326 / 439
ヴォーカリストとギタリスト
勘違い
しおりを挟む
そして僕たち三人の前に立ち止まると
「お前が藤崎やな!?」
と声を押し殺すように聞いてきた。この男はこのセリフを絶叫したかったに違いない。でも、他の部員の目を気にして出来なかった……みたいな感じがした。
「そうやけど。お前は誰やねん?」
と少し僕は眉間に皺を寄せて怪訝な表情で聞いた。後輩たちがこちらを見ていた。
男は名乗る代わりに
「お前にはキーボードの座は絶対に譲らへんからな!」
と訳の分からん事を言った。
「はぁ? なんのこっちゃ?」
――こいつは一体何が言いたいのだ?――
と理不尽な言いがかりに少し腹が立ってきた。
「お前、うちのバンドのキーボードやるんやて?」
男は更に詰め寄ってきた。
「はぁ? うちのバンドって、なんや?」
「弓削翔のバンドや! 知っとるやろ!」
と男は叫んだ。
「ああ、あのコミックバンドの事かぁ」
「なんやて? 人が気にしていることを言いやがって……」
更に違うネタで彼のボルテージが上がったような気がする。
「あ、やっぱり気にしてたんや。自覚はあってんな」
と僕は笑いながら言った。
「うるさい!! そんな事はどうでもええんや。兎に角、お前のキーボードは絶対に認めへんからな!」
その時、唐突に
「え? 亮平、お前、人間辞めんのか?」
と拓哉が悲しそうな顔で聞いてきた。
「せっかく人並みに学園生活を送っていたのに……何が不満で今更コミックバンドに入って、人生をドブに捨てるんや?」
と今度は哲也が笑いを堪えながら更に畳みかけるように言った。
「人をヨゴレかゴミみたいに言うな! やる訳ないやろ! 俺もまだ人生を捨てたないわ!」
と僕は叫んだ。
「おい!」
とその男は僕に話しかけてきた。
「なんやねん?」
と僕は振り返った。
「うちのバンドを掃き溜めのように言うな!」
とその男は言った。
「言うたんは俺とちゃう。こいつらや」
と僕は哲也達を指さした。
「アホ。そんな掃き溜めに行くのはお前やろが!」
と哲也が言った。
「だから、そんな底辺には行かんって言うてるやろが!」
「あの……お前……うちのバンドに入るんとちゃうの?」
とその男はさっきまでの勢いとは打って変わって僕の顔色を窺うように聞いてきた。
「入る訳ないやろ! あんなイモバンド! 誰がそんなガセネタ流したんや!」
と僕は思わず怒鳴ってしまった。
「いや、翔と和樹が『今度亮平と何一緒に演奏しよか?』とか言っていたから、てっきりぽっぽちゃんが入ってキーボードもメンバーチェンジするんかなと思ってんけど……」
と弱々しい声で言った。さっきまでの勢いはどこに行った?
その時、話の腰を折る様に
「お前、勇山(いさみやま)やんなぁ」
と拓哉が声を掛けた。
「ああ、そうやけど」
名前を唐突に呼ばれてその男はきょとんとした顔で拓哉を見ていた。
「やっと名前を思い出したわ。ずっと考えててん……」
と拓哉は一週間振りにトイレで気持ちよく出した後のように、スッキリした顔で言った。
「たっくん。こいつの事知っとったんや?」
と僕が聞くと
「いやいや、そういう訳でもないんやけど……確か一年時に隣のクラスにおった奴やったなぁって」
と気の抜けた声で応えた。
拓哉は名前を思い出して満足したようで僕たちが何の話をしていたのかなんて事は、どうでもよくなったみたいだった。聞きたい事を聞いたら、この話題にはもう興味も関心も無くなった表情をしていた。こいつはそういう奴だ。
「兎に角やなぁ……俺はお前らのバンドには加入せえへんで。たまにはセッションなんかはするかもしれんけど俺は軽音でもないし、コミックバンドに加入する事はないわ」
と僕もつられて少し気が抜けた感じになってしまっていたが、勇山にバンド加入の件はきっちりと否定した。
「そうかぁ……俺の早とちりかぁ……済まんかったなぁ」
と勇山は素直に頭を下げた。
そして
「いやな、あの藤崎がキーボードで入るって聞いたら、絶対に勝たれへんしって思ってメッチャ焦っててん」
とほっとしたように本音を語り出した。
「お前が藤崎やな!?」
と声を押し殺すように聞いてきた。この男はこのセリフを絶叫したかったに違いない。でも、他の部員の目を気にして出来なかった……みたいな感じがした。
「そうやけど。お前は誰やねん?」
と少し僕は眉間に皺を寄せて怪訝な表情で聞いた。後輩たちがこちらを見ていた。
男は名乗る代わりに
「お前にはキーボードの座は絶対に譲らへんからな!」
と訳の分からん事を言った。
「はぁ? なんのこっちゃ?」
――こいつは一体何が言いたいのだ?――
と理不尽な言いがかりに少し腹が立ってきた。
「お前、うちのバンドのキーボードやるんやて?」
男は更に詰め寄ってきた。
「はぁ? うちのバンドって、なんや?」
「弓削翔のバンドや! 知っとるやろ!」
と男は叫んだ。
「ああ、あのコミックバンドの事かぁ」
「なんやて? 人が気にしていることを言いやがって……」
更に違うネタで彼のボルテージが上がったような気がする。
「あ、やっぱり気にしてたんや。自覚はあってんな」
と僕は笑いながら言った。
「うるさい!! そんな事はどうでもええんや。兎に角、お前のキーボードは絶対に認めへんからな!」
その時、唐突に
「え? 亮平、お前、人間辞めんのか?」
と拓哉が悲しそうな顔で聞いてきた。
「せっかく人並みに学園生活を送っていたのに……何が不満で今更コミックバンドに入って、人生をドブに捨てるんや?」
と今度は哲也が笑いを堪えながら更に畳みかけるように言った。
「人をヨゴレかゴミみたいに言うな! やる訳ないやろ! 俺もまだ人生を捨てたないわ!」
と僕は叫んだ。
「おい!」
とその男は僕に話しかけてきた。
「なんやねん?」
と僕は振り返った。
「うちのバンドを掃き溜めのように言うな!」
とその男は言った。
「言うたんは俺とちゃう。こいつらや」
と僕は哲也達を指さした。
「アホ。そんな掃き溜めに行くのはお前やろが!」
と哲也が言った。
「だから、そんな底辺には行かんって言うてるやろが!」
「あの……お前……うちのバンドに入るんとちゃうの?」
とその男はさっきまでの勢いとは打って変わって僕の顔色を窺うように聞いてきた。
「入る訳ないやろ! あんなイモバンド! 誰がそんなガセネタ流したんや!」
と僕は思わず怒鳴ってしまった。
「いや、翔と和樹が『今度亮平と何一緒に演奏しよか?』とか言っていたから、てっきりぽっぽちゃんが入ってキーボードもメンバーチェンジするんかなと思ってんけど……」
と弱々しい声で言った。さっきまでの勢いはどこに行った?
その時、話の腰を折る様に
「お前、勇山(いさみやま)やんなぁ」
と拓哉が声を掛けた。
「ああ、そうやけど」
名前を唐突に呼ばれてその男はきょとんとした顔で拓哉を見ていた。
「やっと名前を思い出したわ。ずっと考えててん……」
と拓哉は一週間振りにトイレで気持ちよく出した後のように、スッキリした顔で言った。
「たっくん。こいつの事知っとったんや?」
と僕が聞くと
「いやいや、そういう訳でもないんやけど……確か一年時に隣のクラスにおった奴やったなぁって」
と気の抜けた声で応えた。
拓哉は名前を思い出して満足したようで僕たちが何の話をしていたのかなんて事は、どうでもよくなったみたいだった。聞きたい事を聞いたら、この話題にはもう興味も関心も無くなった表情をしていた。こいつはそういう奴だ。
「兎に角やなぁ……俺はお前らのバンドには加入せえへんで。たまにはセッションなんかはするかもしれんけど俺は軽音でもないし、コミックバンドに加入する事はないわ」
と僕もつられて少し気が抜けた感じになってしまっていたが、勇山にバンド加入の件はきっちりと否定した。
「そうかぁ……俺の早とちりかぁ……済まんかったなぁ」
と勇山は素直に頭を下げた。
そして
「いやな、あの藤崎がキーボードで入るって聞いたら、絶対に勝たれへんしって思ってメッチャ焦っててん」
とほっとしたように本音を語り出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる