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3.無能少年はひたすら走る
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空に太陽がないので、方角がわからない。適当に長く歩いているうちに、鼻先にポツン、と水が落ちてきた。足を止め上を見ると、灰色の雲が薄くかかっていた。
──雨が降るかもしれない──
しかし、仮に降ったとしても、濡れるのを回避できる手段がない。後に土砂降りになるのか、定期的にポツポツと少量の雨粒を落とす程度で済むのもわからない。できれば、見た目は何でもいいから屋根のある所へ行きたい──それが今のアスターが望むことであった。
坂を登っているような感覚を覚えてから、どれくらい経っただろうか。なだらかな丘の方まで来ていた。両足に疲労が溜まりに溜まり、休憩したいという欲求が現れたので、その場にぺたん、と座り込む。そして何度めかの溜め息。
「はぁ……。なんでこんなことになっちまったんだよ……」
静寂の異空間でアスターは1人、あぐらをかいて考え込む。
──これから自分はどうすればいいのか──
答えはすぐに出た。あの黒く巨大な物体を見つけることだ。先程は触れただけで、この見知らぬ不気味な場所へと、この身を移された。ならば、もう1度同じことをすれば、元いたあの湖に戻ってこれるのではないだろうか。それができれば一件落着、普段通りの生活を送り続けることができる。
しかし、あの物体が消える瞬間を直接見たわけではない。そもそもあれが何なのか、ここがどこなのか、まだアスターの頭の中は混乱が続いていて、冷静さを取り戻すための見えない戦いが、彼の中で繰り広げられている。
座ったまま前方を見ると、標高がやや高くなったおかげか、ずっと遠くに森らしきものをとらえることができた。
──まずは、行ってみる価値があるかどうか。帰る手段が、平地からあの森へ移動している可能性は……いや、そんなものはないか。あれはどうみても生き物ではない──
「……まてよ」
一つ思いついた。今いる所からは見えないだけで、森の近くに集落がある可能性である。もし人間が住んでいたら、是が非でも聞き出さなければならない。アスターは早く帰りたい。想像だけしていても意味がないので、立ち上がろうと思った、まさにその時であった。
「グルルルル……」
後方からの音──というより声のようなものに気づいたアスターは、立て膝をついた状態で後ろを向いた。周囲に音を出すものが存在しないので、遠くからの音を拾うのが容易なのだ。
「ぅわッ!!」
五十メートルくらい離れた所に、子牛ほどの大きさで黒い毛皮を持つ犬のような風貌の獣がいた。その目は明らかにアスターしか見ていない。唸り声を出しながら、ヒタヒタと歩み寄る。
アスターは察した。あれはどう見ても魔物だ、と。
この場合は、やはり戦わなければならないのだろうと思い、その準備をするため、左右の腰をパンパン叩く。
「…………」
手を止め無言になる。
──も・し・か・し・て──
着ている服と装飾品の感触しか得られなかったことで、彼は重大なことに気づき青ざめた。
武器を所持していなかったのだ。
襟つきの青紫色の半袖、その中に白い長袖のシャツ、ダークグレーの長ズボン、こげ茶色のショートブーツ、所持品なしというのが、今の彼の姿だった。
湖まで行くのに持って行ったのは劇の台本のみで、護身用の剣は自宅の敷地内に据え置かれた物置の中で、今も眠っている。その台本は湖の前で落としてしまったわけだが、所持していたとしても、武器の代わりにするには厚みが中途半端なので実用には至らないだろう、と落胆した。
魔物は確実に、獲物との距離を縮めている。口元をよく見ると、よだれを垂らしている。よほどアスターが美味しそうに見えるのだろう。わざとゆっくり歩いているのが、かえっていやらしい。
魔物は丸腰という痛恨のミスを犯してしまったアスターは、格闘術も知らない。これまで見たことのない、凶暴な魔物を前にして、彼にできることは、
ダダダダダダダダッ!!
全力疾走のみ。声も出さずに、走れるだけ走った。
途中で大きく右に曲がり、またまっすぐ。どこを目指しているわけでもなく、ただ魔物の恐怖から逃れるために。そのためならば、身体が悲鳴を上げようが構わず、走ることに一心不乱である必要があった。
──逃げろ、走れ、とにかく走れ! スピードを緩めるな! 止まったら殺される! こんな所で死にたくない! 生きる! 振り向くな、何も考えるな、考えるな──!
しかし登りの傾斜に体力をごっそりと持っていかれ、
ズデンッ!
アスターはとうとう転倒してしまった。
「いってぇ……」
重い体を起こそうとした時に、天上から多数の雨粒が我も我もと地上へ、あっという間に本降りになった。アスターは中腰になり、全身で呼吸しながら天候の変化を憂いだ。
「あーあ、降ってきやがった。雨は嫌いだっつーの……って、なに止まってんだ俺! 殺され……え……?」
魔物が襲ってくる気配が感じられなくなっていた。よく見ると下の方で、あの魔物が別の何かを貪り食べている様子が窺える。どうやらアスターを追っている途中で、気まぐれにもターゲットを変えてくれたようだった。
何なのかよくはわからないが、もしそれが通りかかっていなかったら、ああなっていたのは自分だったかもしれない。離れていても咀嚼の音が、嫌でも耳に入る。雨の音は頼りになるほどではなかった。
安心はできなかった。アレを食べ終えたら次は自分だ、きっとそうに違いないと思ったアスターは、魔物が気づく前に、体に鞭を打ってまた駆けていった。
建造物を発見したしたのは、それから五分ほど経ってからであった。
高台の上に城があった。荘厳で美しいという表現とは無縁なほどに荒れ果てた城は、その周囲も、言葉では言い尽くせないほど、酷い有様だった。
城壁は一部が崩れており、地面はデコボコで、瓦礫があちらこちらに散乱しており、それも手付かずのままと見受けられる。
内部の、とある一室。広さだけで言えば百人規模の舞踏会が開けそうな程だが、全体的に暗く、肌寒く、窓ガラスがどこも大きく割れている。このような部屋で踊りたいと言う者など、まず存在しないだろう。
奥の玉座には誰も座っていない。ただ、人間の少女のような姿をした者が窓際に立って、外を眺めていた。
見た目は十代の半ばくらい。ポニーテールに結い上げた深緑色の髪に、虚げな黒い瞳。紺色の長袖の上衣は銀色のライン入りで、前身頃に対して後身頃が長く膝裏まである、一風変わったデザイン。その上から黒いマントを羽織っている。腰の茶色いベルトは、これといった特徴はない、ごく一般的なもの。ゆったりめのショートパンツ、ニーソックス、ブーツは黒でまとめている。そして、彼女の身の丈に近い長さの剣を背負っているが、マントに隠れて持ち手ぐらいしか見えていない。
頬杖をついて外を眺める彼女のもとに、一匹のコウモリがやって来た。性別はオス。体長は約三十センチメートルで、体毛はラベンダー色。樽のような体型で、まん丸い目を持つ。黒い羽をパタパタさせ、人間の言葉を発した。
「クロエちゃん、人間だよ! 人間がいるよ!」
幼い少年のようなかわいらしい声で、自分が見た事柄を報告した。
名前を呼ばれた少女は、このコウモリが言ったことに訝しげな口ぶりで返した。
「人間? まさか……」
「間違いないよ! 人間なんて何年ぶりだろ。……あ、五年ぶりだ! そうそう、魔王様が憎っくき人間の勇者なんかにやられてから、ずーっと見てなかったんだ。あ~、また人間を食べられるなんて嬉しいな♪ ね、ね、まだこの辺にいるだろうから、狩りに行こうよ!」
魔王と聞いて、クロエは玉座の方を振り向いた。この世界の頂点に立つにふさわしい者にのみ座ることが許されていたそれは、主を失った今では、インテリアの一部と化していた。
人間狩り──
それはこの地に棲む者が生き甲斐と掲げる最たるもの。この地に赴く幾多もの人間を、その手で血祭りに上げること数千年。樽型コウモリもまた、見た目に反して残酷さを見せつけてきたうちの一匹。
しかし、五年前に魔王が倒され、こちらと人間世界、互いの行き来が不可能になってからは、代わりに同じ世界に生息する別の魔物を狩ることで、視覚(鮮血)と聴覚(断末魔)、果ては食欲を満たしてきた。だが、このコウモリは思う。狩って得られる悦びは、どいつも人間には遠く及ばない、と。
「本当だとしても……私は人間は食べないって、前に言ったはずだけど」
「えー!?」
コウモリはクロエの右肩に降りた。
「なんでなんで? 人間の肉はとっても美味しいのに。食べないなんて、魔族として何割かは損してるよ絶対! クロエちゃん、まだ一回も食べたことないんでしょ?」
クロエはこくり、と頷く。
「もしかして……クロエちゃんの見た目が人間とそっくりだから? それで食べたがらないの?」
コウモリの問いに、クロエは自身の手を見つめる。どちらかと言えば色白な肌、スッと伸びた白魚のようなその手で、人間の肉体を掴み頬張る姿というのは、どうにも思い浮かべ難かった。
「さあね」
クロエの気持ちが理解できないコウモリは、窓から外に出るつもりで彼女から離れた。
「じゃあ、ボクだけであの人間を戴いてこようかな~」
「待って」
クロエの制止が入った。
そして彼女は訊ねた。コウモリが見たという人間の特徴を。
「んっとねー、なんか冴えない感じだったなぁ。うん、あんまり美味しくなさそう。アレはまだ子供かな、クロエちゃんと同じくらいだと思う。それから……何も持ってないみたいだったよ。ここに来る人間って、みんな武器を持ってたのに珍しいよね。魔法使いだって杖とか持ってるモンなのに。 あとはねー…………う~、あとは普通すぎてわかんない。もしかして、五年前からずっといたのかなぁ? そんなのありえないよねー?」
「普通の人間が、今日まで生き延びてたってこと? それも信じ難いけど……モリ君の目は確かだからなー……」
「あ!!」
突然、コウモリのモリ君が声を上げる。それまで冷静でいたクロエも、少し驚いたようだった。
「あの『門』だ! あの時消えてからそれっきりだったけど、また出てきてくれたんだ。そうだよ、アレをくぐって来たのかもしれない。ウヒヒヒヒ、そしたらまた人間界から、ボクら魔族をやっつけようなんて考えるバカなヤツがたくさん来るよ。そいつらをジャンジャン殺して料理しよう。そんでこっちも人間界に乗り込んで……。くぅ~、たまんないね。みんな喜ぶよ~」
──あぁ、そっちの方かもしれない──
武器も持っていない、少年と推測される人間が、この城の近くにいる。
それを知った少女・クロエは、ある考えに思い至った。
──雨が降るかもしれない──
しかし、仮に降ったとしても、濡れるのを回避できる手段がない。後に土砂降りになるのか、定期的にポツポツと少量の雨粒を落とす程度で済むのもわからない。できれば、見た目は何でもいいから屋根のある所へ行きたい──それが今のアスターが望むことであった。
坂を登っているような感覚を覚えてから、どれくらい経っただろうか。なだらかな丘の方まで来ていた。両足に疲労が溜まりに溜まり、休憩したいという欲求が現れたので、その場にぺたん、と座り込む。そして何度めかの溜め息。
「はぁ……。なんでこんなことになっちまったんだよ……」
静寂の異空間でアスターは1人、あぐらをかいて考え込む。
──これから自分はどうすればいいのか──
答えはすぐに出た。あの黒く巨大な物体を見つけることだ。先程は触れただけで、この見知らぬ不気味な場所へと、この身を移された。ならば、もう1度同じことをすれば、元いたあの湖に戻ってこれるのではないだろうか。それができれば一件落着、普段通りの生活を送り続けることができる。
しかし、あの物体が消える瞬間を直接見たわけではない。そもそもあれが何なのか、ここがどこなのか、まだアスターの頭の中は混乱が続いていて、冷静さを取り戻すための見えない戦いが、彼の中で繰り広げられている。
座ったまま前方を見ると、標高がやや高くなったおかげか、ずっと遠くに森らしきものをとらえることができた。
──まずは、行ってみる価値があるかどうか。帰る手段が、平地からあの森へ移動している可能性は……いや、そんなものはないか。あれはどうみても生き物ではない──
「……まてよ」
一つ思いついた。今いる所からは見えないだけで、森の近くに集落がある可能性である。もし人間が住んでいたら、是が非でも聞き出さなければならない。アスターは早く帰りたい。想像だけしていても意味がないので、立ち上がろうと思った、まさにその時であった。
「グルルルル……」
後方からの音──というより声のようなものに気づいたアスターは、立て膝をついた状態で後ろを向いた。周囲に音を出すものが存在しないので、遠くからの音を拾うのが容易なのだ。
「ぅわッ!!」
五十メートルくらい離れた所に、子牛ほどの大きさで黒い毛皮を持つ犬のような風貌の獣がいた。その目は明らかにアスターしか見ていない。唸り声を出しながら、ヒタヒタと歩み寄る。
アスターは察した。あれはどう見ても魔物だ、と。
この場合は、やはり戦わなければならないのだろうと思い、その準備をするため、左右の腰をパンパン叩く。
「…………」
手を止め無言になる。
──も・し・か・し・て──
着ている服と装飾品の感触しか得られなかったことで、彼は重大なことに気づき青ざめた。
武器を所持していなかったのだ。
襟つきの青紫色の半袖、その中に白い長袖のシャツ、ダークグレーの長ズボン、こげ茶色のショートブーツ、所持品なしというのが、今の彼の姿だった。
湖まで行くのに持って行ったのは劇の台本のみで、護身用の剣は自宅の敷地内に据え置かれた物置の中で、今も眠っている。その台本は湖の前で落としてしまったわけだが、所持していたとしても、武器の代わりにするには厚みが中途半端なので実用には至らないだろう、と落胆した。
魔物は確実に、獲物との距離を縮めている。口元をよく見ると、よだれを垂らしている。よほどアスターが美味しそうに見えるのだろう。わざとゆっくり歩いているのが、かえっていやらしい。
魔物は丸腰という痛恨のミスを犯してしまったアスターは、格闘術も知らない。これまで見たことのない、凶暴な魔物を前にして、彼にできることは、
ダダダダダダダダッ!!
全力疾走のみ。声も出さずに、走れるだけ走った。
途中で大きく右に曲がり、またまっすぐ。どこを目指しているわけでもなく、ただ魔物の恐怖から逃れるために。そのためならば、身体が悲鳴を上げようが構わず、走ることに一心不乱である必要があった。
──逃げろ、走れ、とにかく走れ! スピードを緩めるな! 止まったら殺される! こんな所で死にたくない! 生きる! 振り向くな、何も考えるな、考えるな──!
しかし登りの傾斜に体力をごっそりと持っていかれ、
ズデンッ!
アスターはとうとう転倒してしまった。
「いってぇ……」
重い体を起こそうとした時に、天上から多数の雨粒が我も我もと地上へ、あっという間に本降りになった。アスターは中腰になり、全身で呼吸しながら天候の変化を憂いだ。
「あーあ、降ってきやがった。雨は嫌いだっつーの……って、なに止まってんだ俺! 殺され……え……?」
魔物が襲ってくる気配が感じられなくなっていた。よく見ると下の方で、あの魔物が別の何かを貪り食べている様子が窺える。どうやらアスターを追っている途中で、気まぐれにもターゲットを変えてくれたようだった。
何なのかよくはわからないが、もしそれが通りかかっていなかったら、ああなっていたのは自分だったかもしれない。離れていても咀嚼の音が、嫌でも耳に入る。雨の音は頼りになるほどではなかった。
安心はできなかった。アレを食べ終えたら次は自分だ、きっとそうに違いないと思ったアスターは、魔物が気づく前に、体に鞭を打ってまた駆けていった。
建造物を発見したしたのは、それから五分ほど経ってからであった。
高台の上に城があった。荘厳で美しいという表現とは無縁なほどに荒れ果てた城は、その周囲も、言葉では言い尽くせないほど、酷い有様だった。
城壁は一部が崩れており、地面はデコボコで、瓦礫があちらこちらに散乱しており、それも手付かずのままと見受けられる。
内部の、とある一室。広さだけで言えば百人規模の舞踏会が開けそうな程だが、全体的に暗く、肌寒く、窓ガラスがどこも大きく割れている。このような部屋で踊りたいと言う者など、まず存在しないだろう。
奥の玉座には誰も座っていない。ただ、人間の少女のような姿をした者が窓際に立って、外を眺めていた。
見た目は十代の半ばくらい。ポニーテールに結い上げた深緑色の髪に、虚げな黒い瞳。紺色の長袖の上衣は銀色のライン入りで、前身頃に対して後身頃が長く膝裏まである、一風変わったデザイン。その上から黒いマントを羽織っている。腰の茶色いベルトは、これといった特徴はない、ごく一般的なもの。ゆったりめのショートパンツ、ニーソックス、ブーツは黒でまとめている。そして、彼女の身の丈に近い長さの剣を背負っているが、マントに隠れて持ち手ぐらいしか見えていない。
頬杖をついて外を眺める彼女のもとに、一匹のコウモリがやって来た。性別はオス。体長は約三十センチメートルで、体毛はラベンダー色。樽のような体型で、まん丸い目を持つ。黒い羽をパタパタさせ、人間の言葉を発した。
「クロエちゃん、人間だよ! 人間がいるよ!」
幼い少年のようなかわいらしい声で、自分が見た事柄を報告した。
名前を呼ばれた少女は、このコウモリが言ったことに訝しげな口ぶりで返した。
「人間? まさか……」
「間違いないよ! 人間なんて何年ぶりだろ。……あ、五年ぶりだ! そうそう、魔王様が憎っくき人間の勇者なんかにやられてから、ずーっと見てなかったんだ。あ~、また人間を食べられるなんて嬉しいな♪ ね、ね、まだこの辺にいるだろうから、狩りに行こうよ!」
魔王と聞いて、クロエは玉座の方を振り向いた。この世界の頂点に立つにふさわしい者にのみ座ることが許されていたそれは、主を失った今では、インテリアの一部と化していた。
人間狩り──
それはこの地に棲む者が生き甲斐と掲げる最たるもの。この地に赴く幾多もの人間を、その手で血祭りに上げること数千年。樽型コウモリもまた、見た目に反して残酷さを見せつけてきたうちの一匹。
しかし、五年前に魔王が倒され、こちらと人間世界、互いの行き来が不可能になってからは、代わりに同じ世界に生息する別の魔物を狩ることで、視覚(鮮血)と聴覚(断末魔)、果ては食欲を満たしてきた。だが、このコウモリは思う。狩って得られる悦びは、どいつも人間には遠く及ばない、と。
「本当だとしても……私は人間は食べないって、前に言ったはずだけど」
「えー!?」
コウモリはクロエの右肩に降りた。
「なんでなんで? 人間の肉はとっても美味しいのに。食べないなんて、魔族として何割かは損してるよ絶対! クロエちゃん、まだ一回も食べたことないんでしょ?」
クロエはこくり、と頷く。
「もしかして……クロエちゃんの見た目が人間とそっくりだから? それで食べたがらないの?」
コウモリの問いに、クロエは自身の手を見つめる。どちらかと言えば色白な肌、スッと伸びた白魚のようなその手で、人間の肉体を掴み頬張る姿というのは、どうにも思い浮かべ難かった。
「さあね」
クロエの気持ちが理解できないコウモリは、窓から外に出るつもりで彼女から離れた。
「じゃあ、ボクだけであの人間を戴いてこようかな~」
「待って」
クロエの制止が入った。
そして彼女は訊ねた。コウモリが見たという人間の特徴を。
「んっとねー、なんか冴えない感じだったなぁ。うん、あんまり美味しくなさそう。アレはまだ子供かな、クロエちゃんと同じくらいだと思う。それから……何も持ってないみたいだったよ。ここに来る人間って、みんな武器を持ってたのに珍しいよね。魔法使いだって杖とか持ってるモンなのに。 あとはねー…………う~、あとは普通すぎてわかんない。もしかして、五年前からずっといたのかなぁ? そんなのありえないよねー?」
「普通の人間が、今日まで生き延びてたってこと? それも信じ難いけど……モリ君の目は確かだからなー……」
「あ!!」
突然、コウモリのモリ君が声を上げる。それまで冷静でいたクロエも、少し驚いたようだった。
「あの『門』だ! あの時消えてからそれっきりだったけど、また出てきてくれたんだ。そうだよ、アレをくぐって来たのかもしれない。ウヒヒヒヒ、そしたらまた人間界から、ボクら魔族をやっつけようなんて考えるバカなヤツがたくさん来るよ。そいつらをジャンジャン殺して料理しよう。そんでこっちも人間界に乗り込んで……。くぅ~、たまんないね。みんな喜ぶよ~」
──あぁ、そっちの方かもしれない──
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