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さよならコンサート
スポットライト
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スポットライトの中で彩音さんの弓が上がった。
観客席から怒涛の様な拍手と歓声が湧いた。
この曲を知っている生徒は少ないと思うがこの旋律を、この彩音さんの音を聞いたら誰もが圧倒されたに違いない。この歓声と拍手がそれを如実に証明している。
始めて音合わせしたあの日からこの曲を何度も一緒に弾いてきたが、今日の彩音さんのヴァイオリンは鬼気迫るものがあった。こんな旋律を一緒に創りあげる事が出来て、僕は幸せな気分で彩音さんを見つめていた。
スポットライトの中の彩音さんは神々しく見えた。その彩音さんに僕は心の中で感謝していた。
ただ、
――この演奏を受験当日まで取っておけばいいのに――
と一瞬不埒な事も同時に思ったが、この演奏を一緒に弾けたこの時間は何物にも代えがたい至福の時だった。
彩音さんは笑顔で振り返ると僕の目を見て頷いた。僕はそれに促されるように立ち上がり観客席に向かって一緒にお辞儀をした。
頭を上げた僕に彩音さんが耳元でひとこと
「ありがとう。やっぱり亮平君を選んで正解やったわ」
と言ってくれた。
彩音さんは少し高揚しているのか頬が赤くほてっていた。でもその満足げな笑顔は僕にとって眩しすぎる笑顔だった。
「こちらこそ、ありがとうございました」
と僕は応えた。嬉しいはずなのに少し泣きそうな気持になった。
しかしそこはなんとか気合で抑え込んだ。
観客の歓声を聞きながら『もっともっと彩音さんと一緒に演奏したかった』『もっと三年生と一緒にやりたかった』と、また後悔とも寂しさとも何とも言えない感情がこみあげて来た。
その想いを悟られない様に、僕はそのままヴァイオリン席に移った。
席に着くと宏美が
「お疲れ様」
と労(ねぎら)ってくれた。
「うん」
と僕が頷くと
「とってもいい演奏だったよ。でもあんなに緊張して弾いている亮ちゃんを見たのは初めて」
と小声で耳元で囁いた。宏美には僕の緊張感が伝わっていたようだ。
「うん。ありがとう。ホンマに必死やったわ……」
と答えたが彩音さんとの演奏は僕自身とっても幸せな時間だった。今は何もせずにこの余韻に浸りたい気持ちだった。
しかしそういう訳にもいかず、僕はヴァイオリンをケースから取りだして肩の上に置いた。
気持ちを入れ替え、奮い立たせる様に僕は大きく息を吸った。
ここから僕はヴァイオリニストになる。彩音さんと同じポジションで音を紡ぐ。
音合わせをしながら、この器楽部を千龍さんたち三年生と一緒に立ち上げた頃を思い出していた。今日で三年生と一緒に演奏をするのは最後だ。
ほんの数か月前の事なのに、とっても懐かしい。
指揮台に谷端先生が上がった。
その姿を見て僕も気持ちを切り替えた。もうさっきまでの余韻は忘れた。
それよりもこれが三年生と一緒に演奏する最後のオーケストラ。
それが今から始まる。
その思い。
一瞬の静寂。
一瞬の間合い。
そして指揮棒が振り下ろされる。
最後の演奏が今始まった。
ただ至福の時は短い。
オーケストラの最後の演奏が終わると、観客から盛大な歓声と拍手が沸き上がった。
やがてそれはアンコールの拍手へと変わった。
指揮をしていた谷端先生が拍手を背に指揮台から降りると、入れ替わる様に美奈子先生が上がった。
そしてマイクを手にすると講堂に詰めかけた生徒たちや先生方に対面した。
観客席から怒涛の様な拍手と歓声が湧いた。
この曲を知っている生徒は少ないと思うがこの旋律を、この彩音さんの音を聞いたら誰もが圧倒されたに違いない。この歓声と拍手がそれを如実に証明している。
始めて音合わせしたあの日からこの曲を何度も一緒に弾いてきたが、今日の彩音さんのヴァイオリンは鬼気迫るものがあった。こんな旋律を一緒に創りあげる事が出来て、僕は幸せな気分で彩音さんを見つめていた。
スポットライトの中の彩音さんは神々しく見えた。その彩音さんに僕は心の中で感謝していた。
ただ、
――この演奏を受験当日まで取っておけばいいのに――
と一瞬不埒な事も同時に思ったが、この演奏を一緒に弾けたこの時間は何物にも代えがたい至福の時だった。
彩音さんは笑顔で振り返ると僕の目を見て頷いた。僕はそれに促されるように立ち上がり観客席に向かって一緒にお辞儀をした。
頭を上げた僕に彩音さんが耳元でひとこと
「ありがとう。やっぱり亮平君を選んで正解やったわ」
と言ってくれた。
彩音さんは少し高揚しているのか頬が赤くほてっていた。でもその満足げな笑顔は僕にとって眩しすぎる笑顔だった。
「こちらこそ、ありがとうございました」
と僕は応えた。嬉しいはずなのに少し泣きそうな気持になった。
しかしそこはなんとか気合で抑え込んだ。
観客の歓声を聞きながら『もっともっと彩音さんと一緒に演奏したかった』『もっと三年生と一緒にやりたかった』と、また後悔とも寂しさとも何とも言えない感情がこみあげて来た。
その想いを悟られない様に、僕はそのままヴァイオリン席に移った。
席に着くと宏美が
「お疲れ様」
と労(ねぎら)ってくれた。
「うん」
と僕が頷くと
「とってもいい演奏だったよ。でもあんなに緊張して弾いている亮ちゃんを見たのは初めて」
と小声で耳元で囁いた。宏美には僕の緊張感が伝わっていたようだ。
「うん。ありがとう。ホンマに必死やったわ……」
と答えたが彩音さんとの演奏は僕自身とっても幸せな時間だった。今は何もせずにこの余韻に浸りたい気持ちだった。
しかしそういう訳にもいかず、僕はヴァイオリンをケースから取りだして肩の上に置いた。
気持ちを入れ替え、奮い立たせる様に僕は大きく息を吸った。
ここから僕はヴァイオリニストになる。彩音さんと同じポジションで音を紡ぐ。
音合わせをしながら、この器楽部を千龍さんたち三年生と一緒に立ち上げた頃を思い出していた。今日で三年生と一緒に演奏をするのは最後だ。
ほんの数か月前の事なのに、とっても懐かしい。
指揮台に谷端先生が上がった。
その姿を見て僕も気持ちを切り替えた。もうさっきまでの余韻は忘れた。
それよりもこれが三年生と一緒に演奏する最後のオーケストラ。
それが今から始まる。
その思い。
一瞬の静寂。
一瞬の間合い。
そして指揮棒が振り下ろされる。
最後の演奏が今始まった。
ただ至福の時は短い。
オーケストラの最後の演奏が終わると、観客から盛大な歓声と拍手が沸き上がった。
やがてそれはアンコールの拍手へと変わった。
指揮をしていた谷端先生が拍手を背に指揮台から降りると、入れ替わる様に美奈子先生が上がった。
そしてマイクを手にすると講堂に詰めかけた生徒たちや先生方に対面した。
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※この物語はフィクションです。
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