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シゲル
シゲル再登場
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「うん。小学校四年まで一緒でそれから全然会わなくなって……中学校三年でまた一緒になった奴ですわ」
「へぇ、そうなんや。会わなくなったって、転校でもしてたんか?」
安藤さんはシゲルに興味が湧いたようだった。
「転校と少年院と両方かな」
「おお、少年院かぁ。やるなぁ」
安藤さんは笑いながらそれでも感心していた。
「小学生の時はとても仲が良かったんですけどね」
「それ誰や?」
とオヤジが話の腰を折るように聞いてきた。
「シゲル……田中滋っていう奴」
「ふ~ん。たなか……しげる……ねえ」
オヤジは聞いてきた割には関心がなさそうにシゲルの名前を呟いた。
「俺でも六人相手は少し怯むなぁ……高一やろ?根性あるな、その子」
安藤さんはそう言ってシゲルの事を褒めた。
「僕もそう思います。僕なら見て見ぬふりをします」
「普通はそうやろうなぁ……よっぽど自信があったんやろうな」
「間違いなく。本人は負けるなんて微塵も考えていなかったと思います」
「そんな奴が今でもおるんやなぁ」
と安藤さんは本当に感心していた。
「今度この店にも一度連れてきます」
この店にシゲルを連れてきたら面白いだろうななと本気で思った。
「おお、連れて来い。でも酒は出さんぞぉ。それでも良ければな」
と安藤さんは言った。
この人は本当に酒を出さないだろうな。ここでタバコを吸ったら放り出されるかもしれないな。僕は少しだけ不安になった。
そんな心配をしながらも僕は携帯でシゲルにメールを送った。
『今、オトン達とトアロードの店で飲んでる。オトン連中がシゲルが来るならおいでと言っている。いつがいい? 言っとくけど未成年は禁酒禁煙やで』
シゲルはバイト中だから返事はすぐに来ないだろうと思いながらも、とりあえずメールを送ってみた。
なんだか直ぐにシゲルに連絡したかった。思い立ったら吉日ともいうし。
「今、シゲルにメールしました。その内に返事が帰ってくると思います」
と安藤さんに知らせた。
「やる事早いな。まあ、いつでもええでぇ。この店は逃げへんからな」
と安藤さんは笑った。
「そうそう、逃げるんやったら店でなくてここのマスターやからな」
と横からオヤジが割って入って、くだらんツッコミをかました。
「ふん! ほっとけ」
安藤さんはそんなどうでもいいオヤジのツッコミにちゃんと答えていた。
この二人は本当に仲がいいな。呼吸が自然だわ。
僕も何年かしたらこんな感じの友達がいるんだろうか?それはシゲルなんだろうか?それとも和樹なんだろうか?
ふとそんな事を考えた。
携帯が震えた。
シゲルからだった。バイト中だというのにもう返事が帰ってきた。
バイト先は暇なのか?
『なに? 飲んでいるんか? 大人やん。行く行く!! 十時には行ける。トアロードを上がったら連絡する』
「え? 父さん……シゲルが今から来るって……十時過ぎには来れるって」
僕は驚いてオヤジに携帯を見せながら言った。
「レスポンスのエエ兄ちゃんやなぁ。面白いやんか」
と愉快そうにオヤジは笑っていた。
「そうそう。レスポンスの悪い奴は使いもんにならんからな」
と安藤さんは今からバイトの面接でもするかのような雰囲気を醸し出していた。
シゲルが安藤さんの店にやってきたのは十時を少し回ったところだった。
カウベルが店内の様子を伺うような音を鳴らして扉がゆっくりと開いた。
扉の影からシゲルの顔が見えた。
その顔は夕方に絶滅危惧種のヤンキーのお兄ちゃんと対面している時の強気の表情はではなく、恐る恐る自信なさげに店内の様子を窺うような表情だった。
「シゲル!こっちや」
不安げな表情のシゲルに僕が声を掛けると安心したような顔で笑った。そしてまた自信を取り戻したかのようなわざとらしい生意気な表情で店内に入って来た。
「ごめん、遅なったな」
でも、出てきた言葉は謙虚だった。
シゲルは見た目と思っている事のギャップが本当に大きい奴だと改めて気がついた。
「全然。でもバイトええんか?」
「今日は暇やったしな。大丈夫や」
やっぱり暇だったようだ。
僕はシゲルを安藤さんとオヤジに紹介した。
「初めまして。田中滋です。亮平とは小学校からの友達です」
とシゲルは挨拶した。
「なんや、今日は亮平が世話になったみたいやったなぁ。君と出会わなかったらうちの息子は、今頃顔を腫らして寝ていたかもしれん。ありがとうな」
とオヤジがシゲルに感謝しながら言った。
「いえいえ。たまたまです」
と言ってシゲルは頭をかいた。
「まあ、座れよ。注文は酒以外やぞ」
と僕はシゲルに僕の隣の席を勧めた。
「あ、あぁ。じゃあ、コーラください」
シゲルは椅子に座ると安藤さんの顔を見て注文した。
安藤さんはコーラを出しながら
「ビールぐらい飲ませても良いんやけどな。でもけじめはつけんとな。この頃、この店は高校生が出入りするようになって困ってんねん。一人出したら皆出さなあかんようになるからな。ホンマに保護者がなってないから迷惑してるんや」
と安藤さんは本気で困ったような顔をしてシゲルに話をしていたが、最後はオヤジを見て言った。
オヤジは気にするような素振りもなく、
「高校生でも客が来るだけマシや。こんな店」
と吐き捨てるように一言で片付けた。
シゲルは酒が飲めないことを気にする様子もなく、出されたコーラを美味しそうに飲んでいた。
安藤さんが
「それにしても君は喧嘩が強いんやね。六人相手によう喧嘩売ったねえ」
と感心するように言った。
「いえ。亮平が絡まれているのを見たら、何も考えずに体が動いていただけです。相手が六人なんて後で気がつきました」
と笑いながら言った。
「おお、そうなんや。男の子やなぁ」
と安藤さんはまた感心していた。本当に安藤さんはシゲルの事が気に入っているように見えた。
シゲルは思ったより早くこの店の空気に溶け込んでいた。
それと同時にシゲルが案外社交的なので僕は驚いていた。
こんなオッサン連中相手に物怖じせずに話ができるシゲルはやはり凄いなと尊敬してしまった。
僕はシゲルに
「オッサン連中と話するのに慣れとんなぁ」
と言うとシゲルは
「バイト先が飲み屋やからな。オッサンしか来えへんかんらな」
と事も無げに言った。
それを聞いて安藤さんが
「三宮の飲み屋か?」
と聞いた。
「いえ、元町の飲み屋です」
「そうかぁ。学校終わってからバイトかぁ……なんか懐かしいなぁ」
安藤さんは昔を思い出したのか、しみじみと話をしていた。
それを聞いてオヤジも頷いていた。
「俺もそこにいる亮平のお父さんも高校生時代一緒にアルバイトしていたんや。それも飲み屋やったなぁ。なあ一平」
「ああ、そうやったな。懐かしいわ。今時の高校生はそんなところでバイトせえへんやろう? どうなん?」
オヤジは急にシゲルに今の高校生のバイト事情を聞いた。
「この頃、高校生を雇う飲み屋は少ないです」
シゲルはコーラを飲もうとしていたが、オヤジに急に話を振られて慌ててグラスをおいて返事をしていた。
「そうやろうなぁ。俺らン時は高校生ばっかりやったけどな」
と安藤さんが頷いた。
「そうやったなぁ。お前なんか店の酒を黙って飲んていたもんな」
「あほ、それはお前や」
安藤さんはおやじのツッコミに間髪入れずに反論していた。
でもこれでオヤジと安藤さんは高校時代から酒を飲んでいた事がはっきりした。
「僕も店では飲んでます」
シゲルは悪びれもせずに飲んでいる事を安藤さんとオヤジに言った。
「まあ、そんなもんだろうな。高校生になって酒も飲まんなんてあんまりおらんやろう?」
と自分の店では酒を出さないと言っていた常識的な大人の安藤さんは全く正反対の事を言う。
「この店では禁酒禁煙とか言っていたのに……」
と僕が言うと
「当たり前や。健全な青少年の育成は店主の責任じゃ! 俺の店の中ではそうなっている」
「店の外は?」
「そんなもんは知らん」
安藤さんはきっぱりと言い切った。
「あ、なんかそれって汚い大人の意見のような気がする」
「なんや?今頃気がついたか? 大人っていうのは穢れた生物だというのを知らんのか?」
オヤジがそう言うと安藤さんは大きく頷いて
「まだまだ亮平は修行が足りんな」
と言った。
僕はシゲルの顔を見たが、シゲルはそんなもんだろうというような顔をしてこの穢れた大人の会話を聞き流していた。
なんだか僕だけが小僧のような扱いを受けた気がして少し悔しかった。
しかし、オヤジと安藤さんはシゲルの事が気に入ってくれたようだし、シゲルもなんの違和感もなしに溶け込んでいたのが僕は嬉しかった。
「へぇ、そうなんや。会わなくなったって、転校でもしてたんか?」
安藤さんはシゲルに興味が湧いたようだった。
「転校と少年院と両方かな」
「おお、少年院かぁ。やるなぁ」
安藤さんは笑いながらそれでも感心していた。
「小学生の時はとても仲が良かったんですけどね」
「それ誰や?」
とオヤジが話の腰を折るように聞いてきた。
「シゲル……田中滋っていう奴」
「ふ~ん。たなか……しげる……ねえ」
オヤジは聞いてきた割には関心がなさそうにシゲルの名前を呟いた。
「俺でも六人相手は少し怯むなぁ……高一やろ?根性あるな、その子」
安藤さんはそう言ってシゲルの事を褒めた。
「僕もそう思います。僕なら見て見ぬふりをします」
「普通はそうやろうなぁ……よっぽど自信があったんやろうな」
「間違いなく。本人は負けるなんて微塵も考えていなかったと思います」
「そんな奴が今でもおるんやなぁ」
と安藤さんは本当に感心していた。
「今度この店にも一度連れてきます」
この店にシゲルを連れてきたら面白いだろうななと本気で思った。
「おお、連れて来い。でも酒は出さんぞぉ。それでも良ければな」
と安藤さんは言った。
この人は本当に酒を出さないだろうな。ここでタバコを吸ったら放り出されるかもしれないな。僕は少しだけ不安になった。
そんな心配をしながらも僕は携帯でシゲルにメールを送った。
『今、オトン達とトアロードの店で飲んでる。オトン連中がシゲルが来るならおいでと言っている。いつがいい? 言っとくけど未成年は禁酒禁煙やで』
シゲルはバイト中だから返事はすぐに来ないだろうと思いながらも、とりあえずメールを送ってみた。
なんだか直ぐにシゲルに連絡したかった。思い立ったら吉日ともいうし。
「今、シゲルにメールしました。その内に返事が帰ってくると思います」
と安藤さんに知らせた。
「やる事早いな。まあ、いつでもええでぇ。この店は逃げへんからな」
と安藤さんは笑った。
「そうそう、逃げるんやったら店でなくてここのマスターやからな」
と横からオヤジが割って入って、くだらんツッコミをかました。
「ふん! ほっとけ」
安藤さんはそんなどうでもいいオヤジのツッコミにちゃんと答えていた。
この二人は本当に仲がいいな。呼吸が自然だわ。
僕も何年かしたらこんな感じの友達がいるんだろうか?それはシゲルなんだろうか?それとも和樹なんだろうか?
ふとそんな事を考えた。
携帯が震えた。
シゲルからだった。バイト中だというのにもう返事が帰ってきた。
バイト先は暇なのか?
『なに? 飲んでいるんか? 大人やん。行く行く!! 十時には行ける。トアロードを上がったら連絡する』
「え? 父さん……シゲルが今から来るって……十時過ぎには来れるって」
僕は驚いてオヤジに携帯を見せながら言った。
「レスポンスのエエ兄ちゃんやなぁ。面白いやんか」
と愉快そうにオヤジは笑っていた。
「そうそう。レスポンスの悪い奴は使いもんにならんからな」
と安藤さんは今からバイトの面接でもするかのような雰囲気を醸し出していた。
シゲルが安藤さんの店にやってきたのは十時を少し回ったところだった。
カウベルが店内の様子を伺うような音を鳴らして扉がゆっくりと開いた。
扉の影からシゲルの顔が見えた。
その顔は夕方に絶滅危惧種のヤンキーのお兄ちゃんと対面している時の強気の表情はではなく、恐る恐る自信なさげに店内の様子を窺うような表情だった。
「シゲル!こっちや」
不安げな表情のシゲルに僕が声を掛けると安心したような顔で笑った。そしてまた自信を取り戻したかのようなわざとらしい生意気な表情で店内に入って来た。
「ごめん、遅なったな」
でも、出てきた言葉は謙虚だった。
シゲルは見た目と思っている事のギャップが本当に大きい奴だと改めて気がついた。
「全然。でもバイトええんか?」
「今日は暇やったしな。大丈夫や」
やっぱり暇だったようだ。
僕はシゲルを安藤さんとオヤジに紹介した。
「初めまして。田中滋です。亮平とは小学校からの友達です」
とシゲルは挨拶した。
「なんや、今日は亮平が世話になったみたいやったなぁ。君と出会わなかったらうちの息子は、今頃顔を腫らして寝ていたかもしれん。ありがとうな」
とオヤジがシゲルに感謝しながら言った。
「いえいえ。たまたまです」
と言ってシゲルは頭をかいた。
「まあ、座れよ。注文は酒以外やぞ」
と僕はシゲルに僕の隣の席を勧めた。
「あ、あぁ。じゃあ、コーラください」
シゲルは椅子に座ると安藤さんの顔を見て注文した。
安藤さんはコーラを出しながら
「ビールぐらい飲ませても良いんやけどな。でもけじめはつけんとな。この頃、この店は高校生が出入りするようになって困ってんねん。一人出したら皆出さなあかんようになるからな。ホンマに保護者がなってないから迷惑してるんや」
と安藤さんは本気で困ったような顔をしてシゲルに話をしていたが、最後はオヤジを見て言った。
オヤジは気にするような素振りもなく、
「高校生でも客が来るだけマシや。こんな店」
と吐き捨てるように一言で片付けた。
シゲルは酒が飲めないことを気にする様子もなく、出されたコーラを美味しそうに飲んでいた。
安藤さんが
「それにしても君は喧嘩が強いんやね。六人相手によう喧嘩売ったねえ」
と感心するように言った。
「いえ。亮平が絡まれているのを見たら、何も考えずに体が動いていただけです。相手が六人なんて後で気がつきました」
と笑いながら言った。
「おお、そうなんや。男の子やなぁ」
と安藤さんはまた感心していた。本当に安藤さんはシゲルの事が気に入っているように見えた。
シゲルは思ったより早くこの店の空気に溶け込んでいた。
それと同時にシゲルが案外社交的なので僕は驚いていた。
こんなオッサン連中相手に物怖じせずに話ができるシゲルはやはり凄いなと尊敬してしまった。
僕はシゲルに
「オッサン連中と話するのに慣れとんなぁ」
と言うとシゲルは
「バイト先が飲み屋やからな。オッサンしか来えへんかんらな」
と事も無げに言った。
それを聞いて安藤さんが
「三宮の飲み屋か?」
と聞いた。
「いえ、元町の飲み屋です」
「そうかぁ。学校終わってからバイトかぁ……なんか懐かしいなぁ」
安藤さんは昔を思い出したのか、しみじみと話をしていた。
それを聞いてオヤジも頷いていた。
「俺もそこにいる亮平のお父さんも高校生時代一緒にアルバイトしていたんや。それも飲み屋やったなぁ。なあ一平」
「ああ、そうやったな。懐かしいわ。今時の高校生はそんなところでバイトせえへんやろう? どうなん?」
オヤジは急にシゲルに今の高校生のバイト事情を聞いた。
「この頃、高校生を雇う飲み屋は少ないです」
シゲルはコーラを飲もうとしていたが、オヤジに急に話を振られて慌ててグラスをおいて返事をしていた。
「そうやろうなぁ。俺らン時は高校生ばっかりやったけどな」
と安藤さんが頷いた。
「そうやったなぁ。お前なんか店の酒を黙って飲んていたもんな」
「あほ、それはお前や」
安藤さんはおやじのツッコミに間髪入れずに反論していた。
でもこれでオヤジと安藤さんは高校時代から酒を飲んでいた事がはっきりした。
「僕も店では飲んでます」
シゲルは悪びれもせずに飲んでいる事を安藤さんとオヤジに言った。
「まあ、そんなもんだろうな。高校生になって酒も飲まんなんてあんまりおらんやろう?」
と自分の店では酒を出さないと言っていた常識的な大人の安藤さんは全く正反対の事を言う。
「この店では禁酒禁煙とか言っていたのに……」
と僕が言うと
「当たり前や。健全な青少年の育成は店主の責任じゃ! 俺の店の中ではそうなっている」
「店の外は?」
「そんなもんは知らん」
安藤さんはきっぱりと言い切った。
「あ、なんかそれって汚い大人の意見のような気がする」
「なんや?今頃気がついたか? 大人っていうのは穢れた生物だというのを知らんのか?」
オヤジがそう言うと安藤さんは大きく頷いて
「まだまだ亮平は修行が足りんな」
と言った。
僕はシゲルの顔を見たが、シゲルはそんなもんだろうというような顔をしてこの穢れた大人の会話を聞き流していた。
なんだか僕だけが小僧のような扱いを受けた気がして少し悔しかった。
しかし、オヤジと安藤さんはシゲルの事が気に入ってくれたようだし、シゲルもなんの違和感もなしに溶け込んでいたのが僕は嬉しかった。
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