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父さんの色
宏美
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目が覚めた…朝だった。
あれからオヤジ連中の飲み会にもみくちゃにされ、いぢられ、そして最後にはオフクロが登場して、オヤジ達に「高校生をいつまで引っ張りまわしてんねん。うちの大事なハニーに何してけつかんねん!」と怒鳴っていたな。
でも一緒に飲んでいたな……オフクロ、あんたも……何してけつかんねん……。
昨日は色々なもんを一気に見せられてお腹一杯になったな。
初めて親子三人で同じテーブルに座った。
目の前に父と母が居る……オフクロがオヤジと酒を飲んでいる。
オフクロがオヤジの皿に料理を取り分けている……オフクロがオヤジと一緒に笑っている。
ああ……この二人は夫婦だったんだ……。
そして、僕の父と母なんだ……。
でもなんで離婚したんだ……こんなに普通に話をしているのに……。
当たり前だが、この二人が居るから僕が生まれたんだ…。
普通に家族でいたらそんな事を、今更思う事も無かったんだろうな。
全ての光景がとっても不思議でこころよかった。
オフクロに無理やりビールを一口飲まされた……。オフクロは酔うとタチが悪い。
オヤジは笑って「まだ苦いだけやろう?」と聞いてきた。
頷く僕を見てまた笑った。
そのオヤジをオフクロが笑って見てた。
でも、初めてのお酒を家族で笑いながら飲めた…そんなことはどうでも良いような些細な事なんだろうけど……なんだか嬉しかった……人並に少しなれた気がした。
今まで家族は二人だった。でも本当は三人だという事に気がついた。これからは家族3人で居る機会が増えると良いなあと思った。
そして、いつか僕はオヤジとサシでお酒を飲む事があるのだろうか?
なんか、良いな……それ……。
今日は俺の初給料で奢るよ……なんて言うんだろうか?
自分の部屋のベッドに寝転がったまま、天井を見た。
--いつもの天井だ--
「さて起きなきゃ……学校に行く時間だ……」
洗面所を経由してリビングに行くと、テーブルには朝食が用意されていた。
「亮ちゃん、おはよう」
キッチンからオフクロの声が聞こえた。
「ああ……おはよう」
「ベーコンエッグかぁ……」
僕はテーブルに朝刊を広げて一面記事を読みながら、オレンジジュースを飲んだ。
「珈琲にする? 紅茶にする?」
と聞かれた。いつもは何も聞かずに紅茶が出てくるのに……。
「う~ん。珈琲」
「新聞読みながら朝食をとる姿は親子やな。よう似てるわ」
今までこんな風にオヤジと比べられたことはなかったな……というかお袋の口から僕の『父親』に関する言葉が出てきた事がちょっと驚きだった。
そんな驚きを見せずに僕は
「ふ~ん。そうなん?」
といつものように応えた。
「行儀悪いとこはね」
「ふん」
朝から親子の会話は苦手だ…まだ頭が回らない……低血圧か…僕は……。
でも、なんだかオフクロは朝から機嫌が良い。
「ほな行くわ」
新聞も読み終わったし、そろそろ行かないと学校に遅刻する。
「え、もうそんな時間?」
オフクロが慌てて壁時計を見た。
「じゃあ、行ってらっしゃい。お母さんもそろそろ出かけないと……」
と玄関まで見送りに来てくれた。
マンションの玄関を出たら直ぐに上田宏美の家がある。
その庭に桜が空一杯に枝を伸ばして立っている。
桜はまだ散っていなかった。案外残っているもんだな。
何度かこの庭で上田のオヤジが素振りをしているのを見た事がある。
「もし店が無くなったら、ここも宏美の家でなくなるのかぁ……」
と思ったら悲しくなってきた。
『社長はいらんな』
昨日のオヤジのセリフがリフレインする。
社長って宏美のお父さんの事だよなぁ……
宏美のお父さんをくびにするのかぁ?
宏美ん家はどうなるんだろう?
と考えながら宏美の家の壁伝いに歩いていたら、門の脇にある勝手口から宏美が出てきた。
「あ、おはよう亮ちゃん」
「おぉ。おはよう」
「この前の課題やったぁ?」
「課題って?」
「オリエンテーションのまとめ」
「あ、まだやってへん」
「明日提出なん、覚えとぉ?」
「えぇ!! 忘れとったわ」
「早よ、やらな」
「うん。今日やるわ」
いつものように平静を装いながら歩いていたが、まともに宏美の顔が見れない。
焦っているのが分かる。
頭の中は真っ白だ。
ここで宏美と鉢合わせする事を全く予想していなかった。
「高校も一緒やったね」
「そうやなぁ……幼稚園から一緒やもんなぁ……長いなぁ」
「そうやね。クラスも一緒やし」
「ホンマや。縁があるんやろうな……ってどうしたん? 急に?」
「ううん。別に何でもないねん。ふと思っただけ」
と宏美は首を横に振った。
「そうなんやぁ……でも、正直に言うとお前の事やから女子高に行くんやと思っとったわ。お嬢様学校には行かなくて良かったんかいな?」
「なんでよ。そんなとこに行きたくないわ。友達おらへんやん」
と宏美は憤ったように否定した。
「まあ、そうやな。そういえば和樹も一緒やったよな」
「そう。真奈美も一緒」
「結構、多いよな。同じ中学校出身者」
「うん」
歩きながら僕たちは話した。いたっていつもの会話だ。
「これから三年間一緒やな」
「う、うん……」
と答えると宏美はうつむいた。
「どうしたん?」
「うん。なんでもない。一緒やね」
と宏美は笑顔を見せた。
「昨日さ、父さんに会った」
僕は話題を変えるように昨日の事を話した。
見上げると空が青い。
「お父さんって?」
不思議そうに宏美は聞き返してきた。
「生まれてすぐに別れた俺の父親」
「へぇ~。別れたお父さんに会ったんや?」
宏美は驚いたような表情を見せた。
「そう」
「なんで?……亮ちゃんに会いに来たん?」
「ちゃう。お袋が高校生になった記念に会えって」
「記念って……亮ちゃんのお母さんらしいわ」
「やろ? 俺もそう思う」
「で、会ってどうやった? どんな話をしたん?」
「別に…父さんの友達と夜中まで騒いで、母さんも途中から乱入してきよったわ」
宏美と話しながら、僕はオヤジにもう一度会わなくてはならないかも……と思っていた。
「なにそれ?! 涙の親子の対面とかなかったん?」
「う~ん。ないわ。あほ」
「そっかぁ……」
と何故か宏美は残念そうな表情を見せた。
「そう……ないわ、そうや、冴子のオトンに会ったで」
「え? 冴子?……って冴ちゃんの事やんねえ?」
「そうそう」
「え? そうなん?」
宏美は驚いて聞き返してきた。
明らかに僕がオヤジと会ったと言った時よりも驚いていた。
「なんか、昨日父さんと会っている時に乱入してきた。冴子のオトンは父さんの同級生やってん」
「へぇ、そうなんやぁ……で、冴ちゃんも来たん?」
「いや、冴子は来てへん」
と僕は首を振った。
「そっかぁ……でも良かったやん。お父さんに会えて」
「うん。まあね」
「感動の対面やね」
「なんや? さっきから鈴原のオトンと同じような事言うてるで」
「え、そうなん。それちょっとショック」
と言って宏美は笑った。
しばらく僕たちは無言で歩いた。
トアロードの四つ角の信号待ちで立ち止まっていると宏美が口を開いた。
「ねえ、亮ちゃん」
「うん?」
「もし私が転校したら寂しい?」
「え? 入学したばかりやん? もう転校? 有り得んやろう?」
「うん。有り得ないよねえ」
と宏美は慌てたように否定した。
「どうしたん? なにかあったん?」
「ううん。何も……ただなんとなく……」
「なんとなくって……もし何かあったら相談してや。黙って消えるのは無しやで」
僕は宏美の顔を覗き込むように見たが、その表情からは何も分からなかった。
女の子の顔からその気持ちを読み取るなんて真似は、まだ僕にはできない。
でも嫌な予感だけは感じる。
ただ、これはオヤジにもう一度会わねば……と今度は強く思った。
あれからオヤジ連中の飲み会にもみくちゃにされ、いぢられ、そして最後にはオフクロが登場して、オヤジ達に「高校生をいつまで引っ張りまわしてんねん。うちの大事なハニーに何してけつかんねん!」と怒鳴っていたな。
でも一緒に飲んでいたな……オフクロ、あんたも……何してけつかんねん……。
昨日は色々なもんを一気に見せられてお腹一杯になったな。
初めて親子三人で同じテーブルに座った。
目の前に父と母が居る……オフクロがオヤジと酒を飲んでいる。
オフクロがオヤジの皿に料理を取り分けている……オフクロがオヤジと一緒に笑っている。
ああ……この二人は夫婦だったんだ……。
そして、僕の父と母なんだ……。
でもなんで離婚したんだ……こんなに普通に話をしているのに……。
当たり前だが、この二人が居るから僕が生まれたんだ…。
普通に家族でいたらそんな事を、今更思う事も無かったんだろうな。
全ての光景がとっても不思議でこころよかった。
オフクロに無理やりビールを一口飲まされた……。オフクロは酔うとタチが悪い。
オヤジは笑って「まだ苦いだけやろう?」と聞いてきた。
頷く僕を見てまた笑った。
そのオヤジをオフクロが笑って見てた。
でも、初めてのお酒を家族で笑いながら飲めた…そんなことはどうでも良いような些細な事なんだろうけど……なんだか嬉しかった……人並に少しなれた気がした。
今まで家族は二人だった。でも本当は三人だという事に気がついた。これからは家族3人で居る機会が増えると良いなあと思った。
そして、いつか僕はオヤジとサシでお酒を飲む事があるのだろうか?
なんか、良いな……それ……。
今日は俺の初給料で奢るよ……なんて言うんだろうか?
自分の部屋のベッドに寝転がったまま、天井を見た。
--いつもの天井だ--
「さて起きなきゃ……学校に行く時間だ……」
洗面所を経由してリビングに行くと、テーブルには朝食が用意されていた。
「亮ちゃん、おはよう」
キッチンからオフクロの声が聞こえた。
「ああ……おはよう」
「ベーコンエッグかぁ……」
僕はテーブルに朝刊を広げて一面記事を読みながら、オレンジジュースを飲んだ。
「珈琲にする? 紅茶にする?」
と聞かれた。いつもは何も聞かずに紅茶が出てくるのに……。
「う~ん。珈琲」
「新聞読みながら朝食をとる姿は親子やな。よう似てるわ」
今までこんな風にオヤジと比べられたことはなかったな……というかお袋の口から僕の『父親』に関する言葉が出てきた事がちょっと驚きだった。
そんな驚きを見せずに僕は
「ふ~ん。そうなん?」
といつものように応えた。
「行儀悪いとこはね」
「ふん」
朝から親子の会話は苦手だ…まだ頭が回らない……低血圧か…僕は……。
でも、なんだかオフクロは朝から機嫌が良い。
「ほな行くわ」
新聞も読み終わったし、そろそろ行かないと学校に遅刻する。
「え、もうそんな時間?」
オフクロが慌てて壁時計を見た。
「じゃあ、行ってらっしゃい。お母さんもそろそろ出かけないと……」
と玄関まで見送りに来てくれた。
マンションの玄関を出たら直ぐに上田宏美の家がある。
その庭に桜が空一杯に枝を伸ばして立っている。
桜はまだ散っていなかった。案外残っているもんだな。
何度かこの庭で上田のオヤジが素振りをしているのを見た事がある。
「もし店が無くなったら、ここも宏美の家でなくなるのかぁ……」
と思ったら悲しくなってきた。
『社長はいらんな』
昨日のオヤジのセリフがリフレインする。
社長って宏美のお父さんの事だよなぁ……
宏美のお父さんをくびにするのかぁ?
宏美ん家はどうなるんだろう?
と考えながら宏美の家の壁伝いに歩いていたら、門の脇にある勝手口から宏美が出てきた。
「あ、おはよう亮ちゃん」
「おぉ。おはよう」
「この前の課題やったぁ?」
「課題って?」
「オリエンテーションのまとめ」
「あ、まだやってへん」
「明日提出なん、覚えとぉ?」
「えぇ!! 忘れとったわ」
「早よ、やらな」
「うん。今日やるわ」
いつものように平静を装いながら歩いていたが、まともに宏美の顔が見れない。
焦っているのが分かる。
頭の中は真っ白だ。
ここで宏美と鉢合わせする事を全く予想していなかった。
「高校も一緒やったね」
「そうやなぁ……幼稚園から一緒やもんなぁ……長いなぁ」
「そうやね。クラスも一緒やし」
「ホンマや。縁があるんやろうな……ってどうしたん? 急に?」
「ううん。別に何でもないねん。ふと思っただけ」
と宏美は首を横に振った。
「そうなんやぁ……でも、正直に言うとお前の事やから女子高に行くんやと思っとったわ。お嬢様学校には行かなくて良かったんかいな?」
「なんでよ。そんなとこに行きたくないわ。友達おらへんやん」
と宏美は憤ったように否定した。
「まあ、そうやな。そういえば和樹も一緒やったよな」
「そう。真奈美も一緒」
「結構、多いよな。同じ中学校出身者」
「うん」
歩きながら僕たちは話した。いたっていつもの会話だ。
「これから三年間一緒やな」
「う、うん……」
と答えると宏美はうつむいた。
「どうしたん?」
「うん。なんでもない。一緒やね」
と宏美は笑顔を見せた。
「昨日さ、父さんに会った」
僕は話題を変えるように昨日の事を話した。
見上げると空が青い。
「お父さんって?」
不思議そうに宏美は聞き返してきた。
「生まれてすぐに別れた俺の父親」
「へぇ~。別れたお父さんに会ったんや?」
宏美は驚いたような表情を見せた。
「そう」
「なんで?……亮ちゃんに会いに来たん?」
「ちゃう。お袋が高校生になった記念に会えって」
「記念って……亮ちゃんのお母さんらしいわ」
「やろ? 俺もそう思う」
「で、会ってどうやった? どんな話をしたん?」
「別に…父さんの友達と夜中まで騒いで、母さんも途中から乱入してきよったわ」
宏美と話しながら、僕はオヤジにもう一度会わなくてはならないかも……と思っていた。
「なにそれ?! 涙の親子の対面とかなかったん?」
「う~ん。ないわ。あほ」
「そっかぁ……」
と何故か宏美は残念そうな表情を見せた。
「そう……ないわ、そうや、冴子のオトンに会ったで」
「え? 冴子?……って冴ちゃんの事やんねえ?」
「そうそう」
「え? そうなん?」
宏美は驚いて聞き返してきた。
明らかに僕がオヤジと会ったと言った時よりも驚いていた。
「なんか、昨日父さんと会っている時に乱入してきた。冴子のオトンは父さんの同級生やってん」
「へぇ、そうなんやぁ……で、冴ちゃんも来たん?」
「いや、冴子は来てへん」
と僕は首を振った。
「そっかぁ……でも良かったやん。お父さんに会えて」
「うん。まあね」
「感動の対面やね」
「なんや? さっきから鈴原のオトンと同じような事言うてるで」
「え、そうなん。それちょっとショック」
と言って宏美は笑った。
しばらく僕たちは無言で歩いた。
トアロードの四つ角の信号待ちで立ち止まっていると宏美が口を開いた。
「ねえ、亮ちゃん」
「うん?」
「もし私が転校したら寂しい?」
「え? 入学したばかりやん? もう転校? 有り得んやろう?」
「うん。有り得ないよねえ」
と宏美は慌てたように否定した。
「どうしたん? なにかあったん?」
「ううん。何も……ただなんとなく……」
「なんとなくって……もし何かあったら相談してや。黙って消えるのは無しやで」
僕は宏美の顔を覗き込むように見たが、その表情からは何も分からなかった。
女の子の顔からその気持ちを読み取るなんて真似は、まだ僕にはできない。
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