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2.青空のない世界
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あれから五年の歳月が流れた。
季節は秋に入って間もないが、まだまだ暑い日は続きそうだ。
ここは村の学校。十七歳になったアスターは、良く言えば平和な、悪く言えば退屈な世界で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。外から入ってくる弱めの風が心地良い。
彼のいる場所──二階にある高等部二学年の教室では、演劇発表について話し合っているところだ。これは毎年行われる村祭りの出し物の一つで、今年、アスターたちはミュージカル風の劇をやることに決まったのだ。
その劇の主役に、アスターは抜擢された。勇者が魔王を倒して平和な世界を取り戻すという、いつかどこかで聞いたことのあるような──それが今度の出し物の内容だと教師の口から流れ出れば、生徒たちの視線はアスターに一極集中せざるを得ない。
「え? ……俺?」
一人の言葉に、そこにいた者全てが首を縦に振る。
「なーに、遠慮すんなって。本当は俺がやりたかったんだけどよー、真の勇者サマの身内がココにいるんだ。今回は譲ってやんよ」
──いや、俺の方こそ譲るよ──
「そうそう。こんなにスンナリ主役が決まるなんて、滅多にないだろ? いいじゃんいいじゃん、やりますって言っちゃえよ。他の奴らのことはいいから!」
──そうは言いますけど──
「本物の勇者様から、色んなお話聞いてるんでしょ? なら楽勝じゃない。ねえ?」
──何を根拠に楽勝だと? この分厚い台本を前にして──
急なアスター推しに、本人はモヤモヤしているが、周囲は寛容だ。
劇中の勇者はアスターの兄がモデルで、しかし名前は設定されておらず、『勇者(様)』という表現のみ。当然男性なので、男子生徒同士でイザコザがあってもおかしくはないのだが、勇者の実の弟が今、同じ空間にいるのだ。勇者の功績自体、とてつもなく大きいので、こうして平和的に話が進んでいるのである。とはいえ、アスターからしてみれば、からかわれているように思えなくもない。
アスターは正直なところ、ちょっと出しゃばってみたかった。たった一回手を挙げるだけで得られる可能性がある。躊躇っている暇があったら、その時間を挙手という至極簡単な動作に当てるんだ。どちらかといえば控えめに生きてきた自分が舞台の中央に立つ機会など、滅多にないことだ。さあ──!
というところで推薦されてしまったものだから、フリではなく本当に驚いた。そして心とは裏腹に、妙に慎重に振る舞ってしまった。
反対する者は極めて少ない。いや、見る限り全員賛成か。
凡人であるアスターが、実話を基にしたフィクション劇とはいえ勇者になれるのだ。
本当の冒険と違い、怪我をする確率は非常に小さい。当然死者も出ない。教師と村の偉い人物が用意した、安全が保障された舞台の上で、『勇者アスター』を誕生させることができる。
──皆の気持ちに嘘はないと見た。ならば俺も本音で応えよう。この波に乗らないわけにはいかない──!
「……本当に俺でいいの?」
アスターは手を半分だけ挙げて、ボソリと言った。
「いいよー」
「異議なーし」
「はい決定ー。次、決めよーぜ」
心の中のもう一人のアスターが、勝利を掴み取った喜びに満ちあふれている。現実の彼は天井に顔を向けて伸びのポーズをし、うっかりニヤけ顔が表に出ないよう堪えた。教室ではもう既に、魔法使いの役を誰がやるかという話に入っていた。
昼食を済ませた後。アスターは興奮冷めやらぬ状態でズンズン歩いていた。
たかが出し物、されど出し物。はぁ~、と大きく息を吐きつつ、村の西にある小さな湖まで足を運んだアスターの手には、劇の台本が握られていた。
主役は観客の前に立つ時間が長い。セリフの量も然り。ドキドキしながら台本をめくり、直面した現実。思い出すだけでゲンナリしてしまうが後戻りはできない。
誰もいない所の方が、自分に課せられた『暗記』という作業をするのに適しているのではないかと思い、なんとなくでここまで来た。どかり、と座る彼は、眼前の綺麗な水色を愛でるより、やらなければならないことを優先した。
眉間に皺まで作りながら、文字列と戦うこと数十分。本を開いて閉じてを繰り返して、初日とはいえ少しでもセリフを覚えたい彼を、一羽の黄色い鳥が木の上から見ていた。
間もなくして、生温く重たい空気が、湖周辺に流れてきた。アスターは何も気づいていない。
アスターが座っている向かい側に、黒いものが音もなく現れた。黄色い鳥は「ピピッ!?」と驚愕の鳴き声を上げ、どこかへ逃げるように飛んで行った。
黒いものはやがて、四角い形を成した。アスターは次第にソワソワしてくる。自分に落ち着きがなくなったと思い始めた彼が、おもむろに顔を上げると──
「な、何だアレ!?」
前方十数メートル先に突如として出現した、謎の黒い何か。高さ十メートル、幅七~八メートルくらいはありそうなそれは、間違いなく初めからあったのではなく、たった今そこに現れたものである。
セリフの暗記どころではなくなった。これは一大事だ。この場にはアスター以外誰もいない。村に戻って誰かに報せるべきか、それとも──自分自身であそこまで行ってみるか。
立ち上がり、少しの間、遠くから黒い物体を眺めてみたが、それだけではわからなかった。動いたわけでもなく、何かが出てきたり、逆に吸い込まれたりしたわけでもないからだ。ますます謎である。
先に右足が動きそうだ。前に出すのか後ろに引くのか、脳からの命令は未だ出ず。
自分より先にあの黒いものに変化が出たら、瞬時に逃走する準備はできている。今のところは禍々しいオーラを醸し出しながら、静かに佇んでいるだけである。
無意識にザッと足音を立てて、アスターはハッとした。体が前に行きたがっていることに気づいたのだ。
──アレが何なのかを知りたい──
台本を持っている左手に、力がギュッと入る。意を決して反時計回りにぐるりと歩を進め、物体の手前で止まる。こうしている間、不思議と胸の鼓動は平常運転に近かった。
見上げてみるうちに、それが門のように思えてきた。扉らしきものは見えないが。
──次の領域に入るか。つまり、この手で触れてみるか──
右手が汗ばんできた。ただ見るだけなら無害かもしれない。が、それ以上のことをするとどうなるのか。それは当然のことながら、誰も知らない。踏み込んでみるかという問いに出た『YES』と『NO』という選択肢。さてどう答えるか。
──俺の答えは……YES──!
アスターはスーッと右手を伸ばす。手の半分が黒いもので隠れた。
「?」
触れた感触がまるでないという事実に、『拍子抜け』という言葉が次に口に出す候補として上がった。
このような意味不明なものに、いつまでも関わっていても仕方がない。さっさとこの手を引っ込めて、もうこの場から離れ(物体が消えてくれないことには、集中できなくて困る)、村に戻ろう。そう考えていたアスターだったが、
「……あれ? 抜けない」
右手が黒いものから離される様子がない。誰かに掴まれている感触もない。それなのに、どういうことか、どんなに引っ張っても右手が抜けてくれないのだ。
「どうなってんだよ、クソッ!」
想定外のトラブル発生である。ほぼ全身に力を入れて「ふぬぬぬぬっ!」と引っ張っても、無駄に疲労が蓄積されるのみ。
ふはー、と大きく息を吐いた刹那、物体からコオオオオォォ、という小さな音が聞こえ、アスターの体が動いた。
「うわッ!?」
黒いものに、自分の身体が吸い込まれている。
この時はあまりの恐怖に、意味のある単語すらをも発せられなかった。誰もいない湖のほとりで、歩くくらいのスピードで、アスターは謎の黒い物体の中に吸い込まれていった。
静かになった湖には、劇の台本だけが残った。
アスターは、ゆっくりと目を開けた。危うく、鼻から砂粒を吸い込むところだった。闇に飲まれているうちに、気を失い倒れてしまっていたようだ。
「……?」
何かがおかしい。とりあえず立ち上がる。
広がる風景の中に、湖はない。それどころか、彼が先ほどまでいた場所とはまるで雰囲気が異なる。
そこは荒地だった。冷ややかな風で土埃が低く舞う。草はアスターの周囲には生えておらず、木の1本も見える範囲の中には見当たらない。遠くに山らしきものがあるようだが、今の彼にはどうでもよかった。
不気味なくらいに静かだ。今、この場所にはアスターしかいない。鳥は飛んでおらず、獣の類は徘徊しておらず、虫が這う姿さえも、どんなに目を凝らせても見かけない。
「何だよ、ここ……」
アスターは思わず呟く。更に気が付いたのが、空の色。なんとも不気味な紫色が、どこまでもどこまでも──終わりなどないかのように広がっている。
「気色悪い空だな……」
青、白、灰色、濃紺──アスターの住む世界の空は様々な色を見せてくれるが、紫というのは見たことも聞いたこともない。もっと言えば、ありえない。だが彼の目には、ありえないはずの空が現実として映っている。悪口になってしまうが、心の中で思うだけでは足りず、どうしても音声としてこの空間に発したかった。それくらい強烈な印象を受けたのだ。
彼は突如、ハッとした。そういえば、大事なことがあったのだ。空のことはひとまず置いておいて──
「あれ……? どこだ、どこ行った?」
思い出し、辺りをキョロキョロ見回す。やがて顔面蒼白となる。
『アレ』が──ない。
うっかり手を伸ばしたアスターを引き込み、この未知の場所へと誘った黒い物体が、いつの間にか消えてしまっていたのだ。
「マジかよ……」
顔面蒼白、口は半開きにしたまま呆然と立ち尽くす。そして始まる後悔。
──興味本位で正体不明の物体に触れてしまったがために、一瞬で知らない場所へと転移してしまった。触れなければよかった。近づかなければよかった。見つけなければ。そもそも湖に来なければ──!
気分のモヤモヤが止まらない。しかし、足を止めたままでは何も進展しないだろうと思い、方角もわからないままアスターは歩き出した。
季節は秋に入って間もないが、まだまだ暑い日は続きそうだ。
ここは村の学校。十七歳になったアスターは、良く言えば平和な、悪く言えば退屈な世界で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。外から入ってくる弱めの風が心地良い。
彼のいる場所──二階にある高等部二学年の教室では、演劇発表について話し合っているところだ。これは毎年行われる村祭りの出し物の一つで、今年、アスターたちはミュージカル風の劇をやることに決まったのだ。
その劇の主役に、アスターは抜擢された。勇者が魔王を倒して平和な世界を取り戻すという、いつかどこかで聞いたことのあるような──それが今度の出し物の内容だと教師の口から流れ出れば、生徒たちの視線はアスターに一極集中せざるを得ない。
「え? ……俺?」
一人の言葉に、そこにいた者全てが首を縦に振る。
「なーに、遠慮すんなって。本当は俺がやりたかったんだけどよー、真の勇者サマの身内がココにいるんだ。今回は譲ってやんよ」
──いや、俺の方こそ譲るよ──
「そうそう。こんなにスンナリ主役が決まるなんて、滅多にないだろ? いいじゃんいいじゃん、やりますって言っちゃえよ。他の奴らのことはいいから!」
──そうは言いますけど──
「本物の勇者様から、色んなお話聞いてるんでしょ? なら楽勝じゃない。ねえ?」
──何を根拠に楽勝だと? この分厚い台本を前にして──
急なアスター推しに、本人はモヤモヤしているが、周囲は寛容だ。
劇中の勇者はアスターの兄がモデルで、しかし名前は設定されておらず、『勇者(様)』という表現のみ。当然男性なので、男子生徒同士でイザコザがあってもおかしくはないのだが、勇者の実の弟が今、同じ空間にいるのだ。勇者の功績自体、とてつもなく大きいので、こうして平和的に話が進んでいるのである。とはいえ、アスターからしてみれば、からかわれているように思えなくもない。
アスターは正直なところ、ちょっと出しゃばってみたかった。たった一回手を挙げるだけで得られる可能性がある。躊躇っている暇があったら、その時間を挙手という至極簡単な動作に当てるんだ。どちらかといえば控えめに生きてきた自分が舞台の中央に立つ機会など、滅多にないことだ。さあ──!
というところで推薦されてしまったものだから、フリではなく本当に驚いた。そして心とは裏腹に、妙に慎重に振る舞ってしまった。
反対する者は極めて少ない。いや、見る限り全員賛成か。
凡人であるアスターが、実話を基にしたフィクション劇とはいえ勇者になれるのだ。
本当の冒険と違い、怪我をする確率は非常に小さい。当然死者も出ない。教師と村の偉い人物が用意した、安全が保障された舞台の上で、『勇者アスター』を誕生させることができる。
──皆の気持ちに嘘はないと見た。ならば俺も本音で応えよう。この波に乗らないわけにはいかない──!
「……本当に俺でいいの?」
アスターは手を半分だけ挙げて、ボソリと言った。
「いいよー」
「異議なーし」
「はい決定ー。次、決めよーぜ」
心の中のもう一人のアスターが、勝利を掴み取った喜びに満ちあふれている。現実の彼は天井に顔を向けて伸びのポーズをし、うっかりニヤけ顔が表に出ないよう堪えた。教室ではもう既に、魔法使いの役を誰がやるかという話に入っていた。
昼食を済ませた後。アスターは興奮冷めやらぬ状態でズンズン歩いていた。
たかが出し物、されど出し物。はぁ~、と大きく息を吐きつつ、村の西にある小さな湖まで足を運んだアスターの手には、劇の台本が握られていた。
主役は観客の前に立つ時間が長い。セリフの量も然り。ドキドキしながら台本をめくり、直面した現実。思い出すだけでゲンナリしてしまうが後戻りはできない。
誰もいない所の方が、自分に課せられた『暗記』という作業をするのに適しているのではないかと思い、なんとなくでここまで来た。どかり、と座る彼は、眼前の綺麗な水色を愛でるより、やらなければならないことを優先した。
眉間に皺まで作りながら、文字列と戦うこと数十分。本を開いて閉じてを繰り返して、初日とはいえ少しでもセリフを覚えたい彼を、一羽の黄色い鳥が木の上から見ていた。
間もなくして、生温く重たい空気が、湖周辺に流れてきた。アスターは何も気づいていない。
アスターが座っている向かい側に、黒いものが音もなく現れた。黄色い鳥は「ピピッ!?」と驚愕の鳴き声を上げ、どこかへ逃げるように飛んで行った。
黒いものはやがて、四角い形を成した。アスターは次第にソワソワしてくる。自分に落ち着きがなくなったと思い始めた彼が、おもむろに顔を上げると──
「な、何だアレ!?」
前方十数メートル先に突如として出現した、謎の黒い何か。高さ十メートル、幅七~八メートルくらいはありそうなそれは、間違いなく初めからあったのではなく、たった今そこに現れたものである。
セリフの暗記どころではなくなった。これは一大事だ。この場にはアスター以外誰もいない。村に戻って誰かに報せるべきか、それとも──自分自身であそこまで行ってみるか。
立ち上がり、少しの間、遠くから黒い物体を眺めてみたが、それだけではわからなかった。動いたわけでもなく、何かが出てきたり、逆に吸い込まれたりしたわけでもないからだ。ますます謎である。
先に右足が動きそうだ。前に出すのか後ろに引くのか、脳からの命令は未だ出ず。
自分より先にあの黒いものに変化が出たら、瞬時に逃走する準備はできている。今のところは禍々しいオーラを醸し出しながら、静かに佇んでいるだけである。
無意識にザッと足音を立てて、アスターはハッとした。体が前に行きたがっていることに気づいたのだ。
──アレが何なのかを知りたい──
台本を持っている左手に、力がギュッと入る。意を決して反時計回りにぐるりと歩を進め、物体の手前で止まる。こうしている間、不思議と胸の鼓動は平常運転に近かった。
見上げてみるうちに、それが門のように思えてきた。扉らしきものは見えないが。
──次の領域に入るか。つまり、この手で触れてみるか──
右手が汗ばんできた。ただ見るだけなら無害かもしれない。が、それ以上のことをするとどうなるのか。それは当然のことながら、誰も知らない。踏み込んでみるかという問いに出た『YES』と『NO』という選択肢。さてどう答えるか。
──俺の答えは……YES──!
アスターはスーッと右手を伸ばす。手の半分が黒いもので隠れた。
「?」
触れた感触がまるでないという事実に、『拍子抜け』という言葉が次に口に出す候補として上がった。
このような意味不明なものに、いつまでも関わっていても仕方がない。さっさとこの手を引っ込めて、もうこの場から離れ(物体が消えてくれないことには、集中できなくて困る)、村に戻ろう。そう考えていたアスターだったが、
「……あれ? 抜けない」
右手が黒いものから離される様子がない。誰かに掴まれている感触もない。それなのに、どういうことか、どんなに引っ張っても右手が抜けてくれないのだ。
「どうなってんだよ、クソッ!」
想定外のトラブル発生である。ほぼ全身に力を入れて「ふぬぬぬぬっ!」と引っ張っても、無駄に疲労が蓄積されるのみ。
ふはー、と大きく息を吐いた刹那、物体からコオオオオォォ、という小さな音が聞こえ、アスターの体が動いた。
「うわッ!?」
黒いものに、自分の身体が吸い込まれている。
この時はあまりの恐怖に、意味のある単語すらをも発せられなかった。誰もいない湖のほとりで、歩くくらいのスピードで、アスターは謎の黒い物体の中に吸い込まれていった。
静かになった湖には、劇の台本だけが残った。
アスターは、ゆっくりと目を開けた。危うく、鼻から砂粒を吸い込むところだった。闇に飲まれているうちに、気を失い倒れてしまっていたようだ。
「……?」
何かがおかしい。とりあえず立ち上がる。
広がる風景の中に、湖はない。それどころか、彼が先ほどまでいた場所とはまるで雰囲気が異なる。
そこは荒地だった。冷ややかな風で土埃が低く舞う。草はアスターの周囲には生えておらず、木の1本も見える範囲の中には見当たらない。遠くに山らしきものがあるようだが、今の彼にはどうでもよかった。
不気味なくらいに静かだ。今、この場所にはアスターしかいない。鳥は飛んでおらず、獣の類は徘徊しておらず、虫が這う姿さえも、どんなに目を凝らせても見かけない。
「何だよ、ここ……」
アスターは思わず呟く。更に気が付いたのが、空の色。なんとも不気味な紫色が、どこまでもどこまでも──終わりなどないかのように広がっている。
「気色悪い空だな……」
青、白、灰色、濃紺──アスターの住む世界の空は様々な色を見せてくれるが、紫というのは見たことも聞いたこともない。もっと言えば、ありえない。だが彼の目には、ありえないはずの空が現実として映っている。悪口になってしまうが、心の中で思うだけでは足りず、どうしても音声としてこの空間に発したかった。それくらい強烈な印象を受けたのだ。
彼は突如、ハッとした。そういえば、大事なことがあったのだ。空のことはひとまず置いておいて──
「あれ……? どこだ、どこ行った?」
思い出し、辺りをキョロキョロ見回す。やがて顔面蒼白となる。
『アレ』が──ない。
うっかり手を伸ばしたアスターを引き込み、この未知の場所へと誘った黒い物体が、いつの間にか消えてしまっていたのだ。
「マジかよ……」
顔面蒼白、口は半開きにしたまま呆然と立ち尽くす。そして始まる後悔。
──興味本位で正体不明の物体に触れてしまったがために、一瞬で知らない場所へと転移してしまった。触れなければよかった。近づかなければよかった。見つけなければ。そもそも湖に来なければ──!
気分のモヤモヤが止まらない。しかし、足を止めたままでは何も進展しないだろうと思い、方角もわからないままアスターは歩き出した。
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