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ヴォーカリストとギタリスト
作曲
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翔が僕の顔を見て笑った。
――やっと入ってきたか!――
とでも言いたそうな笑顔だった。
やっぱり聞くよりも演奏している方が落ち着く。
器楽部に入部してから、ソロで弾くよりもこうやって誰かと演奏している事の方が多い。
相方の呼吸を感じながら弾くのに慣れて来た。
翔のギターソロが次どうくるかが分かる。
それに合わせて僕も弾く。
勿論即興だ。
思った以上にこれが楽しい。
しかしこういう楽しい時間はすぐに終わる。
弾き終わった後の名残惜しさを僕は少し感じていた。
――もっと弾きたかったな――
嘘偽ざる今の気持ちだ。
「流石やなぁ……やっぱりお前のピアノはエエわぁ」
と満足げに翔は言った。
「そうかぁ?」
「ぽっぽちゃんがお前のピアノで歌ってみたいっていう気持ちがよう分かるわ」
と翔は笑った。
「そんなもんかぁ……歌の伴奏とは全然違うぞ」
翔ごときがぽっぽちゃんの気持ちの何が分かると言うのだろう? 不遜な奴だ。
でも僕のピアノを褒められているようなので悪い気はしない。
「巧いと言うか、弾き慣れている感が凄いわ。ブルースに伴奏つけんの初めてやないんかぁ?」
「まあ……少しだけ聞きかじった事はある程度やけどな」
安藤さんの店でブルース好きのおっさん連中に囲まれて、色々と教えてもらった事は言わずにいた。
ただそれを説明するのが面倒だっただけなんだが……。
「そうなんやぁ……ブルーノートなんてどこで覚えたんや? クラシックバカや無いんか?」
こいつは僕の事を褒めているのか貶しているのかよく分からん。
「バカだけ余計や。この前たまたま聞いたジャムセッションの演奏を思い出しながら弾いただけや」
と答えたが、僕はクラシックバカではない。
これを言われると思った以上に腹が立つ事に今気が付いた。
「それってレコードで聞いたんかぁ?」
と翔が聞いてきた。
「そうやで。いつも行く店でかかっていたんや」
「もしかしてそれはニッキー・ホプキンスとかのアルバムなんか?」
「え? そうや。なんで分かんねん」
翔の言う通りだった。僕が聞いたレコードは安藤さんの店で聞いたものだった。
ジャムセッションを録音したレコードで、そこでピアノを弾いていたのがニッキー・ホプキンスだった。僕はその音に一瞬で魅了されてしまっていた。それを翔は僕の演奏を聞いただけで当てた。本当に驚いた。
そういえばそのアルバムのジャムセッションには、翔の大好きなライ・クーダ―も参加していたはず……だからか? 翔もそれを聞いた事があったのか? それにしても翔は単なるギターバカではないなと、改めて少しだけ見直しておいた。
「そっかぁ……それって*『エドワード』やな。多分……」
と翔は一人で納得したように頷いていた。
「なんかそんな名前のLPやったと思うわ」
自信はないがそんな感じの名前のアルバムだったような気がする。もっとちゃんと安藤さんに聞いておけば良かったと少し後悔した。
「なるほどねぇ……だからかぁ……ちゃんとピタッと俺のギターに合わせてくるし、絡んで欲しいところはちゃんと絡んでくれるし……普通にブルースしてたわ。それにしても渋いもん聞くなぁ……趣味がオッサンやな」
と翔は少し呆れたような表情を見せながら笑った。確かにあのアルバムの演奏は頭に残っていたので、その時聞いたフレーズはもちろんこの場でも取り入れて弾いていた。
「ほっとけ。それはこの頃自覚しとうけど、お前だけには言われとないわ」
この頃オヤジと安藤さんの影響で聞く音楽の趣味が変わった。ほとんど60~70年代に偏っているような気がする。オッサン好みと言われても反論できない僕がいる。
「自覚してたんや」
と翔は笑ったが、急に思い出したように
「あ、それよりもやなぁ。新しい曲を作ってんけど、聞いてくれるか? 今日はその為に来たんやったわ」
と言った、
やっと翔はここに来た本来の目的を翔は思い出した。流石に弾き語りが目的では無かったようだ。
「新しい曲って……お前って作曲すんの?」
「すんで」
と当たり前の様な顔で言った。
「オリジナル曲なんやなぁ?」
僕は驚きながらも聞き返した。
「そうや。他人の曲を弾いてオリジナルって言わんわな。それをオリジナルって言うたらアホや思われるわな」
「いや、それ以前に犯罪やろ」
「そっか……そうやな。ま、兎に角、聞いてぇな。まだ完全にできた訳やないねんけど……こんな曲やねん」
と翔は軽くチューニングし直すとギターを弾き出した。
ピックは使わずにフィンガーピッキングで小刻みに刻むメロディ。
入りは単調なリフの繰り返し。全体的には静かで抑えめのリズムながらそれなりにノリのある明るい曲調だ。後半のサビでそれなりに盛り上がるが、全体的には落ち着いた感じを受ける曲だった。
しかし翔のギターの刻みが何故か軽すぎるように感じた。そうその軽さが気にかかっていた。
ワンコーラス弾き終わると翔は
「どう?」
と聞いてきた。
「どう? って言われても……で、これに歌詞はないの?」
「まだ書けてないねん。先に曲が浮かんだんや」
「ふぅん、そうかぁ……でもなんかええ曲やん」
と僕は応えたが、本当に聞いていていい感じのエイトビートで僕は気に入っていた。
さっきまでのオヤジ臭が漂いそうなブルースの面影は全くなかった。
それにしても翔にこんな才能があったなんて、人は見かけによらないもんだと僕は少し翔を見直した。
こんなにも簡単に曲が浮かぶって、案外翔って凄い奴かもしれない。
「そう?」
と翔は嬉しそうに笑った。
――やっと入ってきたか!――
とでも言いたそうな笑顔だった。
やっぱり聞くよりも演奏している方が落ち着く。
器楽部に入部してから、ソロで弾くよりもこうやって誰かと演奏している事の方が多い。
相方の呼吸を感じながら弾くのに慣れて来た。
翔のギターソロが次どうくるかが分かる。
それに合わせて僕も弾く。
勿論即興だ。
思った以上にこれが楽しい。
しかしこういう楽しい時間はすぐに終わる。
弾き終わった後の名残惜しさを僕は少し感じていた。
――もっと弾きたかったな――
嘘偽ざる今の気持ちだ。
「流石やなぁ……やっぱりお前のピアノはエエわぁ」
と満足げに翔は言った。
「そうかぁ?」
「ぽっぽちゃんがお前のピアノで歌ってみたいっていう気持ちがよう分かるわ」
と翔は笑った。
「そんなもんかぁ……歌の伴奏とは全然違うぞ」
翔ごときがぽっぽちゃんの気持ちの何が分かると言うのだろう? 不遜な奴だ。
でも僕のピアノを褒められているようなので悪い気はしない。
「巧いと言うか、弾き慣れている感が凄いわ。ブルースに伴奏つけんの初めてやないんかぁ?」
「まあ……少しだけ聞きかじった事はある程度やけどな」
安藤さんの店でブルース好きのおっさん連中に囲まれて、色々と教えてもらった事は言わずにいた。
ただそれを説明するのが面倒だっただけなんだが……。
「そうなんやぁ……ブルーノートなんてどこで覚えたんや? クラシックバカや無いんか?」
こいつは僕の事を褒めているのか貶しているのかよく分からん。
「バカだけ余計や。この前たまたま聞いたジャムセッションの演奏を思い出しながら弾いただけや」
と答えたが、僕はクラシックバカではない。
これを言われると思った以上に腹が立つ事に今気が付いた。
「それってレコードで聞いたんかぁ?」
と翔が聞いてきた。
「そうやで。いつも行く店でかかっていたんや」
「もしかしてそれはニッキー・ホプキンスとかのアルバムなんか?」
「え? そうや。なんで分かんねん」
翔の言う通りだった。僕が聞いたレコードは安藤さんの店で聞いたものだった。
ジャムセッションを録音したレコードで、そこでピアノを弾いていたのがニッキー・ホプキンスだった。僕はその音に一瞬で魅了されてしまっていた。それを翔は僕の演奏を聞いただけで当てた。本当に驚いた。
そういえばそのアルバムのジャムセッションには、翔の大好きなライ・クーダ―も参加していたはず……だからか? 翔もそれを聞いた事があったのか? それにしても翔は単なるギターバカではないなと、改めて少しだけ見直しておいた。
「そっかぁ……それって*『エドワード』やな。多分……」
と翔は一人で納得したように頷いていた。
「なんかそんな名前のLPやったと思うわ」
自信はないがそんな感じの名前のアルバムだったような気がする。もっとちゃんと安藤さんに聞いておけば良かったと少し後悔した。
「なるほどねぇ……だからかぁ……ちゃんとピタッと俺のギターに合わせてくるし、絡んで欲しいところはちゃんと絡んでくれるし……普通にブルースしてたわ。それにしても渋いもん聞くなぁ……趣味がオッサンやな」
と翔は少し呆れたような表情を見せながら笑った。確かにあのアルバムの演奏は頭に残っていたので、その時聞いたフレーズはもちろんこの場でも取り入れて弾いていた。
「ほっとけ。それはこの頃自覚しとうけど、お前だけには言われとないわ」
この頃オヤジと安藤さんの影響で聞く音楽の趣味が変わった。ほとんど60~70年代に偏っているような気がする。オッサン好みと言われても反論できない僕がいる。
「自覚してたんや」
と翔は笑ったが、急に思い出したように
「あ、それよりもやなぁ。新しい曲を作ってんけど、聞いてくれるか? 今日はその為に来たんやったわ」
と言った、
やっと翔はここに来た本来の目的を翔は思い出した。流石に弾き語りが目的では無かったようだ。
「新しい曲って……お前って作曲すんの?」
「すんで」
と当たり前の様な顔で言った。
「オリジナル曲なんやなぁ?」
僕は驚きながらも聞き返した。
「そうや。他人の曲を弾いてオリジナルって言わんわな。それをオリジナルって言うたらアホや思われるわな」
「いや、それ以前に犯罪やろ」
「そっか……そうやな。ま、兎に角、聞いてぇな。まだ完全にできた訳やないねんけど……こんな曲やねん」
と翔は軽くチューニングし直すとギターを弾き出した。
ピックは使わずにフィンガーピッキングで小刻みに刻むメロディ。
入りは単調なリフの繰り返し。全体的には静かで抑えめのリズムながらそれなりにノリのある明るい曲調だ。後半のサビでそれなりに盛り上がるが、全体的には落ち着いた感じを受ける曲だった。
しかし翔のギターの刻みが何故か軽すぎるように感じた。そうその軽さが気にかかっていた。
ワンコーラス弾き終わると翔は
「どう?」
と聞いてきた。
「どう? って言われても……で、これに歌詞はないの?」
「まだ書けてないねん。先に曲が浮かんだんや」
「ふぅん、そうかぁ……でもなんかええ曲やん」
と僕は応えたが、本当に聞いていていい感じのエイトビートで僕は気に入っていた。
さっきまでのオヤジ臭が漂いそうなブルースの面影は全くなかった。
それにしても翔にこんな才能があったなんて、人は見かけによらないもんだと僕は少し翔を見直した。
こんなにも簡単に曲が浮かぶって、案外翔って凄い奴かもしれない。
「そう?」
と翔は嬉しそうに笑った。
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