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クリスマスの演奏会
相談
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我ながら僕は相当ややこしい面倒な性格をしているようだ。それは自覚している。
普通に考えたら宏美が僕から離れたいと思う事など、ありえない事などすぐに判りそうなものなのに……俺は子供か?
ホールに戻ってからも、今しがたの自分の態度に自己嫌悪に陥りながら、空いた食器を一心不乱に集めていた。
僕の頭の中は、留学に対する葛藤と宏美に対する自分自身の態度からの自己嫌悪とが混じり合ってどうしようもなく収拾のつかない状況になっていた。
ただこの葛藤を他人には悟られたくなかったので、表面上はいつも通り取り繕っていた。
夕方遅くに僕達は、ホール係から解放された。
僕は独りでサッサと冴子の屋敷を後にした。兎に角、独りになりたかった。引きつった作り笑いはもう限界だった。
木枯らしの吹く山本通りを一人で歩いていると、今度は無性に誰かに聞いて欲しくなった。誰かに答えを教えて貰いたくなった。本当に僕は頭がおかしくなったのかと思うぐらい感情が制御できていない。
――シゲルはどうしているんだろ?――
と、唐突にあの屈託のないシゲルの笑い顔が浮かんだ。
その瞬間、僕は迷うことなく歩きながら携帯電話を取り出し、彼に電話をかけた。
「お、亮平やんか。どないしたんや?」
彼はすぐに出てくれた。
「いや、ちょっとどないしてるかな? って思って……」
「なんや? 暇なんか?」
「まあね」
シゲルの声を聞いて僕はほっとしていた。もし今彼が電話に出てくれなかったら、この気持ちをどこに持って行けは良いのか分からなくなって途方に暮れるしかなかった。
「ほな、安藤さんの店でええか?」
屈託のない声でシゲルは聞いてきた。
「いや、今日は違うところがええ」
今日の話は安藤さんには聞かれたくなかった。多分シゲル以外には誰にも言いたくはなかったんだろう。
「うん? ……そっかぁ……じゃあ、元町のサテンは?」
「それってお前が連れて行ってくれた店か?」
「そうそう。そこならどうや?」
「分かった。じゃあ、そこに行くわ」
と言うと僕は電話を切った。
僕は鯉川筋の坂道をトボトボと下って行って、シゲルと再会した時に彼に連れて行って貰った喫茶店に辿り着いた。
扉を開けて中に入ると、彼は既にその時と同じテーブルに座っていた。
僕が向かいに座るとシゲルは
「おめでとう。流石やな」
と言ってくれた。そういえばコンクールが終わってから彼に会うのはこれが最初だった。
「ああ、ありがとう」
と僕は短くお礼を言ったが、とてつもなく素っ気なく聞こえたんじゃないかと、言った後に少し後悔した。
シゲルはそんな事は全く気にせずに
「いやぁ。全国一位は凄いよなぁ」
と改めて感心したように言った。
「誰に聞いたん?」
「お前が教えてくれへんから、安藤さんが教えてくれたわ」
と言って笑った。
「ごめん。忘れてたわ」
「ホンマに冷たい奴っちゃな」
とシゲルはまた笑った。
ウェイトレスが注文を聞きに来た。
「ホット下さい」
「ブレンド珈琲ですね」
と確認して彼女は去って行った。
「最近、安藤さんの店にもあんまり行ってないかったからなぁ」
と僕が呟くと
「そりゃ、行けんやろう? そんな時間があったらコンクールの練習せなあかんやろが?」
とシゲルは鼻で笑いながら言った。
彼のこの笑い声にまた僕は救われたような気分になっていた。
「まあな」
僕もやっと作り笑いから解放されて、いつものように笑えたような気がした。
「なんや? なんか元気ないやん? 宏美ちゃんにふられたか?」
とシゲルは僕の顔をじっと見つめながら聞いてきた。
「うん」
「え? マジ? 嘘やろ?」
シゲルは驚いたように声を上げた。
「うん。まだ別れてない……けど……」
「けど……なんや?」
「呆れかえって見放されるかもしれん……」
「ああん? またなんかやったんかぁ?」
「またってなんや? そんなにしょっちゅう、しょうもない事してへんぞ」
「はは、そうか? で、今回は何したん?」
とシゲルは陽気に笑いながら聞いてきた。
なんか小ばかにされているような気にもなったが、彼のこの陽気さに救われたような気持にもなっていた。
僕は冴子の屋敷であった今日の出来事を話した。
特にヴァレンタインにフランスへの留学を勧められた後の冴子と宏美との会話は包み隠さずに話した。訳もなくイラついていた僕の気持ちも正直に話した。
シゲルは珈琲を飲みながら黙って聞いていた。
僕が大まかであったかもしれない今日の出来事を伝え終わると、シゲルは無言で僕の顔の前に右手の人差し指突き出して、それを曲げて『耳を貸せ』と言う風に動かした。
僕が顔を近づけると、シゲルは僕の頭上からゲンコツを食らわした。
目の前に星が飛んだ。なぜこんなところに北斗七星が……
普通に考えたら宏美が僕から離れたいと思う事など、ありえない事などすぐに判りそうなものなのに……俺は子供か?
ホールに戻ってからも、今しがたの自分の態度に自己嫌悪に陥りながら、空いた食器を一心不乱に集めていた。
僕の頭の中は、留学に対する葛藤と宏美に対する自分自身の態度からの自己嫌悪とが混じり合ってどうしようもなく収拾のつかない状況になっていた。
ただこの葛藤を他人には悟られたくなかったので、表面上はいつも通り取り繕っていた。
夕方遅くに僕達は、ホール係から解放された。
僕は独りでサッサと冴子の屋敷を後にした。兎に角、独りになりたかった。引きつった作り笑いはもう限界だった。
木枯らしの吹く山本通りを一人で歩いていると、今度は無性に誰かに聞いて欲しくなった。誰かに答えを教えて貰いたくなった。本当に僕は頭がおかしくなったのかと思うぐらい感情が制御できていない。
――シゲルはどうしているんだろ?――
と、唐突にあの屈託のないシゲルの笑い顔が浮かんだ。
その瞬間、僕は迷うことなく歩きながら携帯電話を取り出し、彼に電話をかけた。
「お、亮平やんか。どないしたんや?」
彼はすぐに出てくれた。
「いや、ちょっとどないしてるかな? って思って……」
「なんや? 暇なんか?」
「まあね」
シゲルの声を聞いて僕はほっとしていた。もし今彼が電話に出てくれなかったら、この気持ちをどこに持って行けは良いのか分からなくなって途方に暮れるしかなかった。
「ほな、安藤さんの店でええか?」
屈託のない声でシゲルは聞いてきた。
「いや、今日は違うところがええ」
今日の話は安藤さんには聞かれたくなかった。多分シゲル以外には誰にも言いたくはなかったんだろう。
「うん? ……そっかぁ……じゃあ、元町のサテンは?」
「それってお前が連れて行ってくれた店か?」
「そうそう。そこならどうや?」
「分かった。じゃあ、そこに行くわ」
と言うと僕は電話を切った。
僕は鯉川筋の坂道をトボトボと下って行って、シゲルと再会した時に彼に連れて行って貰った喫茶店に辿り着いた。
扉を開けて中に入ると、彼は既にその時と同じテーブルに座っていた。
僕が向かいに座るとシゲルは
「おめでとう。流石やな」
と言ってくれた。そういえばコンクールが終わってから彼に会うのはこれが最初だった。
「ああ、ありがとう」
と僕は短くお礼を言ったが、とてつもなく素っ気なく聞こえたんじゃないかと、言った後に少し後悔した。
シゲルはそんな事は全く気にせずに
「いやぁ。全国一位は凄いよなぁ」
と改めて感心したように言った。
「誰に聞いたん?」
「お前が教えてくれへんから、安藤さんが教えてくれたわ」
と言って笑った。
「ごめん。忘れてたわ」
「ホンマに冷たい奴っちゃな」
とシゲルはまた笑った。
ウェイトレスが注文を聞きに来た。
「ホット下さい」
「ブレンド珈琲ですね」
と確認して彼女は去って行った。
「最近、安藤さんの店にもあんまり行ってないかったからなぁ」
と僕が呟くと
「そりゃ、行けんやろう? そんな時間があったらコンクールの練習せなあかんやろが?」
とシゲルは鼻で笑いながら言った。
彼のこの笑い声にまた僕は救われたような気分になっていた。
「まあな」
僕もやっと作り笑いから解放されて、いつものように笑えたような気がした。
「なんや? なんか元気ないやん? 宏美ちゃんにふられたか?」
とシゲルは僕の顔をじっと見つめながら聞いてきた。
「うん」
「え? マジ? 嘘やろ?」
シゲルは驚いたように声を上げた。
「うん。まだ別れてない……けど……」
「けど……なんや?」
「呆れかえって見放されるかもしれん……」
「ああん? またなんかやったんかぁ?」
「またってなんや? そんなにしょっちゅう、しょうもない事してへんぞ」
「はは、そうか? で、今回は何したん?」
とシゲルは陽気に笑いながら聞いてきた。
なんか小ばかにされているような気にもなったが、彼のこの陽気さに救われたような気持にもなっていた。
僕は冴子の屋敷であった今日の出来事を話した。
特にヴァレンタインにフランスへの留学を勧められた後の冴子と宏美との会話は包み隠さずに話した。訳もなくイラついていた僕の気持ちも正直に話した。
シゲルは珈琲を飲みながら黙って聞いていた。
僕が大まかであったかもしれない今日の出来事を伝え終わると、シゲルは無言で僕の顔の前に右手の人差し指突き出して、それを曲げて『耳を貸せ』と言う風に動かした。
僕が顔を近づけると、シゲルは僕の頭上からゲンコツを食らわした。
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