北野坂パレット

うにおいくら

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コンクールの二人

見たくないものが見える二人

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「それはそうと、お前はええんかぁ? こんな時期にこっちに転校して来て……」

 転校してきた理由はなんとなくは理解できたが、だからと言ってこんな中途半端な時期に転校する必要は本当にあたのだろうか? 親兄弟だけでなく友達とも離れ離れになるのは何の迷いもなかったのだろうか? 僕はそんなことが気になって聞いた。

「うん。ちょっと悩んだけど……さすがにね。でも、一度は都会に出たかったし……」

「……出たかったし?」

「うん。あれから色々なもんが見えて鬱陶しいからね。亮ちゃんも見えんのやろ?」
 そうだった。お嬢に出会ってしまった我が家系の人間にもれなくついて来る能力……いや、元々あったがお嬢のおかげで抑えられていた力が顕在化し、魑魅魍魎の類が見えてしまうという余計な能力……不幸にも美乃梨は本家周辺に住んでいる親戚の中でも、ずば抜けてその力が強かった。

 お嬢でも抑えきれなかったほどの力。そんな彼女が能力を解き放たれた今、それらの余計なものを見ない道理が無かった。

「ああ、見える。だいぶ慣れて来たけど……あんまり見とうないな」
と僕は頷いた。全く美乃梨の言うとおりだ。

「うん。見たないなぁ……でも見えるやん、嫌でも……田舎におったらこんな話もできひんし、誰もこの不気味さを分かってくれへん」

「まぁ……そうやな。だからこっちへ来たんか?」

「うん……一人で我慢するの嫌やん……でもこれって慣れるもんなん?」
確かにこっちに来れば同じ状況に置かれた僕達がいる。同じものが同じように見えるという事実は安心できることかもしれない。今の美乃梨はこの状況にまだ不安しか感じていないようだった。

「どうやろか? 俺は何とか慣れてきたけど……でも、出来れば見とうないけどね」
この鬱陶しさと不気味さは見えない奴には分からないだろう。僕には美乃梨の気持ちは良く分かる。

「だよねぇ」
僕と美乃梨は顔を見合わせて笑った。乾いた笑いが空に消えていった。
そう、この気持ちは僕らしか分からない。そして事実をそのまま伝えても宏美や哲也には理解できないだろう。勿論他のクラスの連中に言っても同じ事だ。言ったところで不気味がられるだけのような気がする。

「まぁ、あいつらには『家の都合で転校してきた』としか言いようが無いなぁ」

「うん。そうやけど、それってどんな都合なんやろぅ?」

「ホンマやな」
 考えてみたら美乃梨の言う通りだ。言い訳の様でいい訳にもなっていない。まあ、それでもそれ以上は誰も追及しないだろうと僕は思った。

「ねえ、亮ちゃん」
美乃梨は急に僕を見つめて聞いてきた。

「なんや?」

「上田さんって亮ちゃんの彼女?」

「え? なんや唐突に?」
僕はここでこんな質問が出てくるとは思ってもいなかったので驚いて少し焦った。もちろん美乃梨に宏美の話をした事はない。

美乃梨は僕の問いには答えずに意味深げに笑っていた。

「なんでそう思うんや?」
 
「あれは完全に彼女目線やったから……」

「鋭いな、お前。その通りやけど……それってどんな目線や?……そんなに分かるぐらい嫉妬深そうに睨みつけてたんかぁ?」
そう言いながらも僕は美乃梨の勘の鋭さに驚いていた。これって女の勘か? それともお嬢の影響か? だったら僕も少しは勘が鋭くなっているのか?

「ううん。そんなんじゃなくて、『これは私の彼氏』って言うオーラを感じた」
 と言いつつも美乃梨は、宏美に対して悪い印象を受けたのではなかったようだ。その証拠に美乃梨の目は笑っていた。

 彼女からすればそんな宏美の行動が可愛く見えたのだろう。僕はそれを聞いてほっとした。同い年のくせに……とひとこと言ってやりたくもなったがそれは止めた。

 その代り
「どんなオーラや……それは……」
と苦笑いしながら聞き流した。

 そう言いながらも美乃梨なら本当にそんなオーラが見えたのかもしれないなとも思えた。今の彼女には何が見えても不思議ではない。ちなみにそれは僕にも同じことが言えるのだが。

「亮ちゃん、後でちゃんと上田さんに謝っといてな。なんか勘違いさせたみたいやから」

「あぁ、間違いなく勘違いしとるな。あんな言い方したら……お前に言われなくても、ちゃんと弁解しとくわ。ホンマに余計な仕事増やしやがって……」

「へへへ、よろしくね」
と言って僕に手を合わせて拝むような素振りを見せた。

「へいへい……じゃあ、教室に戻ろか?」

「うん」

 僕達はチャイムが鳴る前に教室に戻った。
宏美と哲也の視線が痛かったが
「後でちゃんと説明する」
と言ってその場は切り抜けた。
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