北野坂パレット

うにおいくら

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新しい顧問

美乃梨登場

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「ふん。まあええわ、で、今は爺ちゃんの家に美乃梨と一緒に下宿してんの?」
と、これ以上オヤジを追求しても不毛な会話が続くだけだと悟った僕は真由美ちゃんに話を振った。

「うん。そう言う事」
と言って真由美ちゃんは笑った。

 こうやって普通に話をしているが、目の前に座っているのが去年、一昨年の夏に会った真由美ちゃんとはまだ完全に結びついていなかった。
間違いなく真由美ちゃんなのだが、今目の前に居る真由美ちゃんは明らかに大人の女性だ。
田舎から出てきて一か月やそこいらでこんなに雰囲気が変わるものなのか?
初めて会ったあの田舎臭さはもう微塵も感じなかった。ぱっつんと揃えた前髪が今や懐かしい。

「それはそうと、彼女たちが噂の亮ちゃんの幼なじみ?」
と真由美ちゃんは話題を変えた。

「噂って?」
と冴子と宏美が同時に僕の顔を見た。
僕は慌てて首を振って
「知らん知らん。俺は何も言うてへん」
と強く否定した。

「じゃあ」
と言って冴子が美乃梨を見ると、美乃梨はおでんの卵を口いっぱいに頬張って頷いていた。
よっぽど腹が空いていたらしい。

 慌てて一気にウーロン茶を飲むと
「そうそう。私がお姉ちゃんに言うててん。とっても個性的な幼馴染がおるって」
と話し出した。
「あんた! どんな噂流したんや」
と冴子が詰め寄った。

「なんも噂なんか流してへんわ。事実を語っただけや」
と美乃梨は冴子の言葉に全く動ぜずに、更に大根を箸でつまんだ。
そしてつまんだまま
「ところで、亮ちゃん。弓削君とことなんかやるんやって?」
と冴子の事なぞ眼中にないかの如く聞いてきた。

「ああ、あいつらのバンドと器楽部で一緒に演奏するって話ね。流石にマネージャーは耳が早いな」

「当たり前やん。それって面白そうやん」
と何故かどや顔で美乃梨は応えた。

「美乃梨には私がちゃんと伝えたわ」
と冴子が口をはさんだ。
うちの部長とマネージャーとの情報交換と意思の疎通は、とてもうまくいっているようだ。

「バンドと共演すんの?」
と真由美ちゃんが聞いてきた。

「うん。なんか流れでロック系のバンドの奴らと『一緒にやろか?』という話になってんねん」

「へぇ……クラシックとロックの融合かぁ……なんか格好いいわねぇ」
と真由美ちゃんは感心したように軽くうなずいた。

「そうかぁ? まあ、面白そうではあるけどね」

「ふぅん。でも、そんな暇あるのかなぁ?」
と真由美ちゃんは軽く首をかしげながら聞いてきた。

「暇? うちの部活は何の予定もないし大丈夫なんとちゃう?」
と僕は応えた。

 器楽部は吹奏楽部と違って夏の全国大会とかない。確かに冴子は今年もコンクールに出る予定だが、大してこの共演に時間が取れれる事はないだろう。

「あ、いや、そうやね、もう三年生やからそろそろ引退とちゃうのかなぁって思ったんやけど……」
と真由美ちゃんはなんだか慌てたように答えて、何故かオヤジの顔色を窺うように見た。
 
 オヤジは相変わらずのんきな顔をしてビールを煽っていた。

――オヤジになにか聞いたんかぁ? オヤジが器楽部の予定なんか知る訳ないやろ――

と思いながらも
「ああ、まだ引退は先や。まだ夏休み前やから他の部員も大丈夫なんとちゃうかなぁ」
と僕は応えた。

 真由美ちゃんは三年生の僕達がこれからは受験勉強で忙しくなると思ったのだろう。
僕や哲也それと幾人かの音大を目指している部員はあまり関係ないし、その他の部員も受験体制は夏休みに入ってからと割り切っていた。
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