北野坂パレット

うにおいくら

文字の大きさ
163 / 439
お嬢と美乃梨の夏休み

美乃梨の力

しおりを挟む
 オヤジはお嬢から視線を外さずに答えた。
「そうや。美乃梨には見える力と……呼び寄せる力がある……そうやな。お嬢」

「一平、流石じゃのぉ……判っておったようじゃな」

「まあね。正直に言うと今ここで二人のやり取りを見ていて確信したんやけどね」

「そうか……」
お嬢は心なしか気が抜けたような返事をしてオヤジを見ていた。

「呼び寄せる力があるという事は守人になる可能性もあるっていう事なんやな?お嬢……そうやな?」

「ああ、確かにお主の言う通りじゃ。だが可能性だけじゃ。お主の状況とは全く違う」

「まあ、そうやな……でも、このまま見なかった事にしておくこともできんやろう?」

 僕は二人の会話を聞いて驚いた。美乃梨にも同じように守人になる力があったとは思ってもいなかった。

 美乃梨に視線を向けると彼女も同じように驚いていた。僕の視線に気が付くとすがるような目で返して来たが、黙って見つめ返すしかできなかった。そのやり場のない視線を、今は話の続きを聞くしかないとオヤジとお嬢に戻した。
それは美乃梨にも伝わったようだった。美乃梨も視線を二人に移した。

  オヤジは更に話を続けた。
「美乃梨の呼び寄せる力は『癒し』やな。間違いないな?」

「ああ、そうじゃ。ワシが追い払った魑魅魍魎の類は、美乃梨に救いを求めて集まっていきよる」

「だから、こんなに早く妖気が集まったんやな」

「その通りじゃ」
お嬢は観念したようにオヤジのいう事に受け応えしていた。

「そんなもん、このまま美乃梨を放って置く事は出来んだろう?」

「まぁ……そうじゃな……」

「そうじゃな……ってホンマにこのお嬢は……」
そういうとオヤジは呆れ返ったようにため息をついた。

「これからは追い払うだけでは済ませられんな……」
とまるで他人事のようにお嬢は言った。

「そうやな……」
オヤジは頭を掻きむしっていた。一気に色々と考えているようだった。
そして美乃梨に振りむいた。眉間に軽く皺が寄っていた。オヤジ自身も結論を出し渋っているような表情だった。しかしここでの結論は一つしかないと僕にでも分かっていた。

  今度はオヤジよりも先にお嬢が口を開いた。
「美乃梨よ、お主は本当にそれで良いんじゃな」

「うん」
美乃梨は小さい声で答えた。お嬢を見る美乃梨の瞳はもう驚きの色も困惑の影もなく強い意志があった。

 お嬢はじっと美乃梨を見つめていた。

「うむ。分かった。好きにするが良い」
というと踵を返して森に向かって歩き出した。


「娘子が話し相手になるのは、二百年振りかのぉ……一平よ。後は頼んだぞ」
と呟きながら森へ帰って行った。

 どうやらお嬢も本当は話が相手が欲しかった様だが、問題はそれだけか? 思わず「おい!」とお嬢を呼び止めそうになった。

 あまりにも軽すぎるだろう……。これから美乃梨をどうするんだ?


「ホンマに……お嬢は……まあ、美乃梨、これからお嬢の事を頼むな。暫くは話し相手だけでええから……」
とオヤジがまた頭を掻きながら美乃梨に声を掛けた。オヤジとってはこんなお嬢はいつもの事なんだろう。

「はい」
美乃梨は何か吹っ切れたように返事をした。

「分からん事があったが亮平に聞いたらエエ」

「はい」

「いや、俺も分からん事の方が多いって」
と慌てて返事をしたが、オヤジは全然聞いていなかった。

「そうやったな。まあ、ここにおじさんがおる間に教えられることは教えるから……」
と言いながらオヤジはため息をついた。
どうやらオヤジもお嬢に言いたい事が沢山あるようだ。

 母屋に三人で帰る道すがらオヤジは守人の事を語ってくれた。
既に僕は知っている事だったが美乃梨は初めて聞く事だった。オヤジの話にいちいち頷いて返事をしている美乃梨が僕はおかしかった。まるで授業の後に廊下を歩きながら先生に質問を浴びせている高校生の様だった。

 母屋に着くとそのまま居間でくつろいていた惣領のおじさんの元へ行きオヤジが事の顛末を報告した。

おじさんは驚いた顔で聞いていたが、
「そうかぁ……それはありがたいが……美乃梨は本当にそれで良いのかのぉ?」
と美乃梨の顔を覗き込むように彼女の真意を確かめた。

「うん。良いの。だって私にはそれが見えるんだから……今日初めてお嬢に会えたし」

「そうかぁ……美乃梨もお嬢に会ったかぁ……」
惣領のおじさんは何とも言えない表情で美乃梨の顔をしばらく見ていた。

「これでお嬢も話し相手が出来て寂しくなくなったやろ」
とオヤジは軽く惣領のおじさんに言った。

おじさんは少しズレた老眼鏡を右手の中指で押し戻しながら
「まあ、そうじゃのぉ。ワシャぁ何にも出来んでのぉ、一平、亮平これから美乃梨の事もよろしく頼む」
と頭を下げた。
 
 オヤジは
「ほい。ここにいる間に出来るだけの事はするわ……」
と惣領のおじさんに応えると
「まあ、暫くは何にもないやろうしあったとしても何もせんでええわ。それはワシがするから」
とそのまま美乃梨に話しかけた。

「はい」
美乃梨は素直に頷いた。

「ここ数年はたぶん何も起こらんだろうし、余計な妖気もそれほど溜まらんだろうと思うわ。そこはお嬢も心得てくれるやろう。それまでにはおじさんかあの酔っ払いの爺さんがお掃除に来るから大丈夫や」
と言ってオヤジは笑った。そして
「でも、美乃梨は何かあったらすぐに連絡してくるんやで」
念を押すように美乃梨に言った。

「はい」
美乃梨はそう言って頷いて今度は横目で僕を見た。

「そうやな。亮平にこれから連絡したらええわ」
オヤジもその視線に気が付いた様だ。
僕は黙って頷いた。
美乃梨は笑っていた。

しかしこれから美乃梨はどうなるんだろう? と僕はとても不安だった。
そして漠然とこれで一件落着で終わりではなく、これから何かが始まるような気がしていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。 天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。 昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。 私で最後、そうなるだろう。 親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。 人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。 親に捨てられ、親戚に捨てられて。 もう、誰も私を求めてはいない。 そう思っていたのに――…… 『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』 『え、九尾の狐の、願い?』 『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』 もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。 ※カクヨム・なろうでも公開中! ※表紙、挿絵:あニキさん

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

処理中です...