287 / 439
さよならコンサート
別れの言葉
しおりを挟む
「それでは最後に今回卒部される三年生からのひとことをお願いします」
と琴葉が少しかすれた声で言った。
石橋さんが一歩前に出た。
コントラバスと花束を抱えたまま石橋さんが話し出した。
「今日はこんな楽しい卒部会を催してくれてありがとう。心からお礼を言います。知っている人もいると思うけど、俺は二年の秋までラグビー部におりました。首をいわしてもうて二年の途中で部活を辞めたんやけど、千龍と彩音が『一緒にやらへんか?』と言って誘ってくれたんがそもそもの始まりやった」
そう言えば千龍さんと石橋さんは同じ中学校の出身で、どちらも吹奏楽部に所属していたという話を聞いた事があった。
「三人で放課後、部活でもないのに残って演奏をしていたりしてたんやけど、そこへ瑞穂と哲也と亮平がやって来て器楽部ができた。この三人が来てくれなかったら器楽部は無かったと思う。それに俺は高校に入ってからラグビーしか頭に無くて、それができなくなって何もやる気が起きなかった時に無理やりに引きずり込んでくれた千龍、彩音、ありがとう。
器楽部を作るきっかけをくれた瑞穂、哲也、亮平。お前らもありがとう。中途半端な時期の部員募集やったのに、入部してくれたみんな。ホンマにありがとう。
そして器楽部を立ち上げる事を勧めてくれて顧問もしてくれた美奈子先生、ありがとうございました。感謝しかありません。ホンマに新学期からの皆さんの活躍を期待しています」
石橋さんは部員への感謝の言葉で締めくくって頭を深々と下げた。
あのバサさんがこんなまともな最後の挨拶をするなんて思ってもいなかった。僕はいつもおちょくられていたような気がするがとてもいい先輩だった。存在感が中途半端ではなかった。最後の最後までギャップ萌えする人だった。
続いて彩音さんが一歩前に出て、頭を深々と下げてからゆっくりと頭を上げたが顔は俯いたままだった。
「バサが似合わん事を言うから、何も言えんやんかぁ……」
と明らかに声が詰まっていた。
全くもってその通りだ。先輩たちの『スティング』よりも想定外だし予想もできない裏切り行為だ。
俯き加減の彩音さんが意を決したように顔を上げた。既に頬はうっすらと涙に濡れていた。
「泣かへんつもりやったのに……バサのバカぁ……」
このひとことで女子部員の涙腺は全て崩壊した。
「……ホンマに短い一年にも満たない部活やったけど、器楽部を立ち上げて良かったです。受験がある三年生になってから部活するなんて狂気の沙汰やと言われたけど、どうしても何かを残したかった。ホンマにやって良かった。春に初めて瑞穂、立花君、亮平君と会った時『これで器楽部が作れる』と思ってとても嬉しかったのをこの会の間ずっと思い出していました。
ホンマに一緒について来てくれてありがとう。私の場合、短い部活の上にコンクールがあったりして皆さんと何も関われずに教える事も出来なかった事が残念でなりません。本当に頼りがいの無い先輩で済みませんでした」
と言って彩音さんは頭を下げた。
「そんな事無いですぅ」
と言う声がどこからか聞こえた。
彩音さんの耳にもその声は届いたようで、顔をあげると少し微笑んだ。
そして一度周りを見まわしてから言葉を続けた。
「そんな私の代わりにメンバーや後輩の面倒を見てくれた瑞穂、琴葉、シノンや二年生のみんな、ありがとう。おかげで心置きなくコンクールに打ち込む事出来ました。本当にもっともっとみんなと色々の事をやりたかったけど、できなくてごめんなさい。私も石川君と同じで感謝の気持ちしかありません。
新学期からは新しい体制での部活が始まりますが、とても期待しています。新しい三年生を中心に更に良い部活にしてください。私はそれを願っています。本当にありがとうございました。冴子、瑞穂、千恵あとはよろしくね」
と最後はいつもの彩音さんだった。彩音さんが受験直前にも拘わらずこの新春コンサートに僕や他の後輩達と組んで演奏したのは、後輩のためにやり残した関りを少しでも取り返すためだったのかと気が付いた。やはり彩音さんの腹の座り方は凄いと改めて思い直した。
女子部員の涙腺は崩壊し、決壊したままだったが、冴子は
「はい。任せてください」
と気丈に応えていた。
その冴子の姿を見て彼女も僕と同じ様に、彩音さんの言葉を受け止めたんだろうなと感じた。
それと同時に彼女は僕の知っていた冴子から、どんどんか変わっていこうとしている事にも気が付いた。
多分、彼女は自分自身でももっと人間的に成長したいと思っているのだろう。その目標の一つが彩音さんである事は間違いない。
そんな冴子を瑞穂が肩を支えるように抱きついていた。
ああ、そうだった。瑞穂が僕に会いに来る切っ掛けを作ったのも冴子だった。そんな事をこの二人の様子を見て僕は思い出していた。
と琴葉が少しかすれた声で言った。
石橋さんが一歩前に出た。
コントラバスと花束を抱えたまま石橋さんが話し出した。
「今日はこんな楽しい卒部会を催してくれてありがとう。心からお礼を言います。知っている人もいると思うけど、俺は二年の秋までラグビー部におりました。首をいわしてもうて二年の途中で部活を辞めたんやけど、千龍と彩音が『一緒にやらへんか?』と言って誘ってくれたんがそもそもの始まりやった」
そう言えば千龍さんと石橋さんは同じ中学校の出身で、どちらも吹奏楽部に所属していたという話を聞いた事があった。
「三人で放課後、部活でもないのに残って演奏をしていたりしてたんやけど、そこへ瑞穂と哲也と亮平がやって来て器楽部ができた。この三人が来てくれなかったら器楽部は無かったと思う。それに俺は高校に入ってからラグビーしか頭に無くて、それができなくなって何もやる気が起きなかった時に無理やりに引きずり込んでくれた千龍、彩音、ありがとう。
器楽部を作るきっかけをくれた瑞穂、哲也、亮平。お前らもありがとう。中途半端な時期の部員募集やったのに、入部してくれたみんな。ホンマにありがとう。
そして器楽部を立ち上げる事を勧めてくれて顧問もしてくれた美奈子先生、ありがとうございました。感謝しかありません。ホンマに新学期からの皆さんの活躍を期待しています」
石橋さんは部員への感謝の言葉で締めくくって頭を深々と下げた。
あのバサさんがこんなまともな最後の挨拶をするなんて思ってもいなかった。僕はいつもおちょくられていたような気がするがとてもいい先輩だった。存在感が中途半端ではなかった。最後の最後までギャップ萌えする人だった。
続いて彩音さんが一歩前に出て、頭を深々と下げてからゆっくりと頭を上げたが顔は俯いたままだった。
「バサが似合わん事を言うから、何も言えんやんかぁ……」
と明らかに声が詰まっていた。
全くもってその通りだ。先輩たちの『スティング』よりも想定外だし予想もできない裏切り行為だ。
俯き加減の彩音さんが意を決したように顔を上げた。既に頬はうっすらと涙に濡れていた。
「泣かへんつもりやったのに……バサのバカぁ……」
このひとことで女子部員の涙腺は全て崩壊した。
「……ホンマに短い一年にも満たない部活やったけど、器楽部を立ち上げて良かったです。受験がある三年生になってから部活するなんて狂気の沙汰やと言われたけど、どうしても何かを残したかった。ホンマにやって良かった。春に初めて瑞穂、立花君、亮平君と会った時『これで器楽部が作れる』と思ってとても嬉しかったのをこの会の間ずっと思い出していました。
ホンマに一緒について来てくれてありがとう。私の場合、短い部活の上にコンクールがあったりして皆さんと何も関われずに教える事も出来なかった事が残念でなりません。本当に頼りがいの無い先輩で済みませんでした」
と言って彩音さんは頭を下げた。
「そんな事無いですぅ」
と言う声がどこからか聞こえた。
彩音さんの耳にもその声は届いたようで、顔をあげると少し微笑んだ。
そして一度周りを見まわしてから言葉を続けた。
「そんな私の代わりにメンバーや後輩の面倒を見てくれた瑞穂、琴葉、シノンや二年生のみんな、ありがとう。おかげで心置きなくコンクールに打ち込む事出来ました。本当にもっともっとみんなと色々の事をやりたかったけど、できなくてごめんなさい。私も石川君と同じで感謝の気持ちしかありません。
新学期からは新しい体制での部活が始まりますが、とても期待しています。新しい三年生を中心に更に良い部活にしてください。私はそれを願っています。本当にありがとうございました。冴子、瑞穂、千恵あとはよろしくね」
と最後はいつもの彩音さんだった。彩音さんが受験直前にも拘わらずこの新春コンサートに僕や他の後輩達と組んで演奏したのは、後輩のためにやり残した関りを少しでも取り返すためだったのかと気が付いた。やはり彩音さんの腹の座り方は凄いと改めて思い直した。
女子部員の涙腺は崩壊し、決壊したままだったが、冴子は
「はい。任せてください」
と気丈に応えていた。
その冴子の姿を見て彼女も僕と同じ様に、彩音さんの言葉を受け止めたんだろうなと感じた。
それと同時に彼女は僕の知っていた冴子から、どんどんか変わっていこうとしている事にも気が付いた。
多分、彼女は自分自身でももっと人間的に成長したいと思っているのだろう。その目標の一つが彩音さんである事は間違いない。
そんな冴子を瑞穂が肩を支えるように抱きついていた。
ああ、そうだった。瑞穂が僕に会いに来る切っ掛けを作ったのも冴子だった。そんな事をこの二人の様子を見て僕は思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる