異世界の道具屋さん、引き継ぎます

冬生羚那

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驚いた

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 お風呂から上がって来たいーちゃんはシャツにズボンとラフな格好で出てきた。
 髪をちゃんと拭いてなくてポタポタしずくが落ちてるけど、まあいい。
 ……なんか、いーちゃんには聞きたいこといっぱいあるよ。

「おー、腹減ってたんだー!食べていい?食べていい?」
「うん、勿論。あ、でも髪もうちょっと乾かそうよ」
「大丈夫大丈夫、食ってりゃ乾く!」

 ……なんか昔よりおおらかになってない?
 昔はもっと静かな感じで、落ち着いたお兄さんって雰囲気だったんだけどなぁ?
 ばくばくお饅頭やお菓子を頬張る姿には叔父の威厳とかさっぱりなかった。
 食べることに夢中ないーちゃんに苦笑いが浮かぶけど、久しぶりの家族との団欒って感じで、胸がじんわり温かくなった。

「はー、やっぱこっちの食い物は美味い」
「いーちゃん……晩御飯入るの……?」
「入るって!え、菜摘ちゃん作ってくれるの?いーちゃん嬉しいな!」
「簡単なものしか作れないけどね」

 こうやって見てるといーちゃんの方が子供っぽい気がして、でもこんな気楽なやり取りや『家族』とのやり取りが嬉しくて、視界がじわりと滲んでしまう。
 俯いて涙を隠すわたしを、子供っぽい表情から優しい大人の顔に変えて、いーちゃんは静かにわたしを抱き締めてくれた。
 温かい人の温もりにしがみついて、わたしはまた泣いてしまった。

「落ち着いた?」
「ん゛……ごめんねいーぢゃ……」
「あああ、声ガラガラ。お茶飲んで」

 肩に掛けていたタオルで目元を拭ってくれるいーちゃんの胸元は、わたしの涙や鼻水で大変きったないことになってしまっていた。
 慌てて謝るけれど、気にしなくていいよ、と頭を撫でられていーちゃんの優しさは全然変わってないんだな、って思った。

「……それでいーちゃん、さっきの話だけど……」
「ああ、そうだね。ちゃんと話しておかないとダメだよね」

 お茶を飲んで心を落ち着けたわたしはいーちゃんに話を切り出す。
 お風呂に入って綺麗になったいーちゃんはやっぱりちょっとイケメンで、モテそうだな、なんて関係ないことを考える余裕も出来ていた。

 そうしてまずはわたしが今の状況を説明する。
 飯塚さんにお願いして、この家を相続する手続き書類書いちゃったからね。
 祖父もそのつもりだったみたいだけど、いーちゃんがそれを知ってるかわからなかったから。
 家の相続に関してはいーちゃんも宜しくな、ってにっこり笑って話がついてしまった。

「でも、いくらいーちゃんが放蕩息子でも、相続するの、わたしでいいの?」
「ちょ、放蕩息子って……」
「ふふ、おじいちゃんがそう言ってたよ」

 顔に思いっきり心外だ!と書いているいーちゃんだけど、祖父曰く、殆ど帰って来ないから放蕩息子でいいんだ、って言ってたよと伝えると物凄く唸ってた。

「お仕事で長く家空けるにしても、家主はいーちゃんの方がいいんじゃない?」
「あー…………いや、菜摘ちゃんでいいよ」
「でも……」
「そこは色々説明しなくちゃいけないことがあるんだ」

 そう言ったいーちゃんの表情はとても真剣なものになっていて、思わず背筋が伸びた。

「菜摘ちゃんには、そうだな……信じられないと思うんだけど、信じて欲しいことがある」
「うん?」
「実際に見てもらった方が早いかな?」

 そう言って立ち上がったいーちゃんに手を引かれ、わたしは家の奥……いーちゃんと再会した部屋へと移動する。
 途中でパチンと音がして、どうやら奥の部屋の電気を点けたっぽい。
 扉を開いた先は、気付かなかったけど沢山の物が置いてあった。
 それはまるでお店みたいで、家の裏手側にあるものじゃない気がする。
 こういうのは道沿いに作るべきで、庭の方へ作るものじゃないだろう。
 そんな疑問を抱きつつ、ぐるりと部屋の中を見回す。
 なんだか違和感があって、首を傾げているといーちゃんが笑った。

「ここは父さんの店でさ、中身は後で。見せたいのはこっち」

 そう言っていーちゃんは置いていた自分の靴を履く。
 わたしは置きっぱなしになっていた祖父のつっかけを引っ掛けて、いーちゃんの後ろをついて行く。

「この店の名前はさ、安直なもんで『異世界の道具屋さん』っつーんだよ」

 笑ってそう言ったいーちゃんが、庭への扉を開くと見知らぬ世界が広がっていた。
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