潜り抜けられる横穴だった。
穴の周囲にはノミで削った跡もしっかり残っていたよ。
穴の周囲は光苔の淡い光にもキラキラと反射する岩石、雲母みたいなものが含まれていた。これがきっとミスリルを含んだ岩石なんだろうな。
「では行くよ」
斥候さんを先頭に注意深く新?ダンジョンに潜入していったんだ。
「なんだこの狭さは!くそっ!通れんだろうが!」
お腹の出たルシうざおっさんがうんしょ、うんしょと唸ってる。
まさかドワーフよりも腹が出てるのかよ!
「アレク関、これはおいにも狭いでごわす。なによりリアカーがつかえて入らないでごわすよ」
そういったキザエモンが「どっせーい」と張り手をぶちかましたんだ。花崗岩程度ならキザエモンの怪力で崩れるはずなんだけどね。
だけど‥‥ミスリルを含んだ岩石はびくともしなかったよ。
「どけ!太った小童!」
シリうざおっさんが前に立って叫んだんだ。
「離れてろ!」
大きな声で周囲の騎士団員を左右に下げたルシうざおっさんが掌を前に出したんだ。
「ファイアボール!」
「ファイアボール!」
ルシうざおっさんが発現した炎弾は青白い炎だったよ。
へぇーポンコツじゃないんだ。
「聞こえとるわ!この小童が!」
「あわわわわっ!」
ダンンンッッッ!
ダンンンッッッ!
耳を塞ぎたくなるような激しい衝突音、轟音がしたよ。
でも……。
ダンジョンへの入口の横穴は表面がわずかに焦げただけだったんだ。
「どうしてかわかるアレク?」
「うーんと?‥‥」
「ミスリル鉱。この穴を開けたのはドワーフよね。ってことは?」
「‥‥‥‥そうか!」
俺の頭の中に熱伝導率、魔力伝導率って言葉が浮かんだんだ。
だってミスリルで打った剣は魔力を纏えられるから。ドワーフは採掘が得意。それはひとえに土や金属との相性がいい魔力適正だから。
「そうよ。だったらどうするの?」
ニッコリと笑ったシルフィが正解だと返事してくれたんだ。うん、間違えてないな。
「だったら当然こうだよ」
両手に魔力をこめつつ、穴の上部に両手をつけてバンザイ。上の壁を押したんだ。
ズズズーーッッ!
ステンレルの窓サッシを開ける感じ?簡単に穴が広がったよ。
「何をした小童?!」
「えっ?!ミスリルだったら魔力をこめて押せばいいかなって」
「どけ小童!」
ルシうざおっさんも手に魔力をこめて押したんだ。
「フンっ!フンっ!」
ズッ!
ズッ!
「ぐぎぎぎきっっ!フンっ!フンっ!」
ズッ!
ズッ!
真っ赤な顔をしてルシうざおっさんが気合を入れる度に。横穴はわずかに1セルテずつ広がったよ。
「ハァハァハァハァ‥‥」
「おっさん、やり過ぎると魔力がなくなるぞ!」
「だ、誰がおっさんじゃ!この小童めーーー!」
「だからもうやめろって、おっさん」
「う、うるさい!」
「魔力無くなるぞ、おっさん」
「くっ、くそっ!」
「俺が代わるって。ほらどいて」
「‥‥」
もうね俺、ルシうざおっさんへの遠慮もなくなったんだ。だからそのまま「おっさん」呼びにしたんだ。
リアカーも中に入れたよ。
新?ダンジョンの明るさは相変わらずというか、ちょっとだけ明るく感じたんだ。
これはキラキラしたミスリル鉱が理由だろうね。
「アレク関‥‥」
「キザエモン‥‥」
こくこく
コクコク
穴に入ったら魔獣の気配が断然濃くなったんだ。
「ここからが本番だよ。みんな心してかかるように」
こくこく
コクコク
こくこく
「てめーらガキどもは俺様の後ろをついて歩け!いいな」
「「あはははは」」
そんな俺たちの様子をメイズさんは黙って見てたよ。
「これは天井が高いね」
メイズ団長が上を仰ぎ見ながら言ったんだ。
「横幅は狭くなりましたな」
ジャック副長が両手を横に広げて言った。
新ダンジョン
これまでの蒼いダンジョンは学校の体育館がずっと続く感じだったんだ。
でも。この新ダンジョンは校舎の教室の広さになったんだ。高さは変わらないかな。2階ぶち抜きの吹き抜けみたいな感じ?
真っ直ぐ続く直線道の蒼いダンジョンから、左右に直角に曲がる本来のダンジョンらしい通路になったんだ。ミスリル鉱は奥に行けば行くほど多く含まれてるんだろうな。
「ここからは斥候を前に、2列縦隊で行くよ」
こくこく
コクコク
こくこく
斥候に続いて前衛はスピード重視の剣士。中堅は大剣を有するハード系、団長以下総合力が高い剣士が続き、リアカー、後衛の副団長。
即座に隊列も変える指示を出した団長に疑いもなく反応できる団員。さすが帝都騎士団だな。
「このダンジョンどう思うシルフィ?」
「どうって、ふつうじゃない」
「ふつう?意味わかんないよ」
「カンタンよ。
大したことない<ふつう<ふつうに危ない<めちゃくちゃ危ないよ」
「なるほど!さすがシルフィ先生だ」
「あったりめぇよ。べらんめぇ!」
あははは。
「でもいいじゃんアレク。ここには悪魔の気配はないんだから」
「なあシルフィ」
「なにアレク?」
「これからは悪魔の気配も考えなきゃいけないんだよね」
「ええ。前にも言ったけど人の一生で悪魔と会える人はほとんどいないわ。万に1人、億に1人ね」
「うん‥‥」
「でもアレク、あんたは自分自身が闇落ちしかけたし、闇落ちした子も助けたわ」
「うん」
「だから‥‥これからも悪魔には何度も会うことになるわよ」
「うん‥‥」
(てかその日のために‥‥いつか来るその日のために、アレクと私を引き会わせたんでしょ女神様)
「まあ念願のダンジョンだからあんたは存分に楽しみなさい」
「そうだね」
シルフィは本当にヤバいとき以外は俺の好きにやらせてくれるんだ。俺はもっとシルフィを安心させるくらい強くならなきゃな。
「アレク関、魔獣の気配が濃くなったなったでごわすな」
「そうだねキザエモン」
「楽しみでごわすな」
ガハハハハ
わはははは
「ところでさ、キザエモンはふだんどうやってダンジョンで魔獣と闘うの?」
「魔獣の数が多ければ鎖鎌でごわす。
階層主のような強い魔獣はこれで闘うでごわす」
そう言ったキザエモンがリアカーに載せた棍棒を目線で示したんだ。
おぉ~!鉄のイボイボが付いた鬼が持つ棍棒だよ!
「オークやオーガの二足歩行の魔獣が1番楽しみでごわす」
「えっ?なんで?」
「もちろん力比べをするでごわすよ」
「あははは。そうなんだ」
やっぱキザエモンは戦闘狂かよ。
「あんたと一緒ね」
「あははは」
全方位を注意深く窺いながら、救援隊が小走りに進んでいく。
あっ!?
いるな
ピタッ!
ぴたっ!
「(斥候さん、なんで突然停まるんだよ!)」
バリーさんがそう呟いた。だけどそれを聞いてたおっさん(ルシうざおっさん)がバリーさんに言ったんだ。
「お主そんなこともわからんとついてきとるのか!
お主のような者が隊全体を危険に晒すんじゃぞ!」
「う、うう‥‥」
おっさんの言うことももっともだけどね。 でもこんなときはどうするのが正解なのかな。そしてバリーさんは今どう思ってるのかな。
【 バリーside 】
くそっ!魔法軍団長め!俺に恥かかせやがって!
わかんねぇもんはわかんねぇ。仕方ないだろ!
だって俺はまだ新人なんだぞ。もっと違う言い方があるだろ!あーこのおっさんもあのガキと一緒で大嫌いだ!
曲がり角まで進むまでもなく。待ち構える斥候さんたち。
流石に探知もできてるよ。100メル以上も前から接近してくる魔獣がわかってるんだから。
2人のうち1人が後ろ手で指2本のサインを出した。
「(なんだあれ?なんか意味あるのかよ)」
またバリーさんが呟いた。
斥候さんの所作と会敵距離は後に続く仲間に戦闘を見てもらうのが意図なんだ。魔獣は2体だし。
グルルルルルル‥‥
グルルルルルル‥‥
ウウウゥゥゥゥゥ‥‥
タッタッタッ タッタッタッタッ‥‥
タッタッタッ タッタッタッタッ‥‥
ウルフ系最弱のワーウルフが2体、どんどん迫ってきたんだ。
「アレクよく見てなさいよ」
「うん!」
シルフィがヒントをくれた。これは何かあるんだよな。
ガアァァァァーーーーーッッ!
慌てることなく。余裕すら感じさせる所作で斥候の2人が動いたんだ。
シュッッッ!
レイピアの剣士がワーウルフの心臓めがけて刺突を放った。
ガンッッッ!
ポキッッッ!
金属同士が衝突する音に続いて斥候さんのレイピアが半ばで折れた。
もう1人の斥候さんは片手剣。
ザンッッッ!
ガガガッッ!
全力で振るった片手剣。ワーウルフは一刀両断のはずなんだ。
だけど。鈍い金属音がしたと思ったら。
「ぐあああぁぁぁっ!」
手が痺れたようで斥候さんは手にした剣を手放したんだ。
もちろん2体のワーウルフは絶命したよ。だけど‥‥レイピアは折れ、剣はなにかの衝撃で手放したんだ。多分刃こぼれもしてるな。
これは‥‥うん、誰が見てもわかるよ。
でも……。
「どういうことなんだよ!?」
バリーさんが吠えたんだ。
「どういうことって見ればわかるじゃん。なあキザエモン」
「当たり前でごわす」
「「あっ!(しまった‥‥)」」
「おいガキども。なんで当たり前なんだよ!?」
バリーさんが怒ったように言ったんだ。
「アレク関、見てもらったほうが早いでごわす」
「だね」
ザクッ ザクッ ザクッ
ワーウルフの心臓を開いて中から魔石を取り出したんだ。
そこには心臓の代わりにビー玉サイズの魔石が入っていたよ。
2体ともビー玉にはヒビが入っていた。
「見てください。ワーウルフの魔石がミスリルで覆われてるんです」
「フン。そんなもん見りゃわかる。
そんで?どういうことなんだよ!?」
あー。この人本格的にダメな人なんだな。ここから先、進んでも大丈夫かな?
「お主‥‥そんなこともわからんなら帰ったほうがいいぞ」
おっさんがバリーさんに冷たく事実を言い放ったんだ。
「あははは。まあまあ。ご存じのようにミスリルは硬いんです。だから斥候の2人の腕が良すぎました」
「だからどう言う意味だって?!」
「お主‥‥まだわからんのか‥‥」
「あわわわわっ。レイピアが魔石に命中しましたからレイピアが折れ、片手剣が魔石の真ん中を斬ったから衝撃で剣を手放した。
そういうわけです」
「そ、そ、そんなことくらい知ってるわ!」
紅潮した顔で視線を逸らしたバリーさんだった。
「じゃ、じゃあどう闘えばいいんだよ!?
俺はミスリルの剣なんか持ってねぇ!」
「あーとっても簡単ですよ。俺ももちろんミスリルの剣なんか持ってませんし。
魔獣の首を刎ねるか、魔石以外を斬ればいいんです。そうですよねメイズさん」
「そのとおりだよ。
いいかいみんな。ここからは出てくる魔獣はどんなに弱くても魔石がミスリルに覆われていることを想定したほうがいいかもね。
もしかすると身体がミスリルで覆われていることだってかもしれない‥‥」
身体にミスリル。あーそれは予想してなかったよ。
「「どうすればいいんですか団長?」」
不安そうな顔になる女性団員さんたち。
「どうもしないよ。アレク君の言うように1撃で首を刎ねる。できなければ2人がかり、3人がかりで急所を狙って少しずつ削っていく。それだけのことだよ」
「「「‥‥」」」
これは武器による直接攻撃よりも斬撃や魔法攻撃のほうがいいかもな。
20人いる騎士団さんのうち、斬撃を放てるのはメイズさんとジャックさんだけだし。
「いいね。無理せずにみんなで協力して魔獣を仕留めよう。それと貴重だけどミスリルの魔石は諦めるよ。
今はとにかく急がないとね」
「「「はい団長!」」」
あっ、そうだ。
「斥候のお2人。夜までは替えの武器を使ってください。夜の休憩で鍛治をして直しますから」
「「助かるよアレク君」」
「アレク関も鍛治ができるでごわすか!おいと同じでごわす!」
「おぉー!キザエモン、やっぱ俺ら気が合うよな」
わははははは
ガハハハハハ
「ガキ、てめー鍛治っていってもちょろちょろっと刀を叩けるだけだろ!?そんなもん俺でもできらぁ!」
「あははは‥‥」
そこに。メイズさんが意を決したようにバリーさんに告げたんだ。
「バリー。帝都の鍛治師の至宝。
誰の2つ名か知ってるかい?」
バリーさんが嬉々として答えたよ。
「団長もちろん知ってます。ドワーフのヴァン様ですよね。俺もいつか出世したらヴァン様に刀を打ってもらいたいです!」
ニコニコとバリーさんが答えたんだ。
「あ、あのメイズさん。もう‥‥」
「いや。アレク君、バリーには教えてあげたほうがいい。
ダンジョンに入った4日前からの彼の言動には残念ながら問題がある」
「えっ!?俺が!?」
あちゃー。
思わずキザエモンと2人、顔を見合わせたんだ。
「バリー、この緊急クエストがなければアレク君はヴァン殿の工房で刀を叩いていたはずなんだよ」
「えっ?!」
「アレク君の背の刀、これは彼が自ら打ったものだよ」
「えっ!?そ、そんな‥‥」
「いえメイズさん。俺の刀はヴァルカンさんとミューレさんが‥‥あっ!」
しまった……。
「わかるかいバリー」
「?」
「ヴァルカン殿、ヴァルミューレ殿はそれぞれ王国ヴィンサンダー領、ヴィヨルド領で鍛治の至宝という2つ名がある。ちょうど帝都のヴァン殿と同じだね」
「‥‥」
「つまりアレク君は3人のドワーフの名工の手ほどきを受けているんだよ。あの滅多に人族を認めないドワーフが認める人族がアレク君だね。
その意味がわかるかい?」
「‥‥」
メイズさんが子どもに言って聞かせるように言ったんだ。
「帝都騎士団員は常に相手への敬意を忘れてはならない。そこに歳に関係はないんだよ。
だからね、自分より優れた者に学ばなければ、相手より強くはなれないんだよ。もちろん成長もしない。
アレク君は帝都の未成年者で1番強い。魔法に至っては大人を含めても強い。
その強さから真摯に学ばなければ君に成長はないよ」
「‥‥」
バリーさんはずっと下を向いたままだった。
「もう意味のないことでアレク君に絡むのはやめなさい」
「‥‥」
「わからないのかい?」
「‥‥」
バリーさんはずっと黙ったままだった。
不貞腐れてるみたいだった。
「なあシルフィ?」
「十人十色っていうでしょ。人の妬みなんてふつうにふつうなのよ。
諫言を理解できない人もふつうにいるし、真摯に努力できない人もふつうにいるわよ」
「うん‥‥」
「だからといってそんな人に手を差し伸べることをやめちゃ絶対だめよ。それは驕りを生むわ。
あとは‥‥その人次第ね」
「うん‥‥」
なぜかね、村の師匠とシスターナターシャの顔が浮かんだんだ。
2人とも出来の悪い俺を諦めることなく指導してくれた。
そうだ。
俺は俺のスタンスでいこう。それしかないな。
――――――――――
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