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コンクールの二人
久しぶりの部活
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コンクール挑戦組の影響で多少の緊張感がそこはかとなく漂っていた部活だったが、僕たちの地区予選が終わると取りあえずいつものユルイ空気を取り戻していた。
部員全員がコンクールに出る訳でも部自体が出る訳でもなく、所属する部員の数名がそこへ参加するというだけ……とはいうものの五人もの部員が全国規模のコンクールに参加するという事はそれなりにその緊張感が伝わり部の空気を引き締める事になっていた。
特に”コンクール恐怖症”とか”コンクール怖いよ症候群”とか陰で日向で言われていた哲也の周りではその緊張した空気がいつも漂っていた。それは腫れ物に触るような余計な緊張感を伴っていたが……。
それも地区予選が終了すると同時にその緊張した空気は一応落ち着きを見せた。
しかし、一か月後には全国大会が待っている。全国大会に残ったコンクールメンバーは流石にまだ緊張感を維持していた。
そんな空気の変化を感じながら僕はいつものように放課後、音楽室でピアノを弾いていた。授業が終わった部員が何人かはすでに音楽室に来ていた。
僕のピアノはまるで部員が全員揃うまでのBGM代わりの様だと思いながらも、僕は準備運動がてらに好きな曲を弾いていた。
今回のコンクールの結果はピアノで僕と冴子、ヴァイオリンで瑞穂と彩音先輩、そしてチェロで哲也も全国大会の切符を手に入れていた。
千龍さんは残念ながら全国には行けなかったが、地区本選では特別賞を貰っていた。
部活に復帰した千龍さんは気持ちの切り替えも済んだのか、いつも通りの千龍さんでいつもの面倒見のいい部長だった。
僕達が変に気を使わないで済むようにと思ってからなのか、敢えて自分の方から
「俺は地区予選止まりやったけど、お前ら全国に行ったらトップを目指せよ」
と話題をふってくれていた。
石橋先輩が「千龍は記念受験みたいなもんやから特別賞貰えただけでもめっけもんや」
と言っていたが、案外そんなところかもしれない。
しかし僕は『千龍さんのレベルでそれは無いだろう』とも思っていた。結構本気で全国大会を狙っていたのかもしれない。でも千龍さんのいつもと変わらない様子を見ると石橋さんが言う程ではないにしろある程度この結果を予想していたような気もする。
僕達がコンクールに向けて個人練習に力を入れている間に、器楽部は吹奏楽部と合同の練習を始めていた。
全国大会に残った五名以外の部員は吹奏楽部のからやってきたメンバーとの合同練習に入っていた。
「亮平。今ちょっとええか?」
千龍さんがちょうどモーツアルトのソナタを弾き終えた僕に声を掛けてきた。
「はい」
僕は手を止めて千龍さん次の言葉を待った。
「あのな、今吹部の奴らと練習してるやん。あれ、お前も入って欲しいねんけど」
千龍さんは譜面台の楽譜をチラッと横目で見て言った。
「え? 今からですか?」
「ちゃうちゃう。 全国が終わってからや」
千龍さんは軽く首を振った。
「それはエエですけど……ピアノ協奏曲でもやるんですか?」
「ああ? それもええなぁ……けど、今回お前に頼みたいのはヴァイオリンや」
右手で弓を弾く真似をしながら千龍さんは言った。
「え? ヴァイオリンですか?」
まさかヴァイオリンを弾けと言われると思っていなかったので僕は驚いた。
「そうや。まだ弾けるんやろ?」
そんな僕を気にする様子もなく千龍さんは聞いてきた。
「多分……。十年以上真面目に弾いてましたから……何とかなるとは思いますけど……」
「十年もやってりゃ上等、上等」
千龍さんは満足そうに笑った。
「冴子と宏美には?」
「勿論、彼女たちにもやってもらう」
「人足りないんですかぁ?」
「まあな。吹部の連中と比べてうちは出来る奴が少ないからな。音の厚みがね」
千龍さんの言わんとする事はすぐに判った。
ヴァイオリンをそれなりに弾けるのは僕達三人を入れても九名。
その内の千龍さんとシノンはヴァイオリンではなくヴィオラを弾く可能性が高い。
東雲小百合以外の一年生三名はまだ人前で合奏できるレベルではない。というかこの面子の中で一緒に演奏したら、どうやっても彼らは浮いてしまう。
だから彼ら新人レベルが参加する曲としない曲と分けてやるのだろうけど、弦楽器のパートは一人でも多くそれなりに弾ける経験者が欲しい。
「分かりました。じゃあヴァイオリンやります」
と僕は千龍さんの申し入れを受ける事にした。
久しぶりのヴァイオリンだ。自信はないがちょっと楽しみかもしれない。
「助かるわ。でも本格的に練習に参加するのは全国が終わってからでええからな」
と千龍さんはホッとした表情で念を押すように僕に言った。
「はい」
「それと、お前と鈴原にはピアノでも参加してもらうから」
「え? 冴子もですか?」
これには少し驚いた。
「ああ。鈴原からピアノも一曲だけで良いから弾かせてほしいって言われたからな。まあ、言われなくてもお願いするつもりやったけどな」
千龍さんはそう言うと
「兎に角そう言う事で……じゃあな」
と言って一年生の練習を見に行ってしまった。
「冴子がねえ……」
そう呟きながら冴子が何を弾くのか興味が湧いていた。
――完全にピアノから足を洗う訳ではないんやったな――
冴子がまだピアノも弾くというのを聞いて僕は少しホッとした気持ちになった。
僕は音楽室の天井を見上げてふぅと息を吐いた。
――全国で全てを出し切る音を奏でたい――
壁に飾られていたヴェートーベンと目が合った。
何故か『生意気だ!』と言われた気がした。
部員全員がコンクールに出る訳でも部自体が出る訳でもなく、所属する部員の数名がそこへ参加するというだけ……とはいうものの五人もの部員が全国規模のコンクールに参加するという事はそれなりにその緊張感が伝わり部の空気を引き締める事になっていた。
特に”コンクール恐怖症”とか”コンクール怖いよ症候群”とか陰で日向で言われていた哲也の周りではその緊張した空気がいつも漂っていた。それは腫れ物に触るような余計な緊張感を伴っていたが……。
それも地区予選が終了すると同時にその緊張した空気は一応落ち着きを見せた。
しかし、一か月後には全国大会が待っている。全国大会に残ったコンクールメンバーは流石にまだ緊張感を維持していた。
そんな空気の変化を感じながら僕はいつものように放課後、音楽室でピアノを弾いていた。授業が終わった部員が何人かはすでに音楽室に来ていた。
僕のピアノはまるで部員が全員揃うまでのBGM代わりの様だと思いながらも、僕は準備運動がてらに好きな曲を弾いていた。
今回のコンクールの結果はピアノで僕と冴子、ヴァイオリンで瑞穂と彩音先輩、そしてチェロで哲也も全国大会の切符を手に入れていた。
千龍さんは残念ながら全国には行けなかったが、地区本選では特別賞を貰っていた。
部活に復帰した千龍さんは気持ちの切り替えも済んだのか、いつも通りの千龍さんでいつもの面倒見のいい部長だった。
僕達が変に気を使わないで済むようにと思ってからなのか、敢えて自分の方から
「俺は地区予選止まりやったけど、お前ら全国に行ったらトップを目指せよ」
と話題をふってくれていた。
石橋先輩が「千龍は記念受験みたいなもんやから特別賞貰えただけでもめっけもんや」
と言っていたが、案外そんなところかもしれない。
しかし僕は『千龍さんのレベルでそれは無いだろう』とも思っていた。結構本気で全国大会を狙っていたのかもしれない。でも千龍さんのいつもと変わらない様子を見ると石橋さんが言う程ではないにしろある程度この結果を予想していたような気もする。
僕達がコンクールに向けて個人練習に力を入れている間に、器楽部は吹奏楽部と合同の練習を始めていた。
全国大会に残った五名以外の部員は吹奏楽部のからやってきたメンバーとの合同練習に入っていた。
「亮平。今ちょっとええか?」
千龍さんがちょうどモーツアルトのソナタを弾き終えた僕に声を掛けてきた。
「はい」
僕は手を止めて千龍さん次の言葉を待った。
「あのな、今吹部の奴らと練習してるやん。あれ、お前も入って欲しいねんけど」
千龍さんは譜面台の楽譜をチラッと横目で見て言った。
「え? 今からですか?」
「ちゃうちゃう。 全国が終わってからや」
千龍さんは軽く首を振った。
「それはエエですけど……ピアノ協奏曲でもやるんですか?」
「ああ? それもええなぁ……けど、今回お前に頼みたいのはヴァイオリンや」
右手で弓を弾く真似をしながら千龍さんは言った。
「え? ヴァイオリンですか?」
まさかヴァイオリンを弾けと言われると思っていなかったので僕は驚いた。
「そうや。まだ弾けるんやろ?」
そんな僕を気にする様子もなく千龍さんは聞いてきた。
「多分……。十年以上真面目に弾いてましたから……何とかなるとは思いますけど……」
「十年もやってりゃ上等、上等」
千龍さんは満足そうに笑った。
「冴子と宏美には?」
「勿論、彼女たちにもやってもらう」
「人足りないんですかぁ?」
「まあな。吹部の連中と比べてうちは出来る奴が少ないからな。音の厚みがね」
千龍さんの言わんとする事はすぐに判った。
ヴァイオリンをそれなりに弾けるのは僕達三人を入れても九名。
その内の千龍さんとシノンはヴァイオリンではなくヴィオラを弾く可能性が高い。
東雲小百合以外の一年生三名はまだ人前で合奏できるレベルではない。というかこの面子の中で一緒に演奏したら、どうやっても彼らは浮いてしまう。
だから彼ら新人レベルが参加する曲としない曲と分けてやるのだろうけど、弦楽器のパートは一人でも多くそれなりに弾ける経験者が欲しい。
「分かりました。じゃあヴァイオリンやります」
と僕は千龍さんの申し入れを受ける事にした。
久しぶりのヴァイオリンだ。自信はないがちょっと楽しみかもしれない。
「助かるわ。でも本格的に練習に参加するのは全国が終わってからでええからな」
と千龍さんはホッとした表情で念を押すように僕に言った。
「はい」
「それと、お前と鈴原にはピアノでも参加してもらうから」
「え? 冴子もですか?」
これには少し驚いた。
「ああ。鈴原からピアノも一曲だけで良いから弾かせてほしいって言われたからな。まあ、言われなくてもお願いするつもりやったけどな」
千龍さんはそう言うと
「兎に角そう言う事で……じゃあな」
と言って一年生の練習を見に行ってしまった。
「冴子がねえ……」
そう呟きながら冴子が何を弾くのか興味が湧いていた。
――完全にピアノから足を洗う訳ではないんやったな――
冴子がまだピアノも弾くというのを聞いて僕は少しホッとした気持ちになった。
僕は音楽室の天井を見上げてふぅと息を吐いた。
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