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お正月の頃の物語
上田家の居間
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結局僕とシゲルは喫茶店には行かずに、宏美の家の客間のソファに二人並んでちょこんと座っていた。
目の前には宏美と冴子が座っている。
「あら、亮ちゃんも来たのね。明けましておめでとう」
と宏美のお母さんが部屋に入って来て紅茶を出してくれた。
「あ、どうも。明けましておめでとうごさいます」
僕がそう言うと冴子もシゲルも同じように新年の挨拶をした。
「どうぞごゆっくり」
そう言うと宏美のお母さんはお盆を持って部屋から出て行った。
宏美のお母さんはいつも優しい表情で接してくれるし、余計な事も言わずに気を使ってくれる。
冴子と宏美と僕といういつもの面子に、今日はシゲルが入った事で話題の中心はどうしても小学校・中学生時代の話になる。
特に冴子は『なんでシゲルは学校にこなくなったのか?』ということをどうしても聞きたい様だった。
僕は何度かシゲルに会う内に色々聞いていたので知っていたが、冴子と宏美は全くその辺の事情が分かっていなかった。
二人は興味津々にシゲルの話を聞いていた。
話がひと段落すると冴子は
「シゲルってホンマに喧嘩好きなんやなぁ」
と感嘆とも呆れかえったとも取れるようなため息をついた。
「好きなんやないで、売られた喧嘩を買うただけや」
「誰が見てもシゲル君は強そうやん。普通は見ただけで逃げへん?」
と宏美が聞いた。もっともな意見だ。
でも
「世の中には怖いも知らずのチャレンジャーがおるんや」
と僕が言うとシゲルは
「そうそう、多いな」
と笑った。
そう。世の中には僕たちの想像を超える人たちがいるのだ。
「それにしても、なんでシゲルみたいな喧嘩が強い人が、亮ちゃんみたいなヘタレと一緒におるん? 不思議やわ」
と人のプライドを一瞬で傷だらけにするような一言を冴子が放った。
こいつの言動も頻繁に僕の想像の範疇から途方もなく逸脱する。
「ヘタレ? 亮平が?」
シゲルは冴子に聞き返した。
「うん。ヘタレやん」
冴子は僕を一瞥すると自信満々にそう言った。
「亮平はヘタレとちゃうで。こいつ、タイマンで喧嘩して負けた事ないで」
とシゲルは意外そうな表情を見せて応えた。
「嘘?」
「ホンマや。案外喧嘩強いで」
「知らんかったわ」
冴子は驚いたように僕の顔を見た。
こいつは本気で僕の事をヘタレと思っていた様だ。ちょっとむかつく。
「この前も一人で六~七人ぐらいの奴らに歯向かっていきよったしなぁ」
と僕とシゲルの久しぶりの出会いの場面を語った。
「ちょうど俺が通りかかったら一人を路上に這いつくばらせて、残り六人相手に喧嘩するとこやってん。エエ根性してんでぇ」
とシゲルは僕がヘタレでないと擁護してくれた。
それを聞いた冴子が急に僕を見て
「あんた何考えてんの? 勝てる訳ないやろ」
と罵った。
ちょっとムカッとしたが、冴子の言う通りだとも思っていたので
「いや、後六人もおるとはおもわなんだから……」
と僕は本当に言い訳がましい言い訳を試みた。
「そんな問題やない。あんたそれで指でも骨折したらどうすんの?」
「いや、そりゃ病院に行くやろ」
「あほか! そんな問題ちゃうやろ。ピアノ弾けんようになったらどうすんの?」
と突然冴子が怒鳴った。
――あれ? 俺はいつ冴子にピアニストになりたいって言ったっけ? 身に覚えないよな――
僕はそんな事を考えながらも
「いや、そん時は何も考えてなかったんやからしゃあないやろ」
と冴子の怒鳴り声に多少驚きながら反論した。
「だからあんたはあほなんや!」
「もし怪我でもして、骨折でもして指が曲がってしもうたらどうする気や? もうあんたまともにピアノ弾かれへんようになんねんで。分かってんのか?」
と冴子は声を荒らげて言った。
「それは、分かっとうけど……」
冴子は明らかに怒っていた。
しかし何故僕が冴子に怒られなければならないのかが全く理解できなかった。
目の前には宏美と冴子が座っている。
「あら、亮ちゃんも来たのね。明けましておめでとう」
と宏美のお母さんが部屋に入って来て紅茶を出してくれた。
「あ、どうも。明けましておめでとうごさいます」
僕がそう言うと冴子もシゲルも同じように新年の挨拶をした。
「どうぞごゆっくり」
そう言うと宏美のお母さんはお盆を持って部屋から出て行った。
宏美のお母さんはいつも優しい表情で接してくれるし、余計な事も言わずに気を使ってくれる。
冴子と宏美と僕といういつもの面子に、今日はシゲルが入った事で話題の中心はどうしても小学校・中学生時代の話になる。
特に冴子は『なんでシゲルは学校にこなくなったのか?』ということをどうしても聞きたい様だった。
僕は何度かシゲルに会う内に色々聞いていたので知っていたが、冴子と宏美は全くその辺の事情が分かっていなかった。
二人は興味津々にシゲルの話を聞いていた。
話がひと段落すると冴子は
「シゲルってホンマに喧嘩好きなんやなぁ」
と感嘆とも呆れかえったとも取れるようなため息をついた。
「好きなんやないで、売られた喧嘩を買うただけや」
「誰が見てもシゲル君は強そうやん。普通は見ただけで逃げへん?」
と宏美が聞いた。もっともな意見だ。
でも
「世の中には怖いも知らずのチャレンジャーがおるんや」
と僕が言うとシゲルは
「そうそう、多いな」
と笑った。
そう。世の中には僕たちの想像を超える人たちがいるのだ。
「それにしても、なんでシゲルみたいな喧嘩が強い人が、亮ちゃんみたいなヘタレと一緒におるん? 不思議やわ」
と人のプライドを一瞬で傷だらけにするような一言を冴子が放った。
こいつの言動も頻繁に僕の想像の範疇から途方もなく逸脱する。
「ヘタレ? 亮平が?」
シゲルは冴子に聞き返した。
「うん。ヘタレやん」
冴子は僕を一瞥すると自信満々にそう言った。
「亮平はヘタレとちゃうで。こいつ、タイマンで喧嘩して負けた事ないで」
とシゲルは意外そうな表情を見せて応えた。
「嘘?」
「ホンマや。案外喧嘩強いで」
「知らんかったわ」
冴子は驚いたように僕の顔を見た。
こいつは本気で僕の事をヘタレと思っていた様だ。ちょっとむかつく。
「この前も一人で六~七人ぐらいの奴らに歯向かっていきよったしなぁ」
と僕とシゲルの久しぶりの出会いの場面を語った。
「ちょうど俺が通りかかったら一人を路上に這いつくばらせて、残り六人相手に喧嘩するとこやってん。エエ根性してんでぇ」
とシゲルは僕がヘタレでないと擁護してくれた。
それを聞いた冴子が急に僕を見て
「あんた何考えてんの? 勝てる訳ないやろ」
と罵った。
ちょっとムカッとしたが、冴子の言う通りだとも思っていたので
「いや、後六人もおるとはおもわなんだから……」
と僕は本当に言い訳がましい言い訳を試みた。
「そんな問題やない。あんたそれで指でも骨折したらどうすんの?」
「いや、そりゃ病院に行くやろ」
「あほか! そんな問題ちゃうやろ。ピアノ弾けんようになったらどうすんの?」
と突然冴子が怒鳴った。
――あれ? 俺はいつ冴子にピアニストになりたいって言ったっけ? 身に覚えないよな――
僕はそんな事を考えながらも
「いや、そん時は何も考えてなかったんやからしゃあないやろ」
と冴子の怒鳴り声に多少驚きながら反論した。
「だからあんたはあほなんや!」
「もし怪我でもして、骨折でもして指が曲がってしもうたらどうする気や? もうあんたまともにピアノ弾かれへんようになんねんで。分かってんのか?」
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「それは、分かっとうけど……」
冴子は明らかに怒っていた。
しかし何故僕が冴子に怒られなければならないのかが全く理解できなかった。
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※この物語はフィクションです。
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