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エゴイストとピアニスト
悠一
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恵子と入れ替わるように悠一が音楽室に入ってきた。
僕の姿を認めると、まっすぐに向かってきた。
最上級生の僕がすでにここにいるというのに、今頃のこのこ来るなんてとことん舐めた新入生だ。
「うん? なんか用か?」
と僕はぶっきらぼうに聞いた。
「亮にぃ……モテモテやん」
意味深な笑いを浮かべながら話しかけてきた。
二人きりで話をする時、悠一は僕に敬語を使わない。更に言うとタメ口である。
「なにがぁ?」
「今度二年生らとカノンやるんやろ?」
と確認するように悠一は聞いてきた。
「よう知っとんなぁ。今さっき恵子に頼まれたわ」
「そりゃね。二年生がどの先輩と組むか争奪戦しとったもん」
と悠一は愉快そうな表情を見せて言った。
「え? 争奪戦? なんやそれ」
意外だった。初耳だった。そんな事になっていたとは全く知らなかった。
「そりゃそうでしょう。特に亮にぃは取り合いやったで」
「え? なんでぇ?」
と僕は悠一に聞き返した。
悠一は呆れたような表情を浮かべると
「相変わらず自分の事には鈍い人やなぁ。亮にぃは例のコンクールで一位やで。その上ダニーのオッサンから『フランスへ来い』とかプロポーサルされてるんやで……言うてもあのオッサン、世界の巨匠やで。それなりにすんごいオッサンなん、分かっとう? もしかしたら亮にぃ、世界的なピアニストになってしまうかもしれんやん。そんな人が同じ部活の先輩におったら一緒に演奏したいぐらい誰かて思うやろ?」
全く状況をが見えていない僕に苛立たしさも感じたのか、悠一はまくしたてる様に話を続けた。
たぶん僕はその時仏頂面で悠一の話を聞いていたと思う。
「姉ちゃんにしても二位やったし、宏ちゃんもピアノ下手やないで。コンクールには出ぇへんかったけど、どちらかといえば上手い方やん。もちろんヴァイオリンも‥‥‥それは亮にぃも知っとぉやろ?」
と更に悠一はいちいち馬鹿にものを言うみたいにくどく説明してくれた。
「うん。まあなぁ……」
と僕は頷いた。よくよく今日は後輩に呆れ顔をされる日だ。
実は僕自身、一方的に悠一になじられている僕自身に呆れていた。そして実は案外その指摘を、一部分だけは納得して聞いていたりする。
宏美のピアノとヴァイオリンの腕前は相当なものだとは僕も認めていたし、宏美の事を悠一に認められたのが自分自身が認められたように嬉しかった。そこだけは悠一の言葉に内心、激しく同意していた。
そんな僕の想いも知らずに
「だから後輩としては『一度はこんな先輩とやってみたい』って思うやろ?」
と何故かどや顔でふんぞり返って話を終えた。
相変わらず本当に悠一は生意気な後輩だ。
悠一の話を聞きながらいくつか気になったことがあった。もちろんそれは確認したい。
「まあ、そういわれてみたらそうかもなぁ……で、お前ら一年生は?」
一年生でも悠一を筆頭に経験者は何人かいる。その部員はどうするのか? 悠一の話を聞きながら気になっていた。
「何人かは参加するで」
と、悠一は表情も変えずに言った。
「何人か?」
僕は聞き返した。
「うん。三年生と一緒に弾けるレベルの奴はね」
もっともな意見だなと思った。すぐに例のヴァイオリンの三人の顔が浮かんだ。しかし悠一の憮然とした表情が気になって僕は確認した。
「お前は?」
「当然OK組みやけど、二年生が優先やから俺たちに選択権はないねん」
と悠一はつまらなさそうに答えた。
その顔を見ながら
――選択権が無いのが納得できないが、仕方がないと諦めている……てところだろうな――
と理解した。
本当に分かりやすい奴だ。しかし悠一は誰とやりたかったのだろうか? ちょっと気になった。
僕の姿を認めると、まっすぐに向かってきた。
最上級生の僕がすでにここにいるというのに、今頃のこのこ来るなんてとことん舐めた新入生だ。
「うん? なんか用か?」
と僕はぶっきらぼうに聞いた。
「亮にぃ……モテモテやん」
意味深な笑いを浮かべながら話しかけてきた。
二人きりで話をする時、悠一は僕に敬語を使わない。更に言うとタメ口である。
「なにがぁ?」
「今度二年生らとカノンやるんやろ?」
と確認するように悠一は聞いてきた。
「よう知っとんなぁ。今さっき恵子に頼まれたわ」
「そりゃね。二年生がどの先輩と組むか争奪戦しとったもん」
と悠一は愉快そうな表情を見せて言った。
「え? 争奪戦? なんやそれ」
意外だった。初耳だった。そんな事になっていたとは全く知らなかった。
「そりゃそうでしょう。特に亮にぃは取り合いやったで」
「え? なんでぇ?」
と僕は悠一に聞き返した。
悠一は呆れたような表情を浮かべると
「相変わらず自分の事には鈍い人やなぁ。亮にぃは例のコンクールで一位やで。その上ダニーのオッサンから『フランスへ来い』とかプロポーサルされてるんやで……言うてもあのオッサン、世界の巨匠やで。それなりにすんごいオッサンなん、分かっとう? もしかしたら亮にぃ、世界的なピアニストになってしまうかもしれんやん。そんな人が同じ部活の先輩におったら一緒に演奏したいぐらい誰かて思うやろ?」
全く状況をが見えていない僕に苛立たしさも感じたのか、悠一はまくしたてる様に話を続けた。
たぶん僕はその時仏頂面で悠一の話を聞いていたと思う。
「姉ちゃんにしても二位やったし、宏ちゃんもピアノ下手やないで。コンクールには出ぇへんかったけど、どちらかといえば上手い方やん。もちろんヴァイオリンも‥‥‥それは亮にぃも知っとぉやろ?」
と更に悠一はいちいち馬鹿にものを言うみたいにくどく説明してくれた。
「うん。まあなぁ……」
と僕は頷いた。よくよく今日は後輩に呆れ顔をされる日だ。
実は僕自身、一方的に悠一になじられている僕自身に呆れていた。そして実は案外その指摘を、一部分だけは納得して聞いていたりする。
宏美のピアノとヴァイオリンの腕前は相当なものだとは僕も認めていたし、宏美の事を悠一に認められたのが自分自身が認められたように嬉しかった。そこだけは悠一の言葉に内心、激しく同意していた。
そんな僕の想いも知らずに
「だから後輩としては『一度はこんな先輩とやってみたい』って思うやろ?」
と何故かどや顔でふんぞり返って話を終えた。
相変わらず本当に悠一は生意気な後輩だ。
悠一の話を聞きながらいくつか気になったことがあった。もちろんそれは確認したい。
「まあ、そういわれてみたらそうかもなぁ……で、お前ら一年生は?」
一年生でも悠一を筆頭に経験者は何人かいる。その部員はどうするのか? 悠一の話を聞きながら気になっていた。
「何人かは参加するで」
と、悠一は表情も変えずに言った。
「何人か?」
僕は聞き返した。
「うん。三年生と一緒に弾けるレベルの奴はね」
もっともな意見だなと思った。すぐに例のヴァイオリンの三人の顔が浮かんだ。しかし悠一の憮然とした表情が気になって僕は確認した。
「お前は?」
「当然OK組みやけど、二年生が優先やから俺たちに選択権はないねん」
と悠一はつまらなさそうに答えた。
その顔を見ながら
――選択権が無いのが納得できないが、仕方がないと諦めている……てところだろうな――
と理解した。
本当に分かりやすい奴だ。しかし悠一は誰とやりたかったのだろうか? ちょっと気になった。
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※この物語はフィクションです。
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